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一兆年の夜 第七十一話 優央の記憶 躯央からの提示(四)

 五月四十七日午前九時零分十一秒。
 場所は真古式神武東藤原海洋。
 五隻の船が扇の陣形にて大陸藤原へと進む。船の動力は水車。機動力は従来の水車型船よりも高い。軽量化も進み、従来に比べて目的地に辿り着く時間は二割も速くなる。
(問題があるとするならこの水車型船は少しでも歯車の調子が狂うと瞬く間に速度が大きく落ちて運航再開まで最短でも一の日も要するとの話だ。実際に僕とマンメリーは体感したからな。監視員が二名以上ならば一名が少し目を離しても他の監視員がその代わりを似合う或は注意する事が出来る。でも一名だけだと最早無理がある。そう、僕達が四の年より前に雄略大陸まで渡った時の船は要員が足らない事もあってその一名が銀河連合の襲来で死亡した時は大変だった。何よりも誰も監視員が居ないから少しの不調も気付かずに航行してしまい、大きく速度が落ちた。調べてみるとそこには空回りをし続ける第三水車と何時まで経っても回らない後続の水車達……そこで船を止め、修理する羽目に陥った。修理の時間は予想以上に長く、何と三の日と四の時と十九の分も掛けたな。それまでどうゆう風に暇を持て余したのかわからない程に)
「昔の大事態を思い出したのか?」マンメリーと二名で甲板にて第三帆を眺める優央の前に齢三十六にして五の月と二十一日目に成る神武人族の老年(まだ三十六以降の生命はそう呼称する)天同躯央が立つ。「全く僕は今でも船に乗るのは慣れない」
「ずっと伯母さんや父さん、それに母さんが乗り続けてたんだよね」
「まあそうだな。姉さん、兄さん、それに優希さんが前線を駆けて行ったな……気が付けば僕は三名よりも十六も年上に成ってしまった」
「叔父さん」
「世の中ナンテソンナ物ですよ、躯央様」
「そうだろうか? 僕はそうは思わない。姉さんや兄さんはずっと僕よりも年上であるべきだった。ずっと僕よりも年長者であるべきだった。だが、年長者に成ったのは僕なのか。だとすれば長生きとは果たして良い事なのだろうか?」
「叔父さん……余り深く考えないでくれ」
「優央様ノ言ウ通リです、躯央様。深く考エレバ待つのは--」
「既に自らの運命を受け入れる心構えははっきりする。だが、全生命体の希望に成らずにこの一生を尽くすのは姉さんや兄さん、それに優希さんに対してどう申し訳が付くか!」
「叔父さん、それでも当時父さんと一緒に藤原大陸を遠征した者達は誰もが父さんを生かそうと助言し続けたんですよ。僕が父さんの付き者だったら真っ先に父さんを生かそうと--」
「言いたい事は十分わかる。お前は僕を生かそうとしてる事は既に存知てある……が、優央」躯央は優央が忘れられるようにこんな事を口にした。「晩御飯は何にしよう?」
「え、いきなり何を言い出すんだ?」
「これは僕にとって今の頭脳を左右する問題であろう。晩御飯一つで調子は変化し、巧みな発想が思い付かない。それくらいに大問題なのだよ」
「別に気にする事では--」
「優央、生命にとって大事なのは何だ?」
「それはみんなの希望に成る為の力--」
 いや、食事だ……食事の前に万物は平等--と躯央は当たり前にして不変の正論を述べる。
「確かに虫が鳴き出すと自然に僕達は食べ物を求めますね」
「そう、銀河連合だってお腹は空く。それと同時に我々生命だってお腹は空く。お腹が空けばどんなに高邁な知識を並べようとも最後に必ず食事の話が頭に浮かび、今までの知識は隅に置かれるのだよ。だからこそ晩御飯は何なのかを知らないと今みたいに頭脳が働かない。食事で美味いと思ったらそこに感動が浮かぶ。食事の素晴らしさ。神様から戴いた物は何よりも有難い。何よりも尊いからこそ全生命は食事の前に神様に向かって--戴きます--と手を足を翼を合わせるのだ。そして食事が終わったら必ず神様に向かって--ご馳走様--と簡単且つ素晴らしい御礼を述べるのだよ。それがこの世に生を受けた僕達全生命体の務めだよ」
「躯央様……久方振リニ話ガ長いです」
 そうだよ……もっと短く纏めてくれよ--と躯央元来の話の長さに辟易する優央。
「そうだったな。姉さんや兄さん達にもそんな事を注意されたな……まあこの作戦が無事成功した後に直す練習でもしてやるから気長に待とうか」
『--確か死ぬ間際に生命は元気を取り戻すと聞いた事がある。それと同じように突然、
始めなかった事を始め出すのも死の前兆と死生観を研究する学者でアリスト闘牛族の
石塚バッファ五郎は言ってたな。
 彼に依るとそれは死に際に神様が最後の機会を与えると一般論化されてるみたいだけど
そうではない。本来、緩やかに死のうとしていた生命が己の意思とは関係なしにいきなり
ある時期に死ぬ事を決める。余命が決まるとそれまでに生きる為に蓄えられた気力は
一気に解放される。全てはその日に向かって。すると如何成るか。それまで無理だった
回復がここに来て加速する。記憶力が徐々に失われた生命は死の寸前であらゆる事を
思い出すのもその為。身体機能が回復し、今まで飛べなかった生命は徐々に飛び出す。
だが、余りにも気力を使う為に余命が来ると一気に萎み出して一生を終える。何とも
悲しい話じゃないか。
 それと同じように戦場で死ぬ事を知る生命はその直前で今までやらなかった事を口に
し始める。寡黙な者は急に饒舌と成り、更には呑気な者は旧に真面目な話をする。
それと同じように叔父さんは死ぬ一の週より前に急に自らの良くない点を直すと宣言し
出す。しかも全ての仕事が終わった後と決め出したらそれは危うい状態だ。僕
じゃなくても察知するのは容易。実際にマンメリー以外のある生命はそれを隠し聞き
する。
 その軍者は--』

 午後十一時二十三分十四秒。
 場所は機関準備室。
 その中で優央は齢二十九にして三日目に成るルケラオス蜊蛄ざりがに族の青年ザッセン・ガニーダは相談を持ち掛ける。
「--やはり聞かれたんだね」
「ああざ、あんなことをん口にりしていたらざ誰だってに躯央様はざ生き急いでるってに思うぜに」
「それで僕に叔父さんを救うよう嘆願する訳か」
「いやざ、優央様でにはざ躯央様をん助ける事はざ出来ないり」何気に傷付く一言の後、ザッセンは次のような一言も忘れない。「けれどもん優央様はざ天同家をん受け継ぐが御方なのでに運命をん覆す力をん持っている筈さざ」
「はあ」優央は少しだけ下向きに頭を向ける。「そう思ってるんだ、ザッセンは」
「まあまあざ、気にりするなざ。でもん、優央様のんそのん優しさこそんがざ誰にりもんない強いり励ましとん成るが」
 有難う、お世辞でも嬉しい--優央はゆっくりと頭を上げ、ザッセンを見つめる。
「兎に角が、躯央様はざ絶対止めて下さいり。あの方はざきっとんメラリマ様とん烈闘様のん所へに行こうとんしてますが。ああざ見えてに心はざ硝子のんようなざ物ですのんでに」
 気付いていたんだ、ザッセンは--意外にも躯央の内面が硝子細工なのは知らない生命は少ない模様。
(だからこそ僕は叔父さんの選択を変更する事が出来ない。叔父さんは言ってしまったんだ--全生命体の希望--という言葉を!)

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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