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格付けの旅 青年デュアンの試練 バゼルヌは問う

 我思う故に我あり……それは惑星ディーに於ける中世の数学者及び思想家ディカルトスの命言。一読するとソクラティスの己自身を知るべしというような名言と同じように思える。だが、実際は異なる。何が異なるかはこれから俺は知る事に成る。
 前置きはこれくらいで良いだろう。
 俺は決勝トーナメントの前日に予選三回戦の決勝でわざと負けて貰ったバゼルヌ・ディストリス・ビーイングとの私闘をここ第五校舎の屋上でする事にした。
「君はルールの中で生きるような人間じゃない事は知ってる。それはわかっていても当日の予選で行ったあの無礼極まる行為には許しがたい物が含まれる」
「まあな。あんたとルール有りの茶番で勝負を付けた所でクラリッサが納得すると思えなかったのでね」
「クラリッサの代弁をするべきは君じゃない。彼女の代弁者は他に居ない」
「じゃあ何故クラリッサの話をしたんだ?」
「君の実力を知りたい。そして問いたいのだよ、君の人間性を」
 人間性を……ねえ。俺に人間性を問われたらあの稀代なる魔法哲学者フリードレッヘ・ネーチィの『永遠回帰』を為す為の哲学が頭に浮かぶよ。確か希望も絶望も逃れられないのならその逃れられない運命を愛し、教授する事で人間は幸せに成れる。そんな感じか?
 永遠回帰……それはネーチィが求める『超人間』の条件の一つ。
 超人間……それはネーチィが求めて已まない人間の事。意味は人間を越えるという事ではない。こちらの場合は人間以上に人間を愛する事でそう呼ばれる存在に成る事を意味する。
「君は圧倒的な魔力を秘めながらもコレクター人間特有の何かを調べたがる性癖を身に付ける」
「何が言いたいんだ?」
「始める前に忠告する。君は人間を辞めるべきではない……でないと君は終末へと転がり落ちるぞ」
「では尋ねる。どうしてそう忠し告るのだ?」
「僕は神に仕える身でね。その上で神に対して不敬な態度を取らないようにと細心の注意を払って生きて来た。そんな思想形成の中で君を見て思ったのさ。君は神を恐れない……いや、忠告の後にこう問おう」バゼルヌは一旦、両瞳を閉じて……「問うのは三つ」深呼吸した後、瞳を開けて哲学的にデュアンに問うた。「一つは君が人間を辞めて何に成るか? 二つは神に反逆して無事で居る確証は何処にあるか? 三つは手の届かない領域にある悪意とも戦って生き残る自信は何処にあるか?」
 バゼルヌは何かを知ってるかのように……いや、奴は知らない。だが、奴は運命に従ったのか? 或はそう直感して俺に問うたのかわからない。最初の問いは奴の知己でも届く範囲だ、答えるしかないな。
「人間を辞めた俺が目指すのは神を超えた存在だ。何時までも神様がお山の大将で居る時代はもう終わりなんだよ」
「そうかい、でもそれは二つ目と若干被るようだが?」
「ああ、二つ目か」
 そちらの問いをどう答えるべきかを俺は考えてなかったな。ここは一つ、こんな答えを出そう。
「俺が神に敗れる事はもうない。神を越えた時にこそ俺はどのような超常現象も操る神共さえ俺を殺す事は不可能に成る。それで良いか?」
「君らしいな。だが、最後だけは答えるのは難しいぞ」
 最後か。『全生命体の敵』の雑魚であれだけだ。一体全体あいつらとは何かだろうな。こいつはそれを知らずにそうゆう問いを出したのが普通だろう。それでも答えなくて何が格付師だ。だから俺は答えてやったさ、こんな風に。
「何れ俺でも敵わない存在とぶつかった時はもう手遅れだ。これは強がりをする俺達でもどうしようもない……が、俺達がそいつに敗れたからってバゼルヌを含めた全生命の敗北には繋がらない。俺はそう確信して生き残る事を諦めるさ」
「あ」この解答には流石のバゼルヌも呆気を取られたな。「済まない、君が世界全体を思って発言するなんて意外だと思って思考が回らないみたいだ」
「もう良いだろう? そろそろ私闘を始めよう」
「ああ、僕は瞬殺されるような怠け者じゃない事をここで証明する」
「負け戦とわかっての発言か?」
「負ける? 僕は負ける可能性は……ないね!」
 互いの魔力が膨れる時……私闘は開始された!
 先手を取ったのは俺だ。出し惜しみをするつもりはあるが、手を抜くつもりは全くない。俺は最初からバゼルヌの苦手な陰属性の魔法の一つである雷系上級魔法エレクトリックヴァイスで畳み掛ける。
「--ウグウウウ、瞬殺の構えだな」中断が上手いな、バゼルヌ。「--はあはあ、それで良い」
「--何を狙うか知らないが、俺は手を抜くつもりはない……アブソリュート」
 それから氷、そして地……これら詠唱時間零で尚且つ俺の魔力で放たれた上級魔法をバゼルヌは耐えた--魔法抵抗力が尋常じゃないな。
「--はあはあ、どうした? 何故超級魔法を使わない?」
「気付いたな、バゼルヌ」
「そりゃあ気付くだろう。君の才能はクラリッサを大きく凌駕する。にも拘らず、君は超級魔法を使わないのは……死なせたくないのか?」
「--それは違うな……エクスプロージョン」
「--ウグウウウ」得意の属性系列でも先程の三連撃を受けた後では息も荒い。「--屋上が壊れそうだよ」
「--まだ耐えるか……タイダルウェイブ」
 それから水、風……これらもバゼルヌは耐えて見せた。だが、第五校舎はあちこちにひびを行き渡らせる。さて、陽属性も陰属性も使った。残りは結属性か……極限魔法はまだ覚えたてだからな。余り使うと成れば詠唱ミスで力が乗らんだろう。
「--さて、そろそろ準備は……完了した」風が……集まる。「--さあ、始めようか……『バトルクロス』が僕の本領だ」
 それから雨が、火がバゼルヌに集まって奴の衣服を焼き荒び裂けるかと思いきや何と魔法闘士の衣を形成するではないか。短時間ではあるが、あれは詠唱時間の問題を解決する『バトルクロス』だな。
 バトルクロス……それは別名戦闘形成魔法の事を指す。主に古代マギピアという競技で扱われるマギチオンで執り行われる命をかなぐり捨てた形態。この状態だとある属性系列の魔法を詠唱時間をほぼ零に近い状態で放つ事を可能にした物だ。だが……
「--説明してる場合か……エクスプロージョン」
 繰り出して来たな。先程の劣勢が嘘であるかのようにバゼルヌは反撃に出た。舐めるなよ、バゼルヌ。その場合は下級魔法の一群で--
「--君ならそうするだろう……エンシエントシュトローム!」超級魔法が俺の下級拡散魔法よりも早く出ただと! 「--僕は手加減を知らない……タイダルウェイブ!」
 破壊力は高く、第五校舎を粉塵にするか、バゼルヌ--幸い、後者には俺と奴しか居なかったのが良かったか?
 いや、良くない。バトルクロスは本来ならば零詠唱に近くするだけあって詠唱時間が零に成る訳じゃない。だが、バゼルヌのバトルクロスは俺の予想を遥かに上回る性能を発揮する。強いぞ、こいつは。やはり私闘に持ち込んで良かった--一見すると劣勢に思える状況下で俺は笑みを零す。
「--何故笑っていられるかな……ギガフレア!」超級魔法の次は必ず上級魔法で畳み掛けるバゼルヌ。「--ワンパターンだが、君を相手にするにはこれが一番だ……エクスプロージョン」
「確かにな。だが」俺は奴のワンパターンには裏があると思ってこいつを使ってみる事に。「--これでお前は俺に攻撃が届かない」
「これは。成程……ファイアーボール」試しに下級魔法で確かめるバゼルヌ。「一流の魔道士でも習得が難しいと噂される『アンチマジック』を掛けたな、見事だよ」
 アンチマジック……それは文字通り、魔法を無効化する魔法。但し、通常の魔法でのアンチマジックとはとある属性系列の身を無効化する或は一定のレベルの魔法を無効化するといったように魔法全体を無効化する領域ではない。俺が魔法全体を無効化する者こそ本来のアンチマジックでこれを習得するにはジェネラリストで尚且つ完成された状態まで修業を積んだ物にしか実現出来ない領域。後は……
「もう良いだろう。君がその魔法を繰り出すだろう、という予想は付いた。だから僕はこいつの応用で君に打ち勝つから」
 応用とはバトルクロスで形成魔法を唱えて炎王の剣を形成した所かな?
「イフリートブレードにはこんな応用もあるんだ」それだけじゃなく、操者の十倍長くしたイフリートブレードオーバーにして更には……「イフリートブレードの実体化だ!」応用から発展させたイフリートブレードエクストラだな。「いや、これは発展なのだな」
「どの道、俺を倒すには不十分だな」
「それは過小評価という物だよ、デュアン!」
 そのエクストラは見事にアンチマジックが通用せずに俺に横一文字の傷を与えた。痛いな……でもなあ、バゼルヌ。時間は十分稼いだ。後はお前にこれを受けて貰わないと駄目だよ!
「受けよ、僕の一太刀を!」
 バゼルヌは俺を仕留める気で中心部を狙って突きを放った--確かにそこを狙われるなら避けるのは難しいだろう。
 その一太刀は確かに俺を貫いた。貰えば絶命は避けられない串刺し。古今東西から続く人間が死に至る要因は腹部を鋭い何かで貫かれての死亡。理由は心臓に穴が開くのが原因。
 だが、俺の場合は違う--受けたと同時にそいつを魔法へと戻して溜まりに溜まったエネルギーを返すようにリフレクトブレイカーを放った!
 バゼルヌはそれを浴びて第七校舎まで吹っ飛ばされた--貫通こそしない物の、この後修繕に最短で三か月と掛かった事を記す。
 俺はバゼルヌの様子を確認すべく、近付いてみた。すると奴の闘志はまだ消えなかった--バトルクロスを解除され、更には副作用でほとんどの欠陥が損傷を受けても尚な!
「はあはあ、僕はまだ戦える」
「残念だが、ここまでだ」
「君を殺そうとした僕だぞ! こんな決着は本意か!」
「俺はクラリッサの事を勝手に代弁したまでだ」
 卑怯だ、ぞ--バゼルヌはそう言って俯せに倒れた!
 脈を調べてみたが……死んではいないな。決着がこんなに呆気ないと如何すれば良いかわからなくなるもんだ。
 バゼルヌまで倒すなんて--背後にマリックの気配を感じたので振り返ってみた俺。
 マリックにとってはバゼルヌはルール外で死合えば勝てない存在だった模様。それを俺が倒したのだから驚くのも無理はないな。「何か用か?」
「伝えに来たんだよ。俺はお前にな」
「何を?」
「棄権するのだ」
「意味を理解出来ないな」
「訳わからんのは承知だ。俺だって伝えたいのさ。だが、伝えると危険なんだ。お前はわからんだろうが、あれは何が何だか訳わからん。決勝トーナメントではあんなのが出場するなんて聞いてないからな。兎に角、棄権しろ。あれはお前に対しては容赦しない。もしも棄権しなかったら……死ぬぞ!」
 何を怯えてるのか俺にはわからなかった。マリックは明らかに知ってはならない何かと遭遇した様子だな。
「危険を勧めるという事はお前は棄権するんだな?」
「俺は棄権しない。その答えは直ぐわかる筈だ」
「ズルして優勝を取るなんて随分卑怯だと思わないか?」
「少なくとも死ぬよりかはよほどマシだ」
「それじゃあ答えは自ずと決まるさ……俺は自力で優勝する。てめえだろうがその危険存在だろうが!」
「バゼルヌから問われてないのか?」
「バゼルヌは知ってるみたいだな」
「いけ好かん男なのは十分だ。そんな男だからこそお前如きにも平等に身の程を弁える生き方を大事にする事がどれほど幸せを享受出来るか……説いても結局お前はわからんかったな」
 散々俺を迫害してきたマリックが何を気が狂ったように優しさを提供してるのか? ハン、俺からすれば下らない。俺は今のマリックがどうしてこんなに人が変わってしまったのかを知らない。いや、知りたくもない--散々、虐めてきたマリックに同情される事が気持ち悪過ぎて顔を背けたく成る程にな。
「ハハハ」
「笑ったな、デイズ人の分際で!」
「そこだけ選民思想丸出しで誤魔化すか、マリック」
「お前の為じゃないぞ。俺の為にお前を敢えて生かしてるんだ。それを十分気遣え!」
「いらん気遣いだ。どうして人が変わったんだ?」
「……お前の為じゃない。恋をしたんだよ。その恋が俺を……俺は絶対お前を認めない!」
 奴は俺の顔面に自らの汚い面を見せつける。何が悔しいのかが俺にはさっぱりわからないが。
「お前の帰りを待つ者の為にもお前は身の程を弁えないと後悔するぞ」
「何度でも言う。俺に同情するな、気持ち悪い!」
 もう知らん--顔を背けながらそう吐き捨てたマリックは足早に去った。
 マリックの後姿を暫くの間、見つめる俺。あいつも変わっちまったな。恋をしたというのはそこまで男を変える事なのだとしたら俺はそれが強さに繋がるのか、その逆なのかも知る必要に迫る。そこに神を超える何かを得られると思って。
 そんな俺はバゼルヌを医務室に運び終えるとこっそり魔道士以上の関係者にしか立ち寄ってはならない『裏図書館』に足を運んだ。
 裏図書館……それはマギのほぼ全てを記した禁断の図書館の事。書物は厳重に保管され、魔力の低い者には文字が見えないように施された書物で溢れる。但し、魔力の高い者がそれに触れる事を許されない。触れた者は世界の真実に気付き、闇に落ちると言われる。
 俺はその禁忌に触れ続けた。素晴らしいくらいだ。俺はマギの原点が『千技』にあると知った。そうか、術も技の内の一つであるとしたらその先にあるのは--
「そこに入ったか、デュアン・マイッダー」
「あんたは?」
「ガガーブ・アイスマン……その名を聞けば君は何者かを理解出来るじゃろう」
 まさか偉大なる魔道士とここで出会う事に成るとは……青年である俺は人間であるべきかそうであるべきかの瀬戸際に立たされる事と成った。
「君は恐れていた事を起こす。『千技』に触れるでない。あれは人外でも神外でも扱う事が不可能な悪意の武なのだから」
「悪意の武?」
「まあその話は君が無事、魔術大会で生き延びる事が出来たら話そう」
 生き延びたら……終わったらではない所にアイスマンの真意が見え隠れする。
 さて、今回の話はここまでだ。次回から人間である事を望まない選択をした俺に待ち受けるバゼルヌの警告が現実化する。それはマリック達の刺客以上に恐ろしい連中だ。俺はそんなのと戦い、そして……


 青魔法02 青年デュアンの試練 END

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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