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格付けの旅 少年デュアンの憂鬱 別れは突然訪れる

 師匠……それは弟子にとって邪魔な存在。弟子は師匠を越えるのはどうしてか? それは師匠という邪魔な存在と一生付き合うのを避ける為に越えなくては成らない。只、時間だけ過ぎても師匠は弟子から離れない。弟子は師匠から離れるには師匠以上の力を身に付ける必要がある。だが、独学で師匠を越えられない。どうするか? 師匠から技や術を盗んでしまえば良い。但し、盗んでも物に出来ないと只のパクリでしかない。師匠越えを果たすには盗んだ技術を自らのオリジナルへと昇華させなくては成らない。だが、その道は険しい。
 とまあこのように俺はクラリッサ・ロロリアーナにボロ負けして以降はあの女の雑用からしたくもないマラソンやバーベル担ぎなどのビルダーがやりそうな修行までやらされる毎日。『基礎練習』程抜ける口実の見つからない物はない。今までの格付けだとハードな修行ではなく、一般的で当たり前な修行を課すのだと俺は判断したが……見誤った! おっとあれを説明しないといけない。
 基礎練習……それは卒業が不可能な一個でも抜いてはいけない当たり前の練習。基礎とは人間の……いや、全ての生命が必ず付けなくては成らない物。そんな物を一個でも抜かそうならそいつは不安定で存外脆い物。主な基礎練習とはランニング、腕立て伏せ、腹筋、ラジオ体操……他には天気予報を毎日確認。今日の運勢を欠かさず確かめる事で精神の安定を図る。後は作文。基礎練習は調べ上げたらたくさん出る。そんな物を少しでも抜かして見ろ……取り返すのは大変に成るぞ!
 こんな風に俺は毎日十キロを全力で走らされる。但し、必ず一時間よりも一分以上も速かったり遅かったりしては成らない。破ればペナルティとしてまた十キロ走らされる。あの女め……出来ない事を課しやがって!
 俺はあまりに速く到着する為、計十三回目の仕切り直しのマラソンをさせられる。何故あの女が俺に時間通り到着するようにマラソンを課すのか? 詠唱法と関係するだろうと俺は考えるのだが……寧ろ俺の推測を先に紹介しよう。
 マラソンは人間の、いや動物が行わなければいけない基礎練習。マラソンはランニングを更にハードにした基礎練習。テンポ悪い説明だが、続ける。マラソンは持久力を上げてなおかつ根気を強く長く伸す為の修行法。持久力を上げるのが理由というのは誰でもわかる解答。だが、根気を強く長く伸すという解答はスポーツ馬鹿でもわかってないのが多い。根気というのは一つの事に一年、二年、一生続けるかなどに深く関わる気力の事。根気がなければ信念は磨かれないし、根気がなければ執念という物は形成されない。根気は人間が人間たる物を気付く上で重要な事柄……努々忘れぬように。
 何て誰に向かって語りかけるのかわからない俺だが、昔からそうゆう気質なので今更変えられない。では話の続きだ。マラソンが詠唱法と関係する理由……それはあくまで俺の推測でしかないが、魔法を一つ唱えるだけでも神経を大きくすり減らす。神経をすり減らすという事は体力を大きく消費する事を意味する。それを防ぐべくマナという代替物が消費される。協力であったり、範囲が広かったりするなら更にマナを消費。当然、華奢な人間は体力が減るのを避ける為に膨大なマナを無駄に消費する。当然、使えば息切れは避けられない。その為、魔術師はランニングを欠かしては成らない。よってマラソンは詠唱する上で重要。
 次にあの女が俺に時間通り十キロ完走させるように勧めるのは……俺の詠唱法にある欠点を発見したからだと推測。俺は言わば零秒で詠唱する。という事は内容も無茶苦茶で纏まりが欠ける。その結果、威力はあるのに力の安定が疎かな魔法が放たれる。そこに着眼したあいつは俺に時間通り十キロ完走させるように課した訳だ。早とちりをさせずに時間通り到着させるのは時間通り詠唱するように俺へと課し、魔法の威力を安定させるのが目的だろう。
 相変らず思考だけは休まないね、デュアン--箒にまたがって俺と並走する例の魔道師さんだ。
「もう日が暮れたぞ! 何時まで俺をは知らせるんだ、クラリッサ!」
「お前が詠唱法の何たるかをわからせるまでよ」
「時間通りでは相手に先手を取られる」
「それがいけないのよ、デュアン……お前は大技に頼りすぎて小技を使う事を避けてるわ」
「敵は一撃で倒さないと意味ないだろ?」
「でもその一撃を使うには膨大なマナが必要。だからこそあなたには基礎を叩き込むのよ」
「箒にまたがって空飛んでる方もマナを大量に消費してるんじゃないか?」
「残念だけどあたしは太腿にしかマナを集中してないわ。手を使うのは言わばバランスを取る為よ」
「消費量はどうだ? 俺の見立てでは下級魔法並だろ?」
「それは見習い魔術師レベルの話?」
「チイ、ばれたか!」
「フフフ、お前って面白いのね。益々課したくなるわ」
 十四回目でようやく時間通り完走出来た。朝食は一口も摂ってない。水は少しずつ摂るのは良いが、少なすぎる。とにかくそこで一日は終わる。何一つ食べ物を口にせず、寝込んでしまったのでな。

 俺は暇さえあればクラリッサから書物を渡される。それらは全てあいつが学院時代に学んだ物だ。中には何を書かれてるのかわからない物さえ読まされる。そうゆう場合は高等魔術師で古文専門の先生方に頭を下げて解読させてやったまでさ。そうして放課後に成ると俺はあの女の修行を受ける羽目に。全く俺にバーベル担ぎとか山登りとか……俺は魔術師デュアン様だぞ。ビルダーになる気はちっとも無いぞ!
 就寝時間は十時と変わりはしない……けれども俺はこっそり抜けてあいつの弱点とやらを粗探しする。扱きの復讐は少しはしておかないと気が済まん。それにあいつは俺より三つも年上で大人じゃない。十六なんて立派な少女だ。だからあいつは少女らしく未熟な部分を探ろうと俺は考える。
 あいつの寝室は……いくら『マジカルロック』を掛けようとも俺は凍死する魔法にも詳しい為、留守であるのはバレバレさ。
 マジカルロック……それは魔法で錠を掛ける魔法。これにより見えない鍵で扉が閉まる仕組みさ。解除するには本人の魔法で鍵を解くか、解錠魔法で解くしかない。中には本人の魔法でも解けず、独特の『属性コード』で鍵を掛けるマジカルロックもある。その場合は正しい属性を組み合わせないと開かないように成るのさ。
 属性コード……それは魔法を放つ際に使われる属性を暗号として使用するコードの事。別に魔法を放つ際に属性コードが使われてない訳じゃない。詠唱する言葉は属性コードを填め込む為の物。よって属性コードは魔法を放つのに重要。
 と解説してる場合じゃない。あいつが居ないのならどうするか……無断であいつの部屋に入る。どうやら属性コードのようだが、結属性のあいつだからこことあれとそれで……解除可能。俺が毎日侵入してる事への対処だが、癖を格付けされてるぞ。全く……で、部屋中にある罠に掛かる俺じゃない。俺に掛かればこれくらい読めるんだよ……アナライズに優れてるからさ。
 ええっと、あいつは女の子らしくぬいぐるみとか飾ってるのはわかる。日記帳は……読む気はない。何度か侵入したけど、これだけはあいつの為に読まないようにしてる。そこまで俺は他人に踏み込む気はない。兎に角ある程度の弱みは握っておこう。これで少しは扱きは楽に成る。さて……何処に行ったかな? 日記を読めばわかるんだろうが、何度も念を押すが……止めよう。
 さて、と。サーチ魔法で調べてみよう……何、俺が毎日訪れるあの崖に居るだと? フウ、行ってみるか。俺は指紋などを拭き取って、同様の属性コードで鍵を閉める。さて、行こうか。

 あら、来たわね覗き魔さん--クラリッサはやはり居た。
「真っ二つに割れた月を眺めて何をしてる?」
「就寝時間よ、デュアン」
「断る、俺は他の連中とは違う。何れあの月を消滅させるんだ」
「お前は知ってるの、あれが真っ二つに成った理由を?」
「ある剣士がここを訪れた。正直どんな種族かわからないが、少なくとも異邦人である事はわかった。あいつは俺に見せたんだ……月を真っ二つにする事を」
「お前も月が二つに割れるのを目撃したのか」
「ええ、あれはあたしに衝撃を与えた。こんな腐った世界に一筋の光を差し込むように」
 その言葉に俺は引っ掛かりを覚えた。クラリッサは何を始めようとしてるのかを……だが、そこで俺達の会話は通常に引き戻された。真相は更に数日経った後でしか知る由もない。

 クラリッサに無理矢理弟子にされて一週間が経つ。中等部のある屋上で俺はクラリッサに渡された書物に目を通す。あいつに渡されるのは何時も歴史上の登場人物--有名な魔道師--に関する物。何でもそいつらを知れば魔法が上手くなるなんてあいつは考えての事だろうか? 火属性を極めたモーノン・リース(547-601)や歴史上初めてのジェネラリストであるマーリン・ドーレス(1220-1310)何かを知っても俺の魔法が上手くなるとは思えないけどな。ついでの今の年号を教えておこう……全く誰に向かって解説してるんだ、俺は? 今の年号はMC2060年のアクエリアス五日目。
 そんな事よりもどうしてラキが紙パックの牛乳を飲みながら俺を疑うような眼で見つめるのか? 俺は少し尋ねてみた。
「牛乳は美味いのか?」
「質問の内容が違うように思えるけど、デイズ人?」
「質問に質問で返すな。俺は牛乳の味について聞いてるのに」
「へえ、巨乳の魔道師先生からの修行を受けて鼻の下を伸すあなたがよく卑猥な事言えるわね」
「卑猥か? それになんだ、巨乳って?」
「クラリッサ教授の事ですわ。だって彼女はスタイル良いんですもの。中等部の間では人気が高いのですよ」
「そりゃ初耳だ」
「あら意外。あなたってそこには格付けしないんだね」
「全ての事柄に格付け出来るほど俺は万能じゃねえんだよ」
「それでクラリッサ教授とどれくらい仲が良いんですの?」
 まさか……俺はあの現場を目撃したのかラキに尋ねてみる。「三日前の深夜に俺とクラリッサ以外にお前も居たのか?」
「さあ?」
「俺が就寝時間に眠らないでクラリッサの後を付いていき、あの真っ二つに割れた月が眺めやすい場所であいつと会話してる所にお前は盗み聞きしたな?」
「へえ、二人っきりで?」
「何だ、知ってると思ったが……俺の勘違いだったな」
「そこまで関係を深めるのね。あーあ、デュアンったら余程胸の大きい人が大好きなのね」
「だから何の話をしてるんだ? それにクラリッサがいくら85センチメートルの胸囲でも--」
「え! そこまで測ったの、変態ね!」
「その眼差しは何だ? 俺は何か碌でもない--」
 見損なったわ、デュアン--右平手打ちを俺の左頬に与えたラキは怒りの赤い表情で去ってゆく!
 ったく鞭で叩かれる痛みは好きじゃねえんだよ。まだ響くぞ、これ。にしたってあいつが呼称を俺の名前で呼びながら去ってゆくのは初めて見たぞ。あいつとそんなに仲良かったか? まあ良いか……女なんてどいつもこいつも--
「あら、ガールフレンドを怒らせるなんてよっぽど酷い事を言ったのね」
 すれ違うようにスパルタ女が出て来やがって。「何の用だ、クラリッサ」
「何、デートよ」
「昼休みはもうすぐ終わるってのにデートする暇はないだろ」
「失礼……放課後ここに来てね。その時にデートしてあげるわ」
 それを伝えたらクラリッサの奴は去ってゆく。付き合いはもう一週間だろ? 何を考えてるのか俺でもわからない。只わかるのは……あいつはこの学園を潰そうとしてる事。

 放課後の午後六時だったか? 待ち合わせ場所である中等部の屋上にやってくる俺。クラリッサは待ってた。
「来たわね、早速デートするわよ」
「風紀委員の仕事か?」
「正解……魔道学園には革命を起こそうとする人間が山ほど居る。そういった連中は早々に片付けないと事態は最悪に繋がる」
「弟子である俺としてはクラリッサ先生の活躍を見届けないとね」
「それじゃあさっきの彼女にまた嫉妬されちゃうかも?」
「ああ、あれの事? あれは怒ってるんじゃないのか?」
「格付け出来る癖に鈍いのね、デュアンったら」
「残念ながら女心は永遠にわからん」
「あら残念……じゃあ、行こう」
 俺はクラリッサと共に小等部、中等部、高等部、大等部の校舎を回る。すると、大等部のサークルである『マルクス真理教』の一室で事件は起こる。
「聞いたわよ、『マルクス真理教』の計六名さん?」
「てめえはクラリッサ!」
「クラリッサ教授と呼びなさい、下郎!」
 マルクス真理教……それは暴力革命を掲げる魔導共産主義思想に染められたサークル。大等部で活動をするサークルではスリーカラー同盟やハッピーの科学等と並んで危険サークル指定される。彼等の活動は主に同志を集めて魔導共産主義思想を密室で説く物。その内容は極めて異常であらゆる古い物を悪と認識し、それらを破壊する為なら何をやっても良いという物。故に彼等絡みの事件は一週間で一、二件のペースで発生。今日、クラリッサは抹消を決定。
「--呼ぶか、俺達より若造の癖して……ブリリアントスパーク!」なお、彼等の魔法は全て名称が違う。雷系威力重視の中級魔法サンダーハープンもださい名称と成る。「何、弾かれた……ウワアアア!」
「ボックラー!」「何なんだ、見えないバリアは!」「--ならば俺の必殺技であるデストロツキストで!」怯えてるな、こいつら。
「--既にリフレクターは発動済みよ……ブラッディパーティー!」
 範囲重視の闇系中級魔法で十五人居たメンバーは全員闇の血潮で肉の塊と成った。やはりリフレクターは厄介だ。あの女は戦う前にこれを纏うから攻略が難しい。
「これでマルクス真理教も暫くは活動出来ないでしょうね」
「寧ろ滅んだのではないか? ここまで徹底すれば反抗する気も失せるだろうに」
「どうかしら? あたしとしては残党狩りも含めて学園に潜む危険分子は排除しておかないといけないわ」
「それでしたいはどう片付ける?」
「--下がってて、デュアン。この教室ごと葬れば良いだけの話」
 クラリッサの奴は超級魔法を唱え始めた。俺はあいつの言う通り、教室の外に出た。
 出でよ……ブラックホールクラスター--重系で空間ごと破壊するとは!

 その後も立て続けに悪の始末をするクラリッサ--全部で十七件だからもう深夜の零時を過ぎた。
 皆、雑魚の集まりである以上は大した脅威でもなかった。俺が寧ろ脅威だと思ったのはクラリッサの力。三日……正確には四日前に呟いたあの言葉が正しければ近々始末しないと大変な事件に発展する。
 何て事を俺が思っても仕方ないな。俺達二人は帰路に着こうとして……ここは俺達が戦ったあの高等部の運動部専用のグラウンド。
「帰るんじゃないのか?」
「ええ、帰るわ。その前にお前には頼みたい事があるの」
「部屋に入るなという頼みは聞かない」
「そっちじゃない。あたしが言いたいのは」クラリッサはとんでもない事を口にする。「一緒に魔導学園を潰しましょう」
 やはり俺の格付けは正しかった。こいつは『ユミル選民思想』の信徒だったか!
 ユミル選民思想……それは優秀なユミル人はその他ユミル人及び他の人種の頂点に立つという歪んだ思想。彼等はユミル人の中で特に過激な選民意識を持つ。例え同じユミル人でも劣っているとわかれば生死を問わない。実はこうゆう思想は惑星ディーに於いては数千年と続いており、それが切っ掛けでビスマルクで実権を握った労働党こと通称アードルフはユミル人迫害を推進する一方でユミル選民思想を実践……その結果、多くのユミル人が大量に収容所生活を強いられ、中には劣悪環境とガス事故によってゴミのように死体が出来た。ちなみにこれはホロコーストの別説を元に俺なりに分析した事実なので真実は闇の中。
「あら、どうしてあたしがお前に告げるかって? お前は確かに劣等種族デイズ人よ。でも同時に選ばれた人間でもある。選ばれた人間を同志に招き入れないでどうするの?」
「さっき風紀を守ってきたんだぞ。なのにこんなのはどう考えても風紀を乱すだろ?」
「そんなのは老害共への口実。こんな歪んだ世界であたしは息を吸う事さえ苦しいの。どうして劣った人間と肩を並べなければならないの? どうして魔術師なんて意味のない物があるの? 小さい頃からずっと悩んでたのよ、どいつもこいつもあたしよりも劣る癖に偉そうで」
「餓鬼の思考だろ、そりゃあ」
「お前もその内の一人でしょ?」
「だろうけど、だからって魔導学園を潰そうなんてどうかしてるぞ」
「お前は魔導学園の実態を知らなさすぎる。あの学園こそマギの真実をひた隠しにし、大魔道師を抹殺し続けるのよ!」
「大魔道師? マーリンか?」
「そっちではない。あたしの言う大魔道師は」眼鏡を外すクラリッサ。その目に聖痕が刻まれる時、月は真っ赤に染まる。「あたしの中に居る『私』なのだよ、デュアン」
「成程、『多重人格者』か」
 多重人格者……それは複数の人格を持つ個人を指す。普段は大人しい人だが、一方では血に飢える。それならまだ良い。問題はある時は優秀な教師をしていて、裏の仕事では売春の斡旋をして、更に別の場所では人間の臓器をコレクションするというような人間なら社会にとって大問題であろう。
「私は彼女が産まれた時から力を与え、月が真っ二つに成ると同時に彼女の人格を蝕み始めた」
「どうゆう意味だ?」
「あの月こそ私を封印するのだ。私という偉大なユミル人をあの月が封印した……一万二千もの時を掛けて!」
「つまりお前は神話時代の人物という訳だな」
「神話ではない! 私は何度も転生を繰り返してその度に彼等へ力を与えてきた! 全ては偉大なるユミル人の為に!」
「それじゃあ封印されて当然だろ?」
「黙れ! 封印したのが優良種なら納得もいこう。だが、私よりも劣ったユミル人数人掛かりで封印されればこれほどの屈辱も他にない!」
「だからって一人の無垢な人間の身体を乗っ取る都合には成らないはずだが?」
「彼女は拒んではない。現に意志を委ねた。その意味は即ち、彼女は魔導学園に迫害されていた! この世界に迫害された! その意味を理解しろ、お前だってこの世界に迫害されてる癖して!」
「迫害ねえ」俺に笑みが溢れる。「だからどうした? 居場所がないなら見つけるもんだろう」
 何だと--やけに驚いた顔をしやがって。
「わざわざ潰す意味がわからん。お前は単に認められたいだけだろ、周りに? だったら断言しよう……お前は何処へ行っても居場所は見つからん!」
 それを言われたクラリッサの中に潜むマーリンは彼女の体を操作してただでさえ大きな口をさらに広げて笑みを浮かべる。まるで『口裂け女』のようだ……あまりにも不気味すぎる口は本当にクラリッサの肉体なのか?
 口裂け女……それはアマテラスの国で囁かれる都市伝説。口裂け女は刃物か何かで不気味に口を大きくした女。彼女は刃物を持ち、遭遇した者達に殺傷する。何故そうするのか? 恨みの為、それとも同朋が欲しい為? いずれにせよ考察の必要がある。
 というか俺に都市伝説を語っても仕方ないだろう。今はマーリンとどう対峙するか? いや、話を戻そう。
 マーリンは表情のみならず、声を張り上げて笑い始めるではないか! 鼓膜に響くくらいの声だ。しかも重低音からして女の声じゃない。どうやら浸食してるようだな。マーリンが完全に乗っ取るのはおそらく一時間後……それまでに俺はこいつを仕留める必要があるな。
「救いたいか、クラリッサを?」
「そんなのは幻想だ、マーリン。ただ」俺に情が移るなんて今でも認めないが、これだけは正直感情を露にしたかな? 俺が大人を気取る餓鬼だからか? 俺はこんな事を口にしたなあ。「俺のような奴でも他人のために怒りを露にしたのは初めてだ。貴様は必ず殺す……必ずな!」
 互いの魔力を開放する時、空間の歪みは発生する物なのか? 当時の俺は重系魔法に関する知識が乏しい。それでも知ったかぶりで敢えて思ったことは人間だろうと動物だろうと何かしらの重力を発生させる力を身に付ける物だと……その重力が互いに干渉し合う時、詠唱は既に終わった後--戦闘開始の合図。
 クラリッサの能力に加えてマーリンの解放された魔力の前に前半戦は劣勢のまま進む。いくら零詠唱した上級魔法を使用しても先ほど見せられたクラリッサの応用……リフレクターの前に俺は為す術がない。あれを突破するにはどうしたら良いのか?
「この程度か、デュアン」
「さすがは無敵のリフレクター様だ。俺の魔法が悉く俺に返る。『因果応報』じゃないはずなんだけど」
 因果応報……それは良いことをした人間は必ずいい思いをし、悪いことをした人間は必ず相応の報いを受けるという例え。この場合だと後者の方で悪人は必ず人を不幸にした罰としてそれ相応の惨めな最期を送ると言われる。但し、それに当てはまらない人間が居たりする場合はどうなのか? その場合、そいつが暮らす社会は独裁国家なのかもしれない……という冗談は兎も角としていずれにせよ悪人は必ず不幸な目に遭うことは世の摂理。但し、公社だけの意味なら自業自得と大して変わらないため、用法に注意したい。
 と長々と解説して俺はあることに気付く。別に相手を倒す為なら上級魔法を使用する必要がないだろう……そう、別に魔法を使わない方が有利ではないかと。
 そう思ったら後半戦は俺の有利に転がる……肉弾戦を駆使することでな。
「『徒手空拳』なんて魔法使いのすることじゃない!」
「クラリッサがどうして俺にマラソンをさせたのか」単純なベアナックルのみで馬乗りしながら顔面を殴り続ける俺。「この為にあったのさ!」
 徒手空拳……それは何一つ持たない拳のこと。本来の意味は頼る物もない状態で何かを始めること。今の俺に相応しくない四字熟語だが、こと肉弾戦だけは当て嵌まる。
 顔面が脹れても俺は殴り続ける。彼女の美貌を台無しにしてるとかそんなことは関係ない。俺はマーリンを倒す為なら拳だって振るう。それを実践したまで。だが……マーリンは直前に成って秘められた魔力を開放--十メートル近くも飛ばされた俺は頭から地面に激突!
 あの時は意識を失いかけた。眠った方がどれだけ楽だったか。だが、マーリンの姿を見てすぐにその考えを放棄--クラリッサからどこの馬の骨とも知らない老人の姿が俺に冷静さを失わせたのが原因。
「魔法による乱れ撃ちとは」マーリンは狙いを定めない俺の魔法に嘲笑を浮かべたかな? 「もはや勝負あったな」
 もはや勝負あった--それが奴の敗因と成った!
 奴はおそらく極限魔法を唱えたであろう--結属性を一点に集めてまるで銀河を生み出すような光を収束してる事から。
 それから俺に向かってそれをぶつけた……だが俺はその中心点を右拳で叩きながらクラリッサのリフレクターの応用--リフレクトブレイカーでギャラクティックヘヴンを数倍底上げして奴に返してやった!
 奴は断末魔を浴びながら真っ二つに割れた月まで飛ばされてそいつと運命を共にした--マーリンの全魔力を乗せたギャラクティックヘヴンとそれを冷静さを失って過剰に魔力を放出した俺のリフレクトブレイカーを乗せたからこそこんなどでかいことを可能にした!
 俺はようやく成し遂げた--あの月を消滅させることを!
 ただ、失ったものは大きい……どう足掻いてもクラリッサは戻らない。マーリンに取り込まれてはもう助かる見込みはない。ただ、涙が溢れるばかりだ……俺には。あいつを超えてやったのは良いけど、死んだ後に超えてしまっては何も残らない。
 俺はこの日を境に魔導学園から最上級監視対象として様々な戦いに身を投じる事に成ろうとはこの時……俺は予想出来たのかな、わかんねえな。


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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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