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一兆年の夜 第五十話 エーテルは否定される(六)

 未明。シャーケン達と別れておよそ一の時が経つ。
 アン駈歩達は心地の良くない匂いを放つ銀河連合の体内から出ようと泳いでゆく。
「それにしたって不思議だよねえ」
「『不思議』って伝えたの?」「そうだよ、アン貴茂さん」「銀河連合の体内が不思議なのは当たり前だろ、タッツ代!」アン駈歩以外の三名はこうしたやりとりを繰り返す。
(こいつらは呑気すぎる。あああー! もうこんな所は早く出て行きたい! 何でわてがこんな目に遭わなくちゃいけないんだあああ! 神々に少しでも情があるんだったら試練を与えずに助けて下さい!
 と思っても神々なんてわてらを見守る以外に能力を持ってないんだし、諦めようかな? いやいやいやいや、諦めたら死んじまう! こんな腰砕けはもうこりごりだああああ!)
 アン駈歩の方はいつものように満足しない思いを繰り返すばかり。
 そんな風な退屈凌ぎをしている内に次の区画に辿り着く。

 未定。そこは紫と藍が混じった異様な空間。
 早速六名発見--先にエラで伝えるのはアン貴茂!
「アン貴茂……ひょっとすれば一名以外はお前が探していた遭難者じゃないのか?」
 調べてみるわ--アン貴茂は所持した袋から石版を取り出す。
「器用なこと! 海洋種族は手や足が無く、鰭では手の代用にならないって伝わるけど」
「あ、あの? 僕達を救助しにきた生命ですか?」「何で入ってきたんだよ」「珊瑚が欲しい」「紫と藍が不思議と光を作り出す世界に来る四名かえ?」「助かったあおえお!」「もしかして俺らと同じく掴まった系?」と六者六様の反応を示す。
「えっと……ヤマナシノナマズスケさん?」「俺だけど」一名目救助。
「次は……コインダ・フェルフェンさん?」「よお君? 救助すんのはいいけど、どうやって脱出するんだい?」二名目救助。
「確認が始まったばかりよ……ヤマビコノクロコミさん?」「珊瑚くれたら付いて行く」三名目救助。
「嬉しいことなくて御免なさい。だけど、無理矢理連れて行くわよ……板倉ザリ有紀さん?」「折角楽しんでいたのに、何で来たんだよ!」四名目救助。
「楽しむな! さっさとここから出ますわよ……片岡ウミ逸見さん?」「あおうえおあいううういい!」これで五名全員救助!
(まさかこんな都合良く残りの遭難者まで救助するなんて!
 じゃあこの鮭族の爺は一体?)
「わしかね? わしは古式神武では知らん者は居るようじゃが、新天神武では知らぬ者はおるまい!」
「いいから早く……まさか新天神武で有名な光観測者佐藤マス男殿!」
 そうじゃ--齢四十二にして四の月と四日目になるルケラオス鮭族の老年。
「良かったね、チヅヨさん! これで光観測がやり易くなって!」
「そんなことはここから脱出しないと意味ないだろ?
 それはそうと、この爺さんは生命で初めて光が粒だと主張した方です」
「それまで誰も粒とか波とか主張しないのが居たのか気になるんだけどねえ!」
「細かいことは良いんだよ! とにかくこの爺さんは様々な光を見てゆく内にそれらを纏めた論文を彫り上げて、光粒子説を主張したんだから凄いものだぞ!」
「じゃが、ここへ来てその説に疑問を抱きだしたのじゃ」
 へ--マス男が自らの説を退けようとする姿勢に呆然となるチヅヨ。
「いやあ、君達が来るまでにこの風景を眺めていると何か前にわしが主張した光が粒だとする主張は間違いじゃないかと思い始めたんだ」
「はあ、そうゆうのはそれがしが務める役割だよ! 爺さん自ら退けようとする姿勢は止めた方がいいって!」
「そうは伝えてものう--」
「もう堪能したでしょ、光の話は!
 あたし達はここに留まっている暇はないんだからさっさと--」
「アン貴茂……念が残るようで済まないが、どうやって残らずにいける?」
 本当だあ、どこにも通路がなあい--タッツ代以外入ってきた者達はこの状況を嬉しく思わない。
「何だよ何だよお前ら! 骨拾いが骨になってどうする!」「喚いても遅い!」「珊瑚また拾いたかったなあ」「お終いだああ!」「さすが銀河連合!」自己調子でゆく者以外は悲痛の叫びを上げる。
 だまらああ--巨大な泡と強烈な水圧で発せられる音で五名を黙らせるアン貴茂!
「恐い恐い。雌は恐いよな、アン駈歩!」
「こうゆう場合はしっかりしたのが多い雌の方が適者ってな」
 アン貴茂は九名に渇を入れてゆく。その時間は半の時はかかる。短くもなおかつ長いアン貴茂の言葉は九名に慌てる事がどれほど謀り無しなのかを思い知らせた!
(さすが救助者ってのか? もはや愚痴る気力も起こらねえ。とはいえ、このままじゃあまた悲鳴を上げる奴が出てくる! さっさと……何だ?)
「どうしたんだ、アン駈歩?」
「こっちを見てくれ……ひょっとするとここに居なくて済むんじゃないか?」
 アン駈歩の長い方の突起が示す方角には僅かに口が開いていた。
「ひょっとすると出られるかも?」「銀河連合の体内だぞ、危険だ!」「珊瑚あるかなあ?」「終わりよければ全て良しってなあ!」「歌える! 歌えるの、そこ!」五者五様の反応を見せる。
「じゃああたしに続くんだよ! 単独行動なんてしたら後でどうなるか記憶に刻ませるわよ!」
「恐いのう、あの嬢ちゃんは」
「爺さん、ここから出られたら光に関する話をもう一度--」
「それって世間では死にそうな者が言う--」
「エラとか泡を出すな! 黙ってあたしから離れず泳ぎなさい!」
 十名はどんな結果があろうとも僅かな希望を求めて進んでゆく……。
(問題はこの先に銀河連合が待ち構えているか。或いは酸の雨がわてらに襲いかかるか? とにかくこれだけはわかるぞ。
 『残り五名の捜索』と『光観測』という伏線はほぼ回収した。後はわての仕事である『藤原マス太の子孫』が回収されるかどうか。『竜宮』はさすがに無理がありそうだし)

 未明。
 十名はさらに異様な空間に入った。
「よお、お前ら! 生きているとはな」
「団長にオニ子、それにラブカルチャーまで!」
「俺の名前は--」「あれはあこがれのシャーケンさん!」「印貰おうかな?」「あの方は鬼金目族の、サンゴ持ってるかな?」「やったああ、これで助かる!」「傭兵三名は心強い!」羅鱶族の青年の言葉を遮るように救助された五名は体で表現する!
「とにかくみんなが無事で良かった。俺ら三名も奇跡ともいえるモノだよ!
 あの時は死ぬかと--」
「先輩の話は後で聞きます。とにかく無事で良かったわけだ」
「すまないが、わてらはどんな所に入った?」
 伝えてみればそうね--アン駈歩、アン貴茂だけでなく他十一名も異様な空間に戸惑うばかり。
 どの時代にもない乗り物が走り、地面に鉄の線が二本引かれ、なおかつ四角い乗り物はまるで役目を果たしたかのように積み上げられてゆく。
(もしやここは『竜宮』なのか? そんなはずはない! 銀河連合が見る夢や希望なんて我々と大きく異なるというのに!)
「おんや、そこの鮟鱇君」
「何でしょうか、マス男先生?」
「お主はこう思うとるじゃろ? 『銀河連合の体内に楽園があるはずはない』ってのう」
 そ、それは--アン駈歩は心を読まれて動揺する!
「確かにその意見はわしも同じじゃ。奴等に楽園があるならば六百以上もの年にかけて我々に与えた悲しみや怒りをどう説明出来る! 過去の重みはそう簡単に覆らない。
 わしにもそうした過去さえあるのかどうかに自信がないように」
「先生、もしやとは勝手ですが--」
 その時、異様な空間に終りが告げられる--天井の壁が崩れ、地面へと落下してゆく。
「あわわわ……あれ? どうしてアタチに当たらないのかしら?」
「どうやら俺達は幻を見ているようだ」
「けれどもこんな幻は共有するもんなのか、シャーケン?」
「まあ良いじゃないか、ラブッケル! 団長の伝える幻でも何でも気持ちが良いのならそれで」
「いい加減に俺の名前を--」「く、ずれるけど」「折角シャーケンさんに会えたのに!」「結局珊瑚なかったよ」「dからげばべぼばあ」「事実は小説よりも奇なり。ところで小説って何?」救助された五名は相変らず羅鱶族の青年が言いたい事を遮った。
「さて、と。わしらはこれから変わらぬ日常に戻るかのう、チヅヨ君や」
「さあ? どうせならこのままエーテルの導きを期待したい」
「伝える意味わかるの、チヅヨ!」
「これでまた辛い日常に逆戻りだな!」
 空間の全てが壊れ崩れる時、彼等は生きて自分達の世界に帰っていった……。

 十二月百十七日午前九時零分九秒。
 場所は真正神武東海洋藤原。珊瑚島より西におよそ成人体型三千二百。深部五。
 藤原アン駈歩は変わらず調査を続ける。異なるとしたら従姉妹アン貴茂の仕事である深海遭難者捜索の仕事まで鰭伝いさせられ、一の週より前以上に愚痴が多くなる。
(ああー! わては遭難者まで探す気がないのに団長はわてを気に入ったのかこんな仕事まで押しつけるなんて! もう『竜宮』に行きたい! 一生そこで暮らしたいよー!)
 オーイ、オーイ--愚痴を溢すアン駈けに泡をかけるは鸚鵡貝族の青年物部チヅヨ。
「また見かけてしまう!」
「嬉しくなさそうだな、アン駈歩!」
「いつもそうだろ? そんで今度はどんな仕事を押しつけられた?」
「ああ、それかい? 今度は『エーテルは存在するか観測しろ』という仕事」
 はあ--ややこしい仕事に顔を歪ませるアン駈歩。
「全く団長も考えて欲しいなあ。エーテルなんて至る所にあるのにどうしてそんな仕事を依頼したのかは絶対にあれだ!」
「わかりにくいって」
「佐藤マス男先生の影響で団長は疑似科学に目覚めてしまったんだよ! だからエーテルを意地でも存在するか確かめて欲しいんだよ!」
 途方に暮れなきゃいいが--アン駈歩にはその依頼は一生懸けても実現しないと感じる。
(結局わての推測は当たってるかどうかさえわからずじまいだ。佐藤マス男先生は果たして藤原マス太の子孫だったのかどうか。わてはあの事件以来、あの爺さんの身辺調査をオニ子先輩に頼んだが、今のところ鰭掛かりはない。んでそんなことを思ってるのかって?
 実はもうすぐ終わるんだ。仮にわての毎日が空想話なら全ての複線はもう回収され、幕を下ろすのは今なんだ。
 わてはようやくその幕を下ろす。『今まで読んでくれてありがとう』なんてエラ会話で示せたら客名を喜ばせられるんだけど。
 さあさあこんな腰砕けを考える暇があるならさっさと仕事仕事!)




 ICイマジナリーセンチュリー百六十四年十二月百十七日午前九時五分零秒。

 第五十話 エーテルは否定される 完

 第五十一話 光不変の先へと 前篇 に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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