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一兆年の夜 第四十五話 フェルマーは笑う(終)

 七月九日午後十一時五十一分分五十三秒。
 コウモは老いの苦しみに悩まされる。今まで風に乗せて崖の上を飛ぶ事は苦にならなかった。ところが、部屋に閉じこもって数学の難問に挑戦してきたツケなのか、或は年齢と共に身体能力が衰えたのか、吹き付ける風に飛ばされてばかりで一向に目的の標高成人体型近くまで進まない。
(もうかこね訪りるなほかれぢ最後どの。我ほかな目ぢ証明せなくちほ! 果としち人族或ほ鬼族以外ぢのほかつ徒手空拳ぢ最強な百獣型ね勝ちる生命ご居るこだうこわ!
 うう、風ね吹こり続きるなほ身体ね……さりぼかれこ寒え。
 飛べやすくする為ね、よよ薄着ねしとなご目な逆わ見しとの。かうなるななろ息抜けね登山すれば良かったまのわ)
 何度風に吹き飛ばされても、壁にぶつかっても、新年の凍える寒さにくしゃみをしながらも老年は老いた身体を懸命に動かし、翼で風を調整してゆく!
(こんのなどっどろ我ほ鳥系ね生もれとろ良こっとこの? 我等蝙蝠族な翼ほ自力ぢ飛びるやうね出来たらん故ねえつま風ね頼ってぼかれ。よみとこうこな?
 死んだ両親よ唯一な姉た弟ね叱られ……よった、着いたざ!)
 コウモがようやく目的地に到着。そこではジャンズと百獣型の死闘は始まったばかりであった!

 七月十日午前零時零分零秒。
 ジャンズはまず『鎌鼬流』による力をあまり必要としない投げで先制する!
(自ろな流派ぢ攻みる。どごさりぢほ勝りんざ、ジャンズ)
 ところが百獣型はジャンズに投げ返した--『鎌鼬流』によく似た足を触れずにジャンズ自ら飛んでいるように!
 そんなのオオわかりきったことだアア--『鎌鼬流』を師の次にわかるジャンズは両前足を使った見事な受け身で顎への衝撃を和らげながら体勢を整える!
(今度ほ……い? かな動けほ--)
 ジャンズは初速こそ遅く見せる--ところが百獣型が動いた瞬間、一気に加速!
 百獣型は獅子による一本背負いで後頭部を地面にぶつける! ところが、百獣型はぶつかる前にジャンズの中腹に一発後ろ左足蹴りを与えて衝撃を抑えた!
「ブ! 脳にまでエエ衝撃を与えるウウつもりだ! 上手くウウ躱しやがってエエ!」
 攻撃を受けながらもなお先制し続けるジャンズ。今度はチイタマの戦い方を披露--当てると同時に素早く別の位置に足を運ぶ戦法!
(ジャンズな戦え方ごわからのえ。イタトシキ殿な技ほ当とれ前。たこらご相手ね幻わ見しる所ほ一見するた技巧的たえうこマンダリンさんね近え! きりだま今よる戦法ほ明ろこねチイタマど!
 もさこ今度ほ--)
 コウモが予想した通り、ジャンズはチイタマに近付く素速さで百獣型の懐に入ると同時に頭を右前足で掴む! 突然、力ごなしに遠投--コウモが居る場所の反対側に成人体型百を少し超える距離まで飛ばす!
「クマ吾はもっとオオ飛ばす! このくらいでエエくたばるなアアよ、百獣型アア!」
 ジャンズは百獣型が投げ飛ばされた場所へと駆けてゆく! それに続く形でコウモは翼を広げる!

 午前零時十五分三十八秒。
 ジャンズは目的の場所に着くものの--
「あのオオ野郎! どこオオ行きやがった!」
 そこにはたくさん木々があり、更には雪が降り積もる。そんな場所を雪踏みつける音を周囲に響かせるジャンズ。そして、背後に自然的でない大雪が落下する音に反応して振り返る!
 そこオオか--本当はジャンズの正面にある降り積もった雪に息を潜めていた!
 百獣型はジャンズが背後を見せるのを確認すると風を切る速度で飛んでゆく!
 しまったアア--ジャンズが振り返ると百獣型は右前足の人差し指で両眼を横切るように切り裂く!
 ジャンズは両眼を切られ、そこから光を捉える事は永遠に叶わなくなった!
(視力わ食ろうこ、百獣型!)
 両眼が死に、痛がるジャンズに赦しを容れることなく百獣型は内臓を多く所有する箇所へ次々と攻撃を加えてゆく! 右肋は複雑骨折。その結果、右肺に複数の骨が刺さり呼吸困難に陥る。そうなるとジャンズはただでさえ視力が使えない状態なのにそれに加えて重度の呼吸機能の低下。それは即ち動きが鈍くなる証。
 蹌踉めくジャンズに躊躇なく四本足による数十発以上の攻撃が外側及び内側を深刻にさせてゆく!
(よっぽれ百獣型ねほ勝ちのこっと! 後一歩たいうなね僅この隙一つぢ形成ご逆ね転ぶのんちだかもぢ強え、百獣型! まう止みるんど! ジャンズほまう戦っとじょなえこ! さり以上やらなくちま何り死ぬんど、ジャンズほ! さんのね痛みつけたいなこ、百獣型や! まうやめ……おり?
 もど戦いる? 折りなえこ、ジャンズ!)
 ジャンズの心はまだ折れない--計五十以上の打撃に耐えながらなおも反撃する。
 空振りされても反撃を繰り返し、なおも弾き飛ばされる。だが、何度でも立ち上がりまた反撃を繰り返す。彼はブルッダ・クロレットの魂も引き継ぐ! それは何度攻撃を受けようとも僅かな可能性を信じて前進する。
「はは……があ! はあはあ、どうしたアア? はあはあ、俺様はまだ、ぜはあぜはあ、戦え、るぞ。恐れて、るかアア? ぜえええぜえええ、怪我者ををを、恐怖するウウ、理由を、はっはっ、知りたアア、い」
 百獣型は一瞬恐れを抱くような素振りを見せた。ところが、その考えをすぐに置いたのかはわからない。が冷静な足運びでジャンズの懐に入る。そして体重いっぱいまで乗せた左前足の足刀をジャンズの眉間を狙った!
「お前も、油を、断った、なアアアアア!」
 頭突きで血を滲ませながらも百獣型の左前足指を拉げさせるジャンズ。百獣型が痛がる素振りを見せる。そんな様子を静かに見るジャンズ。それからようやく体勢を取り戻した百獣型を確認すると蹌踉めく足取りで前進してゆく--目の前の巨石に向かうように。
(えくろ左前足わ使いなくせてま勝ちる可能性ほ--)
 コウモの心配は的中する--ジャンズは蹌踉めく足で雪に滑り、体勢を崩してゆく!
 好機と踏んだかどうかは定かではない、が百獣型は組技をかけるべく最後の攻撃へ向かって突進!
 結果は……雪を限界まで潜らせる事で体勢を一気に戻したジャンズが組技を仕掛けた百獣型が懐に入ると同時に顎を右前足で掴み、近くにあった成人体型一はある巨石に後頭部を激突させた!
(きま……と?)
 百獣型の肉体は小刻みに震えはしたものの、二度と生命活動を再開する事はない。その時、両の銀眼が大きく光のを確認。コウモにとって何を意味するかはもう知る必要はない。今は徒手空拳で百獣型を倒したジャンズに近付く以外頭にないのだから。
「はは、ど、うだぁ……」
「ジャンズ! まう死ぬなこ? 死ぬ前ね教いちくれのいこ?
 『自然数の最終定理』ほ解きるなこ? 教いち、くれ」
 でき、るさァァ--ジャンズは前向きな言葉を遺して父の居る所へ旅立つ。
 ジャンズ・ベアケットを死に追いやったのは癌なのか? それとも度重なる百獣型の攻撃なのか? もうそれを知る術はなかった……。
(やうよく我ほ『自然数の最終定理』わ解く鍵たやろご見つかっと! されほ今もぢ試せとあらゆる物わ一つどけぢ勝負するのぢほのえ。互えね協力せのごろ前進せてゆく他のえ!
 ジャンズほされわ命がけぢ証明せと! 今度ほ我ま命がけぢ挑戦せなくちほ!)
 後世の世ではあるが、ジャンズは最後まで『自然数の最終定理』を解く事は叶わなかった。けれども彼は解く鍵を一つ、後世の数学者に与えた。それは関数。関数に関する論文を残りの余生に研究したコウモ・リックマンは死ぬ間際に証明する夢を見た……それはいつの時代かは定かとならないが、僅かな先である事は確かだった。





 ICイマジナリーセンチュリー百五十五年七月十日午前零時三十分七秒。

 第四十五話 フェルマーは笑う 完

 第四十六話 ニュートンが支配する世界で に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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