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一兆年の夜 第四十五話 フェルマーは笑う(六)

 十二月九十六日午前一時十五分六秒。
 場所は真正神武大陸藤原中臣地方クレイトス峡谷。
 遠すぎる過去に於いては白髭を生やした人族の老年が農具を使って二名の赤い鼻が特徴の馴鹿族の若者が不思議な力を使って全世界の子供に念願の贈り物を届ける。そんな想像が果たしてこの世界では実現出来るのか定かではない。そんな一の年が終りを迎える日が近付く冬。
 雪が今にも降りそうな曇りの空。凝視すれば見えるであろう巨大な歪み。いつになれば収まるかは現時点でわからない。
 そんな天候が安定しない深夜に一名の数学中年が見つからないように百獣型の居る谷間へと飛翔。
 するとそこには--
(おれほブルッダ! おりどきな傷……どうよっち引け寄しるんど、利を!)
 ブルッダと百獣型との戦闘はコウモが覗く頃には半の時が過ぎた--未だに利は百獣型にあるもののブルッダは持ち前の打たれ強さで追い込んでゆく!
 ブルッダは突進するも捌かれ、投げ飛ばされ、何回でも腹や脇腹に数発もの攻撃を受ける! だが、心は折れない--寧ろ追い込まれつつあるのは百獣型の方だった!
「その震え、えはなんダダ? ヘヘ、どどうしたんダダ? かかってこい……やあアア!」
 百獣型は上手くブルッダの眉間に右前足による足刀を押し込んだ……はずが直撃を受けたのは百獣型の方だった--足刀による返し技が上手く決まらず勢いで吹っ飛ばされ、後ろ側に聳える崖に強打する!
(やっしょ! かれぢ決もっと!)
「ヘヘ。やっと、勝てた……ぜえ?」
 そこでブルッダの心は折れた--頸動脈に噛みつくのは落下したはずの百獣型!
 首筋から大量の血液が噴射し、息絶えるブルッダ。死んだ事を確認すると百獣型は食べようとせず原形すら留めず四散させ、心臓以外のない蔵及び皮膚や角といったものを奈落へと捨てる。残った心臓は大きな口で丸呑み。
(かんの行為わ見ち怒れご湧こなえ生命ほえなえ! 例い学者ぢま前ね駆れ出とえ気持てさせる! 今出るこ? 今ころぢま無茶の行動ね……おれほ--)
 さすがは銀河連合っち--ゆったりとした足並みで崖を登ってゆく老年。
 老年タケナカノイタトシキは百獣型をおののかせる!
「恐がるなっち。お前さんは銀河連合っち。そのままでいいのじゃよっち。我は挑戦者っち。ゆっくり勝たせてもらうっち」
 その声は対峙するモノ以外にも与える--コウモは到達したものの凄みを二度も感じながら感謝の思いで一杯だ!
(ありがとう、イタトシキ殿。おなとのろ百獣型ね勝ちる……絶対ね!)
 二名の間に一陣の風が吹いても一向に動く気配すらない--砂埃が両方を平等に浴びせても、形を崩して屑石達が奈落の底に落ちてゆく音を出しても。
 始まりの合図は雪が一つ崖の上に落ちる時--先に反応したのは百獣型の方だった!
「さすがに……速いっち!」
 力も速さも百獣型が優勢……のはずがイタトシキを追い抜いて崖から落っこちてゆく!
(何ご起かっと? さりぢま百獣型な攻撃ご……い?)
 百獣型はイタトシキの背後をとったつもりが左真横で転倒--頭の天辺を引き摺りながら前方に滑り込んでゆく!
「どうじゃっち? これが真なりし投げじゃっち。力はほぼ一切使わないっち。その代わりといっては何だがっち、技の比重が大きいぞっち」
 喋るイタトシキは油を断ってる状態と読みながら下段後ろ左足払いを仕掛け……たはずがまるで自分から飛んでゆくように中途半端な後転宙返りをして右首根っこを強打!
「これが『鎌鼬流』じゃっち。我が鼬族の持つ柔軟な動きに加えて他の流派を研究してつい最近極めた徒手空拳術……いや投げの極意じゃっち。まるで鎌を恐れるように相手は投げられるのじゃっち」
 凄え--その様はまるで難攻不落の存在に一筋の光のように感じた!
 コウモはようやく百獣型を倒す生命が現われた事を喜ぶ……はずだった!







 午前三時十三分三十四秒。
 コウモは翼を広げながら背後に迫るモノから逃避行を続ける!
(もさこ勝負ご呆気のく決もるのんち聞えちのえ! どうしち現実ほ我等生命ね試練わ与いる! 力ぢま技ぢま速そぢま打とり強そぢま投ぎぢま種類ぢま倒しなえのろもう打つ翼ほな……回れ込もれと?)
 コウモは自ら学習しない頭脳である事を嘆く--百獣型から逃げるには自分達生命とは考えが異なる事を前提に置かなくてはならない事に気付かなかった!
「し、死ねたくのえ! た、た、たすきちくれ! たたたのののむむ!」
 懇願しても意味はない事くらいわかっても懇願しなくてはならない。何故ならコウモはまだ『自然数の最終定理』を生涯懸けて解く事を諦めていない。例え自分の代で解けなくても一矢報いるまで死にたくない!
 しかし、現実は空想話よりも奇なり--目でも追えない速度で百獣型は大きな口を開いて近付く!
 その時彼の視界は真っ暗になる……けれども痛みは感じない。
 代わりとして失踪する風が吹く!
 この十ノ年、待っていたぞ--齢三十五にして十五日目になる死んだはずの応神チーター族の中年が己の命を懸けて百獣型に攻撃を仕掛けてゆく!
「お、お前ほ死んどはずじょ!」
 今だけだ、逃げろよ--攻撃を見切られ、全身を強打されながらコウモに希望を託すシラナガシノチイタマ!
 突然の事に翼を動かせずに地面に座り込むコウモ。それでもチイタマは--ググ、速くしねねと--左肺を抉られ、呼吸困難に陥ってもコウモを逃がそうと命を燃やしてゆく!
 その誇り高き魂に心を打たれたコウモは翼に風を送りながら今……逃避行を再開する!
 あり、が--心臓を抉られ、命の炎を消すチイタマ。
 百獣型がチイタマの死体を彫り投げた頃にはもうコウモの姿は見えなくなった。彼は三名の死を以て百綬型を倒す生命はこの世にいない事を決めた……それはすなわち強者を百獣型に当てる事を諦めた。
 それ以降、コウモ・リックマンは本業である数学の研究に没頭するようになる……十の歳月を迎えながら。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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