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一兆年の夜 第四十五話 フェルマーは笑う(四)

 ICイマジナリーセンチュリー百五十二年十二月三十四日午前零時十分二十二秒。

 場所は新天神武北蘇我大陸石川麻呂地方赤兄県第一西地区トカッガ町。防波堤
を奪還した英雄の一名トカッガ・ヒラリーを称える為に開発された新興町。後々、赤
兄県から独立する予定。
 この町は新天神武一の名酒『パト恵』。一口飲んでも酒臭さはなく、寧ろ何度でも飲
みたくなる香りと梨に近い味をし、多くの酒豪を唸らせる一品。更に驚くべきは酔い
が回りにくく、大量に飲んでも二日酔いになりづらいのが特徴。
 そんな名酒『パト恵』を作る工場は町一番の建物。大量生産の為にあるのではなく、
良い米の形を判別する係から工事を美味しくする為に蘇我真正細菌族を中心に甘
みを引き出させる係までを幅広く働く事が出来るように工場は建設された。この工場
で使う水は浄化が完了して百の年になるアリスティッポスの氷を溶かした物。氷の大
地で採れた水は酒をより美味しい物に仕上げる。
 現在工場には工員は二、三名しかいない。残った者達は酒の出来具合を確かめる
為に雇われた夜勤の者ばかり。そんな所へ齢三十五にして十の月と十日目になるク
レイトス蝙蝠族の中年は別の目的で入る。
「酒が得意でないのにどうんしてこんな生命気の居ない所に入るんだ? 全く学者の
考えはわからんよ」
 済まないそ--齢三十八にして九日目になる蘇我栗鼠族の老年に謝る学者肌の
中年。
「まあいいさ。現在ここには必要最低限の工員しか居ない。副工場長兼夜勤管轄の
蘇我リス九。つまりワシの事だ。んでリックマン先生の眼前に見えるん所で机に置い
てあるん子守熊族が入りそうんなざるがあるだろ? あの中に入ってある米粒を念
入りに分けているんのが夜勤の一名ブルッダ・ブルレット。齢二十八にして五日目に
なる元軍者さ。えっと確かエピクロ猪族だよ。
 それから眼では見えないが真正細菌族の者は一生懸命--」
「さかもぢ紹介せなくてえいや。我ご探すなほ力ぢま速さぢま技ぢまなく別な戦えご出
来る者わ探せてるんど。ブルッダね声わ掛きちみよう」
 リックマンと呼ばれる学者は工員ブルッダに「忙せえ所済もなえきだ」と気軽にかけ
るものの、当の本者は無視して仕事に集中する。
「やめておきな。このおっさんは軍者を辞めて以来、抜け殻のようんな人生を送って
るんだよ。夜勤を選んだのも日の光に心的苦痛を感じるん為だとかそんな感じだ。
 説いても聞き入れられるんかわからん」
「さりぢまやる価値ほある!
 ブルッダや、聞けたえことごある! どうして軍者わ辞みと?
 それだけわ聞けたえ、短くてええころ答えろ!」
 それでも無視を決めるブルッダ。
(かなもも力押せぢよっちま朝わ迎いる。それだけほ避きたえ!
 どうする? 聞えてま意味わ為そなえなのろ解えちみるびきこ?
 もるぢ見いなえ数字わ当ちる作業。一筋縄ぢ決もろのえ事柄ど。
 どご、我ほ数学者! さんの腰な砕きることね一生わ懸きる馬こ鹿こわからん者共
な一名ど!
 かんの簡単の問題ご出来ずせち『自然数の最終定理』わ解きるまのこ!
 挑戦するざ、コウモ・リックマン!)
「さりじょおかちろころ当ちちめるや!
 実ほ軍者わ辞みとなほ訓練ね耐いられずね辞みとんどら? 扱けね腹わ立ちち辞
みとんどら?」
 数学者コウモはまず見当外れと思われそうで近そうな理由でブルッダを攻める。結
果は口こそ動かないものの目はコウモの方に向ける。
(よはれ見当外りどの。きりだま、軍者な職業ね多少な誇れほ残ってることわ確認出
来と。
 次は--)
「さりたま銀河連合ご恐くち辞みとんどの? 生命わ所構をず食ろえ、弄べ、更ねほ
生命ね死わ与いる銀河連合ご恐くち!」
 今度は誇りを刺激するように一般の軍者が起こりそうな事で攻める。結果はそれで
も口は動かない。けれども上下の歯が互いにぶつかり合って擦り合う音を出す。
(元軍者ぢま格な高え者のらぼ銀河連合相手ね例い恐怖ごおっちま自ろ鍛い抜えと
肉体た精神ね懸きち最大限な自信ごある!
 自信ごあることわ確認出来た!)
「逃ぎと? 仲間ご死んぢゆく現状わ憂えち軍者たいう職業ころ! 自分ほ省めのく
ち良え! きりだま--」
 五月蠅いイイ--あまりに見当外れな事を言われ、とうとう叫ぶブルッダ!
「信じられない! 口数の乏しいブルッダが叫ぶんなんて!」
「はあはあアア、さっきから聞いていれば綺麗なことを並べおっテテ! 僕はそんなに
気の良い雄ではないイイ!
 軍者の訓練が辛いだノノ、銀河連合が恐いだノノ、仲間の死を悲しむだノノで僕が
軍者を辞める理由にならンン!
 僕が辞めたのは自分自身を省みない強さに恐怖した……つまり僕を恐れて軍者を
辞めたんダダ!」
「ようやく本音わ語っちくれたんぢすに」
 ブルッダによると彼は自分が強くなる事に見えない恐怖で悩まされた。それは自分
は何れ銀河連合と同じく力に溺れながら全生命の脅威となるのではないかという遠
すぎる過去では珍しくない悩み。故に彼の戦い方はいかなる攻撃にも耐え抜き、相
手の骨を砕くという捨て身同然の戦法だ。そんな戦法を駆使しても生き残る自分に日
々悩み抜いた挙句選択した道は『軍者を辞めて静かに余生を過ごす』ものだった。
 そんな彼だったがある時--
「--お前みたいな学者に出会わなければ逃げ続けられたのニニ! 僕を引き抜く
以上はどんな死を提供すルル?」
「死ほ残念のがろ提供出来のえ。さな代をれ生ける喜べわ提供せよう!」
 そんなの真実でないに決まっていルル--ブルッダにとって生きる喜びなんてこの
世に存在しないモノと等しい。
「真正神武な領土下ぢ大陸藤原な中臣地方ねあるクレイトス峡谷ねブルッダやりま
強え銀河連合ご居る。そいつのろ君ね喜べわ与いよう!」
 どうせそんなのはありえんガガ、興味が湧いてきたナナ--ブルッダは久方ぶりに
味わう高揚感が身体全体を包む。
「はあ、どうんやら工場長に連絡して新しい夜勤を探さないとな」
 申しわけおりもせん、リス九殿--リス九に土下座をするコウモ。
「もしも僕が生き抜ければもう一回採用してくレレ、頼むゼゼ!」
 熟慮しとく--前右足で頭を掻くリス九だった。
(かりぢ一名確保。次ほ古式神武ね向こうこの?)

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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