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一兆年の夜 第四十三話 選ばれしは凡庸なり(五)

 十一月四十八日午後九時十八分五秒。
 場所は新天神武首都ボルティーニ中央地区開発党本部。二階立ての横長な建物。一番の特徴は外からでもわかるくらい大きなメエガン・メヒイストの銅像が建てられており、『メヒイスタ』の信者にとっては聖地として崇められる。
 そんな気味がない建物の四階会議室で力道党党首蘇我パタ吉と開発党政調会長板垣ツル彦が現在二の時と十七分もの間、会談を行う。
「--どうですかわ、板垣政調会長よの。主旨は異なるものの我々はより新しい結合を求める部分では一致するやわ。選挙協力をどうかお願い申し上げましょの」
 ううむ--齢三十五にして六の月になったばかりのアイスト鶴族の中年ツル彦は欠席中の党首に代わってパタ吉の話を聞く。
「勿論のことですがの、後でカマクラノ先生が反対するかも知れませんよの。それは百も承知やわ! けれども、これは時として開発党を飛躍させる機会じゃありませんかわ! どうか--」
「済みませんがお断り申し上げましょう。確かに選挙協力は議席を更に獲得しうる機会で御座います」
「ならばどうしてお断りをよの?」
「それは開発党の隠れた理念があられます。ですが、この理念は秘密事項故にパタ吉先生にお話しされる事は御座いません。隠れた理念故に」
(隠れた理念……これは知っているぞの! 確か--)
 開発党の隠れた理念。それは『妥協を許さない』事。元々は『メヒイスタ』のメンバーが新天神武で勢力拡大する為に政治に参加。政党になっても『メヒイスタ』における理念を忘れない為に党にいる全ての者に隠れた理念である『妥協を許さない』という単純且つ明快なものを叩き込まれてある。
 そもそも『妥協を許さない』とは科学者は新たな科学的事実を発見する為に信念をねじ曲げて誰かの協力を得てでもそれを手にしないというもの。仮に疑似科学集団である『メヒイスタ』もまた科学者の魂を持つ団体である以上は妥協を許さない姿勢でいる。彼等は例え政治の世界に参加しても最後まで妥協せずに自らの主張したい科学を貫くという思いで有権者の支持を集め、少数ではあるが政党に必要な陸空合計十議席を得た。
(そうかわ! ここに来てそんな隠れた理念を忘れていたとはよの!)
「それからパタ吉先生の琴線を突くようで申し訳ないので御座いますが、先生には我々の協力なしでもうまくやっていけるものを持っておられます」
 え--意外な言葉にパタ吉は両目の焦点が合わない。
「あなたは助けてみせたではありませんか、『ホエ人』に乗船した千名以上もの命を!」
 あ、あれかの--今になって後悔している行動を持ち出されて顔中に大量の汗を流すパタ吉。
「恥ずかしがらないでくれましょう。もっと自信を持っていいのですよ! 確かに代議士らしくない事は承知です。それでもあの行動がなければ合同部隊でもあの銀河連合と波による攻撃に晒されて海に投げ出されましょう。あなたの行動が今を生きる乗客をお救いなさった。パタ吉先生の行動はもはや我々の協力が無かろうと自らの力で有権者に訴えられる力をお持ちです!」
「そ、そうなのかの? 正直あなたみたいな党の政策を纏める御方からそんな太鼓判を貰うなんて事は想定されなかった次第でありますやわ」
「我々はお互いに研ぎ澄ましていく者同士で御座います。確かに議席の取り合いは演じます。ですけど、党で争うよりも先に他党が我々と同じく前に進んでゆく事をお望みです。太鼓判の一つや二つを与えても神様はお叱りになりません!」
 確かに--その後三十の分もの間は端話で盛り上がる二名。
 会談が終わったのは午後十時二分二十秒。

 午後十一時八分九秒。
 場所は首都ボルティーニ第三東地区雀合唱団音楽会館前。第三東地区で最も大きな建物。正面前で力道党の三名は路上で歌う駆け出し中の歌手下霧スズ女の歌を聞く。
「--男女は惹かれ、男は慈しむ
 女は女で心を絞めて--」
「ナアボス。本当にワシらは離ればなれになるんカア?」
「考え直しましよう! 力道党は百もの年まで存続してきたんでえ」
 もう決めたことやわ--パタ吉の決意は揺るがない。
「--離れ、離れ、苦しみ抜いて
 誓いを賭けて、別れを込める--」
「ワシは力道党ガア好きなんだ! これからも力道党で活動したいんダア!」
「これは決定やわ! それにあの時大王烏賊型に飛び込んだ時から決めたことなんだわ!
 俺達はもう--」
「--ああ、恋者たちよ」
「あれが引き金だったでろう。あの時に生還した頃でえ、既に党首蘇我パタ吉は死んでろう。それ以降は--」
「ああ、これからの俺は政治団体『力道会』の代表蘇我パタ吉となったわ」
 歌が終わる頃にパタ吉から思いも寄らぬ言葉が飛び出す。
「は? どうゆう意味でしょうカア?」
「そのまんまの政治団体やわ。力道党は沈んでも魂はこれからも続くよの。政治団体『力道会』としてよの」
 全く話が見えねえ--パタ吉の突然の政治団体結成に頭が着いてこないハルフェン。
「済まないよの。突然こんなこと言ってよの。説明するよの。
 まずは--」
 パタ吉によると政治団体とは政党を支持する母体の事。選挙は大量の資金を必要とする。広告費から遊説場所の確保まで。例え選挙に勝ってもまた資金を必要とする。どこかの土地がそのようになっているかの調査や実態解明に至るまでありとあらゆる所で。その為、議員になっても入ってくるお金の管理は非常に厳しく、宴会でもしたらたちまち借金生活へ入ってしまう。議員とは地元を回るだけでもお金の管理に困る職種。
 そんな議員と所属する政党が少しでもゆとりを持たせる為にパタ吉が考案したのが政治団体。政治団体は選挙費用からその後の事務処理に至るまでありとあらゆる局面で支援する為に存在する。これによって議員にとって管理の厳しい資金を代わりに処理出来る。
 ただし--
「『力道会』にお金を回すのはどこダア? まさか募金活動なんて言うんじゃないだろうナア?」
「心配無用やわ。目の前にある雀合唱団と交渉してくるよの」
「だからなのけえ。どうしてこんな場所で今後について話し合ったのでろうを!
 それで党首殿はどうして中に入らなかろう?」
 ここに交渉相手が居るじゃないか--前右足の人差し指で四曲目を披露しようとする下霧スズ女を示すパタ吉。
「あ、あの? な、何でしょう?」
「君はここで歌を披露しているそうじゃないかわ。良かったら音楽会館を管理している者と会いたいんだがの」
「ま、まさか私ごと売り込ませようとしているんですか?」
 そのまさかだよの--代議士らしくパタ吉は彼女の望みを叶えようと獣肌を脱いでみせる!
(議員には全てのことは出来ないやわ。当たり前よの! 議員は超者ではないよの。仙者ではないやわ。議員は特別優れた者が成れるのではなくの、どこにでも居るようなおっさんと若造が成るんだわ。だからこそいつだって国民が裏切られてゆくやわ! 普通でないことを要求される度に俺達議員は頭を下げて情けない姿を晒すよの。俺達だって好きで国民の期待に応えてはいないやわ!
 だがなわ! それでも無理を通すんだわ! それが俺達政治の異世界に足を突っ込む者の命運びだわ! だからこうして無理を通そうとするんだわ! これは俺が議員でやれる最後の無理よの! これだけをやって俺は無理強いする者の支援に回るよの!)
 凡庸だけが選ばれる政の世界で己の道を見つけた蘇我パタ吉。
 彼は先駆者として歩き始める……!




 ICイマジナリーセンチュリー百三十七年十一月四十八日午後十一時三十分一秒。

 第四十三話 選ばれしは凡庸なり 完

 第四十四話 コペルニクス・ガリレオ・ケプラー に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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