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一兆年の夜 第四十二話 三兄弟物語 三つ星は今(三)

『氷の大地は何もアリスティッポスだけではない。高山の頂上へ行けば行く程氷の
大地を踏みしめるものじゃ。耳鳴りの問題は報告書によると空気の密度が原因だと
か。小難しい事を詳しくは言えんがの。とにかく耳鳴りは良いとしても他の問題が登
山者に大きくのし掛かる。
 その一つが上に登る程減少する気温じゃ。ある地点に山があるとしてその地点か
ら山を越えるまでに風は山を登る程減少し、頂上に達してから山を下りてゆくと気温
は上昇してゆき、ある地点と同じ高さまで下るとその地点の気温はある地点の気温
と全く同じじゃ。ただし、雲がなければの話じゃが。ある地点からその地点までに雲
が発生すると気温変化の幅は縮むんじゃ。そうすると本来ある地点と同じ気温にな
るはずの同じ高さのその地点の気温はある地点より高くなり、一気に暖かい空気が
その地点に流れ込む。この現象をある学者は風炎と呼ぶ。雲の発生は暖かい空気
にさせ、その地点の気温を上げるなんて自然の神々は碌な環境を作りかねんのう。
 話を戻すが、山登りは即ち空を目指すのと同じくらい厳しいものじゃ。青く輝く空は
神々が眠る場所じゃ。登れば登る程神々は怒りおる! 起こるのは高山病。わしは
医者じゃないからその症状の詳しい事はわからん。じゃが、簡単に言うならば密閉
空間で暖炉をしている部屋に一定時間居ればそやつは大量の肺を吸い、下手をす
れば魂の抜けた身体になるのう。これは生命にとって吐くべき者である奴にあるも
のが一つ足りないのが大量に充満するからこそ起こるのじゃ。それは詳しくわから
ん。学者でも研究中じゃ。
 それじゃあ高山病の話に戻す。とにかく生命の呼吸は命の証じゃ。高い所に登れ
ば登る程空気は薄まり、視界だって無事では済まない。
 何故こんな話を記すのか? それは三の日より入ってきた報告によると--古式
神武--の象徴である恵弥が若建山に登るという話を聞いて驚いたように墨を付
けて筆を進めたのじゃ。あやつも中々の雄になってきたのう。こりゃあ、八弥兄さん
に段々似てきた証じゃ。
                           ようし、わしも負けじと仕事をしてゆくぞ』

 七月九日午前十時三分十三秒。
 場所は標高成人体型四千二百三十五付近。
 五名は呼吸困難になってゆく高さを登る--すでに身体の一部が壊死を起こした者も現われる。
(左手が全く機能しなくなっても付いて行くミリッツには申し訳ない気持ちで一杯だ! たった千以上がこれほどまで僕達を苦しめるなんて!)
「はあはあ、あ、諦めたら、ど、どうよ」
「諦めるものか! 君を娶る以上はこれく、らい、で……はあはあ!
 はあはあ、くたばるものか!」
 意地っ垂らしなんだね--シャオルーは恵弥の男気が意地の表れだと感じ取る。
「恵、弥様。このままじゃ俺達は死んじゃっし! ブルブッル!」
「しっかり、しろ、コケ也! 僕だって左手ガ動かなくテ、つら、い!」
「だからって俺の、毛は、譲らんぜ、え!」
 齢二十九にして三の月と二十七日目になる武内山羊族の青年にしてエリフェイン傭兵団の団長エリフレインは傭兵らしく予め毛を与える事を断る。
「団長自らこんな山に登って死んだりしたら団のみんなは悲しっもう!」
 俺は死なんぜえ、その可能性はないうえ--自信満々に即答するエリフレイン。
「もう、すぐよ! もう、すぐ、かせ、つみ、んかをた、てられ、るば、しょ、に、着くわ!」
「見えたけど遠いな、シャオルー」
 恵弥の右手で覆える所に絶好の場所があった--けれども五名にとってはそこに辿り着くまで油を断てなかった!
(後少し……が遠い!)

 午後二時四分二秒。
 五名は体中を触診しながらどこか以上がある箇所を探った。
「僕の左手ハモウ……くうう!」
「ま、まあ大丈夫っし! と、とにかく後……成人体型どれくらいだろっさ?」
「まだ……ううえ!」
 エリフレインは目眩を起こし、コケ也にもたれ掛かる--コケ也はエリフレインの下敷きになり「重たいからっし」と叫んだ!
「大声出せるのならまだ死なないようね、あの鶏は。
 それにしても……頭が痛い。あの傭兵山羊さんが目眩を起こすのもわか、るわ」
「僕は……吐きそう、なんだけど」
 私の方に吐かないでね--シャオルーは用意してあった残り十袋しかない物を恵弥に向ける。
「ガアアア……済まない。淫らな場面を見せて!」
「内緒にしとくわ。いいね、みんな! このことをばらしたら承知しないわよ!」
「ばら、さないうえ」
「そんなことより俺を助けっし!」
「早く登り切ってサッサト空気ノ濃い場所ニ降りたい!」
(問題は銀河連合が居るかどうか! 奴らはどの辺から来る? 頂上? それとも登りの死角から? まさか雲そのものが?)
 ちいいうえ、気を引き締めるんだぜえ--エリフレインはコケ也から素早く退けると臨戦態勢に入った!
 それに合わすかのように突然恵弥の背後から仮説民家の外幕を破って何かが襲いかかる--幸いシャオルーが彼ごと寝かしつける事で即死を免れた!
「な、何だ!」
「銀河連合!」
 しかも人鳥型なんて出てくる場所が違うっせ--人鳥型は素早い動きで恵弥に狙いを付ける!
「お前の相手はこの俺だぜえ!」
 エリフレインは後ろ右足蹴りでわざと人鳥型を避けさせると、後ろ左足を支点に左回転しながら前左後ろ蹴りを浴びせる!
「まだまだうえ! 俺は傭兵団の団長を務める雄だぜえ! 仕事者らしく仕事を果たすうえ!」
 エリフレインと人鳥型の攻防は一の分続く……そして--
「許せえ。俺達は生きる為に死なせてゆくんだうえ。安心して眠るが良いぜえ」
 人鳥型を仰向けにした後、左前足で首を踏み潰す事で決着が付く!
「大丈夫、なのか?」
「大丈夫……なわけックションぜえ!
 はあはあ、外は、寒すぎるぜえ」
 エリフレインが中に入るのを確認すると急いで仮説民家の修復作業を開始し、十の分が経ち、ようやく穴が塞がれた。
「あわわっさ、これから傷だらけの仮説民家を背負って登るっさか!」
「そうみたい。まさか休んでいる所を襲うなんて!」
「油を断てられんねえ。登る度に気を引き締めるなんて大変でえい!」
「おのれ銀河連合め! 僕の左手ガ良かったラ万全ニ戦えるのに!」
 済んだことは仕方ないです、ミリッツ--そう励ます恵弥。
(後数千……ますます辛いなんて!
 でも弱気になっては八理のことを思い出してしまうんだ! 意地でも強気にならないと!)

 午後九時三分九秒。
 場所は標高成人体型四千四百四十四付近。
 も、うげんかっさ--コケ也がふらついて足を滑らそうとする!
「危ない、コケ也!」
 間一髪の所で右手を伸して彼が転がり落ちるのを防いだミリッツ!
「はあはあ……ぎゃああああああっし!」
「大声上げるなうえ! よ、けい目眩、する、だろうえ」
 ふらつきながらもギリギリで踏ん張るエリフレイン。
「はあはあ、大丈夫か、シャオルー?」
「だ、大丈夫……なわけ、無いわ。
 頭が痛いし、もっと空気を吸いたい、気分」
「君のような高山出身者でもこの高さは辛いんだね」
「当たり前よ。そ、それに--」
 シャオルーが左人差し指で示す--そこには確かに死体があった!
「このままじゃあ道標になってしまうわよ。私の父みたいに」
 あれはまさか君のパパなのか--恵弥は崖近くに埋まる人族の死体を確かめようとする。
「違うわ。あの死体は頂上を登って力尽きた別集落の者よ。私の父は上下とも一本しか歯がないわ」
 恵弥は歯を確かめる。するとこの死体には歯が五本あった。
「確かに違う。けれども死んだのはまだ最近? もしかして百の年より前の死体とか?」
「もうやめよう。死んだ者の魂をそっとさせて」
 そうだな--恵弥はこれ以上の詮索を諦めて頂上を目指す!
(山の神々は生命が上を目指すのを恐れるのか!)

 七月十日午前九時八分十五秒。
 場所は標高成人体型四千五百九十九付近。
(咽が渇いて乾いて……水がこんなにも欲しいなんて! 砂漠よりも水が必要な、場所が、あるなん、て!)
 五名はそれでも登る。渇きと寒さと呼吸困難に立ち向かいながら死んでいった者達を辿って!

 七月十一日午後零時八分七秒。
 場所は標高成人体型四千七百八十付近。
 仮説民家を作って休む五名。
「ふうううっし! 生き返っせ! でも水を溶かす為に火を起こすなんて--」
「『空気がまた薄くなる』ッテ言いたいのか? 仕方ないだろ。凍ったままジャア水分ヲ摂取する前ニ舌マデ凍傷ニなってしまうんだから」
「ねえ、大丈夫?」
「心配……してるんだ」
「そうよ。あなた中々強い雄ね」
「強くないよ。前に君が言ったように『意地っ垂らし』だよ。僕はいつだって姉に助けられたんだ。姉は本当に強かったよ」
「えっと……八理様なの?」
「うん、もう死んでしまった。昔から姉の八理よりも長く生きられる身体を持ちながらも寿命が尽きるまで一緒にいられると思っていた。いたのに……ウウ!」
「泣かないで。ここでは余計な水分の消費よ。泣くならここを無事に降りた時にしましょう。そうすれば私の胸の中で--」
「そう、だよね! そうさ! こんな所で泣いていたら叱られてしまう!」
「まさか意地で涙を拭う気?」
「そう、意地だ! それが僕の強さだ!」
「ふふ、期待するわ!」
 二名の仲が深まる様子を横目で見るエリフレイン。
「うーん、心だけで相手を選べないねえ、俺としてうえ」

 それから三の日が過ぎる……五名は四肢ともに無事で済まないにしても互いに助け合い、励まし合いながら頂上を目指す。
 そして遂に--
 七月十四日午前零時二分二秒。
 場所は標高成人体型五千四百八十八付近。雄略大陸一の山若建の頂上に五名は立つ!
「あんだけつらか、たのにっさ!」
「綺麗……左肩一本の価値ハあるよ、この眺め!」
「あれ? エリフレインは?」
「どうやら銀河連合を見つけたみたいね。私が倒しに行きましょうか?」
「いや、今は頂上でゆっくりしよう……疲れた」
 恵弥は眠る--シャオルーの胸に埋まりながら。
「はあはあ、烏型と羊型も倒したうえ!
 さあ登ろうかうえ、俺もでえ!」
(俺は強くなったのかな? もう何かに拘る必要は……なくなったよね、ママ、パパ、そして八理ちゃん)
 彼はシャオルーを連れて山を下りて一の月が経つ。彼等は正式に結婚した……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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