FC2ブログ

一兆年の夜 第四十一話 三兄弟物語 七と奈々(五)

『わしが八理の言葉に引っかかりを覚えて一の週が経つ。もうじき大晦日が迫る。
除夜の鐘は準備が整い、煩悩を捨てるには十分な体勢を築く雪積もる冬。
 雪か。子供の頃は母と星央兄さん、それに八弥兄さんと雪合戦をしたなあ。実在
が確認されない雪達磨族の像を作るのも楽しみの一つじゃ。けれども戻れない。わ
しらはあの頃に戻る事は叶わない。それは八弥兄さんの子供達も同じ。二名は赤
ん坊の頃からずっと一緒だと聞く。だからこそ二名は惹かれ合う--その様はまる
で姉弟と言うよりも幼馴染のように--な。わしの幼馴染は全て想念の海に旅立っ
たというのに。
 わしはいいか。そんな事よりもあの二名だ。こうゆう事態に限って必ず銀河連合は
来る。今は数多く倒されて更には海にいる軍者一同が銀河連合との戦いに精を尽
くす日々。けれども問題はそらだ! この場合そらとは雲の上からやや下までの範
囲じゃない。青くかかった向こう側の事だ。
 かつての国家神武が食われたのはそらから落ちてきた銀河連合の大群は瞬く間
にその地を不毛へと変えた。現在では年月をかけてようやく住めるに十分な状態ま
で回復してもじゃ。
 間違いなく来る。わしは何としても八理を守らないといけない。
           けれども仕事に追われてその任をチーティスに預ける事を決めた』

 六月九十六日午後十一時六分七秒。
 場所はタイガーフェスティ町未開発地域。
 八の年より前、貸借対照宇宙論に群がる擬似科学者達が結成した団体『メヒイスタ』は瞬く間に信者を集めて開発費の増額に迫った結果、要望に応える形でタイガーフェスティの拡張が始まった。
(腰砕けすぎて何とも馬か鹿な要望に応えた私達も同罪だね!
 そもそも『メヒイスタ』の連中は何がやりたくて結成したの、パパとママの思い出深い地に!)
 中条理恵に瓜二つとなった女性天同八理は背中に着けた蘇我鋭棒『石川麻呂』を輝かせながら!
(誰もいない。当然かしら。もう銀河連合を心配する必要ないもの。今では海だけに銀河連合が……いいえ、大空にもかな? 私は頭が良くないもんね、恵弥君と違って)
 そんな彼女がどうしてこの地にいるのか? それは--
「はあはあ……今日は珍しく仕事が早く終わったよ、八理ちゃん!」
 彼女の前に現れたのは天同八夜に瓜二つの面持ちである天同恵弥、八理の弟。
「やっと一緒に見れるんだね、ここで!」
 ああ--星空を見上げる恵弥。
「見て見て、恵弥君! あの星が流れるわ! 絶対あの星は私たちの太陽系からすぐ近くなんだわ!」
「どうかな? 案外ご先祖様が生まれる前に流れた星かもしれないよ。だって遠い星は『光年』と呼ばれる距離で測られるんだからさ! 一光年なら一の年より前に光った星って事だろ?」
「でもそれじゃああの星が流れるのはつい数の年より前じゃない? 私たちのご先祖様が生まれる前だったら絶対ゆっくりと流れるって!」
「知ってるよ。わざと言ったんだよ、八理ちゃんには」
 生意気な弟ね--恵弥を左手で右肩を掴み、右拳で米神に軽く押す八理。
「痛いよ八理ちゃん! 相変わらず腕っ節だけはパパとママ譲りなんだから!」
「そんなパパとママの良いところを受け継がなかった恵弥君は仙者になったのよ。それは素晴らしい事なのよ!」
 どこが素晴らしいのさ--恵弥は下を向く。
(ごめんね、恵弥君。こんなお姉ちゃんでごめんね! 本当なら死ぬまでずっと一緒と約束したのに私は一生命として寿命は残り二十の年しかないもん。一方で二倍以上ある残り寿命を持つ弟。恵弥君が俯くなんて無理ないもん)
「僕の方こそごめん、八理ちゃん」
「いきなりどうしたの? まだ口に出して--」
「僕は仙者であることを誇りに持てないんだ。いつだって夢に出て来るんだ。一緒だったはずの者が突然僕から消えてゆくのを! 恐いんだ、仙者である事が!」
 ごめんなさい、恵弥君--許されるはずのない想いを抱く八理は優しく抱いた。
 そこには姉弟だからこそ味わえる生命の温かさを共有してゆく--どんなに辛い現実が待ち構えても抱き合う事でそれを払拭する。
 仮に八理の背後から母の命を食らった百獣型が牙を突きたてようとしても!
 都合良くやらせないぞ、銀河連合--流れ星がまた一つ流れるのを背景にチーター族の少年は寸前で右に突き飛ばした!
「この音は……逃げて恵弥君!」
 恵弥を百獣型から離すように後方に左後ろ脚で蹴り飛ばす八理--同時に鋭棒を抜き、構えに入る。
 気を付けてください、八理様--百獣型に飛び込んだチーティス!
「全く私がやられると本気で思うの? こう見えてあなたよりかは技術では負けないのよ!」
 百獣型はチーティスの攻撃を捌いた後、寝技に掛けた!
 うぎぎ、逃げてください--二名を逃がそうと大音量で叫ぶ!
「じっとしてなさい、チーティス! 今……助ける!」
 頸動脈を締め付ける百獣型は左右に巧みな動きをしながら攻撃を躊躇わそうとする!
「うぐぐ、八理ちゃん。こ、んのままじゃ--」
 静かにしなさい、恵弥君--自信満々の表情で間合いを詰めてゆく八理。
(確かにこのままではチーティスに当たる……私以外なら!)
 それは一の秒という僅かな時間--鋭棒の動きを読んだはずの百獣型は右に揺らしたと思ったら綺麗に眉間を貫かれた!
 はあはあ、まさか--相手を思い通りの方向に動かす技術に瞬きが止まらないチーティス。
「さす、が八理ちゃんだ!」
 いまさら何言ってるのよ、恵弥君--恵弥に振り向き、両目を閉じて唇を歪ませる八理。
(これが本当の勝利……のわけが--)
 このままじゃ、恵弥様が--毛動脈を絞められていたのでうまく血液が回らないチーティスは素早い助走が出来ない!
「どうしたの? 後ろに何かい……る?」
 振り向くとそこにはもう一体百獣型が--それは真っ直ぐ左前足爪で恵弥の顔面めがけて振り下ろされる!
 させないわ--彼女の頭上に流れ星が落ちる時、百獣型は『石川麻呂』の一撃を心の臓に穴を開けた!
 それでも振り落とそうと爪を突くが、時間切れだった--口から赤黒いものを満点の空めがけて放ち、活動を終える。
「た、助かった。生きてる、の?」
 もう、可愛いんだから--尿を漏らす恵弥に笑顔で近付く八理。
 どうやら今度こそ自分達は助かったのですね--何言ってるのかわからない速度で喋るチーティス。
「恥ずかしい、うう。こんなのは絶対秘密にしてくれ、二名とも!」
「案外器の小さい恵弥君! でもそこが気に入ってるのよ!」
 利き手で恵弥の頭を撫でる八理。場が違うと考えて去ろうとするチーティス……だったが--
「感じる……これは!」
 チーティスに訪れる刃--身体全体で彼を庇う恵弥!
(でも……あああああああ!)
 八理は見た--赤いものが飛び散る中、アリスティッポスの生還者であり自分の父の弟七の姿を!

 六月九十七日午前零時零分四秒。
(泣いてる? 恵弥君が泣いてる? なんで恵弥君に抱きつかれてるのに温かさを感じないの? めぐみくん? だれ? あれ? だれなのかな? だきつくもののほかにちーたーがいちめい。あとはあのおじいさん? あれ? おじいさんって? ってってなに? つめたい……つめたいってなに? なに? って? あ、ああ、あ……)
 八理は頭に刃を刺されて海馬が傷ついた模様--故に急激な記憶の流出が発生!
(あわああわあ、あアイワ、ぇゥゥぃ……)
 彼女は恵弥が何を言ってるのかかろうじで聞こえる--聞こえても通じる事はない。
(ァゥ、ぅぅぉぉ……)
 海馬の傷は八理自身の生きる気力まで流出。やがて彼女は冷たい通路へ向かってゆく--言葉も意味もわからずただひたすらに……!
 天同八理は僅か二十年の短き人生を終えた……最愛の弟の腕に包まれながら。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
リアルタイムカウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR