FC2ブログ

一兆年の夜 第四十一話 三兄弟物語 七と奈々(三)

『わしも考えが甘いの。何が--兄さん達の子供達には子供を作るように--なん
て事を言うかな。彼等に良き出会いが待つ訳ではないのに。わしは一名も想いの雌
は居ない。名無しは近かったがあやつの場合は一名の雌ではなく一名の姉のよう
な方だ。恋というものが何なのかはわからない。ただ、妻にするものとは大きく異な
るという理由は何となくわかる。
 そして恋に落ち、縁を結ぶ者が居る夫婦と許嫁同士で縁を結ぶ夫婦。前者は内
容こそ異なるだろうけど八弥兄さんだ。後者の方は星央兄さん。彼等の間に産まれ
た子供達は一体どんな縁結びをやるのか。
 わしはこれ以上口にすべき事柄ではない。恋というものを知らずに老年になった
者にとっては。彼等の恋の行方を知りたがる程わしは詳しい身分では。一名居た
な。まだ生きているのか、七不思議。後で聞いてみようか。
 現在わしは何をしているか。勿論日記を書いているというのは当たり前の答えだ。
わしは最期を看取るのだ。星央兄さん、八弥兄さん、そしてわしの母。
                         叶家において二番目の仙者奈々の最後を』

 六月八十一日午前五時十二分十三秒。
 場所は首都ボルティーニ中央地区天同六影の間。
 そこには二名の人族が居た。一名は青い髪をして白い口ひげを蓄えた老年にして仙者。もう一名は布団に仰向けになり毛布を掛けられた齢七十一にして十一の月と二十六日目になる老婆で仙者。
 老婆は今にも死を迎えようとしていた--その為か今日に限って表情が穏やかで意識は正常であった。
「早朝に呼び出しておいて今度は『散歩しよう』なんて母はどこかおかしい」
「おかしくない。こうしてすっかり元気になったのじゃ。だからお外に出ましょうや」
「それは無理な話です。お付きの者は絶対許可しません」
「どうかの? ほら--」
 なんで--二本足で立つ奈々を見て唖然とする七。
「こんなにも元気じゃ。そろそろ行こうかの、七や」
「待ってくれ、母よ! そんな状態……って素早いぞ、これは!」
 十の年以上も寝たきりだった母親が目の前で走り出す姿を見て驚かない息子はいない。それでも七は嬉しかった--神々がくれた最後の贈り物に感謝の涙を出しながら!
「どうしたのじゃ、七?」
「いえ、目に砂が入った模様です」
 そうかい--奈々は付き者に止められはしたが、全盛期のように強気で攻め、諦めさせた!
「母が元気で嬉しいよ!」
「それじゃあ鬼ごっこしようか、七!」
 はい--早速七は自分が鬼役になって遊ぶ。
 そんな様子を見ていた付き者の一名である齢二十四にして三の月と十五日目になる武内人族の女性モーラは七を見て呆れた様子だ。
(髭ジジイがいい年こいて鬼ごっこを楽しむなんてどうかしてるって! これも参花様の時代に仕えた一族の運命かしら? 私はそんなじじいにだって面倒見ないといけないわ。アーア、だるい)
 君も参加するのか、モーラ--七は質問する。
「すると思うの、七様」
「質問に答えるんだ、モーラ」
「しますわよ。これもあなた方一族に仕える者の務めだし」
 そうこなければ--七は早速モーラが逃げる時間を作った。
(鬼ごっこなんてやる年じゃないっつーの。全くヤキが回るのが早いわ、私も)
 三名は聖堂中を走り回った--職務怠慢をしながら!
 およそ三の時も遊び続けた為、聖堂正門から齢十八にして十の月と二十九日目になるロディコチーター族にしてチーティンの遺児チーティス・バーバリッタが七を連れ出しに現われた!
 何してるのですか、七様--早口言葉で七の耳に届けるチーティス。
「今日の分は明日にやる! 信用出来ないなら足たわしの所に監視を数名でもいいから付けても」
 無茶言わないで下さい、七様--焦るチーティス。
「そうは言っても今日は好きにやりたいんだよ、母の為にも!」
 勝手すぎます--怒りの表情を七にぶつけるチーティス!
(母の為何て言い訳が通じるなら今頃みんなやるっての。全く七様はもう少し真実を薄める努力を……ってこんなの私じゃないのよ!)
「あら、あなたはチーティン?」
 それは自分の父です--何とか無表情にするチーティス。
「じゃあ誰なの?」
「チーティンの息子チーティス。チーティンの息子のチーティスよ、奥方様!」
「あら、あなたは?」
「モーラです。もう一回言います、モーラです!」
「思い出してきたわ、いないのね、モーリーは」
 モーリーとはモーラの祖母。奈々より十も年下。そして奈々が三十六の時に膵臓癌で亡くなった。
 この場合どうすれば--入りづらい状態で七に助けを乞うチーティス。
「済まない、チーティス。わしが勝手なまでに」
 謝るのは自分の方です--謙虚になるチーティス。
「私はもう必要ない生命だわ。こんなに長生きして生命の死を見て、更に長生きしてはまた……そう思っていた。
 でも今日だけは違う。七やモーリーに遊んで貰ったのよ。長い年月で嬉しすぎる日はないわ!」
 あの奥方様、私はモーラです--指摘するモーラ。
「母、もう行かれるのですか?」
「んん? 何の事かしら、七?
「いえ、何でも。それよりもまた鬼ごっこしますか?」
「するわ、今度は私が--」
「いえ、今度もわしがします! 母とモーラ、それにチーティスは逃げ回って下さい!」
 自分もですか、速いですよ--そう言いながら嬉しそうに遊びに参加するチーティス。
「じゃあ逃げ回るわよ」
「ま、待ってよ、奥方様!」
「……どうやら逃げ回ったみたいだな。じゃあ早速足の速いあいつから行くぞ!」
 七は経験を頼りにチーター族の特性を読んでチーティスを背中から掴んだ!
 掴まるなんて--悔しがるチーティス。
「次は生意気なモーラだな」
 聖堂の形を活かして足下から--ここから来るぞ、モーラ--と叫び声を上げて右手で左踵を触る七!
「そんな所から大声が出たと思ったら……七様ですか!」
「どうやらお前はまだわしより詳しくないな。最後は母だ。どこにいるかは見当が付いている」
 七は彼女が居ると思われる場所を片っ端から探したが--
「おかしいわね、私達付き者全員が心当たりある間を片っ端に目をやったのに!」
「もう二の時だぞ! それに母の性格だ。もうそろそろ声を上げて良かったのに!」
 七様--何かを言いたそうなチーティス。
「言え! もしかしたら見落とした何かに気付くかも知れない」
 鬼ごっこ開始したのは正門の近くでしたか--質問するチーティス。
「……まさか待っているのか!」
 七はある場所に向かって足に力を入れる--瞬く間に兎並の速さで突っ走る!
(あの年になってもまだあんなに速い……いえあの年になっても成長するの、仙者ってのは!)
 常識が通用しないことを思い知らされながらも七の後を追うモーラ--チーティスよりも遅い速度で走りながら!

 午後零時零分零秒。
 場所は国家神武六影県第六東地区旧叶家の館。
 二の日より前にもはや原形を留めない程に取り壊され、後地と化していた。
「見つけた……そんなになった館へ最後になって戻る意味!
 教えてくれても……良いじゃないのか、母よ!」
(奥方様……ここに戻りたかったの、鬼ごっこしてまで?)
 うぐ、ううう、うう--早口になってでも涙を堪えようとするチーティス。
「最後の言葉……『じゃあ逃げ回るわよ』なんて空しいじゃないですか!」
 天同奈々は叶奈々へと戻るように肉体から離れてゆく……。
(奥方様……奥方さま……あんなに手間取ったのに!
 あんなに苦労したのに! あんなに心身疲労が辛いのに! あんなに逃げ出したい思いで一杯なのに! あんなに、あんなに、あんな……何で涙が流れるの?)
「抱きつくのか、モーラ?」
「私は強くありたい。涙を流す姿を他者に見せたくない。だから背中で受け取って! 私の涙を七様の背中で!」
「受け取る……どうしたチーティス? お前もこっちに来い!」
 自分にはさすがに--空気を読もうとするチーティス。
「わしがそんな雄に見えるか? わしは受け止めるぞ、お前ぐらいならな」
 全く七様という方は--足下まで近付き、地面に顔を押しつけながら涙を隠すチーティス!
 七の方はようやく何かに気付き始める……進むべき道がうっすらと!
「わしが目指すは天同七の道……母よ、あなたが教えたいこととはそうゆう事なのか! 死んでしまった以上、勝手な思い込みにしかならないというのに!」
 モーラは七の独り言を聞き、哀れみと共に--
(見届けたいわ! 天同七の進むべき道が一体どうゆう結末を迎えるかを! 私はそれまで生きていられる……かな?
 一生命の私に七様を見届けるだけの健康法がわからないわ。執念なのかしら? 異なるわ。思いつかない。でも今日だけ思いつかなくていい。
 だって奈々様を弔いたいのよ、私達は)

『葬式は盛大に行われ、およそ一の週まで行われるなんて思いもしないな。そんな
に母が悲しいとは。母はきっと先に行った星央兄さん夫妻と八弥兄さん夫妻、それ
に父や大伯母、さらには母方の祖父や祖母と言葉を交わしてるんだろう。
 言葉を交わすか。そろそろ言葉を交わす者を身内ばかりにしている暇はわしには
ないな。そろそろ秘書でも頭抜きしようかの。総社、モーラを話し相手にすれば今後
の退屈にならないかもしれん。
 と思ったけど断る気がする。あやつは生意気な生命じゃ。何を言うか解ったもん
じゃないしの。
                             でも頭抜きする価値がありそうだな』

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
リアルタイムカウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR