FC2ブログ

一兆年の夜 第三十九話 三兄弟物語 無限逃走の責務(進)

『ミ、いや彼女が弥勒菩薩を求めて四の年が経つ。八弥兄さんはもう老年の時期に
入り始めた。星央兄さんでも入る事の叶わなかった老年期に。この頃になると八弥
兄さんの今までの問題行動はようやく半分を処理できたと思う。半分だよ。これがど
れだけ大変かわかるか。生命が今までの行いをいきなり改めたとしても零にさせる
事の労苦を。勿論誰だって八弥兄さんがまた問題を起こすかも知れないと四の年に
なっても注意している。注意しているだけでも八弥兄さんは大分進歩したと私は思っ
ている。
 もう兄さんは今までのような勝手振る舞う兄さんじゃなくなった。兄さんの隠し子で
ある八理と恵弥が兄さんを変えたんだとも考える。兄さんを一名の雄から一名の父
に成長させたのは間違いなく八理と恵弥のお陰だよ。
 だからといって兄さんの今までの問題行動を零には出来ない。現にログバーコフさ
んは今でも兄さんを注意するような態度で接している。簡単に零にすれば真面目な
者がわりを食らう。その事を考えてログバーコフさんは兄さんへの態度をそう簡単に
変えようとはしない。
 そう言えばこの頃八弥兄さんの事で八理と恵弥からこんな事を聞いたんだ。兄さ
んは近々アリスティッポスに向かおうとしているとか。本当なのか。
私天同七は今年で齢二十八にして九の月と三日目になった』

 ICイマジナリーセンチュリー百三年九月三十一日午後十一時十分八秒。

 場所は国家神武首都ボルティーニ中央地区神武聖堂天同六影の間。
 齢四十なったばかりの神武人族の老年天同八弥は齢六十にして十の月と九日目
になる現神武人族の仙者天同奈々と面と向かって話し合う。
「--あれから十一の年。俺はようやく決心がついたよ」
「わかっておりますの? あの地に向かえば待ち受けるのは--」
 知ってるよ--脇まで伸した白く変色した長髪を右手で払いながら八弥はそれ以
上話さないようにした。
「私は心配なのよ。老年に成るとは言えまだまだ可愛い息子なの。そんなあなたを向
かわせたら星央の時みたいに--」
「お袋は悲しかったんだな。向かわせた事で兄貴が死に、美智琉が後を追った事を。
 けど、今度はそうはならないぜ。それに七がいるんだ。あいつがいるなら--」
 何という勝手を--奈々は母性本能のままに怒りの表情になる!
「まだあいつを象徴として認めないのか?」
「当たり前です! 七は優しすぎるのです! そんな七を国民の道標にするのは荷
が重すぎます!
 なので今すぐ七をあの地に向かわせるのは--」
 それだけは断る--八弥は皺を寄せてもなお銀河連合を狙う豹族のような両眼で
怒りを鎮める。
「成長したのね、八弥。置いたとは言え、私を鎮めるなんて」
「衰えたさ。ただ、その分どうやったら相手が萎縮するかに長けだしただけさ。俺はも
うこれ以上成長しちゃくれない」
「それだけ口に出来たら成長している証拠よ。遅すぎるけどね」
「まあいい。俺はようやく兄貴の言いたい事を理解し始めたんだ。もうここからは俺が
一方的に話すぞ!」
 今回は特別よ--手を膝の上に乗せる奈々。
「えっとな。これから七を象徴にする。もうあいつは国家神武の象徴に相応しい者に
なった。俺が居ない間、あいつはつけを一身に受けて国家神武の為に尽くしてきた!
国民は今では奈々を時期象徴に相応しい仙者と考えている! それに七自身ももう
重圧に耐えられるだけの精神にまで成長したんだ。あいつなら全生命を正しく導く事
が叶えよう! 仮にお袋が納得ゆかなくともあいつを象徴にする!
 それでも反論するか?」
 いいえ、時間の浪費よ--奈々は了承した。
「そうか、それじゃあ--」
「一つ質問するわ。奈々をアリスティッポスの地に向かわせるならその間、星央の館
は誰が守るの?」
「決まってるだろ? 星季はもう十七だ。今更保護者が必要な年じゃなくなったろうに」
 そう--奈々は初孫まで自立した事に悲しそうな目をする。
「それじゃあ行くぜ。もうさよならなんて言わない。必ず戻ってくるぞ!」
 信じるわ--二度と戻らない息子を敢えて送り出す奈々。
(本当でない事を言っても見透かされるだけだ! それでもそんな事を言ったのは俺
自身に逃げる心を断つ為だ! 俺はもう逃げない! 必ず極冠の地を取り返す!
 今度は兄貴のように挑戦するのではなく命を捨ててでも取り返してやる!)

 九月三十二日午後九時八分七秒。
 場所は中央官邸重要会議室。
 午前九時から始まったアリスティッポス奪還会議は初めこそ反対者が三分の二以
上も占めた。大多数が星央の死から奪還への希望を諦めていた。
 しかし--
「--俺が劣名返上する為に四の年も費やした! そして今なら奪還は可能だ!
 何故なら俺が押し通した案はアリスティッポスの大地で化ける! 良い方向に!
 それに今度の遠征には櫛玉地方の戦いを到着して僅か一の日もの間に終わらせ
た次期象徴七も加わる事になった! あの時がまぐれなのか本物なのかはこの一
戦で決まる!
 皆の者よ、俺はまだ劣名返上は果たしていない! アリスティッポスを取り戻す時
こそ、それが叶う! 後少しだけでいい! 皆の力を俺に分け与えるのだ!」
「成程! 名誉挽回をおお果たそうとすううるかああ! ならばああやってみいいせ
い!」
 齢四十一にして八の月と二十日目になるエウク梟族にして財務大臣シャラワウは
賛同に回った!
「老年にナアっても衰えを見せず、なおカアツ成長するか、最高官殿!」
 齢二十九にして十一の月と七日目になる神武熊族の防衛官クマソノヒコは八弥の
強さを感じ、賛同する!
「けれどもまだ信じないね。どうせまた僕達に迷惑かけるかもね」
 齢三十にして五日目になるアリスト鴨族で社会保障長官白石カブ八は八弥を認め
ないでいた。
「八弥様をまだ認めない。そりゃあ私だって同じ。しかし、アリスティッポスを見事
奪還するなら私は喜んで八弥様を称える」
 齢三十四にして二の月と二十二日目になる物部蜘蛛族で交通長官物部クモ由紀
は賛同に回った。
 それから次々と賛同に回る閣僚が増えてゆき、遂に規定数を遙かに超える賛成に
よりアリスティッポス奪還作戦案は可決された--なお反対したのは二名。
 施行されたのはそれから一の週より後の事……。

 九月三十四日午前一時八分八秒。
 場所はマンドロス山標高成人体型六百六十六付近。
 天同八弥は中条理恵と初対面した所に小さな墓を建てていた。
 墓前に立ちながらある決意を表明する。
(やっぱり俺は父親に相応しくないな。あの地へ辿り着けば待っているのは……やめ
ておこう。ただ、もう逃げるつもりもなければ簡単に死ぬ訳にもいかない! ただ、後
を継ぐ者達に見せねばならないんだ!
 『俺達はこんなにも凄い事をしたんだぜ』ってのをよ! 俺はもうこんな年だ。腰だっ
て覚束無いし、ここに来るだけでも足が固まりやすくなる! 若い時だったらこんな事
も感じなかったのにな。
 けれども俺は--)
 ここにいたんですか、八弥兄さん--七が後ろから声をかける。
「七か。よくも反対票を出したな!」
「私は反対だよ。仮に私自身を投入して何の役に立つ? 仙者の力を信じるのか?
それとも十四の年より前に私が出ただけで銀河連合が一斉に撤退したのを理由に?
都合の良い事はもう二度もない。第一私は--」
「わかってるよ。お前に武の才は付かないことくらいは。ただし、世の中を動かす才だ
けは俺も兄貴も敵わない!」
「何言ってるだか。私に世の中を動かす才? あると本気で信じますか!」
 ああ--七の方を笑顔で振り向く八弥。
「年をとるもんじゃないよ。もうすっかり八弥兄さんはおじいさんに成ってしまった。
 それなのに何だかやれそうな雰囲気なのはどうしてかな?」
「やれそうじゃないだろ! 必ずやるんだよ! 兄貴が挑戦した奪還を今度は俺達兄
弟の力で果たす! 必ず出来る材料が山程あるんだ! 無理矢理でも--」
「もう私は反対しない。一兆年の神々はそう示す!
 必ず奪還しよう! お互い生きて必ず!」
 ああ--八弥と七は兄弟で最後の握手をする!

『わしは気付くべきだった。気付いていれば……』



 ICイマジナリーセンチュリー百三年九月三十四日午前一時九分四秒。

 第三十九話 三兄弟物語 無限逃走の責務 完

 第四十話 三兄弟物語 八は輝き、七は動くに続く……

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
リアルタイムカウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR