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一兆年の夜 第三十九話 三兄弟物語 無限逃走の責務(六)

 未明。
「本当にこの場所で大丈夫なのかな?」
 齢三十六にして四の月と十四日目になる武内人族の名も無き熟女は秘境神武と思われる捨てられた場所に降り立つ。
「私にとって弥勒菩薩とはこの場所かもね、コブ吉さん。何故だか知りませんが今日は心の洗われる気分であります。名を捨てて国家神武の為に尽くしてきた私はようやく死へと通じる階段を下りてゆくような感じです。あなたも死の間際にこんな感じを味わったのかな?
 とまあそんなのは実際に死なないとわからないけど……何故だろう? この場所ももうすぐ死を迎えそうな感じは? あちこちの神々を見て回ったりするけど何だか知らないけど歪んでる? いやそうじゃないのかしら? どうにも揺れてる? いえ、歪むならそれは近くで火遊びが発生した場合じゃないの? それに揺れるなら今の私は立つ事も歩く事もままならないわ。
 じゃあこの感じは何なの? もしかして私の感覚そのものがおかしいとか? 弥勒菩薩へと近付くからそうゆう風に?」
 名無しの独り言はこれ以降発する事はなくなった。彼女は思い出したのである。自分が天同八弥を捜索しているという使命を!

 未明。お日様は沈み、月が目立ち始める時間。
 小さな藁小屋の近くで八弥と二名の双子が鬼ごっこをしていた。
 周りは犬族のような銅像と繋がり眉毛で角刈り髪をして火起こしの仕掛け道具を腰の熱い紐に引っかける人族の男の銅像など時代に似つかわしくない銅像が建ち並ぶ。
「そこに居たか、恵弥!」
 はずれだよ、おっちゃん--八理の声が八弥の示す方向にある十一頭身以上にもなる空中回転蹴りで球を巨大な網目籠を突き破る程の力で放てる少年の銅像に響く。
「パパと呼べ、八理!」
「だれがおじさんをぱぱとよぶかってねえ、やつりちゃん」
「そうそう、おっちゃんがいくらママのおきにいりだとしてもねえ、めぐみくん」
「だったら本気を出してお前らみたいな生意気な子供達をかぶりつくぞ!」
 やれるもんならやーい--恵弥はいかにも生意気そうな二歳児らしき人族の銅像から顔を出し、左人差し指で左眼下瞼の皮を伸ばしながら舌を出す。
「子供だからって大人を腰砕けに見やがって!」
 藁小屋の入口近くの左窓から子供達と遊ぶ八弥を眺める理恵。彼女はこの時間が永遠に続くとは思わなかった。彼女は何かに気付き始めた--藁小屋周辺が歪んでいるような奇妙な感覚に!
「やーらーれーたー。参った参った!
 パパの負けだ、八理、恵弥!」
「だれがおっちゃんをパパとよぶもんです……ってなんかへんだとおもわないめぐみくん?」
「ほんとだね。ゆがんでるよ、やつりちゃん」
 歪んでる--そう思って周囲を見渡す八弥。
(あれは……銀河連合!)
 八弥は全体の歪みよりも先に銀河連合百獣型が恵弥の背後にある犬を飼っている小太りの人族像に潜むのに気付く--百獣型は二名の子供達が景色の歪みに気をとられている隙を突いて飛び込む!
「あ、あぶないよめぐみくん!」
 え--恵弥は後ろを振り返ると大きな口が彼を食らわんと接近!
「こんな時に神武包丁を小屋に置いたままなんて--」
「御免なさい、先生!」
 突然飛来した雄略差し包丁の先端は真っ直ぐ百獣型の喉仏に命中--百獣型が痛みのあまり恵弥のすぐ手前で暴れ出していると思われる。
 その間に八弥は百獣型の間合いに入ると人差し指の第二関節を尖らせた左拳で眉間に当てる--脳への甚大な損傷によりそのまま動かなくなった模様。
「ふう、大丈夫か恵弥!」
 ぜんぜんへいき--お漏らししながら答えた。
「またけいやくんのおもらし。こわいならこわいといいなさい」
「ごめんなさい、はちりちゃん」
「済んだ事はもう良いわ。何よりも生命が守れて良かったわ。
 でも私は先生に謝らなくちゃいけないわ」
 何時の間にか環の中に入る名無しに対して八弥はある事を尋ねる。
「環の中に入る前に質問する。お前は俺を連れ戻しに来たんだろ?」
この場所に来るまではそのつもりだったわ」
「この場所に来るまで? どうゆう--」
「八弥! あなたの持参した物を持ってきたわ! 今すぐここから逃げましょう、子供達も連れて!」
「理恵か! どうゆう意味……え?」
 八弥はようやく歪みに気付いた--同時に秘境神武はこの先無限の逃走を始めようとしていた事も感じる!
(俺達がこの地を離れたせいなのか、秘境神武! それともここは永遠に秘境であり続けるというのか! そんなのが……って八理?)
 今度は八理に危機が訪れる--倒したはずの百獣型が起き上がり、右前足で手刀の構えをしながら八理の目前まで近付いた!
「はちりちゃんはぼくがまもる!」
「雌の子だけじゃなく雄の子までも命の危機にさらせる訳には--」
「八理も恵弥は命に代えてもあたいが……まも、ぶふう!」
 手刀で貫かれたのは幼い双子の母だった--皮膚に届かないギリギリの所で八理は難を逃れた!
 けれどもある者は怒りのあまり--どこまで逃げれば気が済むのだああ--と情緒が安定しない叫び声を上げながら百獣型の首を刎ねる!
「も、う、逃げる、のは、終り、ましょ?」
 仰向けに倒れた理恵。横には子供達が立つ。
「……名無し! 今すぐ理恵を助けてくれ!」
「ええ、わかったわ……と言いたいけどこのままじゃあ私達はここと運命を共にするかも知れないわ!」
 そう言えば--八弥が気付いた時には周囲はひび割れ始めた!
「ママ! あたしたちはママといっしょがいいよ」
「ごぶ……ごめん、ね。ママ、は後で、このお姉さんと一緒、に出るから……ガハア!」
「ねえおじさん! ままのくちからあかいふんすいが……っておじさん?」
 御免よ、劣親で御免--八弥は両手で八理と恵弥を抱きながら見えない所で涙を流す。
「だい、じょう、ぶよ、は、ちや? 信頼してるの、でしょ……ブウウウ!」
「喋らないでよ、えっと理恵さん?」
「理恵で、いいわ。は、はやく、い、ぃ、て」
「ママをおいていきたくない!」
「ぼくもままをおけない!」
「大丈夫よ! お姉さんがママを助けるから心配しなくていいわよ!」
「そう言ってるんだ! だから二名とも信じるんだ! お前らの母はお前らを決して置いていかないってな!」
 八弥の精一杯の言い訳であった--八弥は直感する!
「でもな。良いのかよ、理恵? 中条の血を絶やすのを避けたかったんじゃないのか? 俺が連れてゆくと流れるままに--」
「も、う、いいよ。それ、に。きめる。の、は。あの。こたち、し、だい、だわ」
「もうこれ以上は喋らないでね! これ以降は医者特権により無理矢理でも止めるわ!」
 どうなっても知らんぞ--それが二名の最後の会話となった。
「ママがどんどんはなれてゆく!」
「ままをつれてって!」
「ところで良いのか、名無し。お前がこんな目に遭う理由がわからないが--」
「目指してみたくなったわ、弥勒菩薩を探しにね」
 遥か先なんぞを求めやがって--これ以上は時間の浪費と踏んだ八弥は二名の子供達を抱えて黒き螺旋と化す秘境神武から急いで脱出してゆく!
「あの子達の父はひょっとして--」
「……」
「わかっていたわ。あなたを見たとき、もう助かる見込みは無いってね。
 でもどうして治療しようと考えたかわかる? それは私を助けてくれた先生と私のわがままを聞いてくれたお爺さん達への恩返しよ。
 だからこそ最後まで私は武内人族の--」
 空間は急激に……と心肺停止した中条理恵の体を歪ませる……。

(こうして俺の逃亡は終わりを告げる。結局俺は何も理解出来ない。愛する者の気持ちですらも子供たちの気持ちですらも才能に挑戦し続ける者達の気持ちですらもわからない故に俺は逃げてきた!
 その先が中条理恵だった。秘境神武だった。だが、それは同時に彼の現象すらも逃げ道を作るに等しかったよ! まさか秘境そのものが逃げようとしていたなんてよ! でももう秘境に逃げ場を作ることはもうない。秘境は永遠に俺達の前から姿を消したんだ! もう眠らせてやればいいんだ!
 そして愛する者をまた一名死なせる事になった。でも今度は訳が異なるな。もう何かを忘れる為に逃げる必要はなくなったんだよ。俺はもうこれから立ち向かおうと思うんだ。あの時の兄貴のように。これは別に死ぬ為じゃない。子供たちに格好の良い所を見せる為なんだ。例え誰彼から劣官の劣名を着せられても子供達の前では格好の付く親父でいたい! そう思ったまでだよ。もう逃げるのは止めにする事にしたんだ!
 だから今度こそは期待しろ! 信じろなんて都合が良過ぎる。だけど期待はしていいぞ、美弥! おっとこれじゃあ墓の下で理恵に説教を食らうな!)

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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