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一兆年の夜 第三十九話 三兄弟物語 無限逃走の責務(五)

『八弥兄さんは次から次へと案を出してはみんなの納得のゆかない形で無理矢理
逃げ道を作り、これを通してゆく。最初はそれで上手くいった。だけどそんなやり方
にとうとう重要閣僚のみならず、現場の者達からの反発が強まってきた。
 何でもツクモノカミの話によれば中間管理職の者達の葛藤が相当だとか。拙速な
更新は軍者の能力低下にも繋がり、なおかつ精神疲労を溜め、なおかつ労働時間
の拡大に繋がってゆく。更に付け加えるのなら逃げ道は割を食らう者達に多大な圧
迫を招く。それが社会問題となったのが兵力増強特別案を通して二の年より後。
 各地域で相次ぐ軍者の過労死が社会問題となった。初めは十三件だったものが
一の月を経過するごとに四十二件、六百六十六件、九千六百四十一件と拡大して
いった。とうとう私達はこの問題を受け止めるようになってゆく。
 それは同時に八弥兄さんへの明確な対立だ。それ以降八弥兄さんの案件は全て
却下され、逃げ道だって認められなくなった。八弥兄さんは半ば力尽くで案を強行し
ようとするも不服従の意志は固く、それを感じ取ったのか兄さんはそれ以上何もし
なくなった。肉親以外誰も信頼出来るものが居なくなった兄さんはまたしても職務を
放り出すようになった。
 今度の場合は他者の死からの逃亡ではなく何一つ思い通りにいかない事への逃
亡。只一点異なるといえばそれは銀河連合を倒しにゆく事もなければ雌を追いかけ
る事でもない。それは。
  御免、今日までに済まさなければならない書類は山程あるので今日はここまで』

 ICイマジナリーセンチュリー百二年九月三十日午前二時六分二秒。

 場所は国家神武首都ボルティーニ中央地区旧天同星央の館正門前。
 齢二十四にして九の月と二日目になる神武人族の青年天同七は帰宅した。
「あ、お帰り七!」
「ただいま、星季」
 彼の帰りを待つのは齢十三になったばかりの星央の第一子星季と齢九にして十一
の月と二日目になる星央の第二子輝星。
「僕達七叔父さんを待ってたの。ちゃんと待ってたの」
「ありがとう、二名とも。ところで美世はちゃんと寝かしたのか?」
「美世ちゃんならあたしが寝かしたわ! 心配無用のよう!」
「『よう』って何?」
「これはあたしの新しい口癖な--」
「もう寝ましょう、叔父さん!」
 そうだな--顔を膨らませる星季に目をやリながら七は館に入ってゆく。
「帰ってこられた科、七様」
「今日は名無しは居ないんだね」
 齢三十五にして一の月と一日目になる神武鬼族の中年カゲヤマノツクモノカミと目
を合わす。
「名無し端現在捜索中だ。八弥様尾な」
「兄さんは一体どこへ逃げたんだ!」

 未明。
 齢三十五にして十一の月と三十日目になる神武人族の中年は先祖にとって懐かし
い場所に逃げ込んだ。
(どいつもこいつも何もわかってない! 全生命が強くならなければ銀河連合との長
き戦いに終りは来ないというのに! それなのに過労死だとかそんな理由で足を進
めないなんて!
 どこまでも弱いんだな、お前達も俺と同じく!)
 とうとう全ての髪が白くなった中年天同八弥は何一つ食べず、飲まずをしてかれこ
れ一の週が経つ。彼の両頬は逆しの字が目立ち、目の隈は目の大きさを超える程
にまで進行。
 けれども彼は死のうと考えた訳ではない--寧ろ生きる為に逃亡。
(お袋や七や星季、輝星、美世達しか信頼できる者が居ないんならもう俺は逃げるし
かないだろ、理恵の所に! どこなんだ、理恵!
 俺はお前に会いたい! 今度はお前……いやお前の子供達を抱きたい!)
 八弥はそんな想いを抱きながら力なき両足で前を進む--神々が眠る先祖代々
の故郷を観光するように!
(ここは『秘境神武』なんだな。俺達の先祖が離れてもう三百の年月は経つのにまだ
ここは……ん?
 気のせいか? 誰かの視線……いや異なるな。これは--)
 条件反射なのか持参した神武包丁『星央』を抜き放ち、背後から襲いかかるモノを
下から上に正中線を沿って斬り上げた--銀河連合人型の死体左右は八弥を横切
るように滑り込む!
(刃毀れなし、と。どうやら空腹は俺にあらゆる蟠りを消してくれたのか? だったら
消してくれ! どこにいるとも知れない理恵と二名以上居ると思われる俺の子に会う
のを!)
 包丁を鞘の中に戻し、振り返り終えるとまた足を進める--逃げる事から逃げる
為に!
 それから五の時を進む。そしてうつ伏せに倒れ、夏の陣に焼け落ちた建物の前で
全身を下げるように眠る--目に涙を流しながら。
(死ぬ、のか? 俺は死にたくない。まだ理恵にも会わないまま死ぬのは御免だ!
 俺は理恵に会ってない! けれどももう心身が疲弊して思うように、おも、う、ぉ、ぉ、
ぃ……)
 意識を洞窟へ通す間に二名の小さな救世主達が八弥を見つけてそれぞれ手を
持って引き摺る--二名の母がいる小さな藁小屋に向かって。

 未明。
 天同八弥に光が差すとそこで目にしたのは--
「……べる?」
(誰だ? 幻を見ているのか?)
「……べられるの?」
(間違いない! あれは……中条理恵、なのか?)
 気苦労絶えないのか頬骨が目立ち始めはするが、彼とほぼ同じ日に生まれて、す
でに臍まで伸してはいるが紫の髪をした熟女。
「『女』は、理恵なのか?」
 『女』と呼ぶのはあなただけよ八弥--柄杓で強引に八弥の口に入れた理恵は顔
こそ老けるものの八弥との初対面と変わらない自信満々な目をする。
「ねえねえママ! このおじさんとしりあいなの?」
「もしかしてままのおとうと?」
 齢五にして三の月と十一日目になる双子の姉弟が母である理恵に尋ねる。
「理恵、この子達は?」
 理恵は二名の左右の肩を両手で掴むと八弥の前に見せながらこう答えた。
「紹介するわ、八弥。この子達はあたいの子供。
 左にいるのは第一子八理やつり。右は第二子恵弥めぐみ
 あなたと血は繋がり、天同家の正統なる後継者にもなれる子達よ」

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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