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一兆年の夜 第三十九話 三兄弟物語 無限逃走の責務(二)

『兄さんのせいで僕の生活に楽しみが一つもありません。書類の山は僕に赦しを受
け容れないように襲い、眠気は仕事を妨げ、時間は僕を焦らす。そして何よりも僕
が恐れるのは書類の検査だ。ログバーコフさんは僅かな箇所でも見逃さずにまた
送り返してくるんだよ。辛いよ、やり直すのは。それで今日までに終わるはずの仕事
が明日に来るんだ。もうどうにもならないよ。
 それにしても八弥兄さんはどこにいるんだ。八弥兄さんのせいで僕はこんな目に
遭ってるんだ。絶対に帰ってきたら全ての仕事を押しつけてやるんだ。何で僕が兄
さんの尻拭いしなくちゃいけないんだ。僕は仕事から離れたい。こんな事をしたくな
いんだよ。
                          いけない、日記を書いている暇がないよ』

 三月四十三日午前一時二分十一秒。
 場所はマンドロス山ボルティーニより出入口付近。
 そこには国家神武で起業する土木業者が上っていた--いつも通り山を登って銀河連合を倒しに来ていた八弥は木陰に隠れながら一部始終を目撃。
(兄貴が死んでもログバーコフの野郎は仕事しやがる! 土木業者の護衛にヤマビコノアリバルザなんて付けるとはよう! あいつが居れば十体までなら余裕だ。
 ちい、どいつもこいつも俺の楽しみ……いや苦しみを理解しやがらねえ!)
 八弥が向かう先は開発中の町タイガーフェスティ--本来の名称は西ボルティーニであったが、七の提案で今は亡きタイガーフェスティの名前が付けられた。
(大体誰だよ、名称を付けた腰砕けは! 思い出したくなってきちまうじゃねえか!)

 午前二時二十八分六秒。
 タイガーフェスティ町が完成するのは三の年より後。ここに作るように考案したのは天同星央。彼はここに新たな工業都市を開発するのが目的だ。
 現在は工事が始まる前である為、中には誰も居ない。そんな場所に八弥は土を踏む。
(無防備だな。よっぽど生命不足だな。兄貴は広げるのはいいが、それに見合うだけの生命を用意しきれてねえ。これじゃあ明日の朝に工事する者が来たら仰天するぞ!
 『銀河連合によって滅茶苦茶にされた』ってな)
 けれども八弥の顔から笑みが浮かぶ--それはこうゆう場所だからこそ現実逃避には相応しいと。
 彼は建物などを調べながら想像を膨らませてゆく--けれども神武包丁から鞘を抜いていつでも臨戦態勢をとる事を忘れずに。
(それにしたって欲張りだよな、兄貴は! そんなに武器を運ぶ費用を減らしたいとはよう。いや、この場合は資材の持ち運びをより円滑にする為にこんな場所を新たに作ると決めたんだっけ?
 まあどっちでもいいか。とにかく何もなく、荒れ地でしかない所に町を作る以上は……誰か居る!)
 気配のする方に飛び込む八弥だったが周囲を見渡すと目に飛び込んだのは一の週より前にマンドロス山で出会った成人体型一になる紫髪の女性だった。
「よっぽど暇なのか、女」
「あなたの方こそ。居場所をとられてここにやってきたの?」
 痛い所を突く前に考えろよ--右人差し指で右米神を掻く八弥。
「あーあ、覚えているなんてあたいはツキが少ない証拠ね。もっと良い雄に出会えたら良かったのに、こうゆう時に限って八弥『君』とは」
「いい加減『様』を付けろ! 俺はこう見えて最高政務官なんだぞ!」
「賢い使い方を間違ってるわよ。いくらあなたが最高官でも仕事を放り出している今では国民は誰を最高官と思ってるのかしら?」
 ぐぐ--八弥は返す言葉に悩む。
「星を図られたのね。あたいは知ってるわよ。あんたが一部ではあるけど国民に何て呼ばれているのかを--」
「言うなよ。想像出来なくなったら困るだろう。
 それよりも女もあれか?
 『ここは無防備だから銀河連合が必ず荒らしに来る』と踏んで来たんじゃないだろうな?」
 あなたもそうなの--中条は左手の平を頭の天辺に乗せながら質問で質問を返した。
「どこまでも礼が出来ない女だな。質問を質問で返すなよ」
「別に良いでしょ。どうせあなたはあたいの好みじゃないんだし」
「俺も女を好まない。ここまで目上の者に礼無きを働いちゃあ……女!」
 構えるんだね--中条は先に構えた八弥の後を追うように鋭棒を構える。
「俺の直感だが、ここには五体も居るぞ! ちゃんと新しい刃に変えたのか?」
「あたいは中条なのよ。鋭棒を使ったら右に出る者はほとんど居ないわ!」
 質問に答えろよ--両眼を閉じながら溜息をつく八弥。
 彼等が痴話喧嘩をしている内に銀河連合は姿を現す--その数は八弥が予想する数より一体少ない。
「どいつもこいつも混合型か! 百足人型だけじゃなく二頭犬型や隼蠍型に……オイオイ!
 さすがに混ぜすぎだろ! えっと蝶族と土竜族に蚯蚓族と後は--」
「他には羊族のようなふさふさな毛と……吐きそうだわ! もうさっさと倒しましょう!」
 もう踏み出すなんてどこまで礼儀のない女だ--後を追うように八弥は中条とは反対方向に足を踏み出し、二頭犬型と隼蠍型目掛けて自らの腕の太さくらいの高さで滑空をする!
(隼蠍型は飛べるようだな……って視線を移したら二頭犬型が視界から居ないだと!
 どこに……当たるか!)
 着地すると同時に二頭犬型の仕掛けた噛みつき攻撃を三回バク宙しながら避ける!
 着地した八弥の隙を突いて隼蠍型は触手による毒攻撃を仕掛けるも--
「『避ける』なんて行動をとると思ったか!」
 振り向き様に下から上へと切り上げて真っ二つにする事で触手攻撃回避した八弥!
 だが、ここで思わぬ事態に遭う!
「腕が落ちたのか! 折角刃毀れせずに持参した親父の形見に血を付けるなんて!」
 初めて刃の刃毀れを起こした八弥の隙を突くように二頭犬型は視界に入らない所まで一瞬で接近!
「しまった……訳ねえだろ!」
 八弥はまたしても刃毀れさせる--頭上に真っ直ぐ神武包丁を突き立てて二頭犬型を倒す!
(これで親父の形見は残す所あと三回。いくら長持ちさせていても包丁はいつか必ず鉄屑と化す。
 まあそんな事は後で良いか! それよりも女を助けないと!)
 八弥は中条が居る方向に視線をやるとそこには--
「しまった! このままじゃ勝てない! 急いで取りに行かないと!」
 鋭棒を百足人型の背中腰に飛ばされた中条は左に回って走り出すも百足人型に絡まれた!
「このままじゃあたいは死ぬ! あたいの代で終りたくな--」
 終わらせないよ、女--八弥は神武包丁を刃先を前に突きだして投げる!
「刺さったわ! で、でも先頭の奴だけじゃあ--」
「だからこそ俺はそいつら全員を纏めて切り倒す為に投げたんだよ!」
 中条を突き飛ばした八弥は後二回しか使えない神武包丁『六影』を両手で握ると素早く抜く--百足人型は抜く瞬間を狙って絡もうとする!
 しかし、八弥は突き出る部分の方に避けると右足を力一杯踏み出して包丁を振るった!
 し、信じられないわ--一太刀で百足人型を両断した八弥の包丁捌きに髪を逆立てる!
「見たか女! しかも今度は刃毀れ一つさせてないぞ!」
「いい加減に『女』と呼ばないでよ!
 あたいにはパパから貰った『理恵』という理の恵みがあるんだから……ってだから好かない雄と一緒にいるのは良くないのよ!」
 理恵か--何時の間にか笑顔になる八弥。

 午前四時二分九秒。
 八弥と理恵と呼ばれる女性はしばらくの間、痴話喧嘩しては銀河連合が出現すると武器を構えてそれを撃退するという事を行った。
 そして--
「そろそろ時間だ。現場監督が出て来られると俺達が居る事がばれてまた軍者を送るかも知れない。と言う訳で今日はここまで!」
「別に『八弥』とまた会うって訳じゃないんだからどうだっていいでしょ?」
 今度は呼び捨てか--八弥は真っ赤になる!
「フフ、可愛いわね! ところで酒は切れたの?」
「理恵のせいで酔いが覚めた。もうこんな所に来るなよ。俺は一名になりたいからな」
 そうかしら--子供っぽい笑顔で返す理恵。
「全く理恵は。じゃあな、今度こそさよならだ!」
「ええ、そうなると良いわね!」
 二名はそれぞれ反対の方角から帰路へと向かってゆく。
(中条理恵……美弥とは違った意味で手間がかかりそうだな)
 それでも八弥は美弥の殻から出られないでいた……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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