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一兆年の夜 第三十九話 三兄弟物語 無限逃走の責務

 三月三十六日午前一時七分十八秒。
 場所はマンドロス山標高成人体型六百六十六。
 齢二十九にして十一の月と二十六日目になる神武人族の青年は白い部分が目立ち始めた脇まで伸びる長髪を風に靡かせながら何かを追い求める--神武包丁『六影』を鞘から抜いて刃の光を標にしながら!
(ここは多分吉が吸い取られる標高のはず! と言う事は必ず銀河連合が潜んでいるはずだ!)
 青年は何故銀河連合を探すのか? 死ぬ為なのか、全生命の為なのか、肉親の為なのか?
(眠い。ふらつく。酒を十杯も飲むんじゃないな。頭が痛くなって来やがる! 飲むんじゃなかった? 違う!
 俺は呑まれるんだ! 酒を飲まないと夢に出ちまうんだよ! 呑まれる事でしか忘れられねえ! なのに出ちまう! 美弥が! 兄貴が! 美智琉もだ! それにアリスティッポスで死んだ連中も! それに何故か銀河連合まで俺の夢に出ちまう! 俺は忘れたい! いっそ吉が離れる標高で銀河連合によって食われたい!
 俺は、おれは、オレハ--)
 突然、青年の右肩に水のようなものが当たる。それはやがてもう片方の肩や長い髪の至る所にも落ち、大群は一体を濡らしてゆく。
(雨か。そういえば明日の天気予報を知っておくべきだったか? もう少し雌付き合いを増やすべきかな? けれどももう周辺の雌は至る所で調べ尽くした以上は次に会うのはどれも細工のない雌ばかりだ。
 だが、他種族の雌を追いかけるなんて事を俺はしたくないしな。どうしよう……かと思ったら!
 背後に美雌が入るじゃねえか!)
 青年が振り返ると確かに居た--細い木に隠れてはいるが齢二十九にして十一の月と二十六日目になる応神人族と思われる女性が。
「姿を出せ! きっと君は良い雌だぜ」
 好かない雄だけど隠れるのはあたいの趣味じゃないわ--女性は左からゆっくりと姿を現す。
「刃で明かりを点しても見えん。もう少し近くに寄らないか?」
「目が良くないの? それともあたいが黒い肌をしていると勘を外してるかしら?」
「俺を誰だと……いいか。どうせ俺の勝手だし。
 それよりも早くこっちに来るんだ。背後から銀河連合が来るとも知れんのだぞ」
 聞こえない、もう一回言って--女性は小声でそう呟く。
「その手に乗らせる気か? 生憎だが俺は雌を口説く手段なら心得てるんだよ。
 だから君から近付くんだよ」
「あらあら、あたいは『雄を誘う手段』を心得ているけど」
 わざと青年を焦らす為にある部分を強調するように声を張り上げる。
「相当神様を困らせる雌じゃねえか、お前さんは」
 そっちこそ同じじゃない--女性は普段の声量で返答。
(何なんだ? 雨で濡れているせいなのか? それとも俺自身が眠いせいなのか?
 そうだ! きっと酒に酔い潰れてこうゆう状況になったんだ! そうしよう!)
「あらあら、『臆病』じゃないの、意外と!」
「臆病? 今、俺を『臆病』って言ったか?」
 言ったわよ臆病者さん--女性は腹を通さずに青年の耳奥に届かせた!
「言ってろ! いいか、俺が臆病なら世の中の全てが臆病者の集まりだ!
 『女』! お前もその一名だぞ!」
「女? 雌とお呼びなさい! あたいはこう見えて女女してなく、雌雌してるんだから!」
 言ってろ、今の俺は冷静じゃないんだ--自然と女性へと足を動かす青年。
「近付くのね。どうやらあたいのか……ってあなたはひょっとして!」
「おれがどうかし……危ないぞ、短髪の女!」
 え--紫の短髪をした女性は後ろを振り向くとそこにはカメレオン型銀河連合が雨でようやく照らされた形で喰らおうと両前足で掴もうとしていた!
「させるか! 女の目を惑わしても包丁使いの俺の目は惑わせないんだよ!」
 青年は低姿勢で一の秒もかけずにカメレオン型の間合いに接近すると素早く上から下に振り下ろす!
「は、早い! しかも綺麗な太刀筋ね!」
 カメレオン型は血を流すのを忘れて絶命--素早く鞘に収める事で刃に血が付着するのを防ぐ青年!
「やっぱり出やがったな! この標高は数字の吉が良くないから奴等が寄りつくにはちょうど良いと踏んだがどうやら正解だったな、えっと名前は何だ?」
「あたいの名前を知りたい、天同八弥君?」
「俺の名前を知ってるんだ……って礼を失するぞ、女!」
「別に良いでしょ? どうせあなたは……今度はあたいがお礼をする番よ!」
 まだ居たのか--八弥と呼ばれる青年は背後に子守熊型銀河連合が居る事に気付いていた。
 けれども八弥は敢えて動かず、背中から蘇我鋭棒『入鹿』を取り出して構える女性に任せる。子守熊型は真っ直ぐ八弥の頭を食らいに飛び込んだ!
 見なさい銀河連合--女性は雨水を切り裂かんとばかりに飛び込み、子守熊型の左眼ごと頭を貫通させた!
「さすがだな。この棒捌きは知っている気がする。かつて傭兵団のところでお世話になった事があるんだが、名前は確か……忘れた!」
 八弥君は馬なの、鹿なの--女性は子守熊型の死体から鋭棒を抜くと腰に巻いた白い布を取り出して丁寧に刃先に付いた血を拭きながら両眼を閉じて溜息を吐いた。
「そうだ! 確か応神諸島で暮らす人族の中に鋭棒使いが居たな!
 名字は確か『中条』だな。
 お前は中条定雄の孫だろ?」
 残念ながら定雄大叔父さんとは関係ないわ--恐らく中条と思われる女性は舌を見せながら返答する。
「でも合ってるだろ、名字は?」
「合ってるわね。まあ中条はもうあたいで途絶える予定だけど」
 知らなかった--八弥は悲しそうな表情を見せる。
「でも後悔しないわ。これも増えすぎた生命を一括化する為の運めだとあたいは思ってるの。何たってそれだけは真実じゃないの? その為に銀河連合は四百もの昔にこの星に降ってきたんだし」
「言うな! それを認めたら死んだ連中に申し訳ないだろ!」
「あら、怒った? 八弥君にとっては認めたくない事実のようね。
 でも認めないと前へ進めないわ。だから認めなさい!」
 俺に命令して良いのは兄貴とお袋と親父だけだ--八弥は目を逸らしながら拒む。
「でも命令出来る者はもうあなたの母である奈々様だけよ。星央様はアリスティッポスで--」
「兄貴の事は知ってる! 今更言うな、中条の女!
 それよりもいい加減教えろ! 女の名前を!」
「逃げた。あなたは逃げるのが得意なのね」
「質問に答えろ! 女の名前は何て言うんだ!」
「残念だけど答える義理はないよ。だってあなたはあたいの好みじゃないから」
 中条と呼ばれる女性は鋭棒を背中に持ち直すと八弥に背中を向けながら四足の構えをする。そして、大地を蹴って走り去ってゆく!
(俺だって女を好まねえ。このまま追ってもいいけど、好かない女の尻を追いかける趣味は俺にはない。
 ちい、折角呑んだくれていたのに女と出会ったせいで覚めちまったじゃねえか! もう一回飲み直そう!)
 八弥は気付いていなかった--この出会いこそ彼を再びアリスティッポスの大地に立たせる事にさせるとは……!

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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