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一兆年の夜 第三十九話 三兄弟物語 無限逃走の責務(零)

 ICイマジナリーセンチュリー九十六年十二月百八日午後九時五分零秒。

 場所は大陸藤原鎌足地方廃恵美町第二西地区。一階建ての藁家が押し並ぶ住宅
通り。
 齢十五にして四の月と二十五日目になる神武人族の少年は齢十三にして二の月
と十六日目になる神武人族の青年を庇う為に指揮官型の攻撃を顔面に受ける!
「兄貴いいいい!」
「今だ、八弥やつみイイイイ!」
 けれども八弥と呼ばれる少年は目の前で兄が自分を庇ったことで身動き一つとれ
ない!
「グウウ、どうした、八弥! 自分より戦闘の才を持ってるお前らしくないぞ!
 指揮官型を倒すのは今がその時だ! でないと……間、に合わない!」
 額に十字傷を受けたばかりの少年はすぐ目の前にある死を受け入れる体勢では
なかった--恐怖を引き摺ったまま指揮官型の左隠し腕から放たれる斬撃を心臓
目掛けて受けようとしていた!
(このままじゃ兄貴が死んでしまう! で、でも恐くて俺は--)
 不思議な事に世の中は案外都合が良かった--指揮官型は背後に迫る齢三十
三にして十一の月と二十五日目になるルケラオス虎族の中年が徒足空脚を仕掛け
る!
「避けたかアアス! だが俺を誰だと思う次第かアアス!」
 中年は指揮官型の風をも越えかねない素早い太刀筋を掠り傷で抑えながらも前足
による攻撃で相手の隙を狙う!
 しかし、指揮官型は隙を作らずとうとう中年は左前足の平に右手で仕掛けた突きを
受けた!
「タイフェス殿お!」
「爺さんでも勝てないのか! だったらもう--」
「諦めるるものではなかろう! このシュトラアタ・ベンデルウムもいることを忘れない
で頂こうか!」
「レオン・キングレイ……参る!」
「イタラスっこ! 星央ほしお様とっこ八弥様を死なせないでっあ欲しい! 頼むっこ!」
「言われなくてもそのつもりっち!」
「全くはるばる遠征したのにわしは星央様の大事な額に傷を付けるなんて部隊長の
資格無しじい!」
「拙者は何やってるんだ! お目付役として八弥様を守るん役目を放り出すんなぞ!
面を上げきるんばかりだぞ!」
「気にするうんじゃないぞお、ログホラーニ! わしだあって同罪なんだぞお!」
 三名に助太刀すべくゼノン燕族のシュトラアタ・ベンデルウムにアリスト人族のレオ
ン・キングレイ、武内子守熊族の超巨漢コアックラウと彼に頼まれて助太刀したルケ
ラオス鼬族のイタラス・ジャレモンドにコアックラウとイタラスの上司であるタゴラス駱
駝族の中年林原コブ吉と八弥のお目付のキュプロ栗鼠族のログホラ-ニ・メデリ
エーコフと星央のお目付であるエウク馬族の真島ギャラ蔵が駆けつけた!
「この七名だったら指揮官型だ……え?
 何なんだよ、あいつは!」
 一名で二十体から三十体を相手出来る七名がそれぞれの部位に刺し傷または切
り傷を受ける!
「ぐぐ、このままじゃあの方達が死んでしまう! 自分達も加勢しよう!」
「兄貴! 無茶だ! あいつらが集まっても平然としてる指揮官型に--」
「腰砕けを言うなアアス! 俺も加勢するんだアアス! 八弥様はもっと仲間の力と
自分自身の心の力を信じるんだアアス!」
(自分自身の心? どうしてそんな事を?
 いや、ここまで来たらもうどうにでも成ってやるさ!
 兄貴を守る為なんだ! 兄貴さえ無事なら俺は、俺は!)
 この時から少年天同八弥は己の意志で進む事から逃げる--流れに任せて仲間
と共に指揮官型と戦った!
 そして……!

 午後十時二十八分十五秒。
 星央と呼ばれる少年の顔面には視界が覆わないギリギリの所まで包帯が巻かれ
た! 八弥は折れた右腕を包帯で固定されながら星央にこう言った。
「もう兄貴に危険な目に遭わせない! 俺が才に甘んじてたった一名で指揮官型と
戦ったせいで--」
 気にするな--星央は右手で八弥の頭を撫でる。
「でも俺は--」
「心配するな! 自分は八弥を含めた全生命が守れるなら喜んで命を投げ出す覚悟
はある!
 それに後悔してるだろう?」
 え-ー八弥は星央が言いたい事を理解しかねる。
「『覚悟しきれない自分自身に』って事だよ! 勿論自分も同じだ!
 あの時に八弥を助けたのにその後に繰り出される指揮官型の攻撃で死ぬとは思
わないので全然覚悟する事を忘れたよ。自分もまだまだ修行が足らない事を痛感し
たものよ!」
「そ、それでも俺よりかは十分己自身を入ってるじゃないか!
 俺なんて、俺なんて!」
「そんなに許せないのならもっと強くなれ! 自分よりも強く、あの天同生子よりも強く
なってみるんだ! お前なら出来るはずだ!
 何故ならお前は自分よりも包丁捌きの才能に溢れているんだからな!」
「……わかったよ兄貴! 絶対に強くなるさ!
 いつだって兄貴の命を救える……いや大切なものを守れる程強い雄に俺は成って
みせるさ!
 俺は神武人族の天同八弥! 誰よりも、仙者よりも強い生命として!」
(格好付けたのはいいが、強くなる内に痛感させられたよ!
 『強いだけじゃあ誰も守れないんではないか』ってな! そうだよ、あの時だって俺
は守れなかった! 大事な雌だと気付いた美弥も……!
 そして--)

 ICイマジナリーセンチュリー百年十二月七十九日午後八時四分二秒。

 場所はアリスティッポス大陸エウへメロス地方中継基地正門入口内。
 白熊型を倒し、プロティ熊族の毛利ベアレルの応急措置を済ませた八弥はレイン
ズ・キングレイと合流。そこで星央がたった一名で銀河連合指揮官型と対峙している
事を知り、急いで駆けつけるも--
「ああ! どうして俺を呼ばない! 呼んでくれれば死ななかったというのに!
 どうして運命を簡単に受け入れたんだよ、兄貴イイイイイイ!」
 八弥が見たのは左腕の肉全てを剥ぎ取られ、両眼の光を暗闇にされ、左耳朶を切
り取られ、全身無数に切り傷を受け、最後に全身滅多刺しになりながら刃渡りを十分
の一まで折られた雄略包丁を指揮官型の胸に当てる星央の無残な姿
であった!
(それから先はもう思い出せない。俺はもう強くなる事を放り出した。大事な者を二名
も守れない強さに何の価値があるんだよ!
 俺は忘れるように雌の尻を追い求め、忘れるように酒に呑んだくれ、忘れるように
銀河連合を見つけては勝負を挑んで生き残ってゆく!
 美弥が側にいてくれたらどれだけ良かったかな? ああ、そうだ!
 もうあいつは想念の海に旅立ったんだっけ? 兄貴よりも先に、美智琉よりも先に!
そういや美智琉で思い出したんだけど、あいつも死んだな。兄貴が死んで一の月よ
り後に。全くどいつもこいつも勝手に死にやがって! もう俺の肉親は死んだ二名が
遺した星季、輝星、美世。そしてどうしようもない弟であるななしかいない。おっとお袋
の奈々を忘れていたよ。全くお袋はしっかりしているな! 息子が一名死んでも生き
る事に懸命なんだからな!
 えっと現在は俺の年齢はいくつだった? ああ、そうだ! 二十九になったっけ?
後で七に聞いてみるか)

『僕は今年で十八になる。母の薦めで八弥兄さんは最高政務官に、僕はそれを支え
る摂政になったよ。当然ながら象徴は空席。母は僕を象徴にしてくれはしない。あれ
だけログホラーニさん達の薦めがあっても頑なに。
 摂政と言ってるけど実際は最高官の仕事を全部僕がやってるんだよ。全くどうしよ
うもない兄を持って苦労するよ。まさか八弥兄さんがここまで仕事を放り出すなんて。
毎日八弥兄さんがやるべき仕事に追われるから肩が凝ったり目が虚ろになったり、
身体がふらついて困る。いくらログホラーニさんが支えても間に合わないよ。
 えっと星央兄さんと美智琉姉さんが遺した三名の子はミ、いや名無しさんとツクモ
ノカミがお守りしてくれるお陰ですくすく成長するけど、三名それぞれ悲しみを抱えて
いて辛く思う。まだ美世はいいけど、星季と輝星は早くから両親を先立たれて立ち直
るには時間が必要だよ。本来はこの歳の子供は親が死んでも悲しみはまり抱え込ま
ないはずなんだけど、星央兄さんも美智琉姉さんも大切に育てすぎたから悲しみを
抱え込んでしまったよ。特に心の傷が大きい輝星は余計に。
       もうこんな時間だ。早く今日分の書類に判子を押さないと間に合わない』

 七が日記を書いている時間はちょうどICイマジナリーセンチュリー百一年三月三十五日午後十一時二十七分七秒であった……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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