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一兆年の夜 第三十八話 三兄弟物語 星々が輝く世で(六)

『星央兄さんの家族は増える一方だね。今年でもう第三子目だよ。名前はえっと
確か、忘れた。
 多分名付けるのは後だろうね。それからこの子は僕の二番目の姪っ子なんだね。
姪っ子が二名も出来るなんて僕もすっかり姪っ子命になりそう。何書いてるんだか。
 それにしても八弥兄さんはいつになったら美弥さんと結婚するんだろう。いつまで
雌の尻を追っかけるんだろう。僕は八弥兄さんが心配で堪らないよ。堪らなすぎて
稽古から脱走してしまったよ。
          と言う事で僕は現在十七の年になる。一体どこへ向かうんだろうか』

 十二月三十日午後十時六分九秒。
 場所は国家神武首都ボルティーニ中央地区神武聖堂六影の間。
「--そうですのね、星央。あなたは二名も仙者を抱える事になろうとは」
 齢四十九にして十の月と六日目になる現神武人族の老婆の名前は天同奈々。叶家で二名目となる仙者であり、星央、八弥、七の母である。後ろに括った腰まで伸びる茶色い髪と三十代半ばにしか見えない素顔。何よりも他者を圧倒する仙者独特の神々しさ。奈々を仙者たらしめるのに十分であった。
「美世もまた輝星に勝るとも劣らない仙者。まさか二名の夫婦から二名以上の仙者が生まれるなんて予想外でした」
 齢三十一にして二の月と八日目になる神武人族の中年天同星央は正座しながら面と向かって話し合う。
「三名目の孫なのにまさか二名も仙者が産まれてくるなんて歴史上初めての出来事ね。六影がもしも生きていたならどう思っていただろうね?」
 奈々は六影の肖像画に目を移す。六影の肖像画を描いたのは奈々。老婆は昔から絵を描くのが好きな女。許嫁とは言え、老婆の夫六影はそれでも彼女を愛する。奈々が描く神々しい絵と共に。結婚した後も六映画死んだ後もなお奈々は絵を描き続ける。
「ところで母上。いつになったら国民の前で絵を公開するのですか? 母上の描いた絵は誰が見ても素晴らしい物なのに」
「絵は売り物じゃないわ。私は商売が好きじゃないの。特にこんな地位にいる者が民からマンドロンの札を取り上げるなんて事が許されますか!」
 奈々が絵を描くのはあくまで趣味--他者に売る為に描かないのを誇りとする。
「この齢になってもそれじゃあ説得は意味ないか。
 では話題を変えましょう。いつになったら許可出来るのですか?」
 何の話なの--奈々は左中指で下唇を触りながら惚ける。
「七の件です。自分がもしも死んだ場合は最高政務官には八弥。そして象徴は七でなければ国家神武の団結は脆い物となるでしょう!」
 七は絶対に象徴にさせないわ--奈々は頑なに意志を曲げない。
「どうしてです! 確かに七は武の才能はありませんし、皆を導くだけの何かを持ち合わせてもいません!
 けれども七は母上と同じ仙者なのですよ! 仙者である以上は秘境神武からの掟に従わなければ意味がないではないでしょうか!」
「掟は叶家に仙者が誕生した頃から破れ始めたのよ。第一に七は優しすぎるのよ。あなたや八弥と異なり、あの子は優しすぎる子なの。象徴たる者はそうゆう者であってはいけないのよ。特に優しすぎる者には」
 優しすぎる--星央は優しさこそ全生命の力の源である事は凡庸な己自身であってもわかる理屈だった。
 けれども奈々の言いたい七の優しさは星央が思っている優しさとは何かが異なった。それが奈々の七を象徴にさせない理由だと推測。
「……話を少し変えましょう。仮に七を象徴にしないのなら自分の二名の子を象徴にする事を許可するのですか?」
 それなら構わないわ--迷わずに解答。
「そんなあっさりと! ただし、二名を象徴にする事を許可するのなら必ず第一子星季が困るな。何しろ己にはない呼吸が出来る以上は見えない所で羨みます。自分が二名の弟を羨むようにね」
 そうかもね--奈々は右薬指の爪表面で上唇を触りながら納得する。
「一般の生命と仙者の生命は寿命に違いがあれば能力も必ず違いが出ます。そうなるとどちらか一方は必ずそれに苦しみます。ですから自分の子供達を上に据える場合は同時にやらねば心の平穏に繋がりません!
 なので--」
 話を遮るように奈々の左方にある障子一枚を破って、そこから齢二十八にして十一の月と二十五日目になる神武人族の青年八弥が現われる!
「お袋に兄貴! 何こんな所で油売りの真似事をしている!」
「小誌を破るんじゃないぞ八弥!」
「それは後で謝る……ってそんなんじゃねえ!
 さっさと兄貴は美智琉の所に戻れよ!」
(美智琉……? 一体何が--)
「状況が解りかねますわ。八弥、どうゆう事か説明して--」
「説明できるほど頭は良くないんだよ!
 ただ言える事は……」
「……まさか銀河連合が侵入したというのか!」
 その通りだ--八弥は脇まで伸す黒髪を右指でいじる。
「だ、大丈夫なの? 館には強い者が居るのかね?」
「今のところ色葉七不思議が戦っているが……相手は百獣型なんだよ!」
「百獣型だと! それじゃあ急がないと!」
「行くのですね、星央!」
「行くぞ八弥!」
「行くぞ……ってどうして俺も一緒だ?」
「美弥君を置いてどうするんだ八弥!」
 どうして美弥が--言われるがままに八弥は星央と共に中央地区にある天同星央の館に直行する!
「行ってしまうとは。けれども良かったのでしょうか、六影。八弥に待っている運命を告げなかった事を。
 いえ運命を無理にねじ曲げるのは運命をより厳かにする行為よ」
 奈々は既に一兆年の神々からの意志を受け取ったばかりであった……。

 午後十時三十二分八秒。
 場所は天同星央の館。裏門前。
 一階で齢十九にして二の月と一日目になるクレイトス人族の少年色葉七不思議は雄略包丁『風上』で侵入経路の不明な銀河連合百獣型と鍔迫り合いを演じる!
「検問制度が出来たのにどうして簡単に銀河連合が侵入出来る!
 くそ! こ、どわ! や……危ない!」
 戦況は七不思議が不利であった。その様子を二階の窓から眺めるのは齢二十八にして二十九日目になる現神武人族の天同美智琉--生後二の月と十五日目になったばかりの第三子美世を抱えながら!
 側には齢二十一にして九の月と二十六日目になる血の繋がった妹である叶美弥が居る。
「七不思議君に利がないわ。母親に成ったとはいえ戦いを知っている私にはよくわかるわ」
「姉さん。で、でもきっと来るわよ旦那様が! 八弥お兄は雌たらしだけど神武聖堂に無断で入ることができる数少ない生命だからきっともうすぐ--」
「美弥……さっきから輝星を見かけないんだけど。ちゃんと見てくれたの?」
 あ--美弥は美智琉の三名の子を確認する。
「みやちゃん? え、きせいちゃん? きせいちゃんならおりていったわよ」
 蹴鞠で遊ぶ齢五にして十一の月と二十九日目になる星季から輝星の行方を知った美弥は顔を青くした!
 それに反応するかのように美智琉も--
「あ、あ、あの子の命が危ない! き、い、せい、いはわ、わ、わ--」
「落ち着いて下さい姉さん……いえ奥様!
 輝星お坊ちゃまは……お坊ちゃまは必ず私が助けます!」
 一の分かけて美弥は美智琉を励ます。少し落ち着いた美智琉は美弥を頼りにする。
「必ず私が……命に代えても助けてみせるわ!」
「……お願いして御免、美弥」
 どうしたの--美智琉の顔を覗き込む美弥。
 当の美智琉は--平気よ--と作り笑顔で返した。
「行ってきます……美智琉姉さん」
 行ってらっしゃい美弥--それが姉妹による最後の会話になるとは誰が想像出来よう……!

 午後十時五十八分八秒。
「七不思議! 大丈夫か!」
 星央と八弥は色葉七不思議に近付くと脇腹の切り傷から血が流れているのを確認!
「百獣型にやられたのか! 急いで俺は--」
 八弥は見てはならないモノを見てしまった--映ったのは輝星を庇って胸に深々と雄略包丁に似た何かを受ける叶美弥の姿であった!
「あ、あ、やっと、ぉ、ぃ、ぇ、く……」
 ああああ--音に出ない叫び声を上げる八弥。
 百獣型は絶命寸前の美弥をまるで弄ぶかのように首を百八十度曲げて八弥の視界が映らないようにした!
「おのれはどこまで--」
 ユルサンゾオオオオギンガレンゴオオオオウ--星央が話し終えるよりも先に八弥は神武包丁『六影』を抜く!
 百獣型は美弥の死体を八弥に投げる!
 美弥--八弥が右腕で死体を抱えた瞬間を狙うように百獣型は中心部目掛けてモノを突き出す!
 アタルカアア--右足で柄のようなモノをしたから上に蹴り上げ、上げた右足で大地を強く蹴りつけると美弥を抱えたまま下から上に弧を描くように首を刎ねた!
 百獣型の首は美智琉と星季、美世の居る二階にまで飛んだ!
「あ、あ、あ、あ」
 三度も凄惨な場面を目撃した輝星の心に光のない洞窟が出来る--彼は死を恐れるようになった!
「御免、七不思議君に美弥君に輝星……自分はどこまでも父親に相応しくない雄だ!」
 星央と八弥が涙を流す頃には騒ぎを聞いた十名以上の都民が駆けつけた!
 幸い色葉七不思議の一名はとりとめたものの、明日明後日になっても関係者の心が落ち着く気配はなかった。
 特に妹分が死んだ八弥の心は言える気配は一向に見えない……!
(輝星の心に凝りを生んだのは自分だ! 自分はどこまで家族を蔑ろにすればいい? このまま仕事に没頭して心を落ち着かせる以外にないのか!)

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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