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一兆年の夜 第三十七話 鼬ごっこの世(七)

 午後十時二十分十八秒。
 イタラスは突然正座をして物部包丁を右横に置いたまま両眼を瞑った。
(あの頃もそうだったっち。軍者の頃だっち。確か組員の中にはコアックラウは居たかなっち? 忘れたっち、俺は生命付き合いは好きじゃない質でねっち。
 そんな事よりも俺が思いたい事はなっち、俺を含めた組全員が銀河連合の陽動と知らずにそのままあいつらに取り囲まれたんだよっち。当時の俺は恐怖のあまり……音がするっち!)
 イタラスは両眼を限界まで開き、傍らに置く包丁を右前足で掴む。一定間隔で放たれるものを次々と刃先に沿って両断--放たれたもの全てを!
(どんどん撃てっち! 俺は全て斬るっち! あの頃の戦場を思い出すようになっち!
 全て……包丁に何か--)
 イタラスにとって死角であり物部包丁においては鏡のように映るものを捉え、彼はその方角に振り向き様に切り裂く! 斬られたのは土竜型のでこから天辺まで--刃毀れなく綺麗に!
(名包丁に助けられるとはっち。鍛え上げた包丁は刃先がまるで鏡のようになるとは聞いていたが本当だったとはっち。
 ……いやこれで何度目だっち、こんな事考えるのはっち?)
 イタラスはその後も雹のように激しく襲い来るものを次から次へと断ち斬ってゆく。
 そうして一の時が経つ。彼の全身には疲れが襲い、さっきまで我慢出来た磁気嵐が影響を及ぼし始めた。
 視界が逆螺旋を描き、そして揺れる。それでも僅かな動きで飛んでくるものを斬ってゆくがとうとう--
(感覚が変だっち! まさか付着したかっち!)
 斜め上から襲いかかる隼型を滑らかに斬る事が叶わず、とうとうイタラスが軍者引退の時に自衛用として使用した物部包丁は使い物にならなくなった!
(残りは……ううっち! 今にも吐きそうだっち。目が回るっち、揺れるっち、身体が重いっち。
 このまま……何だっち--)
 僅かではあるが包丁にまた何かが映る--竹を切って鋭くした物が飛んできた!
 イタラスはそれを柄で軌道をやや真下に変えて直撃を免れた!
(わかったぞっち。これが俺の求めていた飾りだけの物斬り包丁かっち! 使い物にならなくなったというのは真ではないっち。本当は役目を終えてもまだ使い道は……あったんだっち!)
 イタラスはふらつきながらさっき飛んできた竹を左前足に持つと刃毀れした物部包丁の刃先を掲げながら磁気嵐の薄い場所に進んでゆく。
 その間にもイタラスに向かって四方六方と物部刃のようなものが飛んでくる--掠り傷こそ受けるがこれをほとんど回避。
(俺も……ドウワっち! 考える暇も与えないかっち!)
 その後も回避し続けるが徐々に掠り傷が全身至る所で受ける。イタラスは死こそ覚悟していても持ち前の反射神経に自信がある為に生きるのに前向きだったが--
(俺はもはやこいつ無しでは生きられないっち! 俺もとうとう衰えだしたなんてっち。どおすれ……ババっち!
 痛いじゃないかっち!)
 イタラスは右脇腹に深々と刺さり、それを左前小指で器用に触りはっきり見える位置まで運ぶ。
(血……かっち。俺は昔から戦闘の才には秀でていたと噂されてたっけっち? 何が才だよっち! ふらふらの者一名に血を見せておきながら……ガアっち!)
 今度は背後より左肩やや下で肺には僅かに届かない部分に刺さった--イタラスの左前足は僅かではあるが竹を足離そうとした。
(もうすぐだっち。もうすぐ……見え、ガアアっち!)
 今度は背後より右後ろ足の腱に刺さった--イタラスは引き摺るように進しかなくなる。
(四本足の内の一本がこんなんじゃあもう反射神経は役に立たないなっち!
 けどっち、この森の奥にある底なし沼に到着したんだっち。もう悔いは残らんだろうっち)
 底なし沼--磁気嵐に苦しんだ者はこの場所で一の時以上居るだけで気分が落ち着くと言われる不思議な場所。
 しかしイタラスは到着するや否や急所こそ免れたものの全身至る所に刺さり続ける。
 痛みに悶える彼を笑うが如く沼から左後ろ足を引っ張る銀河連合まで現われた!
 ここにもかっち--イタラスは二度目の呟きをした後、全身を沼に浸かる!
 引き込んだ銀河連合は国家神武が現在知っている全ての島、大陸では見た事もない河童族に似たモノと思われる。
(ここに来て俺の種族にとっては慣れない所に引きずり込まれるとはなっち!
 だからってここで--)
 イタラスはずっと握りしめた先端が鋭くされた竹を銀河連合の円形部分に突き出す--貫通し、銀河連合は絶命!
 けれども握りしめたものは死んでもなお離さない!
(死後硬直かっち! ここにき、て、ぇ、ち、ぃ……)
 イタラスは長時間息継ぎ出来る体力は残されない為、そのまま大量の水と泥を呑み込んでゆく……。

 イタラスが目を開けるとそこには無限とも感じる光景が広がる。
『何なんだっち? ここは……あれっち?』
 イタラスは気付く--思考しているはずの自分が口を開けているという事実を。
 それは異様とも感じる--反対に表せばあるべき正確な感じ方。
『いくら口を閉じてもっち、勝手に言葉が音に表されるっち! ここは異様だっち!
 やめるんだっち! 俺を黙らせろっち!』
 イタラスは音を塞ごうと足と尻尾を……出せない?
『爪がないっち? 歯も耳もっち? 一体ここはどこなんだっち?
 まさか想念の海に俺は旅立とうとしてるのかっち?』
 イタラスは自分自身が魂そのモノであると認識。
 しかし、ここで彼はある疑問を吐き出す。
『俺は一応戦いばっかりしてきた雄ではないっち。一応本類も多少は嗜んでるっち。
 ここが想念の海ならば俺は何もかも忘れて死んでいなきゃいけないはずっち。四本足も歯も家も何もかもない魂の状態ならどうして脳で行う機能は残るっち? こんなに考えている方が不思議だっち。<~っち>という訛りだって自然に出ないはずっち。
 どうしてか教えろっち、ここの住者よっち!』
 この世界にいるのはイタラスだけではなかった--彼の呼びかけに応えるようにあらゆる角度から距離を無視して反響する!
『ここを想念の海と思い込む生者よ』
『見当が外れね』
『ここは総合宇宙』
『全ての超宇宙を網羅せし--』
『ちょっと待ってくれっち! いきなり話が飛びすぎるっち! そもそも<生者>とはなんだっち? <総合宇宙>と<超宇宙>とは何だっち? 
 俺に解るように詳しく--』
『まだ早すぎるな幼子達よ』
一兆年まで後九千九百九十九億九千--』
『<話を逸らすな>と先生から聞いてないのか--』
『話を逸らしてるように見えて』
『総合的に筋が通れば』
『本筋に離れた事を意味しない』
『はっち? いや言って……伝える意味がもう次元を越えすぎて--』
『ならばその次元まで大きくなれ』
『お前達の代ではまだ全生命体を食らうモノ達を倒せない』
『けれども抵抗をする意味はある』
『それはあなた方のやる包丁鍛冶のように』
『鋼と共に自らを鍛錬する』
『こおろこおろと』
『永遠とも感じる時間』
『よくわからないけどっち、<こおろこおろ>という意味じゃ……じゃなくてっち!
 わかる事ならあるっち! 永遠ともいえる時間の中で物斬り包丁を作り続けるっち。それならば教えてくれっち! どうしたら飾りだけの物斬り包丁が造れるっち?
 俺は軍者時代に多くの銀河連合を斬りっち、今では魂まで穢れてるっち。魂だけではないっち。俺は自ら使う物斬り包丁が只銀河連合を倒す為だけに造られている事に堪えられないっち! 俺は今沈む底なし沼のように罪の重みに魂まで底へ向かうっち!
 答えを言ってくれないかっち、神様方よっち!』
『我等は神ではない』
『神を名乗らないのか?』
『答えは包丁を造り続ける内に見つける』
『こおろこおろとオノゴロの島を造るつもりで』
『自分、生きてるんならさっさと目覚めなさい』
『<自分>って言葉は一名称だろう……待ってくれえええええちいい!』
 イタラスはこの光景に出くわす機会は永遠に訪れなくなった。
 答えを見つけた今となっては……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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