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一兆年の夜 第三十七話 鼬ごっこの世(五)

 三月二十九日午前三時二十五分三十二秒。
(やすりがけをやらないといけないっち。削りすぎてもいけないっち。かといって削りが足りないと安定した切れ味は出ないっち。それを終えたら……もう考えるのはやめっち。まずはコアックラウから貰ったアルキバウムクーヘンの残り半分を平らげて一日を乗り切ってやるっち)
 朝食を済ませたイタラスはやすりがけから開始。一定量の時を経過。今度は木材を薄くそり上げる銑を使用。力加減に注意しながら丁寧に剃り上げてゆく。剃り具合が良い頃合いだと踏んだら今度は水で綺麗に洗い、最後は乾燥させて今日の作業は終了。かかった時間は十五。彼は正座しながら目を閉じる。
『日は暮れたばかり。こんな時間に眠る生命はいるかも知れないだろう。それでも冬眠
までまだ早い。俺が眠る訳は単純に睡眠が十分じゃないからだ』

 三月三十日午前一時五十一分十五秒。
『土塗りを開始。刃の部分には土を薄く塗る。反対側は厚く塗る。注意しておきたいの
は横ではなく縦だ。横は面積が広い。そんな部分から果物を切れるなら試したい。
 と腰を砕けるのはそこまでにして、基本はわかったからって適当に塗って良い物で
はない。薄く塗るにしても厚く塗るにしても入念且つ綺麗に塗らないと包丁は良い形に
仕上がらない。俺の足下は今、震えが止まらない』
(こんな事を書いたがっち、まだ作業を始めてはいないのだなっち。コアックラウから貰った砥石と炭の粉っち、それから外にある適当な土を使うかっち。本当は山を登って良い土を採ってくれば良い包丁が出来るんだけどなっち。もう後戻り出来ないからなっち)
 イタラスはアルキバウムクーヘンを全て平らげると土塗りの作業を始める。まずはそれぞれの粉を適量塗ってゆく--しかも均等に。
(塗りすぎたらいけないっち。かといってこれまた……怒りが湧いて来るなっち。いちいちここで癇癪を起こす訳にもいかないってのに……ああっち!
 怒りたい……なので寝ようっち)
 怒り出す寸前でイタラスは一旦仰向けになって目を瞑った--自衛で物部包丁を右足付近に添えながら。
 それから十の分くらい経った後、作業を再開。今度は度々深呼吸しながら入念に塗る。それが済むのは再開から二の時と十二の分経過後であった。
『後は適度に乾燥させながら焼き入れの時間まで土塗りした物の状態を何度も確認
する。点検はいつだって重要な作業だよ。俺自身が神経を使いすぎるせいもあるだろ
うが。その間は何をすればいいかって。それは--』
(暇であるけど暇じゃない時間っち。ここに誰か来てくれたら退屈な時間が短く感じるっち。けれどもそう簡単に都合ってものは訪れないっち)
 眠る事もままならなければ食べる事以外に暇を潰す方法は有り得ない。けれどもイタラスは鍛冶職者としての誇りを持つ雄である以上、食べかすに注意を払う。よってこの間は一切食事を摂らなかった。
 そして、焼き入れに入る数の時より前には行って行動を開始--日はすっかり隠れて代わりに月が出る夜中。
『第三段階も終りが近付いてきた。俺はこの時間より焼き入れを開始する。って言って
も、もう火を起こしてるけどな。後はいつも通り冷却用の水を採りに行くだけだな』
(……包丁を持参してゆくかっち)
 イタラスは銀河連合の気配を感じ取り、樽を前左足に担いで出入り口から外へ。
 井戸は出入口の反対にあるが敢えてそこから出た訳は--
(銀河連合は奇襲するっち! それが俺の狙いだっち!)
 樽を地面に置いたイタラスは二体の銀河連合--猿型と蟹型--と対峙!
(猿型は天井から……当たるかっち! まずは一体っち。
 次は……包丁を掴まれたかっち!)
 猿型を下から斜め右に両断したイタラスだったが、振り向き様に先端を掴まれた!
 そのまま競り合いながら蟹型の左鋏を外そうとするが--
(折れたっち! 引退して四の年まで生き抜いた名包丁がっち!
 だが例え折れても--)
 折れた隙を突いてイタラスは蟹型の継ぎ目に向かって刃を入れるように突く--折れたばかりの物部包丁を!
 蟹型は精度の高い突きを受けて一の分物間痙攣した後、永遠に動かなくなった。
(久々だなっち。後二回血を浴びればもう使い物にならなくなるなっち)
 そう思考しながら包丁を抜いた後、地面に置いた樽を左前足に担いで井戸へと歩を進める。

 三月三十日午後八時零分十五秒。
 焼き入れ作業を開始。土塗りして乾燥させた物を高温の炉に放り込む。炉に一定時間寝かせると素早く焼き入れされた物を長方形の箱一杯に詰めた水につけて冷却させる。
『その後の作業は包丁となってゆく物を見ながらどこか至らない箇所がないかを確認
する。あれば形を整える為に砥石などをまた使わなければならない。
 それはまた早朝に時間の許す限りやるしかないだろう』
 彼は出来上がった新しい物斬り包丁と使い古した物部包丁を交互に眺めながらこんな考えを浮かばせてゆく。
(生命に世代交代があるように包丁もまた世代を跨いでゆくのかっち。けれどもこいつは何かを死なせる為に作った物斬り包丁ではないっち!
 俺の罪を償う為に誰かを死なせない未来に思い馳せて作り上げた飾りの包丁なのだっち! こいつにはどんなに辛く大変な時代であっても使う事のない物斬り包丁であって欲しいんだっち! それが戦いから逃げたイタラス・ジャレモンドただ一つの願いなのだっち!
 この鼬ごっこの世の中を逞しく美しく生きる為にもっち!)
 その後、イタラスは眠りに誘われた……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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