FC2ブログ

一兆年の夜 第三十七話 鼬ごっこの世(四)

 三月二十七日午前六時五十七分九秒。
『今日は銀河連合が気になって睡眠が取れなかった。えっと--』
(書く事がないっち。無理もないかっち。心配なのは俺の健康よりもコアックラウとその家族が銀河連合に食われてないかだなっち。まああいつが何食わぬ顔できてくれることを願うかっち。
 それよりも造り込みを一刻も早く仕上げないとっち)
 イタラスは残り僅かになった四等分の海苔付きおにぎりを更に二等分して、一個だけ口に含め、噛む回数を昨日の二倍にして胃の中に放り込んだ。
(空腹感が満たされないっち。こりゃあ完成してもこの先生きてゆく自信が沸かなく……ええいっち!
 今は物斬り包丁の完成に全霊を集中させないとっち!)
 腹の虫が騒がしい中で作業を開始。昨日の造り込みを継続--余分な塵を落としながら両方を同じ長さでなおかつ段接。
 段接が完了して数の時が経過すると今度は素延べにする。
(この作業も地味に師匠から怒鳴られ続けたよっち。少しでも曲がっていると叩き折ってくるんだぞっち! 陶芸家じゃあるまいのに癇癪起こしすぎるぞっち、全くっち)
 本来なら今日までに日作りの作業に入らなければならない。だが、イタラスは未熟な包丁鍛冶。通常よりもバイの速度で進行する為、素延べが完了したのが深夜寸前であった。海苔付きおにぎりも更に二等分されて体積は残り僅かとなっていた。
『朝早くに火起こしを始めないと。始めなくてはならないのに腹の虫が五月蠅い。このままじゃあ明日いや明後日には俺は死体となっているかも知れない。虫が五月蠅くて五月蠅くて--』
(このあとが思いつかないっち。寝ようっち。その方が……くっち!
 また銀河連合が現われたかっち!)
 素早く鞘から包丁を抜くと小屋から一歩も出ずに構えたイタラス!
(虫が大声を出す程俺は銀河連合を今にも躊躇なく斬りたい気分にさせるっち!
 はあはあっち、作業場から一歩でも出ればあいつらはきっとその隙を突いて台無しにしかねんっち! 身動き一つとれないのはきついっち!)
 深夜の内に気配は逃げていった。けれどもイタラスは構えを解く気配を見せず、両眼を瞑ったまま日の出が上がる。

 三月二十八日午前九時三分四十二秒。
『先に朝食を済ました。もう食べ物はなくなった。虫が五月蠅い。こりゃあ小屋周辺に
生えた草を食べるかも知れない。限界が近い。でも作業を進めよう』
 火造りを開始。素延べをして時間が大分経った鉄をまた焼き直す形で始める。
(本来は連続してやるべき所を俺は余りに時間をかけすぎたからなっち。また時間をかけて熱を通さないといけないっち。にしてもこの鉄は一体どうゆう強度なんだっち? まあいいかっち)
 地鉄を綺麗に叩きながら本来ある物斬り包丁の形に整えてゆく--イタラスは空腹で両の頬は痩け、全身から汗が出て、目の隈は深刻になりながらも足を一切抜かない!
(『熱には十分気を付けろ』という言葉は師匠の口癖の一つっち。それくらい熱は俺達職者の間では神様のように大事な要素っち。それでも小屋からいきなり来る強い風が熱の温度を一気に下げるという事故だってあり得るから気を抜けないっち。例え虫が五月蠅くて眠気が協力であってもなっち。
 にしても心配だなっち、コアックラウは生きてるかなっち?)
 ちょうど良い仕上がりだと踏んだイタラスは熱の温度を更に低くする。それから徐々に地鉄を冷まし、指でゆっくり触れても大丈夫な頃合を計って空打ちをする。経過した時間は十一。就寝時間にはまだ早い。
『第二段階は終わった。明日の日のでない時間に第三段階へ進まないといけない。
 こっからは先程まで大らかな物と異なり細かい。俺は師匠亡き後、三の年も物斬り
包丁の作業を進めたが、ほぼ全てがこの段階で躓く。何よりも細かすぎるんだよ。未
熟者は最初の二つさえ乗り切れば後は万事上手くゆくと勘違いする。確かに正解だ。
 けれども見当外れだ。実は物斬り包丁が物斬り包丁である由縁はこの第三段階に
こそあるのだ。俺が求める飾りだけの物斬り包丁もここを入念に--』
(言葉をどうしようっち。『きめ細やかに進め--』なのかっち? それとも『五感を駆使して』なのかっち? もういいっち!
 虫が五月蠅すぎる上に--)
 今日も同じく包丁を構えた。出入口に誰かが入るのを感じた瞬間--瞬時に振り下ろす!
「わわっこ! 死なせるっこ気か!」
 コアックラウは間一髪で左に避けた--全身に凍り付く感覚を感じながら!
「コアックラウかっち。済まないっち、同族死なせをする所だったっち。この罪は--」
「いやっこいいんだよ、声をっこかけて入らなかった我がっあいけないんだから」
 それでも包丁を右に添えて土下座するイタラス。
「いくら許しても死なそうとした俺がいけないっち。土下座くらいはするっち」
「状況がっこ飲み込めないんだけど。どうしてっこ我に斬りかかってしまったんだ?」
 実は--イタラスは二日間の深夜に起こった事を話した。
「銀河連合のっこ気配だと! いくらっこ何でも……確かにっあ感じる!」
 イタラスとコアックラウは二体の気配を感じた--気配は二名に気付くなりすかさず遠のく!
「気配がっこ遠くなりすぎる! 逃げられたっこな」
「お前が来るまで少しは腹の虫が原因でそうなったんじゃないかと思ったっち。
 そうじゃかったのなら良かったっち」
「腹の虫っこ? そう言えばっこ、これっこ持ってきたけど足りるか?」
 籠の中から歩きバームクーヘンを出すコアックラウ--それに飛びつくようにイタラスは中心部を齧り付いた!
「よっぽどっこ虫が五月蠅かったんだろうな」
「感謝で一杯だっち、コアックラウっち!」
 丁寧に噛み締めながら両眼から涙を出すイタラス--軍者時代に友者と呼べる物が居ないと思っていたがそれは思い違いだとわかり感動する。
「我はっこそろそろ帰る。あいつらがっこ来たということは嫁とっあ息子達が危ないかもしれん!
 急いでっこ戻るぜ、いいかっこ?」
 いいっち--イタラスは首を縦に振った。
『繋がりがないと感じていた俺でも繋がりはあるとは世の中はどうにも鼬ごっこかもし
れん。用法が異なると思うかも知れないけど俺はこの使い方を敢えてした。堂々巡りも
生命と生命の繋がりとほぼ同じかも知れないという意味さ。
 けれどもそんな生命も銀河連合をいつまで死なせなくてはならない。いつまで物斬り
包丁を造って銀河連合を死なせるんだ。俺には悲しみの連鎖を断ち切る術も堂々巡り
の先も永遠に答える術はない。
 切る術から逃げて造る術に移った俺が堂々巡りの環から逃れる術を知る事など出来
ようか。この世は--』
(『鼬ごっこ--』うーんっち? この際は『血を欲する--』は言葉がきつすぎるっち。
 もう寝よう。起きたら第三段階をさっさと始めてゆかないとっち)
 右横に鞘を入れた物斬り包丁を置いたまま正座しながら両眼を瞑るイタラス--いつ何時でも銀河連合に対応出来るように構えた。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
リアルタイムカウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR