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一兆年の夜 第三十七話 鼬ごっこの世(二)

 三月二十二日午前四時五十九分五十一秒。
『昨日は炉が気になって寝られなかった。風が強いかどうかも気になって寝られな
かった。夢の中で師匠が五月蠅くて寝られなかった。夢の中で俺が斬った銀河連合
が尻尾や後ろ足を掴んできて恐くて眠れなかった。いろいろあって--』
(こんな日記を誰が読むんだっち。全然言葉が思いつかないっち。
 けどっち、そのお陰で炉は今日も元気に蠢いてるっち)
 日記を産業記した後、およそ十の分くらいの朝食を済ませるとイタラスは火の色を確かめに炉へと近付く。
(山の色をしてるっち。このまま……あれっち?)
 彼は大変困った様子だ--それもそのはず。本来用意すべき木炭と砂鉄を昨日の内に使い切った為だ。
(これは酒で落ちぶれる問題じゃないっち! または締めからやり直ししなければならなくなるっち! このままじゃあ玉を採る前に--)
 都合の良い展開とはこの事を指すのか--齢三十にして三日目になる武内子守熊族の成人体型一とコンマ三にもなる巨漢が自らの身長以上の荷物を抱えて小屋にやってきた。
「ってコアックラウっち! まだ俺は死んでないぞっち! だからここに来るんじゃ--」
「何っこ言ってるんだ? どうせっこ木炭と砂鉄を空にしてっあ困ってると思ってっら我が持ってきてやったぞ!」
 そう言ってコアックラウと呼ばれる中年は子守熊族とは思えない巨体と怪力で二日分の砂鉄袋と木炭袋四つをイタラスの前足元に投げた。
「ありがとうっち、コアックラウっち!」
 どうっこ致しまして--深々と頭を下げるコアックラウ。
 コアックラウの突然の来訪で玉鋼採集作業は継続。炉に穴を開けて不純物を慎重に取り除いてゆく。
「いっそのっこことドバッとっあ取り除かない、イタラス?」
 元々生命付き合いの薄いイタラスはコアックラウを無視--時々鞴を通して炉へと流れる風が適量かを目と耳と触りごごちと匂いと味覚で確かめる。
「味覚ってっこ関係ある?」
 イタラスは無言のまま首を縦に振った。
『コアックラウは昼間に帰ったからいいけど、あいつが居なかったら俺は只単純に炉を
破っていただろう。感謝が足りんよ。もう少し感謝の気持ちを送るべきだが俺は誰かと
馴れ合うのは趣味じゃないからな。趣味はこうして物斬り包丁の製作ただ一つだよ。
 何故かは--』
(ここまでっち。明日で玉鋼採集が出来るっち。どれくらい夜かは知らんがっち。けれどもまた眠れない夜が明日も続くなんてっち、俺達種族を肖った言葉通りだっち)

 三月二十三日午前五時二分一秒。
『炉は大丈夫だった。けれども俺大丈夫じゃない。眠い。このまま永眠したい--』
(書く気が起こらないっち。昨日も今日に続いて炉が気になって眠れんかったっち。まあ鍛冶職者の運命だと開き直ってもきついもんはきついっち。鼬ごっこは死ぬまで続くのを認めても……そんな事よりも食事を--)
 彼は食べ物を探したがどこにも無かった--昨日の内に備蓄は底を突いた。
(これは結構きついっち。そっち、そうだっち!
 炉を見て回らないとっち!)
 イタラスは空腹を抑えるべく炉に全体を集中させる。玉鋼の元を出来る限り得たいが為にあまり不純物を取り出さないように穴を開けてゆく。
(不純物の中で玉の元は成長するんだっち。散々師匠に叱られ続けた俺もここに来てやっと理解出来そうなんだっち。師匠には痛い目に遭わせる思いと感謝の思いが混じり合ってるんだっち! 正に砂鉄と木炭の奇妙な組み合わせだと思わないかっち。
 いや例えが違ったかっち?)
 空腹と眠りに襲われながらもイタラスは炉と戦う。そんな時だった--
「また来たかっち。食べ物を提供してくれんのかっち?」
「えっこ? 食べてっこないの? 済まないっこ。我っこ持ってきてっあないわ」
 都合良い展開は連続して起こらない--手伝いに来ただけのコアックラウの言葉を聞いて余計に腹の虫を鳴らすイタラス。
「御免なっこイタラス! 明日はっこ必ず持ってくるからさ!
 ところでっこどんな手伝いっあすればいいんだ?」
 イタラスは更に眠りに誘われる--コアックラウの何事もないかのような態度によって!
(コアックラウに感謝しようと考えた俺が腰砕けてたよっち。さあそんな事よりも炉の様子をしっかり確かめないとなっち)
 コアックラウは結局明くる日を迎える前に帰宅してゆく。イタラスは下火になるまで眠らずに炉を確認する。
 そして--

 三月二十四日午前三時十八分六秒。
 炉は役目を終えた。イタラスは空腹に抗いながら炉の破り作業を実行。その過程で灰を摘出。
 その灰を調べる間もなく彼は眠りに就いてしまった。
『俺は何の時くらい眠ったかわからないけど起きた時は日は既に沈んだ後。飯を差し
出したコアックラウが来るまでその日が今日であるかというのを信じられなかった。
 だが、灰から物斬り包丁の材料になる玉鋼を入手出来たからそれで良いだろう。問
題はこの後からだ。これ以上に時間のかかる作業が待ち受けるとわかったらどうして
も汗が全身に出ちまう。人族じゃあるまいのに汗が出ちゃあ大変だよ。
 はあ思いつかない』

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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