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一兆年の夜 第三十七話 鼬ごっこの世

 ICイマジナリーセンチュリー九十九年三月二十一日午前五時二分七秒。

 場所は南物部大陸ピュータゴラ地方小前おまえ森。中央に寝室と工房を備えた小屋。
 小屋が出来た年代は定かではない。全生命が誕生する前から存在していたかのよう
だ。そんな神々しい小屋に住む者は一名。
『俺は何故こんな日記を付けるのかはわからない。神様に言われたからではない。誰
かに促された訳でもない。銀河連合によっていつか食われるという大それたものでも
ない。俺が生誕してもう三十になったから日記を書く事にした。
 この日記はルケラオス鼬族のイタラス・ジャレモンドの遺書でもある。俺が死んでか
ら一体どれくらい経つか定かではない。その時に小屋を発見した者が俺の白骨死体と
共に赤く染まった日記を発見する事を願う。まあいつになるかは定かじゃあない事を
冒頭で書く馬か鹿は俺以外にいたら同情してしまうな。
 さて、俺の日記はどんな内容が書かれるかは--』
(この後書きたい事を忘れたっち。さあどうしたものかっち。
 朝ご飯食べた後に考えるかっち)
 中年になったイタラス・ジャレモンドは早起きが大好きであった。まだ日が顔を出す
寸前に目覚めるとかつての上司が日記を書いているという噂を聞いて日記を始めた。
 だが、書いてすぐに判明した。イタラスは小論文が好きじゃない。彼の包丁捌きは
四本足の種族にしては珍しくなめらか且つ美しい。彼に斬られた銀河連合は痛みを
感じないまま絶命するのがほとんどであった。その為、鼬族最強の包丁使いとして
軍者内では重要視される生命だった。
 だがそんな彼も得意でない分野があった。それは生命付き合いと小論文。彼は生ま
れつき一名でいることを好む。食堂にいる時も団体行動をする時も必要最低限の協力
以外は会話が少ない。その為、軍内部の評価は実力のみに目を向けられる。そうした
事もあれば小論文の方も良い物に仕上がらず、一つの題に八百字程度を書き表せず、
度々呼び出され、上官から説教を受ける始末。
 彼は軍を辞めて四の年が経つ。辞めた理由は生命付き合いの問題ではなかった。
(軍に比べらればこんな食事は少なすぎるっち。まあ慣れれば適量っち。その代わり日
に日に痩せ痩けてるっち)
 朝食を済ませたイタラスは早速日課である物斬り包丁の製作を始める。彼はまず昨日
採集した砂鉄を玉鋼にしなければならない。通常かかる時間は火を調節出来る段階に
もよるが、三から四の日。だが、イタラスは刀鍛冶を始めて三の年。よってかかる日数
は五の日以上。
(しょっちゅう火を消してしまうっち。よく師匠から叱られたっち。師匠ならもっと速く火を
おこせるのにっち。俺はまだまだ包丁火事として未熟っち)
 この日は十二の時でまともな点火が始まった。全ての砂鉄と炭を使用しながら三の年
までの経験を活かしながら風の調節も行い続ける。後は次の日までに火が山の色に
なるのを待つだけ。
(一日二食になるのは当たり前っち。俺はこんな生活の足しにもならない作業にこれか
らの人生を懸けてるんだっち。俺が軍者を辞めた理由は銀河連合を斬りすぎた罪の
重さからだっち。穢れを纏ってでも生命を守る為に振るった力は果たして--)
 イタラスは初めて作った螺旋を描く物斬り包丁を見ながら--日記を書くべき時間が
来たっち--と振り返る。
『<包丁は銀河連合を死なせる為に生まれてきたのではない>師匠で世界的な包丁
鍛冶物部わに兵衛は言う。俺はこの言葉に只共感したと同時に本当にそうなのかを
確かめるべく四十代後半になる老年の弟子になった。当時の俺はわに兵衛を信用し
なかった。包丁なんて物は簡単に造れると信じていた。
 それは弟子入りして一の日で崩れたよ、真っ白に。今だって玉鋼を取り出すのに苦労
が絶えない。一の年かけて師匠に怒鳴られた。当時はいつか尻尾に噛みついてやろう
かと何度思ったか。その日が来る前に一の年より前に師匠は想念の海に旅立った。
 悔しいな。罪深い事をしようと思った矢先にあのじじいは墓に埋まりやがって。俺はそ
こで--』
(今でもあのじじいに文句を言いたいがっち、何書けばいいか悩むなっち。今日はここ
までにしようっち。炉は今も熱く動いているっち。俺はとっとと寝なければなっち)
 イタラスは万が一備えて小屋の入口前でうつ伏せに寝た。
 風が静かに吹く夜、炉は命の炎となって山となろうか……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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