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一兆年の夜 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて(十)

 午後一時三十七分五十三秒。
 南地区銀河連合埋葬地南入口前。縦、横、高さが全て成人体型四十の四角錐型建物。数千以上もの銀河連合の死体が眠る建物。建物は今にも崩れそうな雰囲気を醸し出す。建物全体に遠くからでもわかるひび割れが見える。
 その場所にミスティーは立っていた。彼女は入口周辺で骨となった住民を見て悲しみよりも怒りの表情を露にする。それはかつて自分を救った恩者を死なせた銀河連合の仕業ではないかと思い込む。
 それでも自分一名では歯が立たない事も知り尽くしていた。死ぬかも知れないという恐怖もあった。そんな考えを隅に置こうと両眼を閉じて深呼吸をする。
 そして両眼を開くとそのまま右足を踏み出す--
「間に合ってよかっさ!」
 どこの馬族の骨とも知らない鶏族の甲高い声で思わず驚愕した--恐怖以前に別の意味で怒りが湧いた!
「何が『間に合ってよかっさ』だ! 背後から銀河連合に襲われたかと思ったじゃないの!」
「おらに怒りをぶつけないっさだ! あれはおらも良くなかったと思ってるかっす!」
「鶏族の訛りは余計に怒りが湧くわ!
 それでコケ真さんは私を止めに来たの?」
 その逆だっさ--コケ真は両翼を上げる格好をしながら加勢する事を伝えた!
「それってエリフェインさんから指示されたこと?」
「細かいことは気にせっさな。おらはあることを言おうとしたっさが向かう間につい忘れたっし」
 情けない雄--ミスティーは呆れるような呟きをする。
 それから無言の内に二名は埋葬地へと入ってゆく--鬼型銀河連合のやろうとしている事を止める為に!

 午後一時四十分一秒。
 場所は東地区。
 マンマミーの全身は掠り傷だらけ。一方の指揮官型には傷一つつかない。
「そんな腰砕けナことガあるッテゆうのか! ボクの攻撃ガ全て捌かれて銀河連合ノ攻撃ハ全て当てている。丁寧ニ掠り傷を!」
 指揮官型の周りには避難勧告を聞かずにマンマミーを助けようと挑んで八つ裂きにされた住民のしたいが五つある。
 マンマミーは自分の為に命を投げ出したものの仇も討ちたい。けれども圧倒的な指揮官型の強さに怒りから恐怖心の方が勝り、冷や汗が募るばかり。
 そんな様子を感じたのか、指揮官型はゆっくりと歩みを勧める--遊びを止めて食事を取る為だろうか。
 死ぬ--そんな事を呟いたマンマミーは恐怖のあまり目から水分のような物を出してしまった!
 絶体絶命の時だった--背後から鶏量の重たい走る音がしてくるのを!
「無事じゃ、マンマミーじゃあ!」
 信頼出来る老年林原コブ吉が駆けつけてくれた--彼の登場で指揮官型も一瞬怯んだような素振りを見せたのか!
「林原さん! 来てくれたンですね!」
 マンマミーは涙を流しながらコブ吉の到来に嬉しそうにした!
「話は後じゃあ! あれが指揮官型じゃ、確かに恐ろしいじい。マンマミーの攻撃を一つも受けずになおかつマンマミーを遊ぶように傷を付けるじゅう。二対一でも勝てる気がしないじい。
 だがわしはいつ死んでも構わない老年じゃあ! だからここで恐怖が何であろうと抱えたままお前のようなモノに挑むのじょお!」
「ボ、ボクも戦います! 頼りになるカわかりません。けど恐怖ハ今マデ払拭するものダト思ってました。それは今回ノ戦いデ誤りダト気付きました! だからボクハ林原さんト共ニ戦う場合ハ恐怖ヲ抱えて挑みます!」
「そうじゃあ! 恐怖だろうが何であろうが取り払っては一命前とは言えんじい。それらは生命が生きてゆくうえで欠かせない感情なのじょお! お前さんは恐怖を飼い慣らすんじゃあ!」
 二名はそれぞれ構える事一の分経過。先に足を踏み出したのは指揮官型の方だった!
「恐い、死にたくない! でも受け入れてやる!」
「わしだってこわいのじょおお!」

 午後二時零分五十八秒。
 コケ真とミスティーは奥へと進む--コブ吉のような者でも入る事は容易ではない狭い通路を慎重に。内部もまた外部同様にひび割れがわかる。触る度に木製の皿が軋む音を出す。
 突然背後の方から扉の開く音がした!
「まさか囲まれっさ!」
「後には引けないわ、コケ真さん。私達はこのまま奥へ進んでゆくのよ!」
 ミスティーは前向きだった--先頭に立つ彼女は後ろを一切見ずに鬼型を倒すべく前のめりする!
 待ってし--コケ真の方は恐慌寸前であった!
 二名は一の時かけて重ね合わせの先を進み続ける。
 そしてとうとう銀河連合の眠る大広間に辿り着いたが--
「あわわわわ。ぞろぞろ復活してるっさけど」
「有り得ない。死んだモノが生き返るなんて!」
 二名が見た光景--それは鬼型の周りで蠢く何か黒いモノがここに眠る黒骨化した銀河連合へと飛び、そのモノの体内に入る事で元の剥き出し状態の生きた状態となり次々と起き上がる姿だった!

 午後三時二分二秒。
「ぐぶじゅ。はあはあじゃ、わしら二名でやって、もじょ、全く当たら、なじい。はあはあじゃ」
「このままジャボク達ハ……ググ!」
 二名は場所は異なるがそれぞれ脇腹に大きな刺し傷を受けて苦痛の表情をする!
(強過ぎるのはわかっとるはじゅう! それでも二名で協力すれば勝てると踏んだのじゃあ!
 なのに掠り傷一つ付けられんとはこやつは次元がわしらより高すぎるじゅう!)
 二名は改めて指揮官型の熟練された動きと的確な攻防、更には風に近付く速度に驚愕した!
(足を踏み出すじゃあ。しかもわしではなくマンマミーを狙うとはじゃ、やはり銀河連合じゃあ。わしへの礼を欠くやり方は銀河連合が生かしてはならん存在と言う事を示してくれようじゅう。
 けれども速過ぎるあいつからマンマミーを死守出来ると思えないじい。こりゃあわしもすっかり年を取ってしまった証拠じゃあ。諦めるしか……いやじゃ、諦めるのはまだ先じゃあ!)
 コブ吉の右目から一瞬棍棒のような物が見えた--その棍棒は真っ直ぐ指揮官型の顔面に向かった!
「避けた……つもり科ああ!」
 齢三十二にして七の月と十八日目になる神武鬼族の中年は指揮官型の速度ほどではないが鬼族独特の反応速度と対応力、そして剛胆な棍棒捌きで指揮官型とほぼ互角に戦う!
「あの肌ノ色ハ神武鬼族! しかも指揮官型ニココマデ戦えるノハ--」
「来たじゃ、サザナミノキミじゃあ! ギグ……わしは生憎こんな--」
「はあ……わかってます余林原コブ吉殿! ダダ……後端イズモノキミ乃一番上乃兄カゲヤマノ……喋らせろ!
 でえい……カゲヤマノサザナミノキミ似お任せ尾!」
 一の分より後、サザナミノキミは唸り声しか上げなくなった--行動を読まれて余裕が持てなくなった証拠。
(刺し傷が響くじゅう。いくらサザナミノキミでも指揮官型相手には苦戦じゃあ。あやつの全ての隠し腕と足を捌いても攻撃に移れないのでは……完全に防御に回ってしもうじゃあ! ああなっては後はどうする事も出来ずに倒されてしまじゅう!
 ならばわしはサザナミノキミの忠告を無視してでも--)
 そう考えようとしたが、その前にマンマミーを見て同じ考えに入っているのかを確認。
(やはりわしと考える事は同じじい。そしてそんな考えを捨てる事もわしと一緒じゃあ。全く若い者は成長が早いじい。わしだってマンマミーの頃は自分は成長が遅いと思っていたのに老年になるまでそれに気付かないとはじゃあ。
 気付かないのも若い者の十八番じゃあ。だがそれが成長という物じょお)
 コブ吉は若者が好きな老年だ--何故なら若者を腰砕けに見る事はかつての自分を腰砕けに見るのにも等しいから。
 故に三十五を過ぎた辺りから若者を嘆く老年には『最近の若い者』という言葉を使わないように進言してきた。それは自身が若者の成長を心から喜びに変えるくらい器の大きい軍者であったからだ。引退した後でもその考えに変わりはない。
(いけないじい。爺さんじゃからついつい思い出に耽るとはじゃあ。そう言えばコケ真もサザナミノキミもわしとマンマミーの間にある年じい。ここからどう若い世代を捉えるかを注目……そうじゃあ!
 さっきまで防戦一方なのは--)
「ちょ、何で防御ヲ外すんだ! それじゃあ--」
 サザナミノキミが防御を捨てる瞬間を狙うように指揮官型は一切を攻撃に集中した--が実はこれがサザナミノキミの狙いだった!
 サザナミノキミは顔面が隙だらけであるのを発見すると棍棒を力一杯突き出す!
 ぐうう--サザナミノキミは全身を滅多刺しにされながらも指揮官型の頭部を肉体から強引に叩き離した!
 抉れるような形で血が成人体型一以上の高さまで噴き出す!
「倒した! 本当ニ倒した!」
 だが、サザナミノキミの状態は芳しくなかった!
「グブウ! どうやら私模ここまで、科、奈?」
 サザナミノキミは指揮官型の死体から強引に引き剥がすと仰向けに倒れた!
「グウじゅ、サザナミノキミじゃアアア!」

 午後三時十四分二十八秒。
 コケ真とミスティーは急いで外へ出ようとするが、待ち構えていたのは銀河連合だった。
「ひいいいいっさ! 前門の虎、後門の狼いいいい!」
「私の後ろには復活したばかりの銀河連合が近付いてくるわ。一方でコケ真さんの前にはチーター型。しかも加えているのは鍵束? ひょっとして埋葬地を無断で開けたのはこれ?」
 ミスティーはわかっていた--恩者を死なせた鬼型も埋葬地を開けた銀河連合の推測も全て自分の思い込みであると!
 けれども彼女はそうする以外に感情を操作する術はなかった!
 だったら私は--無謀にもチーター型に這いずりながら突っ込む!
 チーター型はチーター族の素早さでミスティーを食らいつこうとするが--
「信じられない! 最速であるチーター型の首を掴んっさ!」
「何故私の方が速かったかわかる? それは地形の問題が絡むからよ」
 ミスティーはチーター型に乗っかるように首を絞める。
 しかし、雌である彼女の力は乏しかった--チーター型は力一杯ミスティーをぶん投げた!
「ミスティー! っておらの頭上を越えっさ!」
 だがチーター型は思わぬ計算--天高く投げれば向こう側に待機する銀河連合の群れで総攻撃を仕掛けるというもの違いをした! 何故ならミスティーは成人体型三にも満たない天井にぶつかり、群れの近くまで届かなかった!
「いでで……どうやら、地形を理解してないのが私にとって救いになったわ」
「運良いっし、ミスティー」
「コケ真さんに言われたく……何、この音?」
 ミスティーのみならず埋葬地にいる全てが今にも崩れそうな音に反応。
「まっさかミスティーが天井に背中を打ったのが相当響いた?
 まっさか……に、逃げっさとおお!」
 コケ真はチーター型の方に走り出す! 自分から死にに行くような方向へ迷わず走るコケ真に驚くミスティーは身体を動かそうとするが--
「あれ? ど、どうしたの?」
 打ち所が良くなかったのか、立ち上がるのがままならない状態だった。
 ミスティーは崩れてゆく天井と前後に迫り来る銀河連合に恐れを抱きながらそれでも動かそうとする!
 けれども瓦礫が頬を掠めても銀河連合が自分の手の指先まで伸す範囲に迫っても身体は主の命令に逆らう!
「どうしてえええ! 私はまだ恩返しをしてないのよおお!」
 埋葬地はミスティーの空しさを呑み込むように崩れてゆく……。

 午後三時三十分十四秒。
 場所は南地区銀河連合埋葬地跡。四角錐の建物は原形を留めない。残ったのは瓦礫の山。
 途方に暮れるコケ真の背後に包帯で巻かれた二名が立つ。
「はあ、教官殿っだすか? こんな誰一名も見捨てるおらに怒りを覚えまっさ?」
 コケ真の返答にコブ吉は無言で返す--首を横に振る。
「でもおらはミスティーを死なせたっさ。結局おらは何の役にも立たない雄でっせ。帰ったら嫁と婚約解消を受け入れてみっし--」
「それは絶対ニいけません! コケ真おじさんハ……イデデ!
 コケ真おじさんハ役ニ立ってるじゃないですか!」
 何の役に--そんな言葉を突かれるとマンマミーは言葉が詰まる。
「諦めるのはミスティーが死んだのを確認してからじゃあ」
 コブ吉は意外な事を言った--若い者の可能性を信じる老年だから吐ける言葉だ。
「で、でもあの瓦礫の山でっさ! いくら何でもそれは奇跡って--」
「ここで都合良い事を信じないじい? お前さんはいつだって都合良く生きてきたじゃあ。わしらには中々出来ない都合の良さでじぇえ。ここに来て信じないのは逃げる事と同義じい。
 だからここに来ても信じろじょお。それが蘇我コケ真が唯一役立ってる運の良さじゃあ」
 コケ真は概念的な事を理解出来る程は複雑に出来てない。それでも自分でも不思議なくらい運が良い事はどこか信じていた。彼はその言葉を信じて瓦礫の山を掘り返す事にした!
「ボクモ手伝うよコケ真おじさん!」
「いででじぇ、若い者はこんな傷でも動けるから嬉しいじい」
 三名は六の時をかけて瓦礫を掘り返す--気がつくと集落中の者がミスティーの生存にかけた!
 そして……。
『この続きか? それは後に語られる書物を漁る事じゃな。
 こうしてわしらは一の週まで川内集落に留まったのう。何せサザナミノキミの葬式も
してやらないといけなくて。そうそう葬式といえばミスティーを救ったべア彦の葬式も何
故かここで執り行われたの。二名ともわしの恩者じゃ。彼等が居なければわしは旅先
で死んでこんな日記も続きが書けんかったと今でも思うのじゃ。いや他にも影響がある
のう。
 この旅のお陰でコケ真は愛する妻と復縁出来たし、マンマミーは大きく成長してもう
一度軍者になる事を目指したのう。良かった良かった。
 それでわしの旅は何日まで続いたかを知りたいようじゃ。実は今知る世界を全て旅
するのにかかった時は僅か十の月くらいじゃった。勿論隅々まで旅をしたなんて出来
ない。そんなのは旅を終える前に検問所制度に引っかかり強制送還される羽目じゃ。
 まあ意味なく滞在したり、進んだりもした。けれども旅の十の月は無意味じゃあない
のう。こうして毎の週は出版の催促が来るんじゃから妻に叱られっぱなしじゃあ。
 叱られる事は勿論催促を引き受けようとすればじゃあ。妻はお金はある方が良いと
決める性格じゃが騒がしい程稼ぐ気はないからな。わしだって騒がしいのは好きじゃ
ないぞ。毎日毎日コケ真が妻の相談に来るからいつも困る。わしも尻に敷かれる雄な
んじゃ。尻に敷かれるような雄に妻の困った事を持ち込むな。妻ではなくてそんな妻を
選んだお主が良くないんじゃ。
 コケ真の事を二度も記したのう。あやつの事は五名の息子や娘とその孫十一名以上
に足間のかかる雄じゃ。あんなに年を取ってるから更に寿命が縮むのう。まあ教え子
が可愛いのは出来の良くない程じゃな。
 そろそろ紙が少なくなってきたの。最後にこんな事を書く。
<予言を信じる全ての生命に送る。
 予言が成就するのは遠すぎる先--一兆という年月が経った時--じゃよ。
 この日が近付く頃までわしらの孫世代が無事でいられる保証はない。もしかすれば
宇宙そのものだって死んでいるかもしれんのう。何故なら予言はあまりにも規模が大き
すぎるのじゃからな。じゃあどうすればいいか。それはその日まで諦めずに前へ前へ
進むしか道は無いのじゃ。例え躓きそうになっても諦めずに最後まで前進あるのみ。
仮に予言が迷信であっても前進する事は信じ迷いはさせないじゃろう。じゃから全ての
生命よ。
                                 予言の日まで前進するのじゃ。>
                                 検問所制度が施行する早朝じゃ』
 コブ吉の死から三十の年より後、日記は結局出版される事になった。当者の予想とは異なり二百万部を超える人気書物となった。
 タイトル名は

 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて

 ICイマジナリーセンチュリー九十八年六月十四日午前九時三分十秒。 完

 第三十七話 鼬ごっこの世 に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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