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一兆年の夜 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて(八)

 三月二十八日午後十時二分九秒。
 場所は武内大陸波多八代地方高向山標高成人体型二千付近。山の側面。
 足を踏み外せば成人体型千以上から落下して死は免れない狭い道。そこを三名は縄を使って渡ってゆく。
「この中でわし程死と隣り合わせの生命はいないじい。年齢的にも種族的にもじゃあ」
 その割には渡り慣れている気がするけど--ミスティーはコブ吉の後ろを付いて行くように縄を掴んで渡る。
「ミスティーさん、あなたミタイナ者ガドウシテボク達ト共に?」
 当時者のすぐ後ろにいるマンマミーは小声で質問する。
「十一くらいの年より前に死んでいたはずの命よ。だから私はこの命を旅先で死にそうな生命が居たら救ってあげるの! 命を高くする為に!」
 ミスティーは縄を右手で掴みながら左拳で右心臓付近に当てる。
「あまり無茶をする物じゃないじょお。心臓が止まったらどうするじゅう?」
「何て言ってる間にそんな所まで渡りきるなんてどこが死と隣り合わせなのよ!」
 ミスティーは慌ててコブ吉に追いつこうと駆け足になったが--
 わわ--左足が滑って落ちそうな所を左手を右手で掴んで救助するマンマミー。
「ありがとう、マンマミーさん」
「気ヲ付けて下さい。自然は我々ヲ優しく包んでハくれませんよ!」
「早くせんかじゃあ! 目的の高向集落に到着しないじい!」
 既に渡りきったコブ吉はとても四十過ぎとは思えない肺活量の多い声で渇を入れた!
「老齢の癖して私を腰砕けしてえ!」
「だから足下ト左手ニ気ヲ配って下さい! でないと--」
 案の定また落下しそうになり、またマンマミーに救助されるミスティーであった。

 三月二十九日午前九時六分一秒。
 場所は高向山標高成人体型二千十五付近。高向で採れる天然水は骨の成長を促進。ここは伏流水の沸く場所。
 朝食を済ませた三名はすぐに出発する--天然水を水筒一杯に入れて。
「欠伸をするじゅう。わしも大部衰えてきたじゃあ」
「それは私も同じよ。昨日は絶対十一の時に寝たに決まってるわ!」
「起きたノガ六ノ時。十分じゃないですか?」
 実は三者交代交代で見張りをしていた為、満足のゆく睡眠が取れないせいであった。
「でももうすぐのはずよ! もうすぐ集落に……あったわ!」
 本当だ--マンマミーが見た先には巨勢とほぼ同じかそれより小さな集落が見えた!
「さぞかし命口は少ないじい? 十名も居るじゃあ、あれじぇ?」
「まだ居ると思うわ、あんな小ささでも」
 ミスティーは駆け足で高向集落と思われる場所へと進んでゆく。
「本当は行ったことあるカモ知れませんね、彼女って」
 だろうじゅう--コブ吉は若者の元気良さに少し悔しがった。

 午前十時一分二秒。
 場所は高向集落入口。門の両端にはどこの種族か判明しない犬族に似た種族の像が訪問者を歓迎する。
 ミスティーは入ってすぐに甲高い鶏族の中年に文句を言われた!
「おらが何か罪深いことしたんなら謝るっせ! でも先にぶつかったのは--」
「そこのおじさんでしょ! 臆病そうな癖して情けない言い訳するなんて大人の風上に置けないんじゃない?」
 子供が偉っそうに大人を--甲高い中年は只でさえ情けなく小太りした腹を更に情けなく揺らす!
 そこへコブ吉とマンマミーの二名が入口までやって来た。二名は中年の顔を見て不思議そうに見つめる。
「あのコケ真がこんな所……それ以前にわしらよりも早くここに来ようとはじゃあ」
「ああ、教官殿オオオ! お会い出来て嬉しく思いまっさ!」
 コケ真はコブ吉の首に抱きつく--コブ吉は気持ちよくなさそうな顔をした。
「知り合いなの?」
「コケ真おじさんは旅仲間です。けれどもお荷物ト一緒です」
「お荷物とは礼を欠くっし! こう見えて役に--」
 立った試しがないじい--彼の教官にも真っ向から断言された!
「そ、それはいいっしがべア彦さんはどうしっせ?」
 三名はその名前を聞いて三様の反応を見せる。
「それについてはこれから集落に入ったら話すじゅう。どこか泊まれる所を紹介じゃあ」
「ええ、ま、まああるっさ!」

 午後一時十八分五秒。
 場所は酋長の家。集落で最も大きいが一部屋しかない。
 三名はコケ真と共に昼食を摂りながら今までの事を全て話した。
 コケ真の両眼から滝のようなものが畳に染み込んでゆく!
「べア彦さん! 負け熊と思ってまっさがこんなにも格好良い雄だったなんて!」
「私はまた救われた。いつだって私は救われっぱなしよ」
 ミスティーは自分が助けられる側にいると感じて少し悔しさを顔に出す。
「大丈夫ですよミスティーさん。コケ真さんに比べたらズット大分ましですから!」
「年下の癖のおらを腰砕けに見おって!」
「わしらは全て話したじゃあ。後はコケ真に関する事じょお。どうやってわしらより先にここまで来れたじゃあ?」
「そ、それは長くなっていいっさ?」
 いいから聞かせろじょお--コブ吉だけでなく他二名も興味が湧く。
「わかりまっさ。じゃあ全て話しまっし。実は--」
『わしらと離れたコケ真は一の日もの間、旧検問所所長カメレオに看病された。看病
の甲斐あって朝にはすっかり元気になった。元気になったすぐ後に新任の所長が物
部大陸方面よりやって来た。だが、ここで悲劇が起こった。新任の所長はカメレオに握
足すると同時に股間の先から触手のようなモノを彼女の頭部に突き刺した。つまり新
任は銀河連合に食われており、その者に変装してカメレオを死なせたのじゃ。全く怒り
の湧き出る話じゃ。
 カメレオを死なせた銀河連合。コケ真の話から推測するに百獣型以上の力を持つ
上位存在。はっきり記せば指揮官型と思われるモノは当然コケ真を死なせようと隠し
腕と両手両足を駆使してコケ真に乱れ撃ち。じゃが都合の良すぎるコケ真が相手
だった事もありあの指揮官型と思われる銀河連合も倒すのに苦労したのじゃろう。
いかんいかん、銀河連合に同情してはならんの。
 そんなコケ真もついには後ろに下がれば落っこちる崖近く。あやつはとうとう自分で
自分を忘れて飛び込んだのじゃ。普通なら死ぬのが当たり前。ところがあいつは墓の
下に入るのを好まない神様方の情非ず行為で生き延びてしまった。何と通りがかって
いたエウク鳩族の柊ヤマ下のお陰で九死に一生を得るなんて。わしは何故悲しいか。
それはこいつがこんなにも強運に恵まれているという事実をのう。
 感情論はともかくとしてヤマ下に救助されたコケ真はすぐにわしらの所に向かう為
に彼にあれこれ指示をした。けれどもこのヤマ下がどうしようもなく自分勝手な雄じゃ。
指示を無視してあろう事かコケ真を恐がらせようと高度の高い所を飛んでゆくのじゃ。
幸い何故か雷雲の発生しない波多八代地方じゃったから良かったの。
 そんで恐がらせる内にふとした事故でコケ真を落としてしもうたよ。じゃが運に恵まれ
すぎる雄の本領発揮はここからじゃ。落ちた先がわしらの居る高向集落でちょうど
二十の若さで酋長になった武内キリン族のキリットの長い首のお陰でまたしても九死に一生、いやもう九死に二生じゃ。心配に駆けつけたヤマ下はコケ真が無事とわかると
すぐにどこかへ飛んでいったようじゃ。まあどちらもどうでも良い雄共じゃ。
 話を聞いたわしら三名の内、カメレオに特別な感情を抱くマンマミーは号泣しおった
のう。あの子にとって彼女は目標でもあったのう。そんな彼女がまさか銀河連合に
よって納得のいかない死なれ方をされたら泣かない雄がどこにいようか。
 わしは例え指揮官型であっても倒さずにはおれん。そんな気持ちで一杯じゃ。そうし
た溜まり事を抱えたままわしら四名は早朝すぐに集落を出た。それからお日様が頂上
に登った頃に下山し、南東にある川内集落を目指した。じゃがここでわしらは出会うの
じゃ。カメレオを死なせた銀河連合に。
                        旅をして十六日目の都合良く進みすぎる昼じゃ』

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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