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一兆年の夜 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて(三)

 三月十九日午前十時七分三十三秒。
 場所はフィス地方ヒッピア砂漠。ここは螺旋の砂があちこちに点在する。
「--ルギアス村ニ滞在スレバ良かったノニドウシテフィスト砂漠ヲ駆け抜けヨウトするノですか?」
 コブ吉とコケ真の二名はマンマミーから注意されていた。彼の弁によるとプロタゴラス大陸は全体が砂漠地帯。旅をする場合注意しなければならないのは大地が砂で覆われている。その為なのか平面でしか走るのに適さない。仮に坂道を走ろうとすれば誤って転げ落ちるか、場合によっては生き埋めに遭う。故に走り回れる種族は限られている。
「--仮に歩いて進むニシテモ注意シナケレバいけないのは水。水は生命ニトッテ欠かすことノ出来ない物。一気飲みスレバ死ニ近付きます。温存ヲ勧めます」
 はい--コケ真は温存しなかった事を反省する。
「全く一の年も現場から離れるだけでこれほども経験を忘れるとじゃあ。努力とは終始行うしかないじい」
「そうは言われても死んだっさらすべてが無意味になるんっさない?」
 無意味--コブ吉は意味無き事には少し引っかかる素振りを二名に見せる。
「ま、まあ生きている内は意味なきことはたくさんあるって言うし気にしないで下っそ教官殿!」
「励ましをありがとうコケ真じゃあ。確かに無意味に関してはわしも少し安心出来ない思いはあるじゅう。じゃあが無意味を恐れて努力しないでは怠けると同義じゃあ。わしらは努力しないで一命前に慣れる程利口な生命ではないじい」
「けれどもいつニナッタラ努力ガ報われルンでしょうか? 銀河連合ハ一向ニコノ星カラ消えないノですよ」
 銀河連合--全生命にとっては耐え難い存在。倒しても倒しても学習してより強大に生命を食らう。手口(足口)は巧妙になる。種は拡大する。そんな情無き存在が地上から消える事は未だ叶わない。
 三名は努力が実らない事を嘆く。だが、その内のコブ吉は考えるよりも先に足を進める事だけを二名に伝えた。
「そうでっさ! 足を進める以外にないでっせ。でないと死んでいった魂は骨の状態で墓石から飛び出まっそ!」
「恐いこと言わないでよ。心臓ガ止まったラお父さんニ怒られるよ」
「何だ何だマンマミー。お前も一丁前に恐がってっせ!」
「お喋りは止めろ二名共じゃあ! 咽が早く渇いたらどうするじゅう!」
 コケ真とマンマミーは大人しくなった。
(ピアス市第三南口から出て一の時が経過じゃあ。眠いじい。今日までにゴルギ村に着かないじい。どこかで休まないといけないがこうも螺旋の砂がたくさんあると休める場所探しは一苦労するじょお。まあ出来る限り焦らず進もうじゅう)
 二の時まで三名は螺旋の砂に注意しながら進む。時には巻き込まれそうに成る者を二名掛かりで助け、時には山道で足を滑らす者をまたに名掛かりで助け合うなどして絆を深めてゆく。やがて休めそうな場所を見つけた。
「ここなら螺旋の砂に巻き込まれないじゃあ?」
「ええ。足場ハ安定してます。後は、ふわああ」
 どうっそ欠伸を--コケ真は睡眠をとっていたのか二名が眠たそうにしている理由がわからない様子。
「わしら二名は昨日から早朝まで説教をする側とされる側だったのじゃあ。眠く、成るの、もとうぜ……」
 二名はだらしなく倒れ込んだ--一名は前後両足を崩して目を閉じ、もう一名はうつ伏せに。
「え、え、ああそ、そうだ! 見張りしないとっそ! 銀河連合よ! 来るなら来てみっさ! おらは全力で逃げてやるっせ!
 ……置いて逃げれなっそからそのまま腹の中で四股が散らばるっせ?」
 こうしてコケ真はおよそ六の時もの間、恐怖で体毛が抜け続けながらも見張りを行った。
「腹減ったけど水飲んでもいいかっせ?」

 午後十一時七分三十二秒。
 三名は現在、螺旋の砂で囲われた水湧き湖で明日の出発までに水筒一杯に水を入れ終えたばかりだ。
「地面が崩れる心配はありまっせ?」
「いえ、不思議なことニコノ水湧き湖ダケハオヨソ数万程ノ年月ガ経ってモ地盤ハ安定してイルト言われてます。情報源ハ蘇我梟族ノ二十七代目蘇我フク兵衛カラです。この方ハ地質学担当です」
「確かわしが旅を決めた日の新聞一面にあやつの死が載ってじゃあ。大きく『地質学者第二十七代目蘇我フク兵衛死去。享年三十五』じょお」
「早過ぎます。まだ三十五ですよ。コケ真おじさんと大して年ガ変わらないッテのに!」
 マンマミーは蘇我フク兵衛の死を悼む。当然フク兵衛と年の変わらないコケ真は内心穏やかではない様子。
「悲しい話は良くないじい。明日は早いんじゃあ。さっさと眠りに就けじぇえ。特にマンマミーはさっき寝たばかりじゃあ。眠気が来るのは遅いかもわからんが寝ないとこの先を乗り切れんじょお。寝るんじゃあ」
 コケ真はすぐに鼾をかき出す。一方のマンマミーは湖に頭を向けるようにうつ伏せに倒れ込む。
 残ったコブ吉は背中の上に載せた荷物を降ろしてそこから紙で出来た百枚程ある日記と硯、そして墨汁用の水筒と口で挟みながら使用可能な筆を取り出す。
『人生は山道、谷道、そして坂道じゃ。ちょうどヒッピア砂漠のように。わしらが向かう
先はゴルギ村。そこはかつてアリスティッポス大陸に十一度挑戦した伝説の軍者が
隠居する村。彼が生きているかどうかは定かではない。もしかしたら二十七代目蘇我
フク兵衛と同時期に想念の海に旅立てるかも。寿命がどれほどなのかわしら生命に
は伝えられない。わしも突然死するかもわからない。人生は恐ろしくも険しい山道、谷
道、坂道じゃ。どうか後少しでも生きられたら愛する女房の元に帰れるというのに。
                           旅をして四日目の深い話をさせる夜じゃ』

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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