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一兆年の夜 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて(二)

 三月十八日午後二時七分九秒。
 場所はフィスト砂漠。
 天候は快晴。最高気温に達したばかり。
 コブ吉とコケ真は歩き続ける--登山するように。
 水が欲しっし--コケ真の両頬はくの字を描く。
 彼は二の時より前に水筒に入れてあった水を完飲したばかりだ。
「我慢じゃあ。とは言いたいがわしとお前さんとでは水の蓄えが異なるじょお。このままじゃあ可愛い部下を死なせかじぇえ。
 と言ってもどこに水湧き湖があるのやらじゃあ?」
「出来るか、ぎりの視力を出して、も、なっさあ」
「確かに無いじい。フィスト砂漠の神々はわしらを死なせるつもりかじょお。せめて幻覚でもいいから水湧き湖を見せればいいのじい」
「厳格は空しい、で、さあ。も、もう、おらは」
 両足がふらつき、うつ伏せに倒れかかる所をコブ吉が後ろ右足で抑えた!
「少しでもしっかりじぇえ! 僅かではあるが何か見えそうじゃあ!」
 コブ吉は何かを発見した--北東東の向こう側に黒く三角した何かを。
「あ、れ? 水、湧き、湖?」
 きっと水湧き湖に違いないじい--動く事もままならないコケ真を瘤より前に乗せたコブ吉は三角した物に向かって歩を進める。
 自身は駱駝族で砂漠地帯ではどの種族よりも長く活動出来る。しかし、四十を過ぎた今となっては肉体も思うように動かせない。特に水を多量に必要とする砂漠地帯とあっては尚更の事。それでも苦楽を共にする旅仲間を救う為なら僅かな希望を胸に目的地まで歩き続けるが--
 何と言う事じゃあ--コブ吉は嘆く。
 彼が目にしたのは水湧き湖ではなく砂漠の山だった!
「おのれ神々じゃあ! そこまでしてコケ真に試練を与えるじゃあ! 本当に死んだら感謝出来ないじょお! 何とかしてくれじぇえ! つまらない童話の都合良い展開でも何でもじゃあ!」
 現実は悲しいモノ--いくらコブ吉が願っても神々は応えない。
 何故なら神々は生命を正しく導く訳でもなければ祈るだけで楽な道に送る存在でもない。ましてや苦行を乗り越えた者を必ずしも幸福に導く事すらなれないのであった。
 コブ吉は二十の分くらい前に進みながら神々に懇願したがとうとう咽の渇きを進めるだけと考えてやめた。
「はあはあじゃ、わしゃ疲れたじゃあ。コケ真じゃあ、生きとるじゅう?」
 え、ええ--耳元に聞こえるかそうでないかであった。
 やがてコケ真の声は聞こえなくなる。それから一の時が過ぎるとコブ吉の瘤は平に成る程萎み、視界は揺らめき始める。
(わしの人生はこんな所でおわ、る、の、じゃあ? こえをだ、せせ、な……)
 やがて両眼は黒い部分が扉を閉めるように広がり始める。
 そして、閉じると同時に前後両足が崩れる音が耳に聞こえた。

 未明。
 コブ吉の両眼は扉を開く--映ったのは三日月。すっかり夜時間。
(そう、じゃ? わしは……そうじゃ! コケ真の馬なのか鹿なのかじゃあ!)
 ゆっくりと前後両足を上げる。それから辺り一帯を見渡す。そうして状況を頭の中で整理する。そこから導き出された結果は--
(窓があるじゅう。そして一つだけしかない開き扉とわしがのると破りかねない高寝床じゃあ。そして窓から見える風景じゃ、ここはピアス市じゃあ)
 起き上がりとはいえ素早くピアス市だとわかると扉の方に向かう。すると扉は内側に開き、そこから開けた本者がコケ真の右隣に立つ。齢十九にして八日目になるタゴラスカンガルー族の少年だ。
「おはようっさ教官殿! 実はタゴラス族のマンマミーのお陰で助かっしだよ」
「別に助けたくて助けたワケじゃないけど。ボクはお父さんトお母さんノ言いつけヲ守って助けたよ!」
 マンマミーと呼ばれる少年は左横顔を向けて照れ隠しをするが、赤いのが一目瞭然だ。
「知ってるじゃあ。君はミハエル・レヴィルビーの子マンマミーだじぇえ。あやつの最後は立派な事じゃあ」
「コラ教官殿! マンマミーに向かってそうゆっそことは--」
「いいよコケ真ノおじさん。お父さんはコノ都市ヲ救った英雄なんだ! 今でもお父さんハボクノ誇りなんだし!」
 マンマミーは前羽の構えで表現した。
「昔から変わらないじゃあ。新米なんじゃからもう少し力を抜いたらどうじゃあ?」
 マンマミーは構えを解くと首を左右に振る。
「今日をもちマシテ軍者ヲ辞めました」
 何--二名は飛び上がるように驚愕した!
「何て言うカ割ニ合わなくて。ま、まあ帰ったらお母さんニドレダケ叱られるカわからないけど」
 着地してすぐにコブ吉の口は全開に広げる!
「腰砕けエエエエじゃ! お前さんはそんな下らない理由で辞めたというのかじゃあ! 何という馬か鹿じゃあ! それでもカンガルー拳法の使い手じゃあ! 割が合わん理由をその場で言ってみろじょお! わしは何聞いても説教するじゃあ!」
 マンマミーは気迫溢れるコブ吉に両足を激しく震わす!
「教官殿は鬼族に匹敵する教官っさ! 良いこと言うっせ! 早く逃げるこっさを--」
「お父さんモお母さんモ逃げるノハ得意じゃなんだ! だ、だ、だからボクダッテ逃げないよよ!
 え、え、えとト……訓練ガ辛くて辞めました。」
 声が震えながらも両親の誇りに懸けて立ち向かうマンマミー。
 その覚悟と理由を聞いたコブ吉は気に入るように--
「よかろうじゃあ! それじゃあお前さんの教官に代わってわしが問い詰めるじゃあ! 途中で怒ったって構わないじょお! 怒りは全生命の権利じゃからじょお」
 コブ吉は日が昇り始めようとするまで説教した--既にコケ真は部屋にある高寝床で鼾をかいた。
 はあはあ--怒りを表情に示しながらも呼吸を荒げてでも堪えた!
「全く父親に似て格好付けじゃあ。ここまで堪えるとはさぞ辛かろうじゅう。
 んじゃ? もう朝じゃあ。じゃあ飯を食べようじゃあ? 今日はここまでじゃあ」
 コブ吉は鼾をかくコケ真を宿全体に響き渡る程の声で叩き起こす。すぐに食堂へと足を運ぼうとした。
「あ、あの林原さん。起きてスグナノに、えっとその、この度ノ教え説きヲありがとうございます。お礼ニお供させて下さい! ボクは両親ミタイニ辛抱ガ強くありません! ですので林原さんミタイナ方ニタクサン辛抱ノ仕方ヲお教えシテもらう以外ニ方法ハありません! 良くないでしょうか?」
 懇願するマンマミーにコブ吉は首を縦に振った。
「ええ! 厳しい旅の始まりでっさ! マンマミーはどうしてそこまで自分を痛めっせ訳?」
「ボク自身ヲ鍛え治す為です。ボクが林原さんトコケ真おじさんヲ助けたノハコノためダッタノですよ!」
 マンマミーは頭を抱えるコケ真に向かって胸を張って口にした!
「やはりお前さんがわしらをじょお。じゃあその件を是非食堂で聞こうかじょお?」
『マンマミーは父親に似て無理してまで格好付けたがる。その部分を少しでも是正出
来ればマンマミーは本当の意味で成長するだろう。わしがこの子を旅の道連れにした
のはその為。それにこの子が居れば少しはコケ真も臆病風を直せるかもしれん。
 いや考えは浅いのう。生命がそう簡単に変わらないかの。特に三十過ぎのコケ真に
関しては大部。
                                    旅をして三日目の朝じゃ』

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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