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一兆年の夜 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて

 ICイマジナリーセンチュリー九十八年三月十七日午前九時二分七秒。

 場所はプロタゴラス大陸ソフィス地方タゴラス村南地区。三番目に小さな一階建て
木造建築。
「馬か鹿じゃアアアああああ!」
 齢四十一にして七の月と十五日目になるタゴラス駱駝族の老年は激怒した!
「あんたじゃあ! 近所まで響く声をあげんでくれじぇえ。また苦情が来るわよじょお」
 齢四十にして二の月と六日目になるすでに帰化したタゴラス駱駝族の老婆は夫を
宥める。
「そうは言ってもじゃあ、この記事を見て怒らない旅者がどこにおるのじゃあ?
 記事を見ろじょお、こん美さんじゃあ」
 老年はこん美と呼ばれる妻に紙の五枚重ねの新聞の一枚目表にある記事を見せた。
記された内容は--世界各地で検問所を設置。一の年までに施行を開始--である。
「それのどこがあんたが怒るというのじょお?」
「まだわからんのかじゃあ? 検問所がなんたるかわからんのかじゃあ? 精密に
調べる所なのじゃあ! 遠征しまくって一の年より前に定年退職したこの林原コブ吉
だからこそわかるのじゃあ!」
「元国家神武軍者という肩書きは恥ずかしい物じゃあ。今のあんたは何にも働かん
只飯食らい
じゃろうじい!」
「おのれこん美じゃあ! 言ってはならん事を言いおってじぇえ!」
 コブ吉と呼ばれる老年はその言葉を突かれて少し落ち込む。
「とじょ、とにかく検問所が出来るとなれば通行許可証なり何なりが必要になる時代が
訪れるじゅう! そうなれば今まで楽に旅行した世代はそれより若い世代に一層激しく
怒鳴られるんじゃあ!
 わしは若者を腰砕けにいうのは好きじゃないじい! 何故なら可能性ある者に
『しっかりしろ』と言うのはわしが爺さん方に言われてきた事の繰り返しでならんから
じゃあ!」
「まさかあんたはそんな下らない事の為に大声を張り上げたんかいじゃあ? 全く何
やってんだか」
 こん美は夫に呆れて溜息ばかりつく。
「べじぇ、別にそんな理由だけじゃないじょお! いくら銀河連合対策じゃからって
検問所が設置されたら自由に旅行出来なくなるだろうじゃあ! いちいち許可証見せ
たり荷物調べたりなんかしたら入るまでに草臥れるだろうじゅう!」
「ほうほうじゃあ。だったらえっとここに……『一の年までに施行』って書いてあるわじぇえ。
じゃあ、それまでに旅したらどうじゃあ? 家にいたって只飯食うだけしか脳のない
あんたには合ってる趣味じょお」
 それまでに旅をする--現在十五の年まで付き添う妻の一言は一の年まで何もやる
事の無かったコブ吉に何か知らない火を点す。
「断る……と言いたいじゃろうがわしはそうやって流れるままに旅された過去ばっかり
じゃあ。四の年より前の蘇我大陸にある防波堤への突然の派遣だってそうじゃあ。
 だったら老いでくたばる前に一回は旅してくたばろうじゃあ!」
 コブ吉は決意した--さっき激怒した新聞記事の前で!
 そんな中二の分より前から扉を二回ほど叩く音がしたのでコブ吉自ら前右足で叩き
開かせた--扉の向こうで吹っ飛ばされる齢三十三にして六の月と九日目になる蘇我
鶏族の中年。
「お前は蘇我コケ真じゃあ。わしが大声を張り上げたから駆けつけたのじゃあ?」
 蘇我コケ真と呼ばれる腹が小まん丸に出た中年は頼りなさそうに立ち上がる。
「いでっせ、教官殿は元気良くて困りまっし!
 じ、実はおら。嫁と婚約解消を持ち込まれて大変でっさあ!」
 コケ真は両眼から溢れんばかりの水を溢しながらコブ吉に寄りつく!
「コケ真ちゃんも大変じゃあ。そんなに太ってちゃあコケ緒ちゃんも怒っちまうのも無理
ないじゃあ! 十五児を抱える母親からしたらコケ真ちゃんが情けなく写ったんじゃあ」
「そうゆう問題でっさか! 嫁と別れたらおらはこの先どうやって生きたらいいっせ!
 ど、どうか教官殿! 嫁を説得して下っしせい!」
 コケ真の懇願にコブ吉は嬉しくなさそうな顔で首を横に振る。
「わしも尻に敷かれる身じゃあ。諦めて次の相手を探すんじゃあ」
「鬼族みたいなこと言わないで下さいっさ! おらは嫁が居ないと自信無くっさだよう!」
 そうは言われても--コブ吉はコケ真の妻であるコケ緒を説得させるのには無理が
あると考える。
 そんな時だった。彼はある事を思いつく。
「じゃあこうしてはどうじゃあ。明日わしと共に旅をするというのはじゃあ」
 え--コケ真はどうしてコブ吉がそんな事を言ったのかを予測出来ない。
 実は新聞記事に激怒したんじゃあ--コブ吉はコケ真に朝の出来事について十の分
経たない時間で説明した。
「つ、つまり教官殿は検問所制度が施行される前に各地を旅したいってわけでっせ。
 で、でもおらが付いっそいく意味は--」
「あるわじょお。旅をしていって帰ってきた火には解消話も無くなってるかもじょお?
 コケ緒ちゃんはコケ真ちゃんのたまにしっかりする部分を信じて今までついて行ってた
んだからじゃあ。ここは雄を見せる機会じゃあ!」
 こん美はそうしてコケ真を乗り気にさせた。すると--
「そ、そうっさ! じゃあ教官殿と一緒に旅しまっさ! じゃあ帰ったら嫁に報告っせ!」
 コケ真は鼻歌慣らしながら南地区で二番目に小さな二階建て木造建築へと帰った!
「じゃあが、あやつは明日になるとまた臆病風を吹かすじゅう! よって明日の日が昇り
始めの頃に強引に連れ出すじょお。それでいいじゃあ?」
「あらあらじゃ、顔はすっかり国家神武軍者じゃあ。わたしゃそこが好きであなたに一生
付いて行くって決めたのじゃあ。だけど今度も家を守らせる気じい?」
 いつも済まないじょお--林家コブ吉は繰り返し行われる返答をした。
『こうしてわしは人生最後の旅を始めた。大方の予想通りコケ真の腰砕けは旅に出よ
うとした所、<銀河連合恐い。おらは旅なんてしたくない>なんて無き事言いおったも
んだ。だからわしは力尽くであやつを引っ張り上げた。その事についてはあやつの嫁
も了承したな。
 話を飛ばす。こうして日が顔を出す頃にタゴラス村の西地区から外へ出た。
                                 旅をしてまだ一日目の朝じゃ』

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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