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一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾(七)

 午後十一時五十六分三秒。
 場所は第三関門前。トカッガ達五名が居る所はちょうど高台となっており、第三関門を見下ろすには最適だ。
 第三関門にはおよそ百もの銀河連合が待ち構える--正確には産卵と出産をしている以上はそこで生活していると考えよう。
「こりゃあひどい。だいさんかんもんをなんだとおもってるんだ、あいつらは!」
「さすが銀河連合っせ! おら達に出来ない事を本当にやるもんだから全然共感出来ねっす!」
「共感するべきじゃな、第二関門で今も戦うブルルンを考えるん」
「ブルンデッドの兄貴のお陰で某達はやっと第三関門までこれたス。
 でもここを含めて後五関門もあるのでス。この先某達が進める想像が出来ないのはきついス!」
「確かにこの関門の銀ー河連合はー酔っ払いとー変わらーないとはいーえ数ではーこちーらを押さえ込ーめるわ。この先はーどうやーって乗りー切るつもりーなの、班ー長の坊やー?」
「もうそろそろか、もうそろそろ根回しが働く頃なんだけ」
 その言葉に反応したのはイン歌だ--復興赤兄村に滞在中、彼はトカッガの頼みである手紙を担当している部隊長に渡していた。
「あのてがみをよんでむこうのたいちょうさんはこまってましたよ。あれはむちゃなたのみですよ!」
「俺達の方が無茶だ、こんな数で奪還しようとしているん。
 だからこそ少しでも妥協する術を探るべく俺はあの手紙を書いたん、全ては己の失敗した経験を込め」
「まあー何を待ってーるかわーからなくてーもいざとなーったら私が持ー参した十……いえ途ー中で飲んだーり落としたりしーてもう七瓶ーしかないけーどそれを使って--」
「残り六瓶になったぞス! まさか佐藤姉貴は酒の発火作用を利用して--」
「ウイ、いーざといーう時だわー。そのいざとーいう時ーがいつ来ーるかわから--」
「何呑気に飲んだくれっせますか! そんな時期なんて訪れないっそ! あんな数っじょあもうおら達はお終いだああ!」
「にげんじゃないよ、こけまどの! わたくしめはなんかいえりくびつかめばいいんだよっと!」
「声を小さくし、気付かれたらどう……この音」
 かすかではあるが左斜め後方より何かの一団が接近する音が近付き始める。トカッガのみならず他四名もその音に気付く!
「まさか銀河ー連合ーの増援ー?」
「いやそれならあいつらは音を出さずに来るはずス! この音は--」
 カマ汰が振り返るとそこには国家神武の軍服を着た生命の一団--数はおよそ七十--がヒラリー班に向けて行進していた!
「あれは国家神武ス! どうしてこれ……まさかイン歌が渡してきた手紙の中身はこれだったのかス!」
「きてくれたんだ! でもこれでかんぜんにだいさんかんもんのぎんがれんごうにきづかれたよ!」
「予想より半分くらい少ない、仕方ないよ。
 俺は向こうの隊長さんと話をしてく、お前らはギリギリまでそこで待機し、指揮はイン歌に任せ」
「わたしめにやらせるとは!」
「一番ー偵察にー向く坊やなーら任せられーるわね!」
「で、でもここでじっとしっさはいつまで?」
「さっきも言ったろス。ギリギリまでス、とス!」
 四名が待機中、トカッガは一団を指揮する隊長である齢三十七にして七の月と十四日目になるタゴラス駱駝族の中年林原コブ吉に近付く。
「貴様が不死身の傭兵トカッガじゃあ。またわしを遠征させおってじぇえ」
「話には聞いた、あなたが遠征家林原コブ吉か、兄から良く聞かされ」
「腰を砕くのはここまでにしようじゅう。要望を言えじぇえ、トカッガ・ヒラリーじゃあ」
「出来れば第四関門まで突破を願」
「無茶じゃあが、わしが居れば可能じゃあ!」
 一分と係らず交渉成立--コブ吉は全兵士に命令を下す!
 それを聞いたヒラリー班全員(コケ真を除く)は一旦退却した!
(それじゃあお足並み拝見、一応第五関門までに補給員から道具を調達しないと)

 三月十七日午前二時五十八分三十七秒。
 場所は第四関門。銀河連合によって各地に仕掛けが施され、それに気を取られて遠征一団の四分の一が命を落としてゆく!
(仕掛けだけじゃない、数が前の関門より二倍あ、さすがに突破が困難を極める。
 まだ俺達が動くのはここでは--)
「班ー長さん? どれくーらいあちらは渡してーくれたー?」
 二本渡す--トカッガは前右足で鞘のついた二本の神武包丁をパト恵に転がし渡した!
「こんな中ーで渡すーなんてさーすがはー私が見ー込んーだ雄ね!」
「姉貴はいつから見込んでましたス? 気付きませんでしたス」
「まったくこんなじょうきょうでよくしゃべれますね」
「そうゆうあんたは戦わないじい。自分の意志じゃあ?」
「わたしめはそうゆうせいめいですから」
 イン歌の表情を一瞬見えたコケ真は--
「見直しっそイン歌。お前だっし弱い部分があるなんっさ!」
「ほめてないだろ、それ!」
「砕けるのはここまでじぇえ! そろそろ突破するじゅう!」
 第四関門の戦いは一の時以上続く!

 午前六時零分二十三秒。
 場所は第五関門。この関門には仕掛けもなければ地形的に厳しい物もない。只一点異なるのは銀河連合の数は第一関門と同じだが質は明らかに違った!
「何て強さだス! なんで百獣型級が十体も居るんだよス!」
「折角突ー破してきーた国家神ー武の一団はーもう十名を切りそうよ!」
「もうぼうかんできないよ! わたしめはもうたたかって--」
「それだけはまだやる、俺が死ぬまでお前は偵察に徹し。
 戦いたい気持ちは抑え、イン歌」
「何なっせおらも戦って--」
「お前みたいなのは外野で悲鳴でも上げとけじぇえ! わしが知らんと思ったか元軍者蘇我コケ真じゃあ!」
「お、もいだしったよ! あの時の五月蠅い教官殿でしたっせ!」
 コケ真は今頃になって冷や汗を出した。
「だがこの若造十体はわしらが相手にしてやるじゅう!」
「無茶だコブ吉、あんたがどれくらい強くても部下がそこまで強くは--」
「もう呼び捨てかトカッガの若造じゃあ! 部下がそこまでじゃないのなら気合いで無理矢理そうさせてやるんだじゃあ! なあコケ真じゃあ!」
「鬼族並みに恐ろしい教官殿らっせうですね、はは」
 腰と頭を踏ん張らんかい、ひよっこオオオ--コブ吉は残り十名の部下に怒号を浴びせた!
「先に進めトカッガじゃあアア!」
「行くぞみんな、第六関門」
「「「「オオオオ(おおおお)!」」」」
 ヒラリー班の行く手に成人体型一とコンマ五はある銀河連合猿型が立ちはだかるが、隊員であるルケラオス鼬族の青年がなめらかな包丁捌きで猿型の右肘から指先までを切断--猿型は一瞬切られた痛みを感じず唖然とした!
「ありがとうイタラス・ジャレモンド」
 ヒラリー班は第五関門を突破した!

 午前七時一分六秒。
 場所は第六関門。ヒラリー班は数が十倍いる銀河連合に今までの疲労が重なり、限界に近付いてきた!
(俺の物部刃は残り二本、他の者はイン歌とコケ真を除けばもう戦えな、第七関門に入れば後は。
 なのにここまで来てこれでどうしろ、また俺は部下を、また無意味に尻尾を使うの。
 いやもう後ろ向きは考えたくな、第二関門で未だに戦い続けるブルルンに怒鳴られてしま、でも--)
 表情に諦観が表れ始めようとしていたトカッガを見たパト恵は全身傷だらけで口持ちの神武包丁も残り一本であと一回しか切れない状態。そんな状態になってようやく彼女は残り四本となった酒瓶に足をやる。
「佐藤姉貴ス! まさかやるつもりなのかス!」
「当たりー前でしょー。さっきもー言ったーじゃなーいの。これーだから雄ーは教養ない者ーばかりなのーよ」
「やめるんだぱとえどの! あんたはのこりよん……ちょっとなんでいっぽんのんきにくちに--」
「何ってー? 最後ーの一本を飲まなーいと始められなーいわよ。さあ残り三本ーは酒浴びよー!」
 銀河連合達にはパト恵の行動は全く理解出来ない様子--残り三瓶の蓋を開けて水浴びするように全身に塗るたくるパト恵。
 そして--
「行きなーさい四ー名! 私はここにーいる坊やー達を惹きー付けるかーら!」
 両前足で火の点いた松明を全身に浴びせる--火は瞬く間に佐藤パト恵を燃やし始める!
 それを見たトカッガは無茶な命令を下す!
「これだけは言わせ、必ず生きるん、パト恵」
「アチチー、出来なーいと思うけーど頑張るーわ!」
「パト恵さんんんん! 死んじまうなっさああ!」
「ひふをやくなんてめすとしてちめいしょうだよ!」
 パト恵は道を阻む銀河連合の一体を切り裂くと口から神武包丁を離して群れとなった銀河連合達に突進!
「雌ーは燃えーる者なのよーおおーおお!」
 佐藤パト恵が付けた火はほぼ七十六体の銀河連合に燃え移り炎となった

 午前七時二十五分九秒。
 場所は第七関門前--本来ここが第一関門と命名される場所。そこには五体もの百獣型が待ち構える。
 一方のヒラリー班四名は疲労困憊の上に全身傷だらけ(二名除く)。それでも両眼は前向きに輝く!
「行って下さいス! 後は某達がこいつらを相手にしますからス!」
「任せたぞカマ汰、イン歌、そしてコケ真」
「ということはそろそろわたしめもたたかうときですね」
「覚悟があるなんっさ本当じゃないけど覚悟してみせるっせ!」
「使い方はわかるかス!」
「わたしめのどうぐはぼうえんとうだよ! だからいったいたおすのはたぶんできるはず!」
「たった一体なんて……向こうから来る、好都合」
 百獣型五体が全身を始めると四名もまた傷だらけの肉体で走り出す!
「ん? みんな、こうほうよりぎんがれんごうがきます!」
「さすがのパト恵でも全体は無理、だが交代出来るものか、俺達は前しか見るな」
 百獣型五体との距離が成人体型一に近付くとトカッガはイン歌に尻尾を持ち上げられる!
「いいの? しっぽがきれたらどうするのさ!」
「百獣型より後ろまでいけたらそれでい」
 しりませんよ--五体の背後に入るとすかさずイン歌は落とす!
 トカッガは五回転ものする前受け身をした後、第七関門へと疾駆! 五体いる中の一体はすぐにトカッガを追おうとするが面前に翼持刀を構えたイン歌が立ち塞ぐ!
「ししゅあるのみ! しぬきはまったくないが!」
「うわああ! もう囲まれっしだああ!」
「さすが百獣型ス! 某の運命はこれまでなのかス!
 いや敢えて我が儘を貫くス!」
 残り三名には生きる覚悟しか残されていなかった!

 午前七時五十七分二十八秒。
 場所は第七関門左引き縄前。第七関門は元々津波対策も兼ねて巨大な鉄製の開門が建てられた。左右それぞれを開けるには左は偶数個もの縄を引っ張る事。右は奇数個もの縄とある床の板を外す事。そうすれば門は開き、防波堤に海水が流れるようになるという仕組み。
 ただしこれはかつて占拠される前の情報。今となっては真実である保証はない。それでもトカッガ・ヒラリーは黙々と仕掛けを解除してゆく。
(これで左は完了し、後は右の方だけど……ぐぐ。
 傷がここに来て気にしようと、だけどどうし、俺はもうろく度に渡る逃亡は御免こうむ)
 よろめきながらも四本足で進んでゆくトカッガ。それから五の分が経過してようやく右の解除に入った。
 奇数個の縄の解除は簡単--ただ縄を規定範囲まで引っ張れば自然と解除完了。
 問題はどこの床を外すかだ。右側の床は縦六個、横七個更に横にもう一列あって縦に五個あり合計すると四十七個にもなる。普通なら見つけるのは容易そうだ。だが、一つでも正しくない床を外すと全ての床板を最初からやり直して外しても解除に至らない不思議な仕掛けとなる。そこが第七関門が第七関門足り得る理由。
(縄の解除は終了、問題の床板はどれを外すべきなん。
 当時の設計者と仕掛けを作った生命はもう墓の下にいる以上は聞き出すことは叶わな。
 支部長からは破ってでも奪還しろとは言われた、しか、これはどうすることも叶わないので)
 それでもトカッガは床板の音で仕掛けのものを探し出そうと試みるが床板一枚の面積は成人体型一とコンマ五。反響で調べるには時間のかかる作業だ。それでもトカッガは一枚一枚丁寧に調べてゆくが--
(ん、床板の下に……まさか--)
 考える暇もなく背中から人文字のような頭をした影が襲来!
(あれは鍬形型……まさか赤兄村に居てた奴は死んだのではなか--)
 身に覚えがあったのは何も鍬形型だけではなかった--後ろ左足を救うように地面からも身に覚えのある土竜型が出現!
「お前も生きていたの、折角解除出来ると思っていたの」
 トカッガは床板の下に銀河連合が潜まれて大きな衝撃を受ける--彼は結局己の過去を乗り切る事は叶わない無念に身体全体が包まれようとした!
「神々はどうやら俺にお叱りのよう、ならば今度はその然りに包まれよう--」
 先に解除された左側の扉は海水の力に耐えきれずに力の限り開く!
 それに釣られて右側もまた破裂する勢いのまま海水を吐き出す--解除されない部分を強引に破ってまで!
 海水は波と化して第七関門で戦う者達を包み込む! その勢いは第六、第五と派生! 登り角である第四、三も全く効果を表さずにとうとう防波堤全体を覆うように海水は全てのものを呑み込んでゆく! トカッガは七度目にしてようやく過去と決別した!
 だがこれは果たして都合の良い結果なのか、それとも奇跡と呼べるものなのか?
 流されながらも命からがら生き延びたカマ汰とイン歌、それにコケ真はトカッガを探す。彼等は一の時かけて見つけた物は蜥蜴の尻尾。
「まさかトカッガ殿は--」
「んなことあってたまるかス! トカッガはこんなに早く死ぬような雄ではないぞス、なあイン歌ス!」
「わたしめはこのめでみるまではせいしをはんだんしないつもりだよ。でもしっぽはまちがいなくはんちょうそのかたのものです。なのでどこかにはんちょうがうかんでいるかわかりませんよ!」
「浮かぶなんて死んだ物のしてしまうことだっさあ! おらはそっさ後ろ向きは勘弁して下さい!」
「うしろむきじゃないよ。まえむきだろ?」
「当たり前じゃないかス! あいつならそこに……やっと見つけたス!」
 トカッガ・ヒラリーは生きる覚悟を決めて七度目--ようやく汚名返上を果たした



 ICイマジナリーセンチュリー九十七年三月十七日午前九時零分零秒。

 第三十五話 蜥蜴の尻尾 完

 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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