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一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾(四)

 午後六時二分三秒。
 場所は馬子市第三東地区二番地。居酒屋『大人の隠れ家』。
 トカッガ・ヒラリーが来る頃には先客二名が単客席に座って酒を口に流し込んでいた。
「あやわ、いらっしゃいトカッガちゃんやわ」
「母さ、今日も五十年物の稲目酒を」
 トカッガは先客の一名である齢二十四にして二十一日目になる蘇我牛族の青年の右隣に座った。
「残り少ないよの。ほどほどにしてやわ」
 そう言いながら彼女の体型ほどある樽を重たそうに持ち上げるとゆっくりとお椀に注ぎ込んだ。
「ありがと、じゃあ頂く」
 トカッガはお椀に零れそうな酒を胃の中に注いでゆく。
「初っぱなから一気飲みするとはヨヨ。今日満足いかない事でもあったかアア?」
 先客の一名ブルルン・ブルンデッドは五の分もしないうちにトカッガに突っかかる。
「逆、良いことがあった、喜べブルルン」
「呼び捨てするとは良い度胸ダダ! 無能の癖に俺に喧嘩を吹っ掛けるかアア?」
「別に喧嘩しに来たんじゃな、えっと髪はここだったか」
 トカッガは左最奥に座るブルルンにゆっくりと接近して左前足でブルルンの左前足に紙を掴ませた。
「蹄に上手く挟んだなアア。どれどれ……何イイ! どうしたんダダ!」
「何って決まってるだ、明日から俺達六名は防波堤を奪還しに行くん」
 突然の前線派遣に頭が混乱するブルルン。それを想定していたトカッガはこう説いて納得させる。
「仇をとれとも言わ、過去を清算しろとも言わ、もう一度生きる目的を見出してみな。
 俺は確かに無能、お前を死なせるかもしれ、でも生きる目的なら与えられ。
 行こ、運命の堤へ」
「フンン! 俺に生意気言うんだなアア。わかったゾゾ! これはお前に課せられた使命なんだなアア。見届けてやるゾゾ! お前の最後を見るまでなアア!」
 こうしてブルルン・ブルレットは部下になった。
「ありがと、了承してくれ」
「酔っぱらっていたから引き受けたんダダ!
 これじゃアア、今日の酒はここまでだなアア!」
 ブルルンは勘定を払った--三十二年物の稲目酒でお椀二杯分のを。
「それで他四名は誰何だアア?」
 ブルルンが質問する内にまた一名入ってきた。名前は蘇我カマ汰。居酒屋に来ては五杯以上の酒を飲んでは次の日に二日酔いを起こす雄。酔いが覚めない内からまた酒にありつこうと入ってきた。
「いででス、母さんス! また六十八年物の良房をス! いででえス」
「酔いが覚めてないでしょの? だったらあげませんやわ」
「それはいででないでしょう母さんス。酒は某がいででス、同僚から離れたい気持ちにさせるのにス!」
「死から離れる方法は他にあ」
 え--カマ汰はトカッガが何を言おうとしているのか予想つかない。思考しようと二日酔い気味の脳を回転させる前にトカッガは一枚の紙を右刃甲に乗せた。
 カマ汰は左刃にとって読み上げる。すると--
「はス? どうゆうことだス? どうして某がお前の部下になるんだス?」
 突然の出来事から二日酔いを忘れたカマ汰は明日からヒラリー班員になり、防波堤奪還任務に就く事を疑いかかった。そんな状態を解くべくトカッガは訴える。
「相変らず疑り深い、何かの間違いだと思いたい気持ちもわか。
 俺だって支部長に任命された時は疑った、何かの間違いだと。
 でもそうじゃないんだよカマ汰、これは支部長が俺に与えた最後の機会なん。
 それと同じようにお前も最後の機会だと思え、そうすればようやく仲間の死から逃れられ。
 これはその為にある任務なん」
「お前もいっぱしに言えるようになったじゃないかス。ただ生意気ながら反論させてもらうス!
 仲間の死から逃れ会いのは何も某だけじゃないということを理解しろス!
 いででまた頭が痛くなってきたよス。明日の任務まで引っ張ったりしないだろうなス?」
 回りくどく蘇我カマ汰は部下になった。
「あやわ。今日はなしと言う事でいいかしやわ?」
「そうなるなス。いででス、昨日飲み過ぎてやっぱり痛いス。某は店を出--」
 カマ汰が店から出ようとすると駆け込むように次の客が入ってきた!
 どわ--カマ汰は後方に吹っ飛びトカッガが取った単客席の後ろ側をぶつけて両眼を回す。
「いだいなーあ。折角酒飲みーにやってーきたのに」
 駆け込んだ客の名前は佐藤パト恵。酒に滅法強く、十杯以上飲んでも酔いを起こさない。彼女は元々真鍋傭兵団に所属していたが酒による遅刻・欠勤が相次いだ為、素行に問題があるとして解雇された。だが、彼女の実力は一級物であり、真面目に働いていたなら今頃は支部長を任されるとも噂された。
 そんな素行に問題があるパト恵にトカッガは紙を持って近付く。
「まーさか何? おー誘いは犬ー族の雄ーしか引き受けーないわ」
「そのお誘いじゃな、俺の誘いは君の実力を試す機会」
 パト恵の頭上に紙を置く。彼女は紙を床に落とすとそれを文字がある面を上にしてさらっと読む。
「へえー。私はー君の部ー下になーるんだあ。それで前線かーら五の年以ー上も離れたー私に今更ー何を期待するの?」
 へそ曲がりなパト恵を納得させるべくトカッガはこんな事を言ってのける。
「見返していないと思わな、当時お前を解雇した真鍋傭兵団。
 三十体を相手出来ると謳われた佐藤パト恵が素行が良くない理由であえなく実現出来なかった悔しさを力に換えて傭兵団を見返すん。
 お前は今もその気持ちはあるはず」
 パト恵は正直解雇された悔しさを持ち合わせていない。
 彼女にとっては酒を飲めない生活は死んだも同然。辞めて清々出来た--そんな気持ちが大部を占めた。
 けれどもそれが却って自ら死んだ生活を強いるとなれば一体何の為に辞めたのかわからない。そのまま死んだ生活を続けて五の年が過ぎた。
 そしてトカッガから示された生きる道--彼女が酒を飲む理由は戦場の疲れを癒す事--そこへ戻ろうと決意させる!
「さあ前線ー復帰もーしたし、パタ音エエ! お祝いのー酒を鱈腹ついーでくれない?」
 こうして酒塗れになりながら佐藤パト恵は部下になった。

 午後九時十五分十二秒。
 トカッガはカマ汰を先程まで気絶させた椅子に座りながら目的の物が現われるのを待つ。
(遅いなコケ真、道に迷った)
 思考しながら四、五名目の部下を待つが堪えられず酒を頼もうとしたら--
「わわっす。今日はかみさん断られてるのに何すっしイン歌!」
 現われたのは下戸な青年蘇我コケ真とアリゲルダの秘書を務める蘇我イン歌。コケ真は酒を飲まされる危うさがある故に恐妻によって居酒屋に行く事を勧められていない。こうして彼が来たのはアリゲルダの命令を受けてイン歌が襟首を掴んでここまで運んだお陰だ。何故ここに連れてこられたのかはトカッガがコケ真とイン歌を選んだから。
 二名が来た事を確認するとすぐに二枚の紙を渡した。
 一名は事前に受け入れたので問題はない。だが--
「あっし! 何だ何だっさ? こっれは何の腰砕けっさ!」
「見ての通り俺はコケ真を引き抜くん、防波堤奪還任務で。
 反論あるなら言って見」
「あるよっし! おらは知っとの通り臆病者だっし。軍者に憧れっし国家神武の試験で辛くなってお宅の真鍋傭兵団に入ったっし! でも銀河連合の恐さを知って自分が場違いだと感じて僅か一日で辞めたっす! そんなおらを入れても何の役に立つっさ!」
 蘇我コケ真は戦う以外の方面でも腰抜け振りを披露する。土木工事をしても汗かくのが辛くて辞めたり、八百屋の仕事も接客で気を遣うのが苦しくてすぐ辞めたり、製造現場でも流れ作業の重圧に耐えられずに辞めたりとあらゆる方面で根性無しを見せつける。
 そんな特になりそうな部分が見当たらない雄をどうして引き抜くのか? それは--
「役に立つ、何故ならお前がいると何だか上手くゆく気がするん」
 役に立つ部分があった。それは強運に恵まれている所だ。その証拠に彼が働く場所では何故か死者が出なかったり、天気が快晴だったり、具合の良くない案件が極小だったり、商売繁盛したりと運を惹き付ける才能がある。
「確かにコケ真ちゃんが来る時に限ってうちの店は繁盛するよの。今日なんて昨日の半分しか来てないやわ」
「偶然だっし! 思い込みすぎだっす!」
 それでも強情なコケ真に対してトカッガは釣らせてみる。
「そうか、思い込み、そうじゃない。
 お前が来た頃の傭兵団について支部長はこんな評を出してい。
『コケ真はどうしようもない新者だ。あいつがいなくなって辛い事は折角昨日では死者数が最小になったのにまた増加した事くらいか』と。
 つまりこうゆうこと、支部長はお前の運を高く評価している証。
 どう、もう一度そんな評価を受けてみな」
「うぐぐっす! おらを釣らせよう立ってそうはいかなっそ!
 で、でも評価される事は全生命にとっては有り難いこっす!
 ま、まあいつでも逃げられるなら引き受けても……いや引き受けっす!」
 流れるままに蘇我コケ真は部下になった。
 コケ真引き抜きに納得いかないイン歌はトカッガの左耳元まで近付くと小声でこう言う。
「いいのかな? どうせにげますよ、こんなこしぬけは」
「その為にお前が居るんだ、偵察と監督を任せ」
「とししたのいうことをききますか?」
「お前の方が先輩だ、部下になったからには俺の命令に従うん。
 わかった」
 へいへい--嬉しくなさそうな顔をしながらも蘇我イン歌は部下になった。
 こうしてヒラリー特別班は居酒屋『大人の隠れ家』で結成された。
(部下を死なせずに達成出来るの、無理な話だ。
 俺は六度も部下を死なせてき、今回もないとは限るの、いや後ろ向きはまた同じことの繰り返し、今度はもう後がな。
 ならばこそ俺は後がなさそうな連中を部下にしてやった、こいつらとならいける気がするん、支部長も覚悟を決めた以上は俺も覚悟を決める時だ、って今まで覚悟無かったようなことだ、別にそうじゃな。只今回だけは何か異なるような……ええいややこし。
 明日の出発まで考えるのを止め)

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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