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一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾(三)

 三月十五日午前九時一分二秒。
 場所は馬子市中央地区真鍋傭兵団馬子支部。縦に長い建物。その最も奥にある支部長室。
 中に居るのは三名。窓近くで椅子に座るのは支部長ヤマビコノアリゲルダ。彼の肉体は服で隠れていても扉近くで見る者にはすぐに引き締まった筋肉がわかる。彼の日課は筋肉鍛錬。過去を乗り越えても日課を怠る気配は感じられない。
 アリゲルダの左隣にいるのは齢十九にして一日目になる蘇我インコ族の少年。弱冠十八にしてアリゲルダの秘書を務める者だ。両眼の視力はインコ族の中で一、二を争うくらい高く、成人体型百くらい先にいる生命体の黒子がわかるほどである。彼の名前は蘇我イン歌。一応名前に反して雄である。
 そして扉付近にいるのはトカッガ・ヒラリー。彼は前線に復帰しようとしていた。既に点呼は終わり、本題に入る。
「早速だがどうして君のような者を前線復帰させようと考えたのかを説明せねばなるまいがん。わしはっが、君よりも君の能力を高く買ってるつもりなんだっぞ」
「それがわたしめにはどうしてもりかいできません。どうしてとかっがのようなぜんかのおおいようへいを?」
「前科っざ? 何の話かなっが?」
「支部長、それについてはイン歌と同じ意見で、どうして俺のような部下死なせを採用したん」
「だから説明するから今は二名とも黙ってるんだがん」
「「はは」」
「では話そうっぞ。今回トカッガ君に仕事して貰う事は廃赤兄村より北に位置する防波堤の奪還だがん」
「防波堤、あそこには鼠算の如く銀河連合が増援する為に傭兵団は奪還を断念したので」
 防波堤--それはアリスティッポス大陸を占拠する銀河連合の侵入を防ぐべく国家神武が真鍋傭兵団とシャクルズ傭兵団が協力して作り上げた全長成人体型二百はある巨大な堤。
 構想はICイマジナリーセンチュリー八十六年八月一日。着工は九の年より後の
ICイマジナリーセンチュリー八十八年十二月五十六日。完成は二十の年より後の
ICイマジナリーセンチュリー九十三年十二月百二十三日。悲しい事に完成から僅か三の日より後に
銀河連合に占拠された。
 それ以来国家神武及び真鍋傭兵団、シャクルズ傭兵団は奪還する為に四の年くらい
間に六度も部隊を送ったが必ず敗残兵が帰ってくる始末であった。三者はとうとう派遣
を断念した。
「--そうゆうれきしがあるのですよ。そんなところにいまさらはけんですよ。しかも
しょうすうでなおかつぶかしなせのとかっがをはんちょうにするのですよ」
「余計な事まで喋りすぎだがん、イン歌っざ」
 はい--そう返事しながらイン歌は影の面積を広げるように下を向く。
「そんな難攻不落と思われる防波堤をどうして少数の要員と君の指揮下に置くのかっざ。
それは五つの理由があるっぞ」
「五つの理由、馬や鹿みたいなことはあまり俺に--」
「わしが話している時に口を挟まないで貰おうがん、トカッガっぞ」
 申しわけありませ--そう言いながらトカッガは胸に潜る勢いで頭を下げた。
「では説明するぞん。一つ目は手っ取り早く頭を倒す為だがん。どんな組織であっても
指揮官という名の頭脳を死なせては機能しなくなる。そうなると数と実際の戦力は比例
しないという訳だっぞ。
 二つ目がなるべく戦死者を少なくする事っぞ。死は私情では真に悲しいっぞ。遺族への
説明は大変心の折れる作業だっず。公情では戦力低下に繋がっぞ。だからこそ組織は
要員を送るのを渋る訳だっざ。わしの場合は後者に当たり、なるべく少数で達成して
貰いたいっぞ。
 三つ目がわしの昇進だっぞ。わしは昇進したくてたまらないっぞ。昇進すれば
真鍋傭兵団を今よりも円滑に動かせると信じて昇進を望むがん。勿論罪深い事は良く
わかっているつもりっざ。死んだら神様にたっぷり叱られるつもりでいるよっだ。
 四つ目は非常に重要な事だが防波堤を破る事っだ。防波堤は奪われて十二もの歳月
が経っぞ。仮に奪還出来てもまた奪われっだ。それだけの年月が経てば真正細菌型に
よって維持と浄化に大変な労力が伴われっざ。ならば破る以外に他はないがん。
 最後はわし自身の私情だがお前に期待している事だがん。これには親友である
トカーゲン・ヒラリーからの頼み事でもあるだがん」
 五つの理由を聞いたトカッガは最後だけは納得しなかった。それは何も彼だけでは
なかった。
「いつつめのりゆうがなっとくいきかねますしぶちょう。いくらしじょうでもどうしてぜんかの
おおいかれを、しんゆうのたのみごとひとつではんちょうにするのですか?」
「俺も同じ意見、兄の頼み事は俺を助ける為じゃないの、なのにどうして部下を死なせて
ばかりの俺を--」
「トカーゲンの遺言っが。真の意味は何があっても最後まで君を信じる事にあるっだ。
 彼は誰よりも君の能力を信じていたのだがん。それは引き抜いたわしも同じ考えだ
がん。君ならいつか必ず果たせると信じてっだ!」
「納得いきかねま、俺みたいに良くない結果ばかり残す者を--」
「前向きに考えっが!
 それに君を見ていると昔の自分を思い出して仕方ないっがん!
 かつて多くを死なせて後ろばかり見た昔のわしをながん」
 説得力あるのか層でないのかよくわからない事を聞かされて反論しようか悩むが、
アリゲルダの性格をよく知る二名はそれをせずに了承した。

 午前十一時十三分三十二秒。
「--という用事でお願いしま」
 トカッガは共に行動する傭兵を決定した。
「ずいぶんとじぶんのかんとははんたいのようじにしたね。これでまたししゃがでたら
どうすんの?」
「いや彼等なら生きて戻れ、何しろ俺の勘が『こいつらなら死にそうだ』と告げる以上は
大丈夫で。
 俺の勘は外れる自信はありま、ならば予想より反対の用事でいいだろ」
「成程なっぞ、考えたがん。よし、採用しよっぞ!」
 選ばれた五名の書類に--特別班--の判子が押された。
「はは、ありがとうございま」
「だがこれだけは言わせてもらうがん。必ず生きて奪還しろだがん!
 それを守り通せっざ!」
 必ず生きて奪還しろ--その言葉を胸にトカッガ・ヒラリーは退出してゆく。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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