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一兆年の夜 第三十四話 袋の鼠(七)

 フランの死から三の時が経過。光が薄まる時間帯。
 三名はここにきて空腹感と排泄物処理を催す。
(こんな時にわいが恐れちゅ生命活動の痛みが来るとは。しかも三つの内の二つか。尿は匂わなければどうちゅでもなるけど空腹は早々我慢出来ない。三つの中で最も重要な痛みだ!)
「サム兄、どこで用を足せばいいでちゅうか?」
「御覧の通りこの辺には厠はない。今なら漏らちゅ、わいのせいにしてもいいから!」
「そうはいかないわ! チューバッハ君のせいなんて罪深いことよ! 漏らちゅたら自分のせいにちゅるんだから」
 全生命体は他者のせいに出来ない--サムソン・チューバッハにとって長年の疑問の一つはこれも世界観補正の賜物だろうか? 学者肌の者は今ではチュンナ只一名となった。そんな彼女の専攻は家庭科。相談に乗れない疑問であった。
「チュンナ姉が我慢するならオラだってちゅるさ! 一名だけ漏らすなんて恥ちゅかしくて面前を歩けないよ!」
「三名揃ってか。銀河連合相手に隙を突かれる理由がまたひとちゅ出来たな」
「しょうがないでしょ。問題は虫さんの方よ。早くここから出ないと銀河連合に遭遇ちゅたら生きて抜けられなくなるわ!」
「とは言ってもオラ達さっきから回っちゅるように感じるけど気のせい?」
 気のせいちゅない--サムソンは改めてチュンナの描いた図を思い出す。
「あなたの考えることはわかっちゅわ。皺が寄ったけど見る?」
 無言の了解をしながらサムソンはチュンナの描いた図を受け取るとそのまま眺める。
(やっぱり。わい達は閉じ込められた場所の周りを移動しちゅるんだ! 何か描ける物があっちゅら苦労しないんだけど。どうやらあれは物置小屋に置いていったんだよな)
 袋の中に入る鼠--今は亡き張鋳汰が伝えた諺。窓の向こうへ辿り着いても待っているのはもう一つの閉鎖空間。一体どこに脱出口があるのかわからない状況。三名はそれでも脱出に繋がる物を探そうと周り続ける運命なのか?
「チューバッハ君。このままではわたい達は--」
「もう気付いちゅる! だからって中に入ったらあいつらが待ち構えているに決まっちゅる! 何せ音を頼りに追っていけばいいんちゅから」
「あのお?」
「何だ? 何か言いたそうだな、チュミシタ!」
「音で思いちゅいたんだけど脆そうな壁も音で調べれば破れるんじゃないかな?」
「そんなのどうやってわかちゅってい--」
「いえわかるわ! どうしてこんな方法をわたい達は思いちゅかなかったのかしら! きっと田中さんは気付いたわ! ボスだって必ず気付いてたし、フラン姉さんも何となくそんな方法を先に思いちゅいたわ!」
 チュンナ以外の二名はどうしてそれが画期的な方法なのか判然としない様子であった。
(音を出すなんちゅ逆に銀河連合を知らせかねないんだぞ! 今も後ろの方で奴等が待機してるかも知れないってのにそんな賭けごちゅとなんて--)
 キイイイイイエエエエ--中にまで響かせる叫び声をチュンナは放つ! 間近で聞いた二名は思わず両耳を前両足で塞ぐ!
「鼓膜が破れたらどうちゅるんですかチュンナ姉!」
「チュンさんは碌でもないことをしや……いやこれならいけちゅかもわからんぞ!」
 サムソンはようやく音による方法の意義に気付く。本来脆い壁を調べるのは一の日を懸けても困難な作業。しかし、響かせた音を周りに放つとその作業は効率よく捗れる。彼女はそれを自らの咽に力を入れて実践して見せた!
「無理ちゅんなよチュンさん。只でさえ尿と空腹で力が出ない身。無理だったらわい達に変わちゅんだ!」
「平気よ。でも後二回ちゅたらあなたに代わるわ。いいわね?」
「オラにも代わっていいんちゅよ! こう見えてボスに次いで肺活量が大きいんだから!」
「チュミシタは出来る限り見張りをしてくれ! そっちも交代交代でやちゅんだからさ!」
「アイアイサー!」
 三名はそれぞれの役割を決めると僅かな希望を胸に行動開始!
 現在位置は一回目の叫びで判明。それによるとチュミシタが目覚めた場所の外回りと判明。脆い壁については結果として全て外れ。
 三名は移動を開始。それから二十の分より後、二回目の叫び声を放つ。場所はチュウ太郎が目覚めたであろう場所とチュミシタが目覚めたの間の外周。そこは図には示されない余白だらけの場所。結果は当たりを引いた。
「はあはあ、五回以上は覚悟したんだけどまさか脆い壁が見ちゅかるなんて!」
 チュンナだけではなかった--他二名も二回目で当たりくじを引いた事に驚きの様子だ。
(これも『世界観補正』の為せる奇跡なのか? 奇跡は二度は許ちゅるのか?)
「まあいいじゃないか! それで脆い壁はどこにあちゅの?」
「ど真ん中よ! チューバッハ君、本を貸して!」
 ああ--サムソンは窓硝子を破った厚紙本をチュンナに向けて放り投げた。彼女は両前足で掴むと左に一回転後に脆いと思われる壁目掛けて本をぶつけた!
 壁は予想通り破れて、中から厠と思われる部屋を露にした。
「やったわ……じゃあ行きまちゅう!」
「そんじゃあオラが先頭を……切る訳にはいかなくなっちゅよ!」
 え--サムソンが呟くと同時に左方より急接近する影が容赦なく三名に襲いかかる!
「まだ見張りは終えちゅないんだよおおお!」
 チュミシタは自分でもどうしてそんな行動を取ったのかはまるでわからなかった。只はっきりする事は自分もまた使命を果たす時が来たというわかりきった事であった!
 影が見えた--正体はピューマ型!
「無茶だチュミシタアアア!」
「もう尿は我慢ちゅないぞ!」
 チュミシタはピューマ型の頭上に飛び上がると尿を前回に浴びせた--ピューマ型は予想外の攻撃にたじろいでしまった!
「チュミシタ! それは一時凌ぎよ! いずれは--」
「わかってまちゅよチュンナ姉さん! どうかお幸せであれ!」
「まさか死ぬちゅもりか、チュミシタアアア!」
 チュミシタはピューマ型の襟首を掴む! 歯を立てる暇もなくピューマ型は急発進してチュミシタを振り払おうと試み始めた!
 そのまま右に一回転、二回転……と円を描きながら五回転目で右方に定めるとそのまま死の競争が始まる--チュミシタは永遠に戻らない競争を!
「……行こうチュンナ! あいつみたいなしぶちゅい雄がこんなことで死なないよ!」
「また呼び捨てね。これで三回目よ。わかっちゅるわ、あなたの言いたいことは!」
 四名の想いを無意味にしない為にもここから出る--二名は部屋の中に縄を垂らすとそれを伝って降りた。
「見た感じ厠だけど密閉させる意味あちゅかしら?」
「厠なら尿漏れの心配はないかもな」
「見たところ雌用の厠ね。雄用だったら尿だけ出ちゅ厠じゃないものね」
「しかもこの厠は中が確認出来ない仕様なのか? 神様は本当に有り難い存在だよ!」
「問題はこの厠……一ちゅだけね」
 一つだけ--サムソンは誰かを救う為に自分は後から入ろうと考えたが--
「わわ! 何をちゅる! ここは女性優先だろうが!」
 チュンナはサムソンに入るよう背中を強く押した!
「それは受け入れない。だっちゅもう目の前に」
「え? 銀河連合! しかもチュウ太郎を死なせた猫型! 良ちゅないよ! ここはわいが……な、何だ?」
 扉が勝手に閉まる--彼は気付いた。この厠は中に入ると公序良俗を保護する為に何かの力が働いて扉が閉まる構造である事を!
「御免ねサムソン・チューバッハ君。わたいはあなたの告白を受け入れないわ。だってわたいが生涯愛する鼠は田中チュウ太郎と決まっていちゅんですもの」
「こんな時に言う言葉ちゅないだろ! ええい、どうやって開けちゅんだよおお!」
「生涯最後に恥ずかしいことをするわ。でもこれもあなたを--」
 それがチュンナ・カテリウォットの最後の言葉となった--扉の隙間から彼女の血と思われる物が流れ出す。
「チュンナアアアアアア!」
 サムソンは慟哭する--肝試しを行い、生き残ったのはもはや自分だけという現実を!

 未明。月が一帯を照らす時間。
 森のような場所にサムソン・チューバッハは身体を濡らしながらゆっくりと歩を進めていた。
(尿は厠の中を潜る時に思い切っちゅ出しまくったな! 問題は空腹だな。それも問題ないか)
 もう一つの懸念材料である眠りが彼を誘う。もはや視界に移る物は残像を描き、平衡感覚を混乱させてゆく。
(眠れば空腹だって少しは抑えられちゅ。昔から生命は眠るこちゅを最終目標としてきたんだ。頭が良ちゅないわいはそう思うんじゃが。違うかな? はは。もう眠気の誘いをもう断れなちゅなってきたな)
 左側にある一本の木に寄りかかる。サムソンは月夜に照らされた神々達を眺めてゆく。
(ありゃあ何だか? 松明だっけ? 頭に布みたいな物を巻いた人族の女性が松明を右手で握ちゅ像なんて。
 ん、右側は何だ? 人族らちゅき顔が四つ。皆雄だな。一体何を称えちゅるだろう?
 他には巨大な三角錐の建物だが、二つあって一つはフランさんの感じがちゅる。もう一つはチュウ太郎が居たら喜びちゅうだな。
 はは、神様はみんな個性豊かだな……そうか。この場所がようや、く、わか……)
 彼はこの場所が秘境神武である事を知った。だが二度とこの地に足を踏み入れる事は永遠に叶わない--短い夢の世界に旅立つのだから。
 それから十の秒経たない内にサムソン・チューバッハは眠りにつく。その眠りには死ではなく生への実感が湧き出るものであった。
 彼は夢の中で仕掛けだらけの仲間達と肝試しを楽しむ……。


 ICイマジナリーセンチュリー九十六年三月一日午後十時零分十八秒。

 第三十四話 袋の鼠 完

 第三十五話 蜥蜴の尻尾 に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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