FC2ブログ

一兆年の夜 第三十三話 蛙の子は蛙(三後)

 午後一時四分九秒。
 場所はエウク山標高成人体型六百九十三付近。エウク山菜とエウク舞茸が比較的多く採れる場所。
 オタ留はタレス性の入れ物籠を背負い、晩御飯の材料を採る為に雄略包丁と同様の技術で精錬された雄略鎌を前右足で握り、黙々と山菜と舞茸を採っていく。
(これだけでも足りないッケロ。オタ奈はあんなに大きくなったんだッケロ。もっと採れたらいいけど無理だよなッケロ)
 大量伐採は森林を死なせる事に繋がる--銀河連合のいない古い時代の口伝。
 それによると森は命が宿っており常に自らの身を差しだしても全生命に命の恵みを与える。生命は森で採れた食物を食べる事で命の恵みを与えられる。恵みを与えられた生命は森に感謝の意を表して今日を精一杯活動する事で奉仕する。森と生命は切っても切れない関係なのだ。故に全生命は森への多大なる保護を収穫物よりも優先。収穫物が多ければ多いほど森の命は縮むのである。
(なので俺は今日の分はこのくらいにしないとなッケロ。明日、明後日とどうなるかも定かではないからっケロ)
 エウク山菜三十六束とエウク舞茸十八個を入れ物籠の中に無理矢理入れると家族のいる二棟繋がりの家に帰ろうとするその時だった--
 雷が落ちた--オタ留の目の前にあった木を縦に割るように!
 オタ留は雷光によって目を逸らす--雷光の叫びを耳が振動するくらい聞く!
(うわああッケロ! もしかして神様は俺が森から大量に採ってきたことに怒ったのか……何だッケロ!)
 オタ留は現役を引退しても勘は今も健在--後方より二体と前方より一体の気配に気付く!
(いや……一体はもしかしたら--)
「オタ留? 後ろおおお?」
 傭兵山一サンショウ五が成人体型七十まで一気に走ってきた--十秒台で走りきるように!
 オタ留は後方からの攻撃を避けると同時に持っていた鎌で突き刺した!
「こいつは蠍型ッケロ! もう一体は猪型かッケロ!」
 蠍型の頭部に鎌が突き刺さりそのまま息絶える。さすがのオタ留も猪型相手には体格差があると感じる。
 だがそこへサンショウ五が猪型の右襟首を強く噛む--口内に銀河連合の血液が広がり、猪型は生命活動を停止する!
 ブビャアアア--とサンショウ五は猪型から離れると口に含んでいた血を取り除いてゆく。
「僕は後どれくらい生きられるかな?」
 銀河連合から出されるモノは生命にとって益にならない。寧ろ病を併発する恐れのあるモノばかりだ。その知識を知ってかサンショウ五は呟くがオタ留は--
「寿命の話はいいよッケロ! それよりもどうしてここがわかったッケロ!」
「ああそれね? 実は思い出したんだよ? 僕が山に登る目的を?」
 山に登った理由--オタ留は一応頼りないとはいえ先輩であるサンショウ五の話を聞く。
 それによるとエウク市に住む生命がエウク山に登ったきり行方がわからなくなる事件が発生。事件の発端は五の年より前に遡る。当時エウク市に滞在中の登山家でタゴラス蜥蜴族のトカーゲン・ヒラリーがエウク山に挑戦したきり失踪する事件が発生する。
 すぐさまエウク市は五の年くらいかけて第三十二次も調査隊を派遣するも全て失踪。その間にも市の警告を無視して登山する者が相次ぎ合計四十二万名もの生命が行方知れずとなる。痺れを切らした市は大枚懸けて真鍋傭兵団に要請。派遣されたのが九の年より前におけるラテス島に棲みつく大樹型銀河連合を倒した英雄の一名山一サンショウ五であった。
「成程ッケロ。それならサンショウ五さんが派遣するのも無理はないなッケロ」
「気になることがあるけど? 最近オタ留の所に客者は来たかな?」
「いやッケロ。それがどう……おかしいッケロ!」
 雷鳴響く中でオタ留はある疑問に気付く!
(ここに来たのは七の年より前ッケロ。オタ奈の為に俺達夫婦は蛭戸の薦めでここに移り住んだッケロ。それ以来俺達は実の子供のみならず銀河連合であるオタ奈も同時に育てるという苦労が始まったッケロ。それはいいッケロ。
 気になるのはサンショウ五さんからの話ッケロ! 五の年より前から事件が発生したのならオタ奈の急激な成長と僅かに匂う鉄の……そんなはずないッケロ!
 そんな--)
 考える間もなく四方から合計四体もの銀河連合が襲いかかる! サンショウ五は思考中のオタ留を尻尾で家の方角に突き飛ばした!
「サンショウ五さんッケロ!」
 サンショウ五は四体同時に相手しながら--
「行け? ここは……わわ? 僕が死ぬ気で……うわわっと?」
 さすがに四体を相手に中年真っ盛りのサンショウ五も苦戦を強いられる。
 そんな様子を見てオタ留は--
「わかったッケロ! 俺も引退した身とはいえ傭兵だッケロ!
 晩御飯を持ち帰るのは諦めるよッケロ! その代わり俺は家族を守る為に帰るッケロ!」
 徐々に掠り傷が増えるサンショウ五を背にオタ留は飛び跳ねてゆく--自らの考える恐るべき事実にも背を向けながら!

 午後二時四十二分九秒。
 場所は標高成人体型七百六十五付近。川上家の住む二棟の家。
 雷鳴が轟き、今にも大雨が降りそうな天気。
 東側の玄関前にオタ留は立ちつくす。辺り一帯に自分の子供と思われる死体の欠片を避けるように。
(他の生命にはわからなくとも俺とオタ実はわかるッケロ。全て俺達が愛情込めてつくった三十三名の子供だよッケロ。本当じゃないはずだッケロ!
 中にはオタ実が--)
 玄関をゆっくり開ける。すると中からオタ奈に良く似た物がオタ実の死体に性的行為をしながらゆっくりと食べてゆくのが視界に入る。それでもオタ留は現実を受け入れようとせず戸をゆっくりと閉める。
(ががあががっけけけろろろ。ああああれれれはははゆめなんだなななだだけけろろ。
 ……夢なんだあああああッケロおおおお!)
 もう一度中を開けるとそこにはオタ実の死体を見て震えていると思われるオタ奈の姿であった。
「ははっけけろ、生きて、るのッケロ?」
 これは夢……なのか--オタ留はオタ実の死体を見て悲しみが増幅されながらも「オタ奈が無事なら自分は生きられるッケロ」と呟く。
「さあ父さんの所においでッケロ」
 オタ奈はゆっくりと彼に近付いてゆく。感動の親子再会……何てモノは銀河連合にあろうか!
 オタ奈はオタ留の懐に入るとすかさず大きな口を開けてオタ留を食べようとする--
「があああ--」
 髪の毛一本を捨てるギリギリの瞬間でオタ留はオタ奈を玄関前まで投げ飛ばした--ここに来て彼は傭兵としての危機回避能力を最大限に生かす!
「オタ奈あああッケロ!」
 オタ奈と呼ばれる銀河連合に振り返りながら叫び声を上げるオタ留。銀河連合蛙型は笑ったのか?
「何が面白いッケロ? 死んだんだぞッケロ! 家族が死んだのに笑う生命がどこにいるッケロ!」
 蛙型は飛び跳ねながらオタ留の周囲を移動--腰砕けに彼を笑う。
「死んだ生命は戻らないッケロ! そう散々教えたというのにどうしてそんなことが出来るッケロおおおお!」
 蛙型は後ろから唾を吐く。我慢の限界に達したオタ留は持参した鎌で振り返り様に攻撃!
 蛙型は後方に避けるが、反応が早いのかオタ留は蛙族の特性を生かして懐まで一気に跳躍!
 蛙型は鎌を避けながら後方から大きな口を開けてオタ留を食べようとする!
 だがオタ留は--
「俺に傭兵時代の勘を思い出させたのがいけないッケロ!」
 口内にある舌目掛けて鎌を振り落とす--蛙型は舌を切られた痛みでのたうち回る!
「これでわかっただろッケロ。おたなが家族に与えた痛みというモノをッケロ」
 十の分経過してようやく痛みが和らいだ蛙型は命を乞う。
「助けてほしいのかッケロ。そうだよなッケロ。俺だってお前を死なせたくはないからなッケロ」
 どんな姿であっても自分の子が可愛いオタ留は蛙型の命乞いを受け入れて鎌を足離す--とこのまま仲直りすればどれほど夢物語でいられようか。
 突然蛙型は離した鎌を拾うとそのままオタ留の前右足を切断する!
「があああああっけろおおおお! おたなああああっけろろろおおおお!」
 振り上げた鎌はそのままオタ留の頭上目掛けて落ちゆく……。

 午後四時零分零秒。
 雷鳴は鳴り終わり、待っていたのは赦しを容れない神々による怒りの雨だった。
 サンショウ五はオタ留の様子を見に東側の玄関の中を見る。そこには前右足が切断されて血が溢れ出ながらも前左足で鎌の付け根を握るオタ留の哀れな姿が見えた。彼の足下には最愛の子と思われた銀河連合蛙型の死体が胸に大きな傷跡を残して仰向けに倒れていた。
「オタ留? 包帯で巻こうか?」
 首を横に振る--彼はもう生きる気力のない生命と成ってしまった。妻であるオタ実が死に、血を分けた三十三名の子供も命を落とした。更には自らの足で精魂懸けて育てた蛙型を死なせる。こんな状態で生命はこの先どのように行きようか? そこまで生命は強くない。肉体的に充実しようと精神は今も硝子細工のように脆い。
「俺は……もう……生きる目的は……」
 お節介焼きなのかサンショウ五は包帯を見つけると素早く彼の前右足の切断面一帯に巻いてゆく。血を止めるには至らないものの少しは出血は抑えられる。後は--
「それまでにオタ留が持ち堪えるか?」
 この先彼が生きたのか死んだのかはサンショウ五と周辺の者にしかわからなくなってしまった。ただこれだけははっきりするだろう。
 遠すぎる過去の世界に於いても蛙の子はどこまで行っても蛙でしかないという事実を……。




 ICイマジナリーセンチュリー九十六年二月百九日午後四時四分四秒。

 第三十三話 蛙の子は蛙 完

 第三十四話 袋の鼠 に続く……

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
リアルタイムカウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR