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一兆年の夜 第三十三話 蛙の子は蛙(三前)

 二月百八日午前三時二分一秒。
 神々の怒りに触れたのか、現在の天気は雷が鳴り続ける。
 一名の傭兵が標高成人体型七百六十五付近にある伏流水と共に二棟繋がりの家を発見する。
「やっと休める? 僕の目は隈だらけ?」
 ラエルティオ山椒魚族の傭兵は東側の家にある玄関の引き戸に前右足平で三回叩いた。
 反応がない--と呟いた後、同様の方法を繰り返す。すると中から跳ねる音が聞こえる。そして引きとがゆっくりと開いた。中から齢三十の熟女が顔を出す。
「どちら様ですかッケロ?」
「あの? 僕はラエルティオ山椒魚族の山一サンショウ五と申します?」

 百九日午前七時二分十七秒。
 川上オタ留は困り果てていた。
(いくら真鍋傭兵団であってもこのままこいつを滞在しぱなっしにすると家計が危なくなるッケロ!)
 困りの種は山一サンショウ五であった。
「いやあ美味しいね? ユークリッド地方も案外良いかもしれない? だってこんな美しいの奥さんや可愛いお子さんばかり居たらいつまでもいたいね?」
「もう帰れッケロ! サンショウ五さんがいつまでも滞在してたらこれから先ッケロ、食べ物に困って死んでしまうッケロ!」
「あなたッケロ! いくら『元』とはいえ先輩傭兵の山一さんに向かって礼を失しますわッケロ!」
「ウグッケロ!」
「どうやら奥さんに軍配が上がったみたい? おかわりー?
 ちなみに『軍配』って言葉はいつから流行ったの?」
「『ぐんばい』はねオタ。しんこっかじんむこうけんしゃのいちめいだったあらうんさんがつくったのだってオタ」
「まあ凄いッケロ! オタ一はもうそんな難しいことをスラスラ言えるようになったのねッケロ!」
「アラウンかあ? ところで『アラウン』ってどんな者?」
「やたがらすぞくのおすだよオタ」
「八咫烏? 確かもうこの世には存在しなくなったね?」
「仕方ないだろッケロ。八咫烏族は鬼族以上に繁殖に恵まれない種族だと聞くッケロ。
 ……っていうか今疑問に思うことがあるッケロ!」
 オタ留はようやく山一サンショウ五が何しにこの山に登ってきたのかを尋ね始めた。
「八咫烏族はまだいるんじゃないかってこと?」
「それは後にしていいッケロ! サンショウ五さんは何しにこの山へ登ってきたのですかッケロ?」
「あれ? そういえばどうしてだっけ?」
 『どうしてだっけ』はこっちの台詞だッケロ--と夫婦揃って思考した。
「まあいいや? 思い出すまでしばらくの間泊まって良い?」
「それだけはやめてくれッケロ! サンショウ五さんのせいで俺達家族が生活出来なくなったらどうするッケロ」
「あなたッケロ。その時は私がしっかり切り詰めてみせるわッケロ! 何たって私はあなた以上に働いている女房ですもんッケロ」
「雄は辛いよッケロ」
「おとんはじしんもとうオタ」
 ありがとうオタ助ッケロ--と第二十一子のオタ助に慰められるオタ留であった。
「そういえば? 何だろうね?」
「どうしたんだサンショウ五さんッケロ?」
「僕から疑問があるけど? ここって珍しく二棟構造だよね? どうして?」
 夫婦の表情は少し曇り始める。
(あのことを言うべきかッケロ? でも『オタ奈』に関してはまだ者前で見せる時期じゃないッケロ。あいつの容姿は俺達が倒さねばならない銀河連合そのものだからなッケロ。だから--)
「じつはあそこにいるのはぼくたちのあにき『おたな』がいるオタ」
「コラオタ江ちゃんッケロ!」
 第十七子であるオタ江は純粋無垢な幼児らしく隠し事せずはっきりと『オタ奈』という存在を明かした。
「オタ奈? えっとこの中にオタ奈は居ないってこと?」
「そッケロ、それにつきましてはそうであります山一さんッケロ」
「じゃあどんな者か僕に見せてくれる?」
「それはまだ出来かねますッケロ。何故ならあの子は私達夫婦の本当の子ではありませんッケロ」
「はい? つまり養子をとってるわけ?」
 そうですッケロ--と子供達には「静かにするように」と身振り足振りをしながらサンショウ五と会話するオタ実。
「じゃあどうして僕に見せられないわけ?」
「実はオタ奈は生まれた時から重度の病にかかってましてこれは名医スネッガーでも除去出来ないと判断された次第でございますッケロ」
 明らかに真実ではない。川上家は一度としてスネッガーに会った事はなかった。スネッガーはもうこの世にいないという事実も含めて。オタ留の語るそのような明らかにわかる真実味のない事を信じる者がいた。
「スネッガーは名医だったね? かつて僕らと共に命をかけた医者がいたね? その方もかなり腕が立ったよ? 病じゃあ仕方ないよ?」
 全生命体は度し難いほど信じすぎる者達だ。その中でサンショウ五は性格上疑いの浅い者であった。

 午後零時八分三十二秒。
 ようやく山を下りてゆく山一サンショウ五を見て夫婦は安堵の溜息をついていた。
「これからは節約する時期が来たみたいねッケロ」
「ああッケロ。サンショウ五さんは昼飯まで食うから困った方だよッケロ」
 結局何しに来たのかがわからなくなった。只これだけははっきりする。
 エウク本部は派遣する者を間違えた--という事実をな。
「さあ只飯くらいが帰ったら俺は日課である山菜と多種多彩のきのこを採りに行くかッケロ!」
 別れの言葉を交わした夫婦はそれぞれの日課を改めて始める。
「今日もオタ留さんが自己主張の強いきのこを採らないことを願いますよッケロ」
 自己主張の強い茸とは食べると体調を激変させ、下手をすれば想念の海に旅立たせる茸の事である。そんなどこにでもありそうな事を考えながらオタ実は家事に追われていた矢先--
「ねえおかあさんオタ」
「なあにオタ香ッケロ?」
「おたかずにいちゃんとおたえちゃんはどこにいったのオタ?」
「水遊びしてるんじゃないのッケロ?」
「みずあそびはさっきやったばかりだよオタ。
 みんなといっしょにかえってきたのに……あらオタ?
 おたすけちゃんもいないオタ。どうしてオタ?」
「えっケロ?」
 オタ実は体内で凍えるようなモノが湧き出る--見えない恐怖であった。
 やがてそれは川上家を絶えさせる恐ろしい出来事になろうとはまだ誰も予想出来なかった……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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