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格付けの旅 プロローグ 魔術師デュアン

 格付士……それは世界中のあらゆる物事を正確に定義づける者達。
 彼等は公式に格付依頼された物事しか定義づけない者もいれば、非公式に定義づける者もいて、更には公私問わず趣味の範囲内なら何でも定義づける者もいる。そうゆう連中に共通する者は居たってシンプルにレッテル貼り。物事を勝手に定義づけるという事故に皆から嫌われ、憎まれ、蔑まれる。
 そんな格付を存在意義そのものにする者が何の為に来たのかわからない宇宙に飛び込んだ。
(宇宙は絶対零度。この定義が崩されるとしたら恐らくは絶対零度の色はもわからぬ愚か者が現われる時……俺の事だな)
 彼は自らを愚か者と蔑む……いや褒め称えながらも生身で宇宙の内部に通じる入口を探る。
(実際は生身じゃない。俺の周りで蠢いている経典を御存知か? こいつには超高性能な顕微鏡で覗かないとわからない無数の魔術二進法が記されてある。そこに記される中には宇宙空間に適応する魔術公式が記されてある。よって--)
 体温も呼吸も宇宙放射線対策も万全--と思考しながら目当ての数ミクロン以下の入口を発見するや否や経典を高速回転させる!
「言葉も話せるという事も追加しとくぜ!」
 わずか一秒足らずで詠唱を終えると入口に巨大な火球を叩きつけた--穴は衝撃で彼が入る大きさまで開く!
「あと一秒で閉じる前に--」
 その中に入る--同時に穴は塞がれた。

 ここはドーナツ型宇宙……中心部はバニシングワールドで収められた歪な宇宙。ここでは円を描くように進むしか目的の銀河及び太陽系に到達出来ない。それ以外の方法で進めば瞬く間に一周するという非常に歪な構造。狭い故に一度ブラックホールが発生すれば逃れる術は極めて低い。
(俺なら簡単に脱出出来るがな。何たって俺は……ん?
 誰かの悲鳴か? しかもかなり遠く? 何光年先だ? 百光年? ちょっと計算してみるか!)
 経典を適当な位置で止めるとそこに描かれる文字をそれぞれの人差し指で触れながら指定位置を割り出す!
(大体百二十から百二十一光年と五の光月か! しかも方位は宇宙南南西ときたか! ここがちょうど宇宙南西ならそこへ行くのに反対側に回るように進むしかないって事か! どうして真っ直ぐ進めないかって? それはな--)
 ブラックホール通行止め--ドーナツ型宇宙では日常茶飯事の現象。仮にブラックホールを突破出来たと仮定したならその影響は中心部のバニシングワールドに与えかねない。そうなれば目的地に到達する前に宇宙は崩壊する。
(さすがの俺もバニシングワールドを暴走させる訳にはいかない。他の宇宙にまで飛び火したら創造主達が黙っちゃいないし!)
 彼自身はブラックホール通行止めを無視出来る。しかし、バニシングワールドを止めるだけの力を使う余裕はない。
(けれどもブラックホールを通過せずに目的の、星? でいいか?
 到着するまでにもっとかかるぞ! 二百光年? いいや重力の強さにもよるが四桁の光年では収まらない。こりゃあジャン・ロドリックスも寿命を迎えちまうぜ! こんなに光が届くのが遅いようじゃあな!
 面倒なのでブラックホールを通過しよう--)
 と思わせて反対方向に進んでゆく--アインシュタインを困らせる速度で!
(光年? 距離? あいにくそんな尺度はこのデュアンには通用しない! 門番というレッテルを貼られた者は光年だって丸一週間にする術を知ってる!)
 彼の名前はデュアン・マイッダー。歴代最強と呼ばれるに相応しい魔力を持ちながらも神を愚弄する存在故に神々から認定されなかった魔術師。今回のお話はそんな彼が自分と同じく神々から嫌われた者との出会いを描く……。

 シーシェP銀河グリーンP太陽系……
 第十惑星<リューイチ>……
 この星は遙か昔、第三惑星<わとーそ>の住人が数千年かけてテラフォーミングを行う事でわとーそ人でも住める環境に成っておよそ百年が経つ。
 だが、環境が整えても惑星軌道そのものに身体を慣らすことなく移住民の内およそ九割九分が軌道後遺症で命を落とす。現在リューイチ人は数千人。男と女の比率は十七対三。いずれ種が絶えるのは時間の問題であった。
 そのような未来を憂いながらも最後の一日も欠かさずグリーンP太陽系にある他の惑星を観察する青年がいた。彼は二十四歳にして既に肩まで伸びる長い髪のあちこちに白い物を生やしていた。これは度重なるストレスによる副産物ではない。
 惑星<リューイチ>では月に五回は石灰の雨を降らし、汗を流した物はそれを浴びて酷い火傷や場合によっては死に至る被害を受けてきた。彼の場合は石灰による火傷は比較的少ない方。だが、髪に付着した石灰が毛根に染みつき、今では石灰製の髪を生やすほどの症状になった。
 彼が暮らす場所は惑星<リューイチ>の南半球に位置する絶海の孤島。その中心部にある集落<Hカー>。
 時刻は夜十時。
 今日の天気は晴れ時々水素雲、所によっては酸性雨が降る模様。現在は晴れわたる。
 <Hカー>で二番目に小さな木製小屋の北側には位置された小窓からスマートフォン式望遠鏡で第五惑星<オーT>にある四つの衛星を観測していた。
「へへ、エウロッペちゃんは相変らず可愛いね。あの氷に抱きしめられたい。それに比べてハイオンちゃんはいっつもツンツン気味だ! また怒り火を出しちゃって」
 訂正。どうやら彼は天体観測家ではなく天体観測妄想彼女愛好家のようだった。度重なる<リューイチ>の環境に精神が病んでしまい、星々を妄想彼女にする事で自慰行為をするしか道は無いと選択してしまった。
「ん? フォン(スマートフォン式望遠鏡)の視界を遮る影が見え……え?」
 ちょうど観測位置に被るように魔術師デュアンはおよそ百二十一光年と五の月光月先にあるシーシェP銀河グリーンP太陽系に到着した。かかった時間は二週間。体内時計はおよそ五日と十五時間二十四分経過。
「な、な、生身の人間が望遠鏡の映像を通して光の残像を--」
「オイ、そこの変態!」
 デュアンは望遠鏡で覗く者に気付くなり長旅で出す速度の数分の一くらいの速さで惑星内に侵入し、小屋の手前まで接近。
「ひええええ! お助けを--」
「別に俺は殺人に興味はない。それよりも星を眺めながら現実逃避するお前に聞きたい事がある!」
 どこの馬の骨とも知らない現実離れした男が急接近すればまともな思考の人間なら誰でも逃げる--青年は恐怖のあまり小屋を出た!
「ぎゃああああああ!」
「瞬時に先回りしてもらう! この太陽系に俺を楽しませるような情報はないか?」
 目的が適当な男は青年に目的を答えだそうとする。
「ぎゃあああ! 全財産は出すからどうか命だけは--」
「だから殺人に興味ないと言っただろう。それよりも何か楽しい情報はないか?」
 デュアン・マイッダー唯一はっきりする目的は格付け。左手で裾からB5サイズのノートを取り出して右手でどこからともなく万年筆を出して青年が怯えている中でも惑星<リューイチ>に関する情報を格付け中。青年は恐怖のあまり白目を向いて仰向けに倒れてしまった。
(使えねえな。んと、こいつの名前は知らんが『星々に性欲を出さなきゃ生きていけない』って事だけはわかった。
 おや?)
 デュアンは小屋の周りに人が集まってくるのに気付く。彼等は青年の声に反応して小屋にいるアラビア系の服を着た男に興味津々。
「お前誰だ? 俺達の集落に何のようだ?」
「私達を食い殺すつもり?」
「政府関係者にチクるぞ!」
(どうやら拳銃の引き金を上げる馬鹿もいるな。俺を殺せると本気で思っているのか?)
「やあ兄ちゃん。あんたはアッラーを信じる者か? それともイエスの父を信じる者なのか?」
「アッラー? イエス? ああ、そうゆう事か。確か--」
 デュアンは懐からA4サイズのノートを取り出した。題名は『宗教の神様に関する事項』。
(ここもまた物理学宇宙と歴史を同じくしているようだな。それであいつらが言うアッラーは確かイスラム教だったな。それとイエスはキリスト教の創設者の名前だな。えっと確か一神教で--)
「オイ、何黙り込んで本読んでるんだ、ああ?」
「怒るな。俺の趣味である格付け手帳を見直しているとこ--」
 ビルダー体型のスキンヘッド男は我慢出来ずに発砲した--銃弾は真っ直ぐデュアンの眉間に命中したかに見える
「あれ? おかしくね?」
「私も思った」
「ど、どうなってやがる! あいつの脳天に鉛球を打ち込んだと思ったら……目ん玉に指を突っ込まれていたああ!」
 デュアンはスキンヘッド男の左眼に左人差し指を入れる--失明しないギリギリまで!
「わからないか? 俺は光より早く動ける存在だ。目で追えばこうなるという事は知っておくんだな!」
「ハゲよ、手伝うぞ!」
 小柄で短距離ランナー体型のモヒカン男はダーツをデュアンの首目掛けて投擲! ダーツは中間地点で速度が零になった!
「はい? どうし……て、ぇあ?」
 モヒカン男は後頭部付近に右手刀を打ち込まれて前のめりに倒れた--白目を剥きながら。
「ヒイイイイ! いつの間にモヒの背後に!」
「というか私は見たぞ! あいつがモヒのダーツが直前で落ちた後にわざわざダーツの所まで移動して掴む素振りをした後にモヒが倒れ込んだ後にチョップを空振りする姿を!
「な、何言ってんだお前は! 言ってる事を理解出来んのかよ!」
「で、出来るわきゃねえだろ! 俺だってあいつの頭部に銃弾打ち込んだと思ったらいつのまにか目ん玉に指突っ込まれたんだぞ! 催眠術を使ったのか、兄ちゃん!」
「いや超スピードだ! お前ら相手には威嚇するつもりで当たらないといけないと思ってな。
 どうだ? まだやるか?」
 被害を受けたモヒカン男をはじめ、デュアンを懲らしめようと集まるゴロツキ達は一斉に逃げる体勢に入っていた。
「逃げるなよ。逃げたらこの星を壊すぞ!」
 それはデュアンの脅しだ。彼はここで殺人を起こす気はない。それでも話し合いをする為なら逃げ場を与えないようにゴロツキ全員に脅迫した!
 ゴロツキ達は先程までデュアンの人間離れした動きを見て本当に信じ、そして--
「も、もう逆らいませんのでどうか命だけわあああ!」
 土下座した!
「ようやく大人しくなったな。まあ脅しを懸けて正解だったな。
 続きを読もう。えっとアッラーはイスラム教の創始者ムハンマドが--」
 デュアンはマイペースにノートを見直す。
「あのお、わしらの霊をとるんじゃあないのですかい?」
「盗るかよ。俺は話を聞きたいんだよ。そもそもお前らみたいなのがどうしてこんな辺境の惑星に棲みついたというのをな」

 一時間後……
 デュアンは集落の代表との面会を許可された。
 代表の名はワテガ・マチガーテタ。身長は152cm、体重65kgと太り気味だ。髭はZ状に生やすが髪はモヒカンとよくわからないファッションスタイルをした八十九歳の男色家男性だ。
 デュアンはワテガと三時間以上話をした。ワテガによると<リューイチ>に棲みついた経緯は表向きは宇宙開拓事業の一環。彼等は天文学単位程遡る大昔は母なる惑星<わとーそ>を中心に第四惑星<マクタガ>、第五惑星<オーT>にある衛星<エウロッペ>と第六惑星<かいど>にある衛星<レアル>と<でぃおーね>等々をかつてのアメリカ開拓時代を彷彿するように次々とテラフォーミング。年月はそれぞれ異なるものの計一万年かかるかかからないかの大事業であった。
 それほどまでに開拓事業を進める裏--それは<わとーそ>で猛威を振るった新種の鯨から逃れる為。
「ちょっと待て! お前からは超弦理論に代わるキューブリック理論やフロイド・カレルレン理論は納得したが、鯨如きでお前らが開拓を進める意味がわからん!」
 そうは言われましても--ワテガは髭を上下にいじりながらどう説明すればいいか悩む。
 それから五分経ってようやく口を動かし始めた。
 彼の弁によるとかつての人類は<わとーそ>で反捕鯨運動が盛んだった。彼等はとある国が鯨文化であるのをいい事に果敢なバッシングと賄賂、圧力を駆使。更にはヨーロッパの日和見主義と連動して一大キャンペーンを行う事でとうとうその国は捕鯨を断念した。この日(どれくらい前かはもう定かではないが)から一切鯨は殺される事はないという捕鯨団体にしてみればユートピアと呼べる時代が訪れる……かに思えた。
 悪夢が訪れたのはそれから二十年経たなかった。鯨の総数が爆破的に増加。彼等が増える事で他の海洋生物が次々と絶滅していった。それでも世界はこうした状況を黙って見過ごす事を決めた。これは大きな誤りに繋がった。海洋生物がほぼ根絶やしにされると鯨達は今度船ごと人類を食べ始めた。人類はとうとう見過ごすのを断念。科学の粋を集めたレーザー光線、アクチノイドキャノンで鯨を攻撃し始めた。最初こそ人類側に優勢だった。
 しかし、隕石の落下--そう隕石が鯨目掛けて落下したのがいけなかった!
「隕石? 鯨に向けて……まさかブラックストーンを呑み込んだのか!」
ブラックストーン! あなた様もそのレアメタルを御存知でしたか!」
「あんな物はレアメタルじゃないぞ! ブラックストーンは俺が身につけている経典もそうだが、あれは悪意を引き寄せるどす黒い石なんだぞ!」
「悪意を引き寄せる……た、確かに引き寄せましたよ。続きを話していいですか?」
 話してくれ--デュアンは左手を広げてワテガに催促した。
 隕石--ブラックストーン--によって頭脳と身体能力を大きく発達させた鯨達は力だけでなく交渉術でも人類に対抗した。人類は喋る鯨に下手を出してしまった。これがいけなかった。これ以降は失態に次ぐ失態を重ね、とうとう核兵器や超重兵器まで彼等に手渡してしまった。
 これを機に鯨達は反抗を再開--瞬く間に人類は<わとーそ>を手放す結果となった。
「うむ……。要約すると『鯨こえー』か?」
 デュアンは何時の間にかB5サイズのノートに何かを記しながら要約する。
「その後も人類は超重兵器を百発以上<わとーそ>に投下したんだよ。最初の十二発までは効果あったのに十三発目以降は……」
「超重兵器を防ぐ科学力を身につけたのか?」
 いえ--ワテガは首を振る。
「はあ? だってあいつらはブラックストーンでお喋り出来るくらいインテリになったなら科学技術もそれなりにあるんじゃ--」
「それが伝承によると『鯨達は野蛮以外の方法は身に付けたことがない』とあります。これ以上の事はこの星のもっと詳しい方か第九惑星<アイリー>に--」
「ここに来る前に経典で確認したが<アイリー>に人類はもういない。それにお前以外で詳しそうな奴を発見するのは骨が折れる」
「案外面倒くさそうですね。こんなに強いのに?」
「寧ろ強いからこそ俺は面倒ごとに慣れなさすぎるんだよ!」
「例え強くても鯨には勝てません。超重兵器の効かない鯨は神に頼るしかないよ」
 ワテガはクリスチャンだった--祈願しながらこの世の無常さを嘆く。
(超重兵器は核以上に環境破壊を促す兵器だぞ。それすら効かないなんて神に頼んでも勝てないだろ。
 ということは一体どんな鯨が<わとーそ>に棲みつく? 俺の経典に反応させる以上はワイズマン? ノイズン・リオートメイン? それとも俺達みたいな存在か? 
 いずれにせよ格付けし甲斐のある相手と見るべきだな!)
 デュアンの表情は人間のそれとは思えない無邪気な笑顔を形成していた--これから出会う存在に引かれる恋人のような思いだ!

 半時間後……
 デュアンは針路を第三惑星<わとーそ>に向けた--序章はまだ始まったばかりだ……



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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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