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一兆年の夜 第三十二話 蛇の道は蛇(終)

 五月百十五日午後三時六分四秒。
 場所は川内集落中央地区酋長邸。一階にある空き室--かつては酋長ゴーリラマの妻であるゴーリエーの娯楽する部屋。
 今日もスネッガーは意識を取り戻さないどこの出身か判明しない人族の少女を看病する。
(日に日に弱ってゆくなエエ。集落を出るには患者が集落に任せても良いエエ、そうゆう頃合いになるまで俺は残るエエ。
 しかしエエ、少女だけはまだ任せられないエエ。未だに意識を取り戻さなくてここを出られるかエエ!)
 突然扉が開く音がした。スネッガーが振り返るとそこには八の日より前に件の少女を助ける為にスネッガーの忠告を無視して無理に身体を動かした為にその後の日より後に説教を受けた老年ラークダムであった。
「駱駝族の体躯で良くこの部屋には入れたなエエ」
「最適化ですっかり痩せ細ったのじょお。部屋に入れる道理に適うのじゃあ」
「それでまた説教されに来たのかエエ?」
 ラークダムは首を横に振った。そして少女の方に近付いてゆく。
「未だに目覚めないエエ。爺さんの力でも目覚める保証があるのだろうかエエ?」
「先生は最高の医者じゃあ! さっきゴーリラマから聞いたんじゃが先生が八の日より前に百名に上る患者を中央地区にある食物庫まで集めて治療して深夜までかかりじい、一名残らず救っただけじゃないじい。
 先生はその後も全ての患者の様子を見て回ったって聞くじょお。それから現在に至るまで後遺症で死んだ物は零じゃあ。あんたは凄い若造じゃあ!」
 スネッガーは『最高の医者』という言葉に関しては首を横に振った。
「高尚な医者である者かエエ! 俺は昔から医者という道から離れたかったエエ!」
 スネッガーは今まで溜まり込んでいた思いを吐露し始めた--今日はその為に用意されたかのように。
 そんな様子を間近で見せられた老年ラークダムは左右の目を反対側に回す。
「どじょ、どじょ、どうじゃじゃあ--」
「産まれた時は俺も医者になる事に迷いはないエエ! 一族の義務だエエ! 神々への奉仕だエエ! 命を救う事の喜びだエエ! 己自身を鍛える実感だエエ!
 それが医者という誇らしい職種エエ、それが医者という生命を救う道エエ! 俺にとっては誇り高き命職エエ!
 だが現実はどうだエエ! 救った命を一の秒でも長く生かす為に只ひたすら患者の容態を看なければならないエエ! それが却って患者の容態を急変させる事に繋がりかねないエエ! 患者を死なせたら遺族に何と説明すればいいエエ! 説明出来ないようでは遺族の容態を急変させかねないエエ! 手術を少しでも気を抜けば患者を想念の海に送ってしまうエエ! こんなの同族死なせと変わらないエエ! 神々にどう向き合うエエ? 学べというのかエエ! 慈悲を僅かにする行為が全ての医者に出来ようかエエ! 俺以外に出来る保証が有ると言うのかエエ!
 八の日より前の忙しい事エエ! 俺は苦労をかけたエエ! 数名までは良いエエ! その先から苦しいエエ! 物が足りない状況になったエエ! 刻一刻と次の患者の灯火が俺に訴えるエエ! 焦りが生じるエエ! 口元が何度も狂ったエエ! 空腹にも負けそうだったエエ! このような状況になったら医者は医者として心を強くあれるかエエ!
 俺は誰彼構わず命を救ったエエ! あと僅かしかない命を無理矢理長引かせたエエ! 患者と遺族の希望で命を墓の下にだって送ったエエ! 銀河連合だって救ったエエ! 医者の道を往く過程でエエ!
 一族の道をたった一つの事で諦めた祖父スネッグムエエ! 彼は死ぬまで頑固であったエエ!
 一族の道を辿り続けた先に救った命によって想念の海に旅立った父スネッチエエ! 彼は己を貫き通したエエ!
 だったら俺はどうだエエ! 祖父のように頑固でもなければ父のように貫く事もままならないエエ! いつだって一族の重みは俺にとって耐え難かったエエ!
 今度こそ医者をやめられるとそう願っても願っても--」
 もうよいじい--途中でスネッガーの言い訳を止めたラークダム。
「爺さんに何が--」
「わしが言いたいのはそうゆう事じゃないじい! 少女を見るんだじゃあ!」
 少女--ラークダムが顔を向ける先に目線をやる。そしたら--
「んん? ここはどこなの?」

 五月百十六日午後九時二分六秒。
 場所は酋長邸。一階にある書庫。
 齢三十一にして五の月と二十四日目になる武内猿族のゴーリラーマは次期酋長として藤原マス太一族が代々出してきた書物に目を通す。そこへエリフェインが調査報告書を持参して現われた。
「扉を叩かずに申し訳ないうえ! 緊急の連絡を持ってきましたうえ!」
「いいっよ。それでどんっな件っだ?」
 エリフェインは一枚の紙を地面に置いて丁寧に読み始める。
「『九の日くらい前に起きた<旅者連続襲撃事件>。我々は滞在中の国家神武軍者川内集落担当のログバーコフと協力。結果は全て鬼型による襲撃と判明。一命を取り留めて意識がはっきりする者達十名から聞き取り調査も裏取りも完了。よって銀河連合鬼型が川内集落周辺で誰かを死なせる為に百名以上の旅者を襲撃した模様。一体で百名を相手にするのは困難故、他にも鬼型がいたかどうか再調査が必要』以上で報告を終えますうえ」
 これを聞いたゴーリラーマは南地区にある埋葬地で人族を蘇生させた事件と何か結びつかないものかと思考を巡らす。
 一方でエリフェインは日が隠れる前に集落を発ったスネッガーを心配した。

 五月百六日午後十一時十分二十八秒。
 場所は波多八代地方熊懐山北出入口。
 夜更かしする為、スネッガーは焚き火をする。木と火が互いにぶつかり合い、弾ける音を出す。それを聞きながら蘇我人族の少女を思い出す。
(彼女が元気ならそれで良いエエ。俺はもう逃げる事をやめられるエエ。俺は恥ずかしくてやめる事が出来ないってだけだなエエ。少女の前で惨めになってるようじゃまだまだ修行が足りないエエ。
 もっともっと道を究めないと恥を吹っ飛ばせないエエ! もう一度少女と会う為にも俺は逃げないエエ! 偉大なる先祖達に誇れるだけの大医者になって恥を吹き飛ばすエエ!
 俺ながら恥ずかしいエエ。もうね……ようエエ?)
 彼は胴体の感覚がおかしくなるのを感じた--何か得体の知れないモノに踏んづけられたような。
 対象に向かって振り向くとそこには--
「ああ……まさかエエ? 俺がエエ、助けエエ?
 まさか--」
 鬼型は足をどけると左手でスネッガーの首を力一杯握りしめる!
「ガ、ガガガ--」
 スネッガーの顔面に血が通わなくなる--同時に視界が回る。
(思い、ダシ、だエエ。俺だエエ。お、れ、ぁぁ、ぁ、ぅ--)
 正体は十六の日より前に後ろ左足の傷を治してやった鬼型銀河連合。
(お、ぇは……医者だったエエ。んエエ?
 力が弱まり--)
 鬼型はスネッガーが付けた焚き火に彼を包み込ませた--胴体の至る所で火は燃え始める。
(く、らあああ! おれ、はこ、しくだ、けぁエエ。ぃぃぉ……ぉぁ、くぅ。
 ぉぉぅ、ぁ、あ、ぁぉぅ?)
 スネッガーは自分がどうして今までの人生を振り返れるか? その訳を知っていた。これは生命自身が無意識の内に最後の贈り物を出している証拠。そうする事により楽に死と向き合える。
(少女……ごめんエエ。俺は道を貫きすぎたみたいだ……エェ……)
 それが武内蛇族スネッガー最後の思考であった……。




 ICイマジナリーセンチュリー九十五年五月百七日午前零時零分一秒。

 第三十二話 蛇の道は蛇 完

 第三十三話 蛙の子は蛙 に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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