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一兆年の夜 第三十二話 蛇の道は蛇(零)

 ICイマジナリーセンチュリー九十四年五月百日午前四時二十分九秒。

 場所は武内大陸波多八代地方高向はたのやしろちほうたかむかい川。
 高向の空は今日一日中は雨の模様。川の水位は徐々に上昇。いずれは氾濫する
見込み。それくらい今日の降水量は多いと推測されよう。ここ波多八代地方の雨は
他の地方では『浄化の雨』と称されるほど降水量が多く、毎の日、月、年にかけて
水難事故が発生し、毎の月、年には必ず死者を出してゆく。波多八代に住まう神々
はそこで暮らす生命に心の平穏を保たせようと必死だ。
 それほど激しい雨が降る波多八代地方の高向川より南におぞましきモノが後ろ
左足に大きな傷を負いながら倒れている模様。そこに齢二十九にして二の月と
十日目になる武内蛇族の青年が合羽を着て医療用具を引き摺りながら現われた。
(医者の仕事は常に怪我をしているものは誰彼構わず救う事エエ。俺はそんな仕事
から逃げたい気分なのにこうして目の前に倒れたモノを見るとつい助けてしまうんだ
よエエ)
 どうやら彼は医者という職種を好んでない様子だ。けれども彼の一族は代々医療
に心血を注いできた。その為なのか彼もまた医者という道から逃げられないでいた。
(こいつは確か……いやいいエエ。まず怪我の状態よりもそいつの身元から確認
するかエエ。こいつは人型エエ? いや違うエエ、こいつは鬼型だエエ! 角が生え
ていなくとも全体を覆う棘のような体つきに触れれば自ずとわかったエエ。
 わかったところで次に後ろ左足以外で何か痛んでいるところは……ふうエエ。どう
やら後ろ左足の傷を抑えれば助かるなエエ。後は時間との戦いだエエ!)
 彼は蛇族とは思えない迅速な応急措置により一の分も経たない時間で傷口を
防いだ。後は--
(俺の力ではこいつを動かすのも困難だエエ! だからこそ俺は重苦しいものを
持ってるんだよエエ! 自分より大きな患者を安全な場所に運ぶ為になエエ)
 彼は蛇族でも気軽に持ち運べる組み立て式担架を取り出すと成人体型一とコンマ
三に設定し、そこへ患者を自分で絡みつきながら乗せる。棘の多い皮膚なのか彼の
衣服はあちこち裂けた状態になった。
(服着てもこいつの皮膚は痛いエエ! 四の五の考える暇があるならさっさと木の下
まで運ばないと流されちまうエエ!)
 彼は重そうに引き摺りながら高向川から南西方角に向かって成人体型十一くらい
の所にある一本の木の下まで二の分かけて運び込んだ。その後は担架から降ろす
と幹に縄を巻いて患者の命綱にした。
(これだけやれば濁流に流される心配はないだろうエエ。雷はここ波多八代地方では
起こらないエエ。不思議な地方だなエエ。
 イデエ……医者である俺も傷だらけじゃないだろうなエエ? 医者の癖に自分の
怪我も治せずに死んだら先祖に笑われるぜエエ)
 彼は患者の無事を願いながら彷徨うように南東にある川内集落に向かった。その
目的は医者としての道から逃れる術を見つける為。
(俺の名前はスネッガーだエエ。代々医者として数多もの生命を救ってきたエエ。
勿論救えない生命も数多に渡るがエエ。本来は誇りに思う仕事だろうエエ? 異なる
なエエ。
 俺はこの仕事を好かんエエ。むしろ怒りすら覚えるんだエエ。それはさっきの患者を
救った事に関係するんだエエ。あいつは銀河連合だエエ。本来俺達全生命体が
倒さねばならない生命なしなんだエエ! だけど救ったエエ!
 『医者は誰彼構わず救え』と言った先代のスネッチの理念に添うものなんだよエエ!
腰砕けな理念だと思わないかエエ? けれどもこれはとてつもなく一族の魂にもなる
重い言葉なんだよエエ!
 しかし俺はこの言葉を好きになれないエエ。そのせいで親父は銀河連合に食われ
て死んだエエ。食われても親父はこの言葉を捨てなかったエエ。だが俺なら絶対
捨てるさエエ! いや捨てないと旅をする意味がないエエ! 旅の目的は捨てる
方法を探して武内大陸を徘徊するのさエエ。こんな川も氾濫するような激しい雨の中
でも徘徊するのさエエ)
 彼の物語はそれより一の週より後に始まる。これは序章に過ぎない……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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