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一兆年の夜 第二十七話 海洋藤原の伝統(七)

 二月七十二日午前六時零分十秒。
 場所は東藤原海洋珊瑚島。珊瑚が生い茂る中心部。
 第十九代目藤原鮭族天体研究家藤原マス太は最後の朝目覚めをする。
(石版はここにはないン。痛みが激しくなればもう何も記せないン。その間に私は最後の研究成果をこの島に残すン。
 私の子供の中に藤原マス太が産まれると信じてン!)
 行動を起こす前に島に生える海草一つを平らげる。
(食は感受力を刺激するン。食無きは思考を求める事も叶わずン。ただし食深きは思考を鈍化させるン。私達研究者はこれくらいが十分なのよン)
 マス太の頭は回転し始めた。彼女は早速珊瑚の一部を引きちぎる--それを使って地面にアマテラス文字を書いてゆく。
(--以上を以て海底火山は大樹の銀河連合へと様変わりン。うーんン、まだ頭が働かないン。もっとこうゆう理由があるはずよ……)
 彼女は書いては消して、書いては消しての繰り返しをしながら人生最後の論文『大樹の銀河連合』の完成を進める。
 しかし、書き始めてから十の時が経過しても最後の欠片に悩む。
(何故最後の欠片がわからないン! これだけ進めてるのに肝心の欠片が十分でないなんてこれで子供達に申しわけつ……ううン!)
 マス太は完成間近になってとうとう思考が止まった--産卵が始まる。
(珊瑚礁に移動しないとン。中央に移動しないとン。子供達は珊瑚と共に言葉を覚えさせないとン)
 中央に止まったマス太は珊瑚礁で産卵を始める。
(苦しいン! 身体があン! 心があン! ああああああうわああああああ……)
 そこで思考は止まり、後は本能のゆくままに産卵し続ける。その数は七十に留まらず、八十を突破し、百一、百三、百七、百九、百十三……とまるでマス太が昨日寝る前に数えた素数を示す。そして二百十一になってようやく産卵は無事終えた。
(は? ああ? ああそうねン。何か思いついたン、よ、う、ぁ……)
 藤原マス太の肌は段々白くなる--同時に体中の全てが機能を止めてゆく。それは鮭族に宿命づけられた死の準備であった。
 彼女はもはや自分がここにいる事も自分の名前が何なのかも自分が愛した雄が誰であったのかも忘れてゆく。忘却は死の恐怖まで忘れる。忘れるという事は死を受け入れる事を意味。第十九代目藤原マス太は論文の完成する事も叶わず、想念の海へと旅立つ……。享年三十二歳。










 未明。
 場所は珊瑚島。
 新たな生命は息吹く。卵から出てきた鮭児達は二百十一中僅か九十七。残りは全て死ぬ。
 鮭児達が目覚めてから最初にしたのは食糧探し。彼等は珊瑚島に生える海草を見つけるとすぐに食べる。九十七者鮭児達は海草の奪い合いをするものの全生命体の特徴なのか最後には和解して均等に分け合って食べた。
 そんな鮭児達は星の数は迫る悲劇にも見舞われる。数ヶ月ごとに一名、また一名と栄養失調で兄弟達が死んでゆく。その度に彼等は誰に教える事もなく自然と黙祷を捧げる。その後は死んだ兄弟を珊瑚の一部を毟った物を刺した砂の下に埋めてゆく。鮭児達の学習能力は高い模様。それだけではなかった。
 彼等は何と誰が書いたのかがわからない文字の解読を始める。解読をし始めて三十の年が過ぎた頃には生き残った三十一名全員の脳は水の惑星にいる者達と引けを取らない段階へと発展させた。
「やっとわかったか、二十一」
「エラ会話は便利だな。言葉を直接伝えられるんだから」
「二十二はね。この言葉はえっとあれ? もう消えてる」
「当たり前だろ二十二! どれくらい昔の事なんだよ!」
「どれくらいだ? もはや棘の下で眠る兄弟がいつ眠ったのかもわからないな」
「言葉がわからない時代だもんな」
 第十九代目藤原マス太で家系は絶えた。しかし彼女が命を懸けて残したモノ達は絶える事なくこの先もこれからも続く……。




 ICイマジナリーセンチュリー九十四年八月百九日午前十時零分零秒。

 第二十七話 海洋藤原の伝統 完

 第二十八話 大樹の銀河連合 前篇 に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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