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一兆年の夜 第二十七話 海洋藤原の伝統(六)

 未明。
 天気は晴れ。所々に雲がある。ただ、雨の降る可能性は低い。
 場所はとある小島の砂浜。
 そこには海洋種族達が打ち上げられていた。ある者は打ち上げられて数十分で息絶え、ある者は海に戻ろうと抗う。
 第十九代目藤原マス太は後者にあたる。彼女は波に乗ってでも海に戻ろうと必死だ。
(体内の水分が抜けてゆくン! 息苦しいン! でもン、でもン、私が死ぬのは砂浜じゃないわン)
 生まれてくる子供達の為にも--その思いで海に戻ろうとする!
(あれは……マス次郎も死んだン。私より早く死んだ上に藤原マス太の技術がもう受け継げないのは悲しいン。
 外は呼吸が出来ないン。早く海に戻らないと……マス次郎の死体より反対側にいるのは村長ン? も、ンもう動いてないところを見るとン)
 他にもサバラド・ネルソン、ホノノミノボラスケ、藤原アユ巳などの知りうる知識者、官僚を次々と発見しては彼等の死を確認する。
(アジオが居ないン。まさか生きてるのかなン? うっぐン!
 そろそろ私も限界に近付くわン。早く波に乗って海に戻らないと藤原マス太は途絶えるン。私は生きないとい--)
 肉体の限界が近付く前にマス太は波に乗った--そこから深いところまで近付くと徐々にではあるが、身体の機能を回復する。
 それから二の分より後、彼女は更に深い所まで流される頃には泳げるまでに回復した。
(神々は私にこう告げてるのかもねン。『まだ死ぬのは早い』ってねン。勝手な解釈で申し訳ないけど私は生きるン。
 例え藤原マス太の伝統がここで途絶えても私の子供達には無事に産みたいのン。そうすれば次代に私達の精神は……あれはン!)
 マス太は上に浮かぶ死体を発見。見覚えのある姿をしていたのか、近付いて確認する。
(アジオも死んだン。私はもう一名ぼっちン。生きる事は辛いン。論理的思考なんて機能しないくらいにン。雌とかそうゆうのじゃないけど辛いン。私が藤原サケ那のままならこんなに辛くはないのにン。藤原マス太だからこんなに辛いン。
 でも私は子供達の為にもどこか……あの若布族は? こんな時に銀河連合は伝統を阻むのねン!)
 十三体もの若布型は藤原マス太を食らおうと近付いてゆく!
(私は逃げるン! 子供達の為に私は逃げるン!)
 しかし、産卵が間近に迫ったのか、身体が重くのしかかる!
(疲れるン! これはさっきまで陸にいたせいじゃないわン! 火山灰を浴びたせいじゃないわン! 私はもう残り少ないのよン! でもそれとこれとはもう別にしてよン!)
 徐々に距離を詰めてゆく--若布型は包囲するように移動しながら産卵間近のマス太を追い詰める!
(武芸者じゃない私でもわかるン! 挟み撃ちするのねン! どこまでも許せない存在ン!)
 そして包囲寸前--
「サケ那! ここで死なせないんだから!」
「サン樹! 良くないわ! そこは--」
 サン樹は寸前の所で割り込む--そのまま若布型に包まれた!
(サン樹の腰砕けン! 最後の最後に命を捨ててどうするのン!
 でもサン樹の死を意味あるものにしないとン!)
 マス太はサン樹が包まれるところをすれ違うように包囲網を脱出! サン樹に気を取られた他の若布型はマス太に気付くものの、その時既にマス太の姿は見えなくなった。
(お腹が破裂しそうン! これが産みの痛みン? エラ呼吸が上手くできないン! でも私はここで産まないン! ここは危険ン! 痛くて何も思考出来ないン! 目眩もするン! 私は私の全てが激しく動くン! 正気に戻りたいン!)
 マス太はもう天体研究家ではなかった。産卵寸前のマス太は数十の子供を抱える親鮭藤原サケ那になっていた。
(苦しかったン。こんな私にも残せるかなン? 頭が回らなくていつもの論理思考が出来なくなってるねン。
 でも最後の最後には神様だって機会を与えてくれる事を願おうかしらン?)
 彼女は産卵日に向けて素数を数え出す。
(一ン、三ン、五ン、七ン、十一ン、えっとン、十三ン? 十三だわン……)
 千の位に突入すると同時に彼女は眠る。
 場所は東海洋藤原にある珊瑚で出来た小島。陸は全て深部一まで浸かる。
 産卵から一の日を切る。十九代目の人生で最も長い一日が始まる……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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