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一兆年の夜 第二十七話 海洋藤原の伝統(二)

 二月六十六日午後七時八分二十三秒。
 場所は藤原マス太の洞穴。
 マス太は十枚の石版を横一列に並べて熟読していた。題名は全てメエガン・メヒイスト著『貸借対照宇宙論』。
(平行世界説に信憑性があるかどうかン。仮に平行世界説が真実ならばン、メヒイスト氏による貸借対照宇宙説も真実と成りましょうン。ですがこの説の問題点は無物質宇宙の実在を証明できない事ねン。
 数学的常識だけどン、ある仮説が認めれば別の仮説も自然に認められるン。ただしン、別の仮説を認めるにはある仮説と別の仮説が両方とも整合された物でなければ成り立たないン。
 となればメヒイスト氏の貸借対照宇宙論が成り立たないわけン。それは無物質宇宙の実在が認められない事ン。それに伴いン、禁忌宇宙の実在も認められないン。
 はあン、別の著作を見ようン)
 『貸借対照宇宙論』を石版の山に放り込むと今度は山から蘇我シシ朗・ベレッタ・バルケミン共著『歴史は何故整合を許さないのか?』を取り出し、十五枚を縦一列に並べた。
(真実話と成りすまし真実話の理解を深めるにはちょうど良いと思って出してみたけどン、読み進めると時間が経つのが早いわン。
 でも私が求める説に繋がらなくて残念ン。あーあン、奇才バルケミン氏の著作でも頭の感受力を高められると思ったけど期待はずれねン)
 今度はリザヴェルタ・メデリエーコフ原作『アリスティッポスの氷は切なく』を取り出し、十二枚を右斜めに並べた。
(リザヴェルダ氏は実際にアリスティッポスの大地を踏みしめながら現地の物から話を聞いてきただけあってスラスラと読み進むわン。面白いけどン、それだけン。私の求める物はもうここにはないわねン)
 石版を仕舞おうとした時、齢十五にして十五日目になる海洋藤原鮭族の少年が十枚以上の石版が詰まった袋を抱えながら泡を二回吹いて確認を取る。
「いいわよ、マス次郎」
「礼を失します、お母さん」
 マス次郎と呼ばれる十九代目マス太の養子は尾びれを小刻みに揺らしながら中に入る。
「昨日の講演は良くなかったよ。あれじゃあ皆が怒るのも無理ないよ」
「あれは私を強引に講演させたサン樹がいけないのよ!」
「そうじゃないよ。お母さんが半の時も経たずに退席したのがいけないよ。講演時間は一時間なのに!」
「あれ? そうだった?」
「はあ、お母さんがこれじゃあ先代のマス太は墓の下で--」
「そうゆう言い方は良くないわ、マス次郎。私は気にしないけど、あなたがマス太になった時にそんな言葉を聞いたらどうする?」
「うう! べ、別にまだ僕が藤原マス太になるわけじゃ--」
「それがね、マス次郎。あなたは近い内に成らなきゃいけなくなったの」
 マス次郎は養母がいう事が理解できない--理由を探るべく袋を降ろすとさっきまでマス太が口探りしていた石版の山から手掛かりを探す。
「これは……ただもの研究委員会発行『ただもの絵描き歌集』!
 ってそうじゃない! これは……おかもと学検定会発行『おかもと検定三級』!
 そんな下らないのはいい! これは--」
「マス次郎!」
「お母さんが何故そんな事を言うのかをお母さんの所にある石版から探して--」
「勉強熱心は有り難いけど、私のエラで伝えるから口を止めて!」
「いえ、もうわかりました! お母さんは産卵を迎えようとしてるんですね」
(鋭いン! さすが私の二十一番目にあたる姉マス美の第三十九子ねン)
 思わず笑顔になり、周りにいる真正細菌族の野次者達は驚いて光ってしまう。
「笑顔は腰砕けじゃないでしょ! お母さん! 子供を産むということはいずれ僕はあなたと別れる事を意味してるじゃないですか!」
「だからあなたには私の後を継がないといけないのよ。二十代目藤原マス太としてね」
「僕は鮭族の雄として生まれている以上は子を産む事の辛さは慣れてます!
 交尾したって僕の前に実の両親は墓の下。物心付く前から僕には実の両親の顔も体型も性格もわかりません!
 だけど、育ての母であるお母さんと別れるのは慣れた事なんてありませんよ!」
「怒鳴らないの! 悲しいのは私だって辛いわ。でもこれが海洋藤原の伝統。
 それでも耐えられないなら今の内に泣きなさい!」
「いいよ! どうせ今の内じゃあ泣けないんだし。
 そんな事よりもお母さんは僕に藤原マス太の極意をお教え下さい!」
「極意? えっと今は夜空?」
「はい、夜空ですよ!」
「じゃあ外に出ましょう。今日の星は綺麗なのか見ておかないとね」
「古くからの天体研究だけは欠かさないんだね」
 二名は外からの息継ぎも兼ねて深部零まで上がった。
「見てン、マス次郎! ガブブ今日は流れ星がたくさん降ってるねン」
「本当だン! ガガブブでもこれが銀河連合の可能性はン?」
「ブブブクただの流れ星だと信じなさいン! 吉というのはいつだって安定しない命運びよン。ブクウブ例え吉が無くても私達は流れ星に願い事を叶える以外にないわン」
「現実は辛いン。ボググボ神様は助けてくれない以上は信じるしかないかン」
(神様は助けないン? いいえン、私の仮説では見えないところで助けてるわン。銀河連合から出来る限り私達を離すようにン)
 産卵から六の日より前の暖かい思い出だった……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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