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一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな(八)

 午後十時九分十一秒。
 サバ克は持参した縄で出入り口の扉をこじ開けようとする。
(でえ圧力で扉が変形してきた。でえこのまま行くと縄を使っても開かない。でえその前に何としても扉を開けないと)
 扉は引き戸式。開き戸式だと少し開くだけで圧力により一気に流れ込む。その為、この船では出入り口に設置されてある扉は圧力に対応した引き戸式となってある。
(でえそれにしても開かない。でえ擦れ合う音がして大変危険だなあ。でえここまで圧力があると更に開けづ……開いた!)
 開いたが人族の拳くらいだった。鯖族が入るには適さない。
(でえあと少しなんだ! でえあと少しだけ開いて!)
 縄の中心は今にも千切れそうだ。苦しみの音が中心で響き渡る。サバ克はそれでも引っ張る--死んでいった者達の為にも!
(でえ開いてく……千切れた!)
 サバ克は右鰭部分から壁に強打--壁は脆いのかサバ克の身体の形くらい凹む!
(でえ意識が……それよりも! でえ扉はどう)
 サバ克は空腹感と眠気に襲われ始めながらも扉の方に近付く。すると僅かではあるが彼のからだが入るくらいの幅は開いた。
(でえやった! でえようやく--)
 安心するのも束の間だった--背後から数十以上の若布型は真正細菌型を纏ってサバ克に襲いかかる!
(でええ! でえそんな! でえこんな時に!)
 サバ克が諦めようとしていたその時だった!
「うおおおおオオオオオ! 救出作戦の功績はこんな所デモ発揮させてモラウゾ!」
 体中のあちこちに黒点を刻みつけながらも仲間の為に命を懸けるエピクロ鯨族の青年ワルシャーワン・ホエンラドンは巨大な口でサバ克を守るように銀河連合を呑み込んでゆく!
「でえホエンラドンさん! でえ銀河連合は--」
「私はいいと言ッテルだろ! お前は早クココカラ脱出しろ! 約束シタだろ!」
「でえでも--」
「圧力で閉ジル前に早ク出ルンダアア!」
「……でえはい!」
 サバ克はホエンラドンとの会話を思い出す--それ故に彼はホエンラドンを最後まで信じて僅かな幅しかない出入り口に入ってゆく!
「『さよなら』は言ワナイゾ!」
 それがワルシャーワン・ホエンラドン最後の言葉。彼の身体に刻まれた無数の黒点から何かが勢いよく飛び出す。それらはやがて彼を骨にした!
 ワルシャーワンの死と同時に船は沈んでゆく。沈むと共にしたから押し潰されてゆく。それはやがて海中部隊の区域全てを押し潰し、更には船を中心から真っ二つに押し上げた! もはや鬼ヶ島奪還作戦で活躍したそれらは二度と元の形に戻る事は叶わない。海底深くに沈んでゆく……。

 午後十時十分零秒。
 場所はエピクロ海。鬼ヶ島寄り。
(でえ僕は……僕は……僕は……。でえ僕は結局誰も救えなかった。でえ銀河連合一体も死なせることも、でえ誰かを守る為に強くなることも、でえ僕自身で成長することも出来なかった。でえそんな僕を生かしたみんなにどうやってお返しをすればいいんだ? でえ教えて欲しい。でえほんの少しでもいいから……)
 只一名の帰還者である秋山サバ克は海の神様に懇願した。声を発するなんて事は叶わないのはわかっていながらひたすら懇意に願い出た。活性炭入りの袋三個全てを手放してでも。
(でえ僕は無力だ! でえ僕は弱いんだ! でえ僕は戦いだって出来ないんだ! でえそれでも僕は海と共に生きないといけない! でえ海の神々は広い心で僕を包み込む! でえ大きな心で暖かく慰める! でえ愛情深く僕をお叱りで在られる! でえ『船を沈めた責任を取れ』と解釈しながらでも! でえ僕は……僕は!)
 彼は沈んでゆく船に背を向けると陸上部隊と空中部隊のいる鬼ヶ島へと鰭を動かしてゆく……。

 ICイマジナリーセンチュリー八十六年七月二十六日午前六時三十分四十五秒。
 場所はエピクロ海。船が眠るちょうど真上。
 齢三十四にして五の月と十六日目になるルケラオス鯖族の中年は今日も活性炭
入り袋を三個沈めて黙祷。
(でえあれから十六の年が経つ。でえ俺は鬼ヶ島周辺海域で一生暮らすと皆に宣言
したけど、でえ生活は大変だ。でえ差し入れがない日はどうやって食にありつけるか
に苦労したよ! でえ海は快くなく、でえ時々痒くなったり、でえ熱を出して倒れ込む
事だってしょっちゅうだったよ。でえそんな生活でよく俺は十六の年もの間を生き
抜けたな。でえ多分伯父さん達が見守ってくれたお陰だと俺は今でも信じるが)
 秋山サバ克は十六の年もの間、陸上部隊隊長と空中部隊隊長がどうなったかに
ついて興味津々だ。
(でえ傭兵シカット・ムーシは四年の駐在後、でえエピクロ市に戻り、でえそのまま
ルケラオス港で北の大地であるアリスティッポス大陸行きに乗る。その地を食らう
白熊型銀河連合と壮絶な相打ちを果たす。でえ日付は確か
ICイマジナリーセンチュリー八十四年一月二十一日の出来事だったから彼は当時三十だったな。
でえ傭兵業を最後まで捨てない彼らしいな)
 続いて空中部隊隊長ハルブス・ハルトマンのその後をエラ会話で独り語りする。
「国家神武坂井組の組員であるハルブス・ハルトマンはシカットと同じく四年の駐在
の後だな。羽根付き指揮官型との戦闘の傷が元でエピクロ市に戻るとすぐに軍者を
引退。その後は同じく引退していた坂井ブク郎と共に全生命初となる商業本を市場
に売り込み、百万部を記録する人気を博す。まあ本自体が商業に参加する事自体
が珍しい事もあってではあるけど。でだ、ハルブスは現在も元気に暮らしてるよ。
齢四十の現在も雌に惚れられないけど」
 そして最後に秋山サバ克自身を自らの口で語る。例え誰にも聞こえな声で
あっても。
「でえ俺は現在は家庭を持つ。でえ妻は誰かって? でえ想像してくれ! でえ俺の
子供は現在六十九名目が生まれようとしてる。でえいや七十七名目かな? でえ
まあ魚系は子供の数を正確に数えない生命体だから仕方ないか)
 最後に両眼を限界まで開いた--その眼は十六の年より前とは比べものになら
ない力強い光を放つ! そう、彼は年月を経てようやく成長する事を果たした。
「でえ俺はルケラオス鯖族の雄、でえ秋山サバ克。でえ俺は俺の道を今も泳ぎ続け
る! でえこの広く大きな海をただひたすらに……」




 ICイマジナリーセンチュリー八十六年七月二十六日午前六時三十二分四十八秒。

 第二十六話 海は広いな、大きいな 完

 第二十七話 海洋藤原の伝統 に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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