FC2ブログ

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ(三)

 午後四時四分九秒。
 場所は船の一室。
(あっしはまた叱られてろう。大事な翼持刀を一挺紛失した事でえ。どこまでもあっしは色雄に程遠いかねえ? そう思うかねえ、想念の海に旅立つ父上と母上。あっしは程遠いのかねえ)
 ハヤブスは五の年の頃に両親を空難事故で失う。彼は父方の兄に引き取られた。その伯父は大の色雄で妻が居たにも関わらず日毎にあらゆる種族の雌と一緒に飲みに歩いては家に帰るとしょっちゅう妻に叱られた。ハヤブスにとっても困った伯父であった。
 そんな伯父でもハヤブスの両親に憧れを抱く。ハヤブスの両親は異性から数十通の告白状を貰う程惚れられた。そこには見た目の格好良さも関係もする。しかし、本当に惚れられた理由は格好良さを引き出す心の強さにあった。二名はどんな逆境であってもどんなに無理な注文であってもそれを実行してみせる心強さを兼ねており、その度に異性から憧憬の眼差しを向けられた。
(だが行きすぎた逆境や注文は結果として父上や母上の命を旅立たせてろう。伯父さんの自慢話を鵜呑みにしながらあっしはここまで強く成れたけでえ。けど)
 そんな物思いをするハヤブスの周囲で突如、扉が内側に開いた!
「うわっつ! 驚かすねえ、カブ壱でえ!」
「ハヤブスね、驚かしてないけどね、お食事に行こうね」
「まだ早でえ! 日は沈みかけでろう!」
「僕はお腹空いたね」
「カブ壱は自己波長で進む雄でえ!」
「それは申し訳ないね」
「まあいええ。あっしもいつまでも部屋で悩んでると任務に支障を来しかねないから付き合ってろう!」
「ありがとうね。ハヤブスは相変わらず優しいね」
「『断ってばかりでは前に進めねえ』って叔父さんに耳が蜂の巣だらけになるまで聞かされたから仕方ねえ」
 ハヤブスはカブ壱の誘いに乗って船の真ん中に設置された食堂に向かう。

 午後六時二分三秒。
 場所は食堂。
 カブ壱はご飯のおかわりを注文するが齢三十五にして三の月と八日目になるエピクロ蟷螂族の熟女は首を横に振る。
「なんてことをね! 僕が餓死したらどうするね!」
「二杯も食べたら一ス、二の日は何も食べなくても済みますよス」
「もう諦めろう。これ以上おかわりを注文したら軍全体の指揮に関わるでえ!」
「ハルトマンの言う通りス。ですのでこれで終りでス」
 熟女はカブ壱とハヤブスのお椀を持ち上げるとそのまま調理場に戻る。
「ああね、前までは一食三杯は余裕だったのにね」
「仕方ないでろう。戦争は大量の物資を消費せろう。只一名の為に皆に迷惑を掛けられんでろう?」
「そうはわかってもね」
「あれう? カブ壱君とハヤブス君じゃねう?」
 ウェンディはちょうど夕食を済ませに食堂に来た。
「今から食事でえ?」
「そう。ハヤブス君も早くからカブ壱君の夕食に付き合うなんてう。そこまで雌に惚れられてう?」
「わかりきった事でえ!」
「ところでね、フォウルンと一緒じゃないね?」
「あの雄は一日二食なのよう。だから夕食は取らない主義なのう」
「任務に支障を来しても知らんぜえ!」
「それは本命に言ってう!」
「ところで組長も来てるかね?」
「組長は空戦部隊長の所で作戦会議に参加してるわう! どうせ陽動に回されそうな気がするわう」
「まあどんな任務であろうと遂行するのがあっしら軍者の役目でろう!」
「僕はそろそろ引退したいね」
「遂行できるかねう、こんな組でう?」
 心配そうにするウェンディの前に齢二十九にして十三日目になるルケラオス鸚鵡族の青年がやって来た。
「何なら僕の組に来ねう? そうすれば良家の嫁養子になる機会に恵まれますよう」
「またお誘いけえ、ウェリンティ?」
「そうだよう。これでも僕は君と異なり十数名以上の同種族の雌からお誘いが来てるくらいの色雄だよう」
「でろう。悔しいがお前に負けろう!」
「何度誘っても私には故郷の幼馴染が待っているんだからお断りよう」
「あんな細工無しをどこまで心配するかねう、ウェンディさんう?」
「細工無しとは礼に欠けるわう! ああ見えても歯は心を擽って可愛いのよう!」
「だからそれが意味不明でう」
「確かにそんな雄に惚れるウェンディも変わり者だね」
「「お前が言うねう!」」
「はいね?」
(全く気付いてねえ!)
「とにかくでう! 僕の組は今回鬼ヶ島の進行に加わるかも知れねう! 命をいつ落としてもおかしくない任務でう! 僕がもしも生き延びたら誘いを受けるけう?」
「そんな誘いに乗らないわう。どんなに言い繕っても私は昔からあの子のお嫁さんになるのが夢なんだからいい加減諦めてう」
「はあ。死ねるねう、今度こそ僕へう」
「傷心の所を申し訳ないけでえ、ところで鬼ヶ島の上空はどんな状況でえ?」
「あっう! そうだってう! 本当はそれを伝えたかったよう! 実はいつ数十の竜巻が発生するかわからないほど天候が安定しねう!」
「うひゃあね! 死ぬ確率が高いね!」
「それと情報部の噂によると銀河連合の空戦部隊には羽付きの指揮官型が配備してるらせう!」
「指揮官型でえ! オイオイでえ! そいつが出たらあっしらは全滅するぜえ!」
「現時点の噂でう。島に残ってくれるなら君達も生き残れるかねえ? まあ陽動任務中に来ない事を祈るしかねう」
 ウェリンティはエピクロ林檎を二個頼みながらハヤブス達と数の分ほど会話を楽しんだ。
「じゃあねう。ウェンディさんう。もう一度言うけど僕の--」
「九の時にまた会いましょう。今はゆっくりしなせう、ウェリンティ・アーリントンさんう?」
「やっぱり鬼ヶ島で死ぬねう、僕はう」
 今日二度目の傷心を食らったウェリンティは情けない後ろ姿を見せながら自室に帰った。
「可哀想ね。あんまりね、ウェンディね!」
「雌はそうゆうもねう。雄とは見える世界が異なるわう。諦めてう」
「見える世界でえ。成程でえ、それも良い考えかもう?」
 ハヤブスはまた一つ雌に惚れる技術を学んだ。多分……。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
リアルタイムカウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR