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一兆年の夜 第二十三話 人生貸借対照表(五)

 七月五日午前九時零分二十三秒。
 場所は仁徳本町中央地区仁徳会館多目的会議室。今日もまた椅子は百以上在るが、参加する者が多い為足りない。
 今日も会議もまた多種の目的に及ぶ。ただし、今回は十の時まで主題は貸借対照宇宙論に関する議題が中心だ。
「これより多目的会議を開催する。
 初めの一の時までアデス羊族にして貸借対照宇宙学者のメエガン・メヒイスト博士の論から進める。
 では博士、無理して立ち上がらずにどうかゆっくりと持論を始めて下さい」
 司会であるオオサナキはメエガンを支えながら進行を務める。
「オホンーん、では始めルーうぞ。
 宇宙は我々が住む物質だらけの世界であルー物質宇宙と何もなイーいただ影だけが蠢く無物質宇宙が鏡同士にくっつき合う世界なのじゃ」
「そんなのはもうう聞いたあぞ!」
「腰を痛みすぎてまた反復するかね、じじいね!」
「反復することもまた貸借対照宇宙論の不思議なところじゃ。何しろ二つの宇宙は水の惑星の如く右回リーいか左回リーかは定かじゃないーイが楕円を描くように回っとルーのじゃ」
「まさかただものとおかもとの関係が回ぶようにまた宇宙も自転すぶどか?」
「知らん。そもそもどうしいーて宇宙が自転するのか? それは互いーイの宇宙が混ざり合わない為。今のわしらが安心して住めルーうのは宇宙が自転しいーておるお陰じゃ」
「それも怪しい。それならブラックホールが発生する理由がわからない。
 自転することで互いが干渉し合わないと仮定してもどうしてブラックホールは発生する?」
「気になる事があるケエド、どうしてお月様は水の惑星から離れナアイ?」
「それは、まあ、あれだよにゃ? お月様は水の惑星に心を--」
「天動説が根本から崩れ去ることは後にしろ! 十の時まで博士の持論に意見を集中せんか!」
「ブラックホールの発生。それは水の惑星と同じいーくお月様の姿で潮の満ち引きが発生するのと変わらない。ひょっとすレーば天動説を大幅に修正する日が近いかもしれんのう」
「博士はこのように仰られるか? ブラックホールは物質宇宙と無物質宇宙を繋がれよう何かの影響で互いの宇宙が伸び縮みなされる為に黒い穴が出来よう、と?」
「実際のブラックホールの発生源はお日様の成レーえの果て。ではあルーが、沖田スラス太君が言うようにイー伸び縮みであルーう場所が柔らかくなり、破れることで発生するという説もありイー得る。
 では何が互いを繋ぐかといーイうことじゃ」
「ィァ単純に宇宙が自転するということは我々の住む宇宙もまたお月様のように公転してるんじゃない?
 クゥそれならブラックホールが発生するのも宇宙が何かを回り回ってるからこそじゃ--」
「何かって? 大太陽? 赤色巨星以上に、大きな太陽が、あるの?」
「オホウウン! まああさか銀河連合ううの周りいいを!」
「恐い話は後にしろ! とにかく博士は物質宇宙と無物質宇宙もまたブラックホールの発生を容易にする何かしらを繋ぐモノを説明するぞ!」
「それじゃ! 二つの宇宙を繋ぎ止める宇宙があるンーんじゃ!」
「え? ほかにもあるの?」
「その宇宙は禁忌宇宙。物質だらけの宇宙と影だらけの無物質宇宙。どちらにもつかないーイ性質を持つ想像しがたい宇宙じゃ」
「言いたーいことは銀河連ー合の周りを回る何ーかのようーに物質なのかそうでないーのかはっきーりしない宇宙ーなのか?」
「成り余るモノっと成り足りないモノっをどちらっも持つ宇宙? それとっもそうでなっい宇宙?」
「想像が付いていけん宇宙があるんのか? 一次元や二次元、それに三次元はわかるんが、四次元やそれ以上の次元はどうなってるんのかを想像出来んようんに!」
禁忌宇宙を説明する前にイーそもそも貸借対照宇宙論がどうゆう理論かを長々と説明しないとのう。司会のスメラビノオオサナキが急ごしらえで考えた公式も紹介しイーての」
 それからメエガンは貸借対照宇宙論を成立させる物質宇宙と無物質宇宙が互いに均衡し合う要素を三十以上の分かけて説明した。
「……であルー故に互いの宇宙は同じ大きさでなイーいと成立せんのじゃ。そしてこの宇宙の実質上の大きさは無物質宇宙の一番下段にある純度丙で表されルー」
「相変わらず貸借対照表は意味不明。お金は普及すべきじゃないとつくづく思った。
 それにしても甲一つで乙と丙を足した数値と均衡。不思議」
「それでは、禁忌宇宙はどうなられるのですか?
 物質宇宙と無物質宇宙と同等では私のお考えじゃ厳しいでしょう」
「ここじゃ! ここでは--」
 突然、きぬ子に壊されたまま放置された右後ろの出入り口から齢二十八にして三の月と四日目になる武内蛇族の青年が現われた!
「博士エエ! 十の時が近付きますエエ! そろそろ激痛腰の治療を始めましょうエエ!」
「五月蠅イーい小僧だ!」
 そう言いながらメエガンは会議室をゆっくりと出て行く。貸借対照宇宙論の説明はここで終了。
「ところで貨幣はどれくっれ作ればいいかなう? お金は普及しすぎるうと価値基準がどんどんわかっなくて困るう」
「クィ糸井サナ子がいればそれ相応に議論できるのだが」
(これでわしの貸借対照宇宙論も幕を閉じルーかの?
 中途半端なままじゃ皆の記憶に残らんーンぞ)
「博士エエ。もうその腰では天体観測もままならないでしょうエエ。
 残りの余生は退屈でしょうがエエ、ゆっくりとお過ごしした方が良いでしょうエエ」
「けど、どうやって残りイーの余生を過ごす?
 お金に困るわしだぞ!」
「心配ご無用ですエエ。我々が支えれば何とかなりましょうエエ!」
「支えルーか、そうだのう」
 メエガンはゆっくりと歩きながら貸借対照宇宙論の今後を想像する。
(天動説は今後は別の説に取って代わられルーだろう。わしの論もそれと同じく何かに取って代わられる気は悲観的すぎルーうかの?
 まあいいのじゃ。わしはもう生き抜いーイたのじゃ。後はコノハナノイサワノキミの所に向かうべく残りの余生は家計簿をつけて食べて寝ての退屈に満足しイーよう。
 それに貸借対照宇宙論もまた誰かが後を継いで発展した理論にしイーてくれるじゃろう! そう信じなきゃ若い者に申し訳が立たなイーいぞ!)
 メエガン・メヒイストの死から数百の年が経てば、全生命体と銀河連合との戦いを繋ぐ新たな理論が誕生。その理論の基は貸借対照宇宙論。老年の考案した宇宙論は二つの力が互いに均衡し合うように別の形態へと発展する。
 メエガン・メヒイストはそんな不確かな未来をまだ知らない……。


 ICイマジナリーセンチュリー八十年七月五日午前十時五分二十三秒。

 第二十三話 人生貸借対照表 完

 第二十四話 二十四時間の脱出劇 に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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