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一兆年の夜 第二十三話 人生貸借対照表(四)

 七月四日午前七時七分八秒。
 場所は仁徳島西仁徳町第二地区三番地。真ん中より三番目に小さな建物。
 メエガン・メヒイストは仁徳島で生えた旨味成分が豊富な雑草を食べる。
 一方では今月の貸借対照表の作成を進める。
(研究費は来月中までに払えルーかのう?
 糸井サク花によって貨幣が誕生しいーて以降、それまで物々交換によるややこしいー価値基準は一気に便利なものとなった。マンドロンを編み出しいーた彼女の功績は大変素晴らしいーものじゃ。
 ただその一方では貨幣が出来たことで建物の値段なども数字で決めルーようになってから経営学は更に複雑化が進み、貸借対照表、損益計算書といわれる財務諸表が数字と密接に繋がルーようになろうとは。それも貨幣が誕生して現在に至るまで僅か百という年月とイーう間に。
 ああ、この作業は後一の週はかかローう。わしはもう年じゃて。メヒイスト家は兄が継ぐから心配いラーあない。それでも一つ身ではあれこれの作業に掛ける時が若い者より倍かかって大変よ)
 わしの命は残り僅か--そう思いながらも他者より長く生きながらえるメエガンはやり残す事が数多くある。今月の貸借対照表と同時に作成する損益計算書、日に一度は行う天体観測(ただし曇りや雨の場合は中止)、論文の作成、数え上げれば生きてる間に全てを済ませる事など不可能。
(そーンな執念のせいでわしは長生きなのか? それは違うかの。
 それならイサワノキミだって死ぬことはなかったはずじゃ。結局彼は今月の論文を未完のまーま想念の海に旅立った。悔しーイのか満足げなのかは彼の死に顔にもはっきりーいしなかった。正に宇宙の顔がどんな形なのかがはっきりしないーいように)
 メエガンは思考を巡らしながらも朝の食事を終え、貸借対照表の作成に本腰を入れようとした。
「ん? 誰じゃ?」
「自分です。スメラビノオオサナキでございます。おはようございます」
「おはよう、中に入ーンなさい」
「失礼致します」
 オオサナキは入るなり保管庫の中からテレスプリを取り出すと果物包丁を探し回る。
「包丁なら寝床の下に置いてあルーぞ」
「危ないところに置かないで下さい」
「良くなかったのう、ごメーん」
 包丁を右手に持つとテレスプリを地面において真っ二つにした後、素手でゆっくりと剥き始める。
「ところで貸借対照宇宙論はどうなりました?」
「生命の影などを観察して宇宙には物質宇宙と無物質宇宙が互いーいに鏡合わせにくっつくところまではわかったが、肝心の制御板が何なのかがさっぱりーいじゃ」
 オオサナキが剥いたテレスプリの四分の一を頬張りながらメエガンは進捗状況を説明する。
「まだあれで未完の論なのですか! 自分はもうそれに合わせた公式まで作りましたよ!」
 剥いたテレスプリの半分を一気飲みしながらオオサナキは驚く。
「そんじゃあまたやり直しーいじゃ。数学は完璧こそ理想じゃからノーう」
「くそ! 数学者になるんじゃなかったよ! また公式を作り直さなきゃ成らなくて面倒なんだよ!」
「科学者はそれほど完璧はしないー者達じゃがまあ実験は多くすルーがの。
 それは置いといーいて--」
「置くな! 自分がここに来たのは博士の研究成果を聞く為ではない!
 明日の朝九の時にまた多目的研究報告会議を開く。それを伝えに来ました!」
「もしーいや、イサワノキミの追悼会議じゃないかの?」
「それもありますが、今回は博士の為に開く会議に設定しました」
「またまた腰ーい砕けたことを--」
「いえ、本気ですよ。あなたに自論を公表する最後の機会を与えます!」
 本当でないーイこ--メエガンは立ち上がるなり、持病の激痛腰で苦しむ。
「無理な姿勢から立ち上がろうとするからそうなります。明日は自分が付きっきりでいますから無理せずに」
「こ、こん、イデデ。こんな病気があってもわしが生きてルーのが不思議じゃ、アイーいダダ。
 まるで生と死を繋ぎ合わせるどちらともつかないーイ何かがわしを永らえさせ……ひょっとしたら!」
 わかったぞ--とまたしてもメエガンは力一杯立ち上がるなり今度は前よりも強い痛みが腰に響く!
「アガガアガア!
 うぎゃぎぎいいぎいーい!」
「だから激痛腰で無理な立ち上がりは止して下さい!
 こうなると仕方がない!」
 誰か来てくれ--町中に響く叫び声で近所にいる研究者達を呼び出すとすぐにメエガンをスネッグムのいる北仁徳町に運んでゆく!
 痛みに苦しみながらもメエガンは先ほど閃いた何かを思い出し、心中は喜びで一杯だ。
(ヒャッハー!
 ようやくわしは貸借対照宇宙論の根幹であルーう宇宙の生の部分と負の部分、そしてそれを繋ぐ部分を見つけたぞ!
 その名は禁忌の宇宙。禁忌成る宇宙こそわしーイらの住む宇宙を繋いでおるのじゃ!)
 その日の診察ではスネッグムから一の時以上の講演を止された……。

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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