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一兆年の夜 第百三十六話 終わりの始まり ライデンの終着点は始まる(三)

 双子島に到着してから六の日より後。
 ライデンは唾で消火した一件に依り、コケハジ以外裏島の誰からも話し掛けられなくなる。然も日に日に扱いの大切さも荒っぽくなる。
 双子島に来て四の日より後では今の日に出される食事が何と午後十の時に成る迄忘れ去られる程に此方から声を掛けないと出されないという有り得ない事態に陥る。五の日より後では三回も声を掛けないと事情を尋ねる事も出来ない程に関係が遠ざかる。そして、今ではコケハジ以外の誰もがライデンに声を掛けられても応対しないように裏島政府は戒厳令を出す程。
「何なんだよ、こうゆうのは。唾を飛ばした位で此処迄される筋合いがあるか!」
「あんたの気持ちは良く理解していっさ。確かに唾は穢れた物でそんな物で消火されては木々も自然も怪我されてしまっさあ。其れ位は此処で生まれた生命として理解出来る事っさ。しかしっさあ」コケハジは初めて自分の小ささをライデンに告白する。「あんたは大切な事を教えてくれたっさ。多分、あんたに感情を移入し過ぎるせいかもしれっぜ。其れでも己の小ささから緊急時にあんたが居てくれなかったらリリパ山の山火事は一体何処迄広がったっさのか。そしたらあんたは唾以外でどんな方法を取ると思っせ?」
「尿で直接消火しようと試みるだろう……そっちの方が余計にあんたらの気分に取っても良くないだろ?」
「かも知れなっぜ。其れにあんたが消火に当たってくれた御蔭で毎の年では必ず出ていた山火事に於ける死者が何と零名で済んだっさ……感謝で一杯だっさ!」
「だが、此処には俺に感謝してくれる生命は一名たりとも居ない。みんな唾でリリパ山が穢れたと思って誰も俺の事を……こんな世界もあったら此れじゃあ銀河連合と如何異なるか」
「ああそうっさ。元々は其の銀河連合が全ていけなっだ。山火事は抑々奴等が好き好んで俺達の所でやって来た事だっさ。なのに助けた方は誰からも感謝の言葉が述べられないってのは心が痛むだっし。だからっせ」コケハジはこんな事を口にする。「表島に亘るっさ」
 何だと、言葉を禁じた表島に--信じられない事を耳にするように目を克っ開くライデン。
「恐らくは言葉だけしか使わない俺達に比べて表現だけで意思表示を示す島ではきっとあんたの主義を受け入れる何かがあるかも知れないっせ。だからこそ希望を持って表島に渡れっさ」
「だが、言葉を口にしただけで相手にされなくなるのでは?」
「大丈夫っさ。言葉さえ口にしなければきっと彼等は親身に成ってくれっせ。其れに此処に留まればあんたは飢えて死んでしまう。そんな事はきっとしないだろうけど、器の小さな俺達は言葉を少し使えるからって余りにも自らが成長しない事を知ら無さ過ぎたんだっさ」
「自らの成長を? 言葉を使う事が全生命体にとって進歩の一つじゃなかったのか?」
「言葉を使う事が進歩っさ? おっと質問に質問で返すのは言葉を持った俺達のやりがちな事だっさ。先に質問に答える方が礼というもんっさ」コケハジはライデンの質問に答える。「あらゆる技術はあくまで生活を楽にするだけであって必ずしも俺達の心を劇的に前進させてはくれないっさ。其れをあんたのお陰で気付く事が出来たっさ」
 そうか、コケハジさん……あんただけだよ、俺の心に応えてくれるのは--たった六の日の付き合い……なのにライデンの目から涙が零れ落ちる。
「泣くなっさよ、又俺達が……おっとそろそろ俺にも家族も居るし、立場もあるからっさ。行くんだ……表島にっせ!」
「でも言葉を使わない生命の集まりだろ!」
「其れでも此処で留まるよりかはあんたが帰るべき場所を指定してくれるかもしれない……行くんっさ、菅原ライデン!」
 此れがライデンとコケハジとの最後の会話と成る。コケハジは既に最後の会話以降も会話をすれば八分の礼に処すと政府から命じられていた。其れだけに今回の会話はコケハジにとって勇敢なる行動の一つでもあった。

(コケハジは裏島では唯一俺が心を許した生命。彼との出会いは其処迄ではなかった。たったの禄の日の付き合いでしかなかった。だが、唾でリリパ山の火事を鎮火した際に誰よりも俺に気を遣ってくれた。勿論、午後十の時迄食事を与えないとか言われるかも知れないだろうな。けれども、其れは待っていれば食事が来ると思っていた俺の至らぬ所だよ。其処は許そうぜ。
 そんなコケハジと別れた俺は裏島と対立する表島と呼ばれる島に僅か一の時も掛けずに到着する。其処では--)

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Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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