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一兆年の夜 第百三十話 終わりの始まり キシェール最後の雄(終)

 午後一時二十二分一秒。
 視点を志乃の方に移す。志乃は戦闘に於いて才を伸ばす雌。そして勤勉且つ悲観的な思考を熟す故に戦いに成ると其れが存分に活かされる。だが、志乃も又全てに優れている訳ではない。其れが彼女が既に説明したように雌として生まれたせいなのか体力の面で最終的に雄に後れを取る運命にある。故に僅かな時間での戦闘で疲労困憊で息が荒い。其れに気付いたルドールは危機感を募らせてキッシェルに次のような事を述べる。
「幾らあの子が戦闘で才能を伸ばし続けられても体力が伴わなければ何れは押し切られてしまう!」
「所詮雌は後の世代に引き継ぐ事と子を思う強い心しかわし等雄よりも勝るものはないかせ!」
「其れでも……自分達は加勢すべきか?」
 いや、加勢するよりも先にキッシェル家が千の年以上も連綿と受け継いで更新し続けて来たあの……あれだけは命を懸けても守り通し--キッシェルは氷の土を巻き上げながら其れが仕舞ってある温暖式の引き出しへと走ってゆく!
「待て、用意なしに動くのは死を早める--」
 あ、キッシェルさんが……あの者をやらせませええん--志乃は参謀型の放つ酸がキッシェルに向かって飛んで来るのを見て限界を超えて彼の元に走った!
「止めろおおお、其れだけはああ!」
 ルドールが見ている中で悲劇は起こった--

 午後一時三十一分三秒。
 五名は集まる。既に眼の光が無くなった生命が五名が囲んだ先に居る。其れは予想外の出来事でもある。運命とは如何して先に逝かせるべき生命を順序良く決められないのか? 五名は次のように死んだ生命を悼む。
「そんな? 未だ、未だ?」
「僕よりも先に……幾ら僕でも未だ、こんな結末を何で認められないかい!」
「なあ、ライデン君。何故順序通りじゃないんだろう?」
「俺にもわからない。だが、死んでしまったら何を言っても伝わらないじゃないか!」
「わしが先に死ぬ筈だった……わしのせいで、わしのせいでし!」
 死んだのは……春風志乃--酸を浴びて皮膚の七割も火傷を受ければ生物学上の死は免れない!
「わしがあの時にあれさえ取りに行かなければ……彼女がわしの跡を継いで、くれると、信じてし!」
「だが、取りに行かせる行動は何処から来るのか?」ルドールは次のような仮説を大胆にも提示する。「若しもICイマジナリーセンチュリーが説明のしようがない代物だったら爺さんは取りにいかなかっただろう……答えは如何だ?」
「そうじゃ、正解じゃし!」
 だとしたら……認めるしかない、ICイマジナリーセンチュリーを--ルドールは此処でキッシェルの両鋏を強く握る!
「まさか……意味する所は?」
「言っておくが受け継ぐ理由が彼女の志が理由とか言うんじゃないだろうない!」
「そうじゃない。そうして迄行動させた事の意味だよ。自分は思い知ったぞ、ICイマジナリーセンチュリーの持つ恐るべき神秘性を。其の神秘性を因果律だの何だのと断言しないし、する訳にもゆかない。だが、其の神秘が……命よりも先に向かわせた所を証明さえすれば自分は、自分は只一名の代え難いバルケミンと成るだろう!」
 ルドールさん……あんた--ライデンはICイマジナリーセンチュリーがそう迄ルドールに決意させた神秘に次のような驚きを見せる。
(春風志乃は死んだ……だが、志乃が受け継ぐ為に守ったモノはルドール・バルケミンが命を懸けて守り抜くだろう。奴は此の後に婚約して子供を儲けるかも知れない。何かを遺すには必ず雌との交わりを必要とするからな……恐らくルドールは彼女の死を通じて初めて雌を認めるしかないと感じたのだろう!
 此れが天同家と同様に全生命体を魅了するICイマジナリーセンチュリーの神秘が為せる業なのか……だとすれば俺の革新を齎す能力はちっぽけじゃないか。そんな能力をもう少しで掴めたらもっと凄い事が出来る……何て思う事はどれだけ意味を為さないのか。俺はそう思って此奴を--)
「考え事か?」
「あ、済まない。俺らしくない。そろそろ眠らせてあげないとな……春風さんを、な」
「だない。レットと交代してからずっと彼女は君を支えて来た雌だい。そして俺達五武将の三名は彼女を弔う使命があるやい!」
「うん? どんどん冷たくなっていくのは此の環境のせいじゃない? 彼女が未だ眠れないから冷たいんだ?」
「そ、そうだった。自分とした事が又、春風さんに説教を受けるなあ」
 そうだなし、そろそろわし等で眠らせてあげよう--其れからキッシェルを含んだ五名はキシェール家最後の家を丸ごと彼女の墓標にしてゆく……日が過ぎても!

(こうしてキッシェル・キシェールと呼ばれるICイマジナリーセンチュリーを研究するキシェール家最後の雄についてと彼の研究が後継者に受け継がれる話は幕を閉じた。申し訳ない、キッシェルが死ぬという展開を予想した何処かの誰かよ……あれは別だ。真の事実はキッシェルを庇って受け継ぐ筈だった志乃が代わりに死んでしまった。何時も死んでもおかしくない生命が生き残って死ぬ筈のない生命が死ぬという現実が其処にある。どの世界だろうとそうだし、平時では辞める筈のない者が辞め、辞めたいと思った者は中々辞めない其れと同じだ。如何ゆう訳か比例の反対側の作用が起こるのだよ。
 とはいえ、次はテオディダクトスの氷が一斉に解けて世界中に津波が押し寄せる話さ。此の話も今回の話と同じく大概長い。其のせいで余計に待たせてしまうかも知れない事を此処に御容赦を。
 じゃあ俺は又眠ろう……意識の起伏が如何も激しい。一体何時に成ったら俺は想念の海に溶けるんだ? ひょっとすると先程説明したように死にたくても死なない生命と同じく俺の自我は何時迄も溶け込まないとか断定するんじゃないだろうなあ--)

 ICイマジナリーセンチュリー三百十三年九月四十四日午前一時一分一秒。

 第百三十話 終わりの始まり キシェール最後の雄 完

 第百三十一話 終わりの始まり 急激な氷解は惑星の水位を押し上げる に続く……

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Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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