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一兆年の夜 第百二十一話 天地相為す 地同翔和の前に壁が立ちはだかる(五)

(俺にとって翔和の育成は大きな壁だった。現状の真古天神武には躯央の提案を全てを実現するには時間がない。特に全ての都市に地下施設を建造するなんて余りにも夢幻が過ぎる。確かに其れが実現すれば後五十の都市より後以上にやって来る真古天神武規模の流れ星から全生命を生き延びさせて真古天神武を生き残らせる事は出来るだろう。だが、そんなのは百年計画の如く予算が幾らあっても足りない。故に現在も実現に至っていない。此れは大きな壁かも知れない。
 其れでも俺にとって翔和は大きな壁だ。あいつの学習能力が一般生命に比べて遅いのもわかる。出来の良くない生命程、誰よりも労力を費やさなくてはいけない者は居ない。だが、そっちではない。俺にとって壁とはあいつの学習能力の速度ではない。そんなのは日常と思えば大した問題に成らないし、幾ら何でも一般生命は成長に急ぎ過ぎる。神様のように長い目で見届ければあの程度の速度なんか大した事もない。寧ろ俺にとって壁なのがあいつの姉ちゃんの真の姿を知らせて良いのか? 其れにある。俺はあいつが姉の振りをする同名の秋雨との仲の良い姿を見る度に心が締め付けられる思いを抱く。如何して本当の事を話せないのか。如何して本当の秋雨はもう此の世に居ないと伝える事が出来ないのか?
 そんな風にして俺は奴が齢十五を迎えようとする日が迫る度に葛藤する。其れがあの悲しい出来事に繋がるとは誰が思おうか--)

 六月二十五日午後八時十八分四十三秒。
 場所は真古天神武首都ボルティーニ中央地区国立公園。
 齢十四にして十の月と十一日目に成る相武は齢二十九にして十一の月と十九日目に成る同名の天同秋雨が会話を楽しむ。
「--そうなんだよ、姉さん。だから今日は珍しく翔和さんが僕を自由にして良いって言ったのが凄く珍しくてさあ」
「そうね、普段は相武君の代わりに政務に就く事があっても稽古に関しては翔和君も手を抜かないのにね」
「ハハハ、今日は久しぶりに姉さんとじっくり話せるぞ!」
「うん、そうね。まさか翔和君が私達の為に時間を用意してくれるなんて!」
 実は齢二十四にして六の月と二十六日目に成る翔和は木陰に隠れて二名の様子を伺っていた。勿論、護衛は翔和だけではない。公園の周囲を軍者が取り囲む。翔和が命じるように誰一名として公園の中に入るな、という命令だった。
(二名の為だけじゃない。銀河連合はこうゆう時に必ず一般生命の体を乗っ取ってやって来る。だから敢えて軍者で取り囲むのさ。相武が重要な生命だから公園内に誰も立ち入らないだけじゃない。其れでも銀河連合はあらゆる方法で来ないとも限らない。其れ故に俺と秋雨が居る。秋雨はあの力は制限して使わないだろうが、其れを抜きにしても実力は認める。俺は説明する迄もない)
 説明口調を頭の中で思い描く翔和。だが、同時に次のような事も考える。
(案外鈍い相武があれを同じ秋雨だと思い込むのも理無きとは限らない。誰が如何見たって秋雨だし、一見したってあれを秋雨じゃないって気付くのは至難の業だろうな。だからこそ後一の月程で成者に成る相武はやがて永遠の別れを経験するだろう。其の前にあれを本当の秋雨じゃないと伝える方法があれば……あればどれだけ苦しくなくて済んだか!)
 未だに其の壁は翔和に立ちはだかる。立ちはだかる中で翔和は迷う。其の迷いは……やがて秋雨の中に入っていた銀河連合に付け入る隙を与える--突如として秋雨は悶え出す!
「如何したんだ、ねえさん!」
「う、う、うううう、私の、私の中に……離れて、相武君!」
「秋雨様の言う通りだ、相武……間に割り込むぞ!」相武を肩車すると半径成人体型六十迄離れた翔和。「あの粒子は……まさか、いやそんな筈が、あるか!」
「姉さんが如何したんだ、翔和さん。如何して姉さんが--」
「相武……現実に壁を作るな、目に焼き付ける時だ!」其れは己自身にも言い聞かせる言葉ではあった。「既に秋雨は……第三公営墓地での戦いで既に銀河連合の術中に嵌っていたんだ!」
 翔和は其れ以外に秋雨がそう成ってしまった理由はないと解答する。だが、其れは秋雨から告げられる言葉で大いに外れた解答であると判明してゆく。
「君もまだまだ、ね。私が、こう成ったのは、十一の、年より、前、からなの」
「十一の年より前? 何言ってるんだ、ねえさん!」
「あの時に私は……ずっと、ずっと銀河連合、は、此の時を、良くない笑いを込み上げる瞬間を、待っていた」
 既に秋雨の左手には抜き放たれた神武包丁があった。其の先端は既に心臓がある位置を示していた。其れは誰が見ても秋雨が今から死ぬ気である証……が、一方で銀河連合が操る右手は相武の方角に向けられていた!
(相武の方に……良くわからんが、あの秋雨は大分明くる日の秋雨だった筈だ。だとすると超常現象を如何にかする術だって持っていないなんて有り得ない。だとすれば--)
 考えるよりも先に体が動く--お陰で相武を死なせる赤黒き閃光を指先程の幅に上体を下げる事で回避した翔和。左側に走る閃光を見て心臓に電撃が走った相武!
「今のは……姉さんが、攻撃、した?」
「今度は、足が」秋雨は既に頭から左手爪先迄しか言う事が利かない状態だった。「お願い、に、逃げて!」
「いけないよ、姉さん。そんなの僕は好まないよ。其れ使えるなら自力で何とか出来るだろう、姉さん!」
「……出来ない。十一の年も……抑えて来た、の。もう、もう」秋雨の左腕は愈々、決断をする。「此れで、お終いなの、ですよおおおおおおおお!」
 そして一撃は……心臓の中に居た液状型の息の根を止め、其れから秋雨の口から大量に噴き出す。刺さった部分からでは出し切れないのか、口にも……そして、耳穴、鼻穴、其れから眼元からも赤い液体が噴出してゆくように。其れを見て考えるよりも先に動き出す者は肩車から落っこちるように左肩から着地すると直ぐに這いずりながら二足歩行で走り出して駆け寄る。一方の命じる以上に体が動かない者も居た。其の者は膝を崩して其れから両手を付ける。
「姉さん、姉さん!」
「ゴフッ……御免ね、相武君、私、ずっと、本当の事を--」
「わかっていたよ。何となくだけど、あの閃光を見て、ウウウ……姉さんが、姉さんがどれだけ、姉さんの為に姉さんをしていたのか、が、があああ!」
「まだ、まだ、相武君、一名前の雄に……グブウウアアアア!」
 姉さんの血が、僕に……も、もう、姉さんの命の、灯が--わかってはいても己の欲望が瀕死の生命に更なる供述を求める事をしようとして罪を意識するあまり、言葉が出ない相武!
「良いんだ、よ。自分に、正直、で、ね。そ、其れが相武君の、優しさ、なの。其れで、ずっと、私は、私は、死んだ、死ん、だ弟の、死んだ相武君、の--」
「姉さん、僕はまだ、生きている!」
「そ、そうだ、だ。心、残り、は、相武君、が、成者に、成者を、迎える、日、迄、生きて、いたかった、よ」
 もう十分僕は、姉さん、にとって、成者、に成ったよ--泣きながらも鼻水を必死に鼻の中に戻しながらも相武は一名前の雄を演じようと試みる程に情けなく成ってゆく。
「そ、そう、ああ、此れで、私は、私は……元の、時代に、帰って、ぇ……」
 其れから静かに瞳を閉じ、二度と言葉を交わさない存在と成ってしまった!
「ああ、ああ、姉さんが、ああ、ぁあ……」
「相武? オイ、相武ウウ!」翔和の肉体はやっと主の言う事を聞き始め、相武の様子を確かめに動き出す。「お前は死者の後を追うんじゃないぞ!」
 駆け付けると……「フウ、良かった。死んでなく……な!」相武は無事だった--代わりに近くにあった何かが徐々に姿を保てなくなって砂のように消えて行くのを確認した翔和。
(……相武は秋雨の本来の姿を知らなくて良かった。秋雨が如何して瓜二つだったのか、という疑問を解決する理由の裏付けに成るかも知れない。だから如何したというのだ、こんな物が此の時代にあったら……如何して悲しみ迄もが一緒に此の時代に運ばれるのだよ!
 涙が、涙が、止まらない!)
 其れから翔和は大泣きする。其れを聞いて居ても立っても居られない軍者達が駆け付けて漸く……秋雨は正式に死んだ事を知らされるのだった!
 亡骸の無い国葬……其れは歴史上初めての試みと共に後世に如何して亡骸が存在しないのかを数多の歴史家に論じさせる事と成ってゆく。兎に角、此れだけは明白であった……死んだ生命が居れば心の穴を埋める為に涙を流すのは当たり前である、と!

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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