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一兆年の夜 第百二十話 天地相為す 地同翔和は旅立つ(四)

 三月五日午後一時二分四十秒。
 場所は新タゴラス市第二南地区。其の中で二番目に大きな建物は公衆食堂として栄える。
 決して他の都市に比べて優れた味も突出した料理も変わり種で目に付くような物もない。だが、新タゴラス村が市に移り変わる前から接客業を大事にする代々の店主の宣伝もあって公衆食堂として公式に認められ、今ではタゴラス市では無くては成らない名所の一つとして地元に愛されるように成った。そんな歴史ある食堂で唯一の名物は仙人掌栄養水で一本九十マンドロンで購入出来る有難い塩分補給用飲料。発売当初は今の価格の五の倍もした飲料水はタゴラス湾の完成に伴い、徐々に価格の下落を促して今では一般的に安いとは言えない迄も誰にでも足軽に購入出来る値段迄下げられた。尚、容器は仙人掌の中身を刳り貫いた物を使用。耐久年数は短い物の、飲料後は必ず店に返却するという規則は価格の低さを保証してくれる。若しも此の規則が無ければ価格の釣り上げは起きていただろう。其れだけ規則は低価格を促す大きな要因でもある。
 そんな食堂で仙人掌栄養水の一つである鉄分を補う種類を一気飲みするのは翔和とコケラー汰。二名は他愛もない会話を楽しむ。
「此れだけ安い飲料水が足軽に飲める上に電動扇風機が全ての公衆施設に配備されてもまだ沢の贅を求めるのか?」
「当たり前っだ。全く電動扇風機が公衆施設だけにしかないのも何か納得いかなっい。もっともっとプロタゴラス大陸には首都圏内にしかない部分を沢山享受したいって!」
「銀河連合が後六十の年より後に来るというのに……か?」
「そんな先の事なんて地震や火山噴火が起こる事と同じ位に如何でも良い話だってい!」
「だが、そうゆう事の為に俺達生命も真古天神武も備えないといけないんだぞ」
 五月蠅いって、俺達は目の前で精一杯だっち--コケラー汰は既に政も喫緊の課題にも興味がない様子。
(すっかりこんな日常に飼い馴らされている。其れは確かに有り難いし、頻繁に命の危機が続くような日常よりかはそっちの方が性に合うだろう。特に俺みたいに姉ちゃん亡き後の旅なんて幾らだって休みたい日々を求めた事か……そりゃあそうだよな。
 だが、同時にこうゆう旅で思う事は……温い環境に適応もしていられないという平穏な日常に満足出来ない己が其処にある。コケラー汰の場合は逆に温い環境が激しいもののように感じてより楽を求めて激しい苦を強いるんだろうな。全く世の中って成者に成り立ての俺にはわからない矛と盾がぶつかるんだろうな)
 其処で止まれば楽は享受出来る。なのに楽をすれば後で大きな苦しみが来る……元来の生命が持つ心が楽を求めない。故に一般生命は先に苦しみを経験する事を飽きない。そして真の楽は何時だって遠ざかるのだった。
 だが、楽を求めたくない気持ちは遠過ぎる過去に於いては十分に理解出来る話だろう。直後に会計を済ませた獅子族の青年が突然苦しみ出す。次の瞬間に会計担当の牛族の女性の頭の天辺から上半身の筋繊維を喰らってしまうと如何に其れが程遠いか!
「ウワアアある、銀河連合だある!」
「逃げろ逃げろおオウ、俺熊族だけど銀河連合だけは恐くて理が無いんダアイ!」
「何て情けない雄です……ってあたしも逃げます!」
 誰もが銀河連合に敵わないとわかれば命の為に逃げ出す。臆した病も確かにあるだろうが其れ以上に真古天神武軍者への厚い信頼もあって余計な事はしないという刷り込みもある。
「おい、お前も逃げようっぜ!」
「いや、軍者が来る迄は時間が掛かる。此処は俺に」翔和の瞳は青く輝く。「任せろ!」
 エ、瞳が……ま、まさっか--コケラー汰は其の瞳を見てやっと今迄同等のように喋っていた相手の素性を察し、思わず尻餅と同時に下半身が大きく緩んだ!
 さて、漏らしたコケラー汰よりも注目するべきは翔和。彼は新仙者の能力を発動して、次の瞬間には持っていた鞘入れの神武包丁を抜き身に--正確には一瞬で銀河連合に成った獅子族の青年の頸動脈を大きく抉って大規模な出血を伴わせた上で意識を取り戻して見せる。
「ああああ、こ、此れで……ブブハハアアア!」
 獅子族の青年は自らの死の寸前で舌を噛み切って自決を遂げた--翔和は其の為に敢えて一瞬では死なせずに自らの選択をさせるよう促しただけだった。
「あわわっつ、そ、そんな事がって!」
「はあ、まだまだ俺は……いや、まだ俺は命を投げ出す覚悟も無いな」事を終えた翔和は左掌を見つめてこう問うた。「姉ちゃんにもサーベンにも届くと思うか、俺よ!」
 其れから軍者が駆け付けて事後処理を始める前に翔和は身動きが取れないコケラー汰を抱えて其の場を後にした!

 午後五時二十八分三十三秒。
 場所はとある一過性の水湧き湖。
 水湧き湖には様々な種類がある。此れは砂漠地帯の真下に流れる地下水に依って大きく変化する場合がある。年に一回は水湧き湖として出現する地もあれば其の侭定住する水湧き湖もある。其の中で一の年に一回は湧く水湧き湖は出るだけ出る物の次の年には全く出ずに其の侭朽ち果てる。当然、其処には仙人掌は生えない。仙人掌は定住する水湧き湖があって初めて成立する。
 さて、そんな場所に居るのは二名の雄。特に鶏族の雄である禾野コケラー汰は精神的に打ちのめされていた!
「まさかって、お漏らししただけでは飽き足らずに、天同家のって仙者たる者に、に、生意気を、してちまった……もう嫁さんの所にも部下の前で以て、もう、もう威張り散らせないっち!」
「順序が逆さだったり其の上で更に何か勘を違えるぞ、コケラー汰!」
「何を言いますか、俺は天同家の仙者に何と例の失する事を言ったか……此の報いは是非共旅のお供として--」
「だから其処だよ、俺が言いたいのは……俺は地同翔和だ。天同の雄ではない!」
「で、でもって……え、地同だって!」コケラー汰は思い出すかのようにこう言った。「最近、家を絶えったというあの地同家の!」
「家を……如何ゆう事だ、コケラー汰!」胸座を掴んで訳を尋ねる家出息子の翔和。「お袋は……お袋は如何したんだ!」
「えっとですねって、其れが……一の月より前に、ですねったあ。な、亡く成りましった!」
 く、くそおう……俺は、姉ちゃんだけじゃなく、お袋、迄も--掴む手を離した翔和は膝を付き、両手を砂だらけの地面に付けて泣き崩れ始めた!
「しょ、翔和っ様? だ、大丈夫っすか?」
 大丈夫……かよ、こんなのおおお--自らの家出で心配をさせた上に剰え姉を死なせた事で母を死なせてしまった事に大きく悔いたのだった!

(後で知ったが、お袋は既に幾許も命が無かった。其れに姉ちゃんが先に死ぬ事も既に知っていた。其れでも俺の帰りを待ち続けた。其の執念が余命宣告日よりも五の月もお袋を生かした、ってな。其れと俺の生存を敢えて隠して迄、俺の活躍を聞いていたそうだ。全く姉ちゃんのみならずお袋迄過ぎた保護を……そうとは知らずに俺は其の旅を死に場所を求める旅にしてしまった。何しろ元はと言えば俺が強く成ったからこんな事に成った。ならば俺は--)

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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