一兆年の夜 第百十九話 日は又、昇る(一)
場所は真古天神武アリスティッポス大陸北海。
其処に集うは総勢二万二百七十四にも上る傭兵。彼等の目付きは鋭く、そして後退の二文字さえ甘えと考えるかのように激しい。昂る心を抑え付けるだけの
(遂に、遂にですよッテ。そうだ、そうだ遂に俺は、俺達は戻って来ましたよッタ。此の昂る己の気を抑えられないように未だに残る子供の心は此の老い耄れの肉体にはな、此の肉体にはな……親父の魂が宿るかのように俺達は帰って来たッタ!
此の齢三十一にして十一の月と三十日目に成る此のキュプロ
「何を余所余所しい目線しているんだ、第一中隊長平ヒラメ来」齢十九にして八の月と八日目に成るテオディダクトス鯨族の少年はヒラメ来に話し掛ける。「みんな昂る中で余計な事を考えて」
「あ、副団長殿ですか」
「次期団長だぞ、僕は!」
「でも規定では団長の位は大人に成ってからじゃないと難しいと石板に記されておりますが」
「一言余計だな、全く」
おやおや、ホエール
「菅原団長か」
「ホエール行よ、わかっていると思うが規定で遺言通りといかなかった。お前はそう考えているだろう、だが違う。俺はお前を遺言通りに団長にすれば親父の後を追うのではないのかと思って団長に指名しなかった。此れだけは覚えていて欲しい」
「今更ですか、団長殿。新生菅原傭兵団は凡そ五の年より前に僕とヒラメ来、其れにあんたを始めとした五十名で始めた傭兵団だ。全ては楠木傭兵団の無念を晴らす為に」
「無念とは少し違うな。あの時は時期尚早も相まったからな。俺達は嘗ての団長であり、副団長殿の父上である楠木ホエール成が援軍頼みを期待していた節を反省して援軍に頼らない自軍だけで押し切る傭兵団作りに明け暮れた。思いだけでは足りない部分を僅か五という長い歳月を掛けて最新武器を備え続けてな」
「死んだ叔母さんの婚約者の無念を晴らすのは俺の性に合わない。一生を遊び鮭として過ごす筈だった。大金を集めて好き勝手に遊んで一生を過ごす筈だった……だが、ホエール行よ」
「又、其の話か。死者の魂は真っ直ぐ想念の海に旅立つのではないのか?」
「ところがそうもいかない。故に俺は俺でもわからない行動に走り、五の年より前の結団式より四の年より前に其処の鮃野郎と一緒に北海制圧を夢見るように成ったのさ」
「其れで凡そ五の年より前に僕がやって来た。団長達が迎える前に」
心霊現象云々を語るのは俺達傭兵団のする事じゃないな--ヒラメ来はそう言って先程迄の話を終わらせる。
(俺達はな、俺達はなッテ。心霊の類を信じてはいないット。親父が死んだ所で其れ迄と考える現実主義者の類だッテ。でも、でもなあ、なあなあだがッテ。旧楠木傭兵団の残り香を僅かに受け継いでいると認めるッテ。其の証拠に俺は初めて団長の坊やに会った時から何かしらの運命を感じた気がするット。そしてホエール行を始めとした旧楠木傭兵団の関係者が次々に入って行く度に、入って行く度に魂の揺さぶりを感じて仕方がないッテサ!
まあ、まあ霊的は話は此処迄にしとこうかット)