一兆年の夜 第百十七話 君死にたまふことなかれ(三)

 午後四時五十七分十一秒。
 場所は応神海東南側。
 海中種族専用の船乗り場が其処にある。鯨族三名で動かす応神諸島行きの船。往復で五の日も掛かる為に菅原炭を使用した蒸気船に比べて速度は其処迄ではない。海中種族専用の船を動かす為には火が消えない事が条件でないと難しい。故に未だに牽引式の船を使用するしか道はない。そんな船に乗り込み、第一子との無言の別れを決意したアキ。
 出発時刻は午後五時……其処へ式場を飛び出す一組の新婚が泳ぎ付ける。
「あれは!」アキは其れが第一子と彼の結婚相手であるチエだと直ぐに気付く。「あんな立派な物を着て何という事をするんだい!」
 とはいえ、黙って分かれる己も責任があると感じてアキは間に合わないとわかりつつも降りるしかない。そして……「何だい、まだ未練を残すのか?」と早々に貞操がやや穢れかねない一言をぶつける。
「お袋は何時も勝手な生命だ。何時も何時も俺が言いたかった事を利かない振りをし続けるのだから!」
「少しはリュウさんの思いを聞いて下さい、お母様!」
「其れは出来ない相談だ」
「老いのせいなのか、お袋!」
「そうゆう問題じゃない。お前さんが、あぐああがああ、いや何でもない」
「別に聞いてくれても良いのだぞ。あんたはそうやって息子の気持ちを知らないように知らないようにするんだ。其れはいけない事なんだ!」
「ううおう」
「お母様、少しは自分本位で考えずにリュウさんの気持ちに応えて下さい」
「わかった」
 世話の掛かるお袋だ--第一子はアキの強情さに相変わらず溜め泡を漏らす。
 其れからリュウは全てを語った。其れはアキが思っている程、リュウは罪深くもなければお利口な青年でもない。少年時代から純粋で尚且つ、闘争本能を抑え切れない性格は拭えなかった。其れは結婚という華やかな大舞台であろうとも変わる事はないというありのままの告白だった。
「--そうゆう訳なんだ、お袋。俺はお袋の事を最も大事にしていたんだ。だが、頭脳労働者よりも肉体労働者の方が性に合う俺はずっと銀河連合を倒す事でしかお袋を喜ばせる道が思い付かない。其れはチエが居ても変わる事はない。生命の本質が直ぐに変わってしまうのは其れこそ己を貫けない事の証左に成ってしまって俺には出来る筈もなかった。罪深さを感じて少しでもお袋に恩返しをする、ってのもな。如何だ、此れが俺の本当の思っている事なんだ。済まないな、期待の息子に育たなくて!」
「何だい、お前さん」アキは潮の涙を噴き出した。「やっぱり聞くんじゃなかったよ、うぼあえおのあ!」
「お母様、此処は海中です。流すならば場所を変えましょう、ね!」
 御免な、お袋--こうして第一子とチエはアキを連れ戻す事に成功する。
(全く子供の告白は聞くんじゃなかった。何が闘争本能の塊だって、ソンナノホウベンジャナイカ!
 私は方便を聞く為にお前さんを育てた覚えがないというのに、ノニイイ!)
 アキは其の侭、だいっしの結婚式場に戻る……だが、三名を見つめる眸は絶好の機会だと考えるのか--恐るべき笑みを浮かべる!

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Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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